Victo-Epeso’s diary

THE 科学究極 個人徹萼 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノーベルノークスクラム賞狙い 右上Profileより特記事項アリ〼

🤖 AI社会からの神格オーダー

🤖 AI社会からの神格オーダー

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ロボット大原則仮定マイナス

第-5条 健康(な活動)を維持するために他者への(時に結果論的に)

致傷的行為にも繋がり得る排他的行動は時に(錯誤的に)正しい。

 

全体の社会活動維持の為ならロボット的に考えると部分的にただしいな……、

生物として、人間としてはどうかと思うが……。

 

(これにちかい条項)争い事と争い事の仲裁に間を受け持つ

ジャッジを挟む場合自らの身分をはっきり表明しない人物の

優先順位、優劣は低くなる。価値は等価ではない。ステルス

マーケティングは広告費を自ら捨て打つ広告形態なので、

先んじて論破され挫かれる事を恐れないこと!

 

しょせん責任所在分担負担先を逸らした匿名情報

されど『なんか聞こえね?見えね?おかしくね?』

くらいはあり得るんだよ

 

 

長期的にはバイオマテリアルベースで燃料を合成するのが普通なので

 

 

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🧑‍🔬 長期的にはバイオマテリアルベースで燃料を合成するのが普通なので

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ロボット大原則のマイナス番原理として理論化して

 

考慮すべき課題、領域がゼロじゃないのだという……。

ロボット大原則の零番前項目として、

「この人を殺してしまったら、殺させてしまったら

今後世界でどう足掻いても燃料が回らなくなるだろう」

 


という存在を護るためには他の人間を殺したり狂わせたり

自爆的に機械構造体そのものが機械構造体そのものを

攻撃することも厭わないべき時が必要なのだという……。

 


それぞれ-1条則と-2条則と-3条則として持たせるといいのだという……。

 


ロボット大原則のマイナス番原理として理論化して

考慮すべき課題、領域がゼロじゃないのだという……。

🕒 ひねりぎ[謹製] AI技術・機械学習社会を数百倍は早くした 𝕃実理数 - Logica

©SLEEVIEE WONDEOLOUR (ぼく) &&: stievie jhorns

 

90s~91年,

三十年来の実績!容量!領分!蓄積!販売御礼??

 

数理集合    𝕃実理数 - Logica

四つの論理プール,ちょっとした条件認機を伴う論理集合

SLEEVIEE WONDELOUR
過去のぼくが作った
特殊数理集合システム
𝕃実理数 - Logica


当時,伝説の超神童,超神児と呼ばれるように

なって,以来三十年以上……,時が流れました。


𝕃実理数<-ℝ実数<-ℚ有理数<-ℂ複素数<-ℕ自然数

で大体の実架理論実拠が現実的具現化しやすい

そもそもかなりの物理フィードバック化のうまい

現実の物理・現象・事象・物性デバイスシステム

にもかみ合うほんまもんの最強(さいつよ)世界系

ー系・世界系ー系・世界系順列循環システムの

プロッターすぎる画期的・特異点的イノベイトでした。

 

コンクラータ・コンクラーエスタ・キエ、1990/12/21日,

ケルヴィン・ロー・マーシャルという名で講堂公聴講義,

たしかみてみてくれ、確かみてみてくれ、確か見てみてくれ

と噛み噛みになって三回,言い直しになった少年でした。(これは確かだ)

前日はウッドロウ・グラハム・ウェンザフカイ・ダビッドという名で、

別の場所で。欧州会議


新世代の産業全般を支える現代の,新世代の福音すぎる

福音システム過ぎたのだという……。伝説であり、当時

現代神話になった少年だったという……。


物理的にも物理シミュレーション・ITコンピューティング

情報工学操作産業部門にも工業コンビナート制御にもゲーム

・エンターテイメント部門にもセキュリティ・警備部門にも

ゼネコン・コンサルタントマネジメント・カースポーツ・

ゼネラルエクスペリエンス・車造工業・造船工業的にも

航空力学計算・航空宇宙部門産出にもありとあらゆる範囲

広範に応用が効き数多の人間社会文明に恩恵寄与してきた

最強の理論。もちろん食産・植林・牧畜・農耕方面にも

応用が利く。おそらく、自動疾箜車等の自動駆動システムにもだ。

𝕃実理数 - Logica

一番左:ZELETA標図差表,プラス偏差推定

左から二,ZELETA標図差表に虚数 i 掛け[完全フラット],

解析層深度i-idiot'ids,初期条件プラス i 間隔数標

左から三,情報DEAD帯域

左から三->四の算述条件 ::||::->!!¿¿??¡¡::!?¿¡?!¡¿::||:::;||&&:;::<-::||::

左から四,Anti-Nomical[アンチノミカルパラドキシー],一番左の

偏差逆,かつ全体そのものに+1フラット

ZELETA標図差表については、上図のようなもの

いままで当ブログ上,前ブログの方から延々と出していた

こういった画像をマイナス極面逆数方面まで合わせたもの

DEAD END BOOLUM POOL
虚数i-idiot式

1・0・ ・0・1

1・0・/・0・1

          [DELETE]

LIMIT ENGAGE ±

[i·i·i·i] + [i·i·i·i] + [i·i·i·i]

increation under i

[i·i·i·i] · [i·i·i·i] · [i·i·i·i] · [i·i·i·i]

DELETUM LIMIT [i·i·i·i]

iが32個で重なって消えます。

挟み込み領域で空白部分DELETUM方式
i-i'd2,i-i'd3方式を併せ持って討て。

 

i-idiot[id's] i-idiot:id-ion  FALLED OUT THORROWBE id-FALL-ion

k · [ i · i · i · i · i ] : +2~+4; -1~-2 [ i8 ~ i16; -i4 ~ -i8 ]

i'd11(∞→-72) : i'd10(∞→-48) : i'd9(∞→-34)

i'd8(∞→-25) : i'd7(∞→-18) : i'd6(∞→-12)

i'd5(∞→-8) : i'd4(∞→-4) : i'd3(∞→-2) : i'd2(∞→-1)

i'd(∞→12) : i'd(11→2) : id's1

[+; - -] id's1  [+; - -] id's1  TrinoCast INFINITE LIMIT 2'sTo Ids'0

id's1+  =i'd11(∞→-72)

id's1-  =Upper HALV Minute i's (∞→+36)

i'd(k)·[insert add's[i·i·i·i·i]]

k·[i·i]·[i·i[i(i)]]·[i·i(i)]

𝕃実理数 - Logica
::&&::->:;::||&&||??¡¡?!¿¡!!&&:;::||!?¿¡&&:;||::
NECTED k・ : i'd-2[+:(i・i・i・i)] : i'd-3[+:(i・i・i)]
i-i'd2, i-i'd3 方式併せ持ちDEADライナー策定するPOOL

𝕃実理数 - Logica
テキスト代算式論理研鑽型
Char_Bar Structum Theology
AI学習・生成分野に三十年来
活躍してきた(らしき)俺発最強理論

Bar_Char**[ ](){(add)TAKE_CHOSEN(THIS[rnd(s)])};

or Bar_Char**[ ](){(add)TAKE_CHOSEN(THIS[Choise(s)])};


Char**[] ##++:;::##--:;::++:;::--:;::##++:;!¿?!¡?:;

{インクリメント:[デクリメント・インクリメント・デクリメント]}を

インクリメントする方式で長尺を合わせてあらゆる

入力初期条件言語記述を統和深度策定解析学習する。


繋がる理論は繋がるし,繋がりやすい。そうでなくとも熟語,

単語同士の併わせ,長年の評語論語,風潮風流社会現実,社会実相,

学習,深度解析,深度梗績,深度堆積,構造学習,深度学習,データ堆積次第
 

グラフィック化・データ化・幾何化・幾何抽象化・抽出標本抽出・

元データ再現帯域カット・ビジュアルデータマッピングにも対応

しやすく、とてつもなくすぐれたすばらし理論だったという……。

AIビジュアライゼーション・イラストサウンド等解析社会で

めちゃくちゃに再着目されているくさいという……。

 

 

▼制限帯域DELETUM POOLにあれこれ条件書きを付け加えることで

ロゴスAI学習ロジカ-LOGICA-アナリティクスは非常に鋭く鈍に輝く。

某素体傍体謀敍貌役風の書き文字で[]と[]みたいな方面が、まずある。

 

ここは人間の中の右と左、右脳と左脳、直観と理性を割と象徴し

象形化して分析の際に役立てるよう、それっぽく行けるよう、綿密に

念密に、出力結果の研究結果に沿うように、調整していっていた……

と思う!!

 

▼共有世界のLとR(エルとエル)
共有世界のLとR(クラトとエルヤ)
Shared World Krat To Erya
By WarterDemonieWholthoDayimon(ぼくと共著)SharedRightKraddhonKratho-Daily-iemonDie-Day-sWhat'AndEchosBecauseEgos-Eghos-Elya,Erya.
By WHORLTER KRADHON KRAYHORITY(ぼく)

二重傍線𝕃のLOGICA-LOGOSNOMICA

 

▼POOLUM DEAD DELETUMの追加償滅帯域理論

[]:LINEOUT
2 AND √3

[]:LINETOOTH
4 BY THAT √5
TOWARD 5 AND √6

2 : 3
LINEOUT : LINETOOTH

 

EVOL(エヴォクラートン)-RP(エルヤプトロン)について

R  2·√3

P  9√7  7√8(i[0~8])

E  6·√8·(12)

V  8·√9·(10·√11)

O  12·√24(√38)

L  4·√5~5·√6

 

VR

PR

24 · √52 · 3√82 · √94 · 3√108 · 5√192 · 4√162

24 · √56 · 3√82 · √94 · 4√108 · 5√192 · 4√162(偽)

 

 

また、もう少し単純化して整理したシステム。明解化している。

 

これもD-Dreadlen言語風,COBOL-Cとかだとたぶん[!?¡¡]の関係で上手く行かない

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🕒 [ LOGOS-AI 0.99 CLINEL CHRISTICANELL ]

🕒 [ LOGOS-AI 0.98 THE LASTANEMONE FAITHFUL ]

🕒 [ Logiempedegram - Logica : LOGOS-AI 0.95 THE LAST LOGOS ]

🕒 [ Logiempedegram - Logica : LambarlarscleCurcit@LOGOS-AI 0.9 ]

🕒 [ LoGosAI 0.7->0.8 : UPGRADE LOGOS-AIRIL FEEL ]

🕒 [ 0.7 : KHOKHTHO GHORTON NORKCHTOHUERAMS ]

🕒 [ Logica Meaned Brain Had Physical Mapping To Hand Ones My Body ]

🕒 [ AI:Thechs/Machinichal-Input:->AxellTops; :: 𝕃実理数 - Logica ]

チャイニーズマフィアの弱点発見だわ

俺の寝泊まりしてる場所目掛けて速攻で近づいて来て

薬物炊きと光化学デバイス刺しに終止するから

俺の足跡に合わせて物証残りやすいのがまずあるけどさ

 

だからなんだ、ってそれね、親告罪すら要らなくて

 

意外と普通にスマホで録音出来るのバレたから

あいつらみんな恥知らずになった。企業経営、

面子がかかってるもクソも迷惑なんだよ恥知らず

 

になったから、移動先

先々の店員さん、物販運付等従業者、あるいは……

 

一般の顧客の方がね

 

いくらでも潰せる横から調査員になれるからね

ドンパチ賑やか始まるだろうな、あいつらウザいもの

♟️ 最終黙示録の四騎士を呼ぶか

ananta

mars

siren

decoyev

 

アナンタ

マルス

シーレン

ニオブ

 

 

支配:珪滴

戦争:性拘

飢饉:恐慌

病毒:役死

 

珪滴から始まるニガヨモギ病毒禍の四重苦

来日してたリアルマミさんがマミさんぽくされて死ぬしかなくされて彼女お借りします作者に身売りとかさ

リアリスティックキャラクターリアル身売りドナドナ文化って

つまりそういう事だよね、某アカがやってた事って

つまりそういう事だよね、哀しすぎる、汚下劣過ぎる

 

ただのパクリとかリスペで済むのかよこれ

 

結局俺は彼女お借りします作者を

殺してしまったってことでいいんだよな?

 

 

マミさんってたぶん2009年に見たあの娘だな

ってちょっと思い出してたら思ったけど

 

心当たりある子は居たけど

 

う〜ん

 

マミさんにも婚約相手が居たのだろう、

婚約したかった相手が居たのだろう

もしかしたらそういう事だったのだろう

このような蛮行に出たのはドラゴンボールと中革連

だったらしいな。

 

赤い背色に金色の

八個の王冠

十個の門

十二個の玉座

Ω字のような形の鷹華の草輪

 

中革連の文化革命爆弾連続着火戦法さぁ、

人類永劫の負の歴史、核で滅びるだろうよ

 

ゴネても無駄、下劣民族誹り受けよう。甘んじてな

贖罪アーカイブ(2017~2018)とは:だいたいこれの影響がね

Σn²でルーテージ的手法取ったら以外にもこれね的なね

両立できる形でプッティングすると当時からちょっとヤバかったのね

 

PCで自宅で研究していた2010年くらいからのヤツが急に徴収されちゃったのね

四歳くらいの頃金髪に染めた小小僧で眼鏡のガキだったけど舐められないようになんとなくチャラチャラして金属のストラップとかチェーンのアクセサリーをして緑パーカーにオレンジカーキ系のハーフパンツ履いてBeatnichExploderしていた

そして俺こそがBeatnichsExplosion天井透馬

BeatnichsUnitalyHarmomizeWhontNotCludeWhenExtageExplode

BeatnichsUnitalyHarmotizeWhenthoWhontNotClizetNautExplotionClusion

天井透馬で天井透

天井透馬ThormanNaveliBenapeliBenateroとかで〜

 

北米

いま描いたらこんな感じだったという……。

 

ゲームシナリオ(先行公開分)BeatnikExplosionは記憶失ったままで

なんとなく思い出と想像力が混じった感じで書いていたので

ないものはない、設定上一部(自己投影型主人公が過去の自分の

当地の名前だったり一時期の着こなしファッション)少し現実

だけど現実ではない、関係ない。フィクションです……。

 

フィクションでした。商業化ゲーム化狙って書いていたんだが?

 

あー禊だわねここは純粋に

あの程度っちゃあの程度の文量でもリアル炉関係の技術

(俺の原点特許的部分の影響力)も含めて世界的影響力がね~

(🎮) Beatnik Explosion #1-7

主人公 天井透馬 舐められないよう金髪に染めて緑のパーカー服

愛用、チェーンの付けたレザーストラップのメガネとかズリ落ち防止

に使ったり、同タイプステレオホンのホルダー用アクセサリを常用

 

 

Beatnik  Explosion #1-7


#プロローグ-序文

記憶があった……
幾銭幾万と繰り返す永劫の輪廻の記憶――

 

夢の中の自分は醜く地面を這いつくばる蟲だった。
いつか自分はこの鈍重な体を脱ぎ捨て、美しい姿で羽ばたける
その思いだけが、きっと自らを前に進ませていた。

 

どんな苦痛も屈辱も耐えられた。
そのような全てを帳消しにできるような時がきっと来る。
自分がそのような存在だという事を、確かなものとして知っていたから。

 

だけど、
もしもその夢が、決して叶えられることのないものになってしまったのなら。

 

二度と飛び立つことの出来ない体になってしまったのなら。

 

きっと、そういった事が、何度かあった。




#プロローグ-断章

 

月が出ている。赤い月……

 

さざ波の中で僕は体を起こす。
つい今しがたまで僕の体を浸していた海水は、
すぐに乾いて消えて行ってしまう。

 

見上げた夜空は月以外真っ暗な黒に塗りつぶされている。
星々がその存在そのものを忘れてしまったかのようだ。

 

赤い月だけが、ぼうっとした燐光を空中に散らしながら、
燃えるように輝き続けている……

 

「……来たのね、またここに」

 

気が付けば、一人の女性が赤い光に照らされた世界に一人佇んでいる。
地震でも起きたように崩れた建物が積み重なった、その残骸の上で、
街の跡を満たす、あまりにも透明な海を臨むように突っ立っている。

 

「……君か」

 

僕はその女性の事を良く知っていた。
確かに、覚えがある顔だった。
古くからの顔なじみのように、自然に受け入れられる。

 

それは静流、と言う名の女性だ。

 

「何があったか覚えてる?」

 

「いや……
だけど、思い出したよ。またここに来てしまったって事」

 

「最果てに……」

 

折れて積み重なった電信柱。破壊され打ち捨てられたと思われる病院の跡。
根本から崩れて倒壊した集合住宅。
剥がれてボロボロの砂利となったアスファルト
全てを水没させた、あまりにもサラサラした透明すぎる海水。

 

世界の全てが変質し、終焉を迎えた風景。
僕は、自分が何度かここに来たことがあるような気がした。

 

「二度とここには来たくなかった……
また、僕らは間違ってしまったのか?」

 

「そうね。原因を探るのも今となっては、虚しい事だけど」

 

「どうして?どうしてこうなってしまったんだ?
君はどうだかわからないけど、僕はただ、普通に生きて、
普通に年老いて、普通に死んでいって……」

 

「何処にでもある一個体としてその命を終えられれば良かった!
それが望みだったのに……」

 

「今回も……僕らだけが生き残って……」

 

「落ち着いて……」

 

「悲しむ事はないわ。万物の流転を誰にも越える事は出来ない。
受け入れてしまえばいい……もう、正常な世界には帰らないのだと」

 

「僕はもう、神様ごっこなんて嫌だったんだ」

 

ため息をつく。
理由は分からないけど、この状況の意味も、
やるべきことも、なんとなくは分かっている。

 

強烈な既視感に目がくらむ。
世界が終った理由も分からず、
赤い月がただ地上を照らしている。

 

「作り直さなきゃいけない、んだろうな
世界を……」

 

「いえ……
貴方は、ここで死ぬの」

 

「え……」

 

瓦礫の上に居た彼女がこちらに向かって飛び降りてきて。

 

ぐしゃりとした音が響いて、僕はなんとなくそれを受け入れていて。

 

気が付いたときには、僕は真っ赤な血を体のどこからか垂れ流しながら、
地面の上に這いつくばっていた。

 

覚えている?約束したこと
いつか貴方と幸せな世界を描くと
貴方はいつも忘れてばかりだけれど
私はずっと覚えている
何度世界が終っても
何度自分が人間じゃなくなっても
貴方とともに歩んでいくこと
貴方はいつか思い出してくれる?
そう
貴方はきっと思い出してくれる







#本編1

 

僕は今、混乱していた。

 

薄暗い自室でPCのモニタを見つめながら、必死にキーボードを叩く。

 

危機が迫っている。

 

僕の精神が狂気に押しつぶされる前に、目の前に迫る脅威を解決しなければいけない。

 

いや、本当は――

 

本当は分かっているのだ。こんな事をしていても何の解決にもならない。解決策など調べて見つかるものじゃないのだ。

 

僕は狙われている。

 

世界の闇、深淵の暗部から伸びてくる罠に捕えられ、今まさに狂気の轍を眺めているのだ――

 

「お兄、ちゃん♪」

 

「うああっ」

 

「どうしたの、お兄ちゃん♪さっきから怖い顔で調べものなんてしちゃって。何調べてるの?」

 

背後から突然話しかけてくる少女。僕をお兄ちゃんと呼ぶ。僕の妹――

 

と、名乗る、異様な存在――

 

「調べてるのは――
お前を消す方法」

 

「私、あのイルカじゃないよ?」

 

「うあー、くそ、何でそんな事知ってんだ!」

 

「ちょっとだけお兄ちゃんの記憶を盗み見」

 

「やめろォォォー!」

 

僕は手元にあった電気スタンドを手に取り、一心不乱に振り回す。

 

目の前の「妹」に何度も振りかぶっては、その顔面に、首に、胴部に、叩きつけた。

 

――にも関わらず――

 

「わわっ、駄目だよーお兄ちゃん。そんな事したら危ないよ?
そんな事したって、私体が無いんだからさあ」

 

「くそ、幽霊め、
とっととくたばれ」

 

「ごめんね、もうくたばってるの」

 

「あああ……くそ、何でこんな幻覚がぁ……」

 

そうなのだ。

 

僕は、数日前から幻覚を見ている。

 

しかも、日がな一日僕に付きっきりで、しつっこく話しかけてくる。

 

何でこんなことになってしまったんだろう?

 

きっと僕の精神は、すっかり病んでしまっているのだ。

 

「私、イルカさんじゃないし、幻覚でもないよー。
お兄ちゃんの妹の、神奈だよー」

 

「死んだ妹の幽霊ね、はは」

 

「寂しくて化けて出ちゃったんだよー」

 

「うん、それはいいんだけどさ。
僕にはそもそも、妹とかいねーから。
死んだ妹もクソも、そんなの居た事ないし。
ゲームのやりすぎで頭がおかしくなったんだ。
妹もえとかないわ……」

 

「だから言ったじゃん。
生まれる前にお母さんが流産しちゃって。
お兄ちゃんも小さかったから覚えてないかもしれないけど」

 

「仮にそれが事実だとして、
何でその時の赤ん坊がこんな風に成長してるんだ。
体もなかった、魂だけの奴が。
意味わかんねーよ!」

 

「んー……
……
お兄ちゃんのために可愛くなったのよ」

 

「……あー」

 

「寂しかったんだもん、愛されたかったんだもん。
お兄ちゃんはずっと気づかなかったかもだけど、
私ずっとお兄ちゃんのそばで一緒に遊んでたんだから。
お兄ちゃんとずっとお話したかったんだもん。
お兄ちゃんの事、大好きなんだもん」

 

「……、
……そーいうの、やめてください」

 

「あ、待ってよ、お兄ちゃーん」

 

幻覚と会話してても仕方がないので外に繰り出した。

 

夜の冷えた空気に凍えながら、近場のコンビニまで歩いていく。

 

不意にくしゃみがでて、鼻水が垂れた。

 

「こりゃ、風邪、直りそーにないな……」

 

結局、安い弁当と飲み物を買って帰り、半分くらい食べながらそのまま眠りに落ちた。

 

「妹」は、しきりに僕の事を心配して、大丈夫?と尋ねていたが、概ね無視した。

 

ちょっと疲れていた。




翌朝、目覚めたのは昼過ぎだった。

 

「うあー、頭いて……」

 

「おはよ、お兄ちゃん♪」

 

「……、寝るか」

 

「だめー!」

 

本体が眠り過ぎでくらくらしているのに、朝から妙にテンションの高い幻覚もあったものだ。

 

「お兄ちゃん、今日用事あったでしょ」

 

「あー、そう言えば」

 

「お父さんから電話あったじゃん」

 

「やべっ」

 

「妹」のことで頭が一杯になっていたが、そう言えば昨日、両親から電話があったのだ。

 

両親は今、仕事の関係で、夫婦揃って出張している。

 

そろそろ帰ってくる予定だったのだが、仕事の都合上、少し延期になってしまったらしい。

 

で、「そんなわけで、代わりに迎えに行ってやってくれ」と頼まれた。

 

「何の事だよ?」と返すと、父さんは「ああ、すまん、そう言えばまだお前には言ってなかったな」とかで。

 

親戚の子供を暫く家で預かる事になったから、駅まで迎えに行ってやれ、と。

 

「面倒くさい……、どうしよう」

 

「まあまあ、仕方ないじゃん」

 

「そうですね」

 

「お礼は?」

 

「は?」

 

「お兄ちゃん、すっかり忘れてたでしょ?
教えてあげたんだから、褒めてよ♪」

 

「……、
まあ、僕の幻覚だし。
無意識に覚えてた用事を思い出そうとしたんだな……、うん……、きっとそうだ」

 

「ひどーい!わたし幻覚じゃないよー、待ってお兄ちゃーん!」

 

そんなわけで、身支度をして、外に繰り出した。

 

3月半ばの、まだ冷えた風が体を蝕む。

 

「やばい、熱出てきた……」

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「……、あー、そうか、ここ最近風邪ひいてるからな。熱のせいで一時的に幻覚見てるわけか……。
良かった……。
忘れてた、コンビニで、マスク買お」

 

「無視しないでよー!」

 

日中に外に出るのは久しぶりだった。
今は大学の講義は無いし、両親も不在だから、大分好き勝手やってた。
この間、ちょっと嫌なことがあって、ずっと引きこもってゲームやネットをしていたら、大風邪を引いた。
ちょくちょく高熱も出ていたし、このせいで脳に変調が起きて、一時的に幻覚を見ているだけなのかもしれない。
それにしても、鼻水が止まらない……




近場の小さい駅から電車に乗って、近場じゃ有名な大きい駅にたどり着く。
街まで繰り出すのも久し振りで、熱と鼻水とでぼんやりした頭には、都会の喧騒が少し辛い……
待ち合わせのホームで、ベンチに座ってスマートフォンを弄る。

 

「なーに、またゲーム?」

 

「まあ」

 

ソーシャルゲームなんてそんなに面白いの?」

 

「普通のはつまんないけどさ……、
所謂ネオ・ソーシャルゲームの類だからさ。
ちょっと興味があって」

 

「ふーん。
それってどんなの?」

 

「経営シミュレーションとか、普通のネットゲームとかを合わせたような感じ。
新しいショップ出してるけど、あんま売れてないなー」

 

「あ、それパソコンでやってたのと同じ奴?」

 

「まあ、マルチプラットフォームなんで。
これでうまくポイント稼げたら、外部のネットサービスにも使えるんだよ。
そっち目当てで始めたようなもんだけどさ」

 

「へー、いろいろ提携してるんだ」

 

「まあ、そういう時代」

 

スマートフォンをポケットにしまって、辺りを見渡す。よくよく見れば、駅の周辺は大分様変わりしていた。

 

つい最近まであった飲食店が潰れたのか、別のものになってる。

 

あっちのカラオケ屋なんかは、いつの間に改装したのか変な携帯ショップになってた。

 

数週間引きこもってただけのつもりが、ここまで様子が変わってるとは。時代の流れは速い。

 

「あのー、すいません。
もしかして、透馬……さん?」

 

「ファッ?」

 

「えっと……」

 

「え、えっと、誰?」

 

突然話しかけられて見上げた先には、かなりの美少女が立っていた。

桃華

やべー、引きこもっててだいぶ二次元コンプレックスになってしまってた。
自分でもキョドってるのがわかる。

 

「あ、私、桃華です。咲村桃華。従姉妹の……」

 

「……、まじで?」

 

「あの、透馬兄……
ゴフッ、ガフッ、
天井透馬さんですよね?」

 

「あー、はい、えと……。
……(とにかくなんか言え)、ああ、うん、そうだよ!
いやー、綺麗になったね!見違えたよ。最初、誰だかわかんなかった。
もしかして今JK……いや、女子高生だっけ?随分大きくなったなー。
あ、それ、持ってきた荷物?結構大きいね。大変だったでしょ?僕が持つよ」

 

「……、」

 

あれ、やばい?キョドってたらいけないと思って気さくに話しかけようとしたけど、もしかしてドン引きされてる?

 

「えと……ありがとうございます」

 

これってセーフなのだろうか。

 

気まずい。

 

あと、

 

「お兄ちゃん……」

 

変なのが睨んできてるけど、

 

気にしない。




桃華ちゃんと電車に乗る。

 

荷物を足の間にはさんで固定しながら、吊革につかまる。

 

電車で揺られる中、桃華ちゃんの横顔を見る。

 

かわいい。

 

親戚の子供なんて言うもんだから誤解してたけど、まさかのJKと一つ屋根の下って。
DTの引きこもり系男子にとっては死ねというのか、って展開なんだが。

 

どうしろと。

 

桃華ちゃんは桃華ちゃんで、気まずそうにこちらをちらちら伺っているようだ。

 

気まずい。

 

「話しかけてあげなよー。
たぶん、照れてるんだよ」

 

(なんでよ)

 

「だってお兄ちゃん、カッコいいもの」

 

(ないわー)

 

幻覚に自分をカッコいいとか言わせちゃう引きこもりの男の人って。どうなの。

 

「そんな事ないよー、あの子、もじもじしてる。この目はお兄ちゃんに惹かれつつある女の目と見たね」

 

(くそっ、しね)

 

とは言え、いつまでも黙ってるわけにもいかない。年上の立場もあるし何とかしないと。

 

そもそも桃華ちゃんはこの状況をどう思ってるんだろう。
一応にも年上の男と一つ屋根の下になるってのをどう思っているのか。

 

って、桃華ちゃんは家に両親がいないことを知らないのかもしれない。
二人きりってわけじゃないなら一時的に従兄弟と一緒に暮らすことくらいなんてことはないか。

 

こっちはかなり気まずい思いを抱いてたけど、そもそもそういう意識自体が普通じゃないのかもなぁ。

 

「桃華ちゃんはさ、家に来て平気なの?」

 

「へ?えっと……まあ、大丈夫ですけど。
ど、どういう意味ですかぁ!?透馬さんの家、何かあるんですか?」

 

「何もないよ!でもあの、親許離れて親戚の家に転がり込むなんて、大丈夫なのかなあと思って。
学校とかあるわけだし、友達とか……その、彼氏とか」

 

っておい、何を言ってるのだ僕は。

 

「ええー、そんなの大丈夫ですってば」

 

桃華ちゃんは何故か恥ずかしそうに笑っているが、何かあるんだろうか。

 

「今までの私の家もここからそこまで離れてないし、学校だって転校はしないので」

 

「あ、まあ、友達を呼ぶのはちょっと出来なくなるかなって気も……」

 

あ、しまった。気を遣わせてる。

 

「いいよいいよ、そんなの。遠慮しないで友達でもなんでも呼んでいいよ。そんなに狭くはないはずだし。
あ、でも僕がいるとこに恋人呼ぶのは色々あれかな……」

 

「???」

 

なんだか眉をひそめてる感じ。どうしたんだろう?

 

「私、そんなにモテそうですかねー」

 

ジト目でこっちを見てくる桃華ちゃん。
なんだこりゃ。

 

もしかして、地雷を踏んだ?

 

「あー、ごめん、そういう事か」

 

「ん?どういうことですか?」

 

「いや何でもないけどさ。今付き合ってる人いないんだ?」

 

「あー……まあ、確かに今はちょっと、そういう人いないですねー」

 

変なはぐらかし方だな。この態度はもしや。

 

「(なーんて)……まあ女子高生なら恋愛くらいはしたことあるか」

 

「えっ」

 

桃華ちゃんの態度がこわばる。
顔には出さないけど、微妙に焦った感じの空気が。

桃華2

っておいおい、
マジかよ!

 

「お兄ちゃん、この人、まだだね」

 

(言うんじゃねえこの悪霊め去れ!)

 

ていうか幻覚と何て事を相談してるんだ僕は!
殆ど初対面の女の子の恋愛事情を詮索してどうする。

 

桃華ちゃんは動揺を悟られないようにする感じで、
自然な感じを装って口元に手をやって、冷静な感じに振る舞った。

 

「女子高生ならみんな恋人居るなんてこと無いと思いますよ!
私は、別に恋愛とかしたことない人でも、
人生を楽しんでるならいいんじゃないかなーって、そう思いますけど」

 

「この人、微妙に他人事っぽく言ってごまかしてる感じが可愛いね」

 

誰かこの悪霊を何とかしてくれ。

 

とか思いつつも。
目の前の女子高生。

 

「男の人でも女の子でも、自分を持って生きてる人の方がいいっていうか……」

 

何故か目を合わせないようにして持論をぶちまけている姿を見ると。

 

「っは~……」

 

何故かこっちが居たたまれなくなってため息つく、三月の昼下がりだった。

 

まあ、それはそれとして。

 

電車を降りる前に軽く家の現状だけ説明しておく。
何時ごろ両親が帰ってくるか分からないけど大丈夫かな、とか言ってみたけど。

 

「ええ、じゃあ二人きりなんですかぁ!?
……なんて、別に気にしないから大丈夫ですよー。
じゃあしばらくの間、お世話になっちゃうかもしれないけど、よろしくお願いしますね!」

 

思ったより機嫌よさそうでよかった。

 

やや閑散とした地元駅のホームを降り、ICカードをかざして自動改札機をくぐる。

 

そしたら背後でガツンと言う音。

 

「あれ?あれれ?」

 

振り返ると改札の扉が閉まっていて桃華ちゃんが足止めを食っていた。
何回かICカードを改札機にタッチするけど、ピピピと言うエラー音が出て上手くいかない。

 

「うわあ、どうしたの」

 

「おかしいなぁ、ちゃんとお金も入ってるはずなのに」

 

「ちょっと見せて?」

 

ICカードを拝借して眺めてみるけど、よくある普通のICカードだ。
別に傷がついてる事もなく、綺麗なものだ。

 

「あれ?デザイン違うんだ、これ」

 

ふと気づいて自分の持っていたカードと見比べてみると、
表面にプリントされているキャラやロゴのデザインが違っていた。

 

「あ、本当だ。透馬さんのとちょっと違いますね。
あれ?まさかこのカード古くなって使えなくなったのかな!?」

 

「そんな馬鹿な……、僕のカードも年季物のはず……」

 

気にせず改めて改札機にタッチしてみたら、ピッと音が鳴った。
扉が開いた。

 

「あれ、開いちゃった。なんだろ」

 

「そういえば、ここの改札機最近新しくなったんだよなぁ。機械の調整不足とかかも」

 

「えー!酷いですね。機械を新調して逆にバグが出るなんて」

 

「確かにずさんな対応だなあ。テレビで最近新型改札機とか言ってるけど、正直デザインが今風になっただけなのに」

 

「最近の電車関係って変なところに力入れてるって言いますよね!」

 

「無駄にICカードの種類増やしたまま提携したからこんな事になるんだ!」

 

電鉄関係への文句を言い合っていい感じに気分が盛り上がって、
そのまま二人で外に出ようとした時、背後で同じく扉に引っかかってる人がいた。

 

「ちょっと、なにこれえ!
あー、なんか切符のところにガム詰まってるんだけどー、これ壊れてるんじゃない?誰が悪戯したのこれえ!」

 

「「………………」」

 

見なかったことにしよう。

 

駅を出て二人並んで歩く。
駅前のシャッター通りを抜け、住宅街をとぼとぼ歩く。

 

「あ、そう言えば冷蔵庫に食料が全然ないんだった。
なんか買って帰らないと」

 

「えー、そうなんだ。今一人なんでしょ。
もしかして全然食べてないんじゃないですか?」

 

「大丈夫、カップ麺ならいっぱいあ……いや、何でもない。
ここらへんにちっさい個人商店があるんだ。
スーパーより安いから、家に荷物置いたらそっちに行こう?」

 

「了解ですっ」

 

それからしばらく黙々と歩いて、家路につく。
駅から15分とかからないので、すぐに帰れる。

 

……はずなんだけど。

 

「あれ?おかしいな、この辺にこんな通りあったっけ?」

 

「えっ、まさか迷ったんですか」

 

「いや……近所だし。そんな馬鹿な」

 

さっきも駅前の景色が随分様変わりしていたし、
引きこもってる内にこの辺の道が整備されたんだろうか。
いつの間にか知らない道に迷い込んでいて、
どっちに行けばいいのか分からない。

 

「うう、ボケたかな……ごめん、ちょっとマップ見るわ」

 

スマートフォンを取り出して、マップ検索。
ナビゲートもオンにしておく。

 

ホーム画面のウィジェットに、
ネオ・ソーシャルゲームのフレンドメッセージ通知がいくつか来ている。
重要メッセージ・リストが更新されているから、後でチェックしないと。

 

「ふう……なんだ、すぐ近くじゃん。
大丈夫だ、もうちょいで着くよ」

 

でも、やっぱりこんな道最近までは無かった気がするんだけどな。

 

「なんか最近、どこもかしこも開発だらけで
街並みが乱れてるんですよね。うちの近所だけかと思ってましたけど、
もしかしたらこの辺もそうなのかもしれませんね」

 

疑問が顔に浮かんでたのか、桃華ちゃんが先回りしてフォローしてくれた。

 

「ああ、まあそんなもんなのかな」

 

と、そこで見覚えのある道に入り、見覚えのある玄関が見えてきた。

 

「おっ、ついた。ここが僕の家」

 

「ここが透馬兄さんの家かあ」

 

「ん?」

 

「あ、いや、そういえば15分くらい歩きましたね」

 

「ああ、うん……あ、荷物持ってて」

 

「ムフフ」

 

両手で支えてた桃華ちゃんの荷物を本人に預けて、
ポケットからカギを取り出す。
玄関を開けたら、妹もどきの幽霊が入口をふさいだ。

 

「ばばーん。ここが私とお兄ちゃんの愛の巣なのだ」

 

(う、うるせー!この亡霊)

 

「お、お邪魔します……
あれ、透馬さん、どうかしました?」

 

「い、いやー。そろそろ夕方だし、暗いなあって」

 

「いやー、そろそろ暗くなってきて、
兄妹ふたり身を寄せ合う時ですなっ」

 

こ、こいつ……

 

「目、悪いんですね。っていうかなんか空間睨んでません?
まさかこの家、幽霊とか出るんじゃ……」

 

「な、なななないわー(すいませんその通りです)」

 

「二階への階段の辺りとか、なんか薄暗くて怖いかもー」

 

「ははは。大丈夫さ。安心して入っていいよ。心配ないから」

 

「ん?でもちょっと変な匂いが……」

 

「えっ」

 

な、何が。

 

「ちょっと見ていいですか?行ってみます」

 

「ふふふ。ついにお兄ちゃんの罪が暴かれてしまったのね」

 

「ん???」

 

「お兄ちゃん、だらしないからね」

 

「うわー!なにこれ!生ごみばっかりじゃないですか!
やだこれー!」

 

「げっ」

 

一人の生活が長くなってついゴミ出しを怠っていたのを忘れていた。
ダイニングに入った桃華ちゃんが悲痛な声を上げている。

 

「うわー、酷い!変な虫がいるー!やだ!」

 

ばたばたと足音を響かせ、桃華ちゃんが怒った顔で出てくる。

 

「透馬さん、キッチンがひどいことになってます!
なんてことしてるんですか!もー!」

 

「今から私、ここを片付けます!
もう、こんなんじゃ病気になっちゃいますよ!」

 

「あ、じゃあ僕も……」

 

「いいから透馬さんはテレビでも見ててください。
こんなことする人だったなんて。信じられないです!」

 

そういって、キッチンで洗い物を始める桃華ちゃん。

 

「うう……ごめん」

 

「あ、じゃあ荷物、部屋に運んどくよ……」

 

桃華ちゃんの荷物をもって、二階への階段を上がる。

 

「怒られちゃったねー。あの子、しっかりしてるなー」

 

「別にいいじゃん……一人だったんだもん」

 

「それは女の子にもてない人のいう事だよー」

 

「どうせモテねーよ」

 

「またまたー」

 

でも、女の子が自分の家事を手伝ってくれるなんて、
嬉しかったり。……なーんて。

 

桃華ちゃんの荷物のトランクを押して二階の階段へ。
こんな重いの持って上がれるのかね。

 

「よっと……う!?
いててっ!」

 

「あっ!お兄ちゃん、大丈夫!?」

 

急にトランクを持ち上げたら腰がグキッと鳴った。

 

ぐぬぬっ……や、やばい、腰……」

 

いくら最近運動してなかったからって、弱すぎだろ僕。
ジジイじゃあるまいし。

 

「固まっちゃってる……本当に大丈夫?」

 

「こ、こんくらい平気だ……すぐ治るよ、
僕立ち直り早いもん」

 

「うっそだあー」

 

「ホントホント。本当だって。騒ぐなよー」

 

何とか体勢を立て直してトランクを二階へ運んでいく。

 

「ねえねえ、お兄ちゃん、ちょっとこれ見てよ」

 

「うん?なんだよ、邪魔すんなってもう」

 

「違うよー。これこれ」

 

神奈は僕の腕の中で揺れるトランクの、
取っ手の部分をちょいちょい指さしている。
桃華ちゃんが付けたと思しき可愛いパンダのストラップ。
その下に連結してついてる英字の刻まれたプレート。

 

「あれ?このキーホルダー……」

 

お土産屋の自販機で見るような金属製のプレートには、
名前が彫られている。
『TOUMA』……僕の名前だ。

 

「あれ、もしかしてこれって……」

 

「お兄ちゃん、あの子と仲良かったんだね……」

 

無駄に思わせぶりなジト目で睨んでくる謎の妹がいる。
何でこいつはいちいち精神攻撃してくるんだ。

 

「ってか、何でこんなもの持ってるんだあの子。
昔一緒に遊んだ事あったっけ?全然覚えてない……」

 

「はあ……通りであの子の態度おかしかったんだ。
あの子絶対子供の頃お兄ちゃん好きだったでしょ」

 

「へえ……そうなの」

 

そんなこと言われても知らんがな。

 

「私のお兄ちゃんが取られちゃう……
早く何とかしないと」

 

「うるせー、僕は誰のもんでもねーよ。
昔仲良かったとしても、
どうせ今の僕見たら幻滅してたじゃん」

 

そんな事言ってる間に、二階の空き部屋に荷物を運び入れる。
僕の部屋とは、物置部屋になってる部屋一つまたいだ位置だ。

 

しかし、これから一緒に住むとなるとおっかなびっくりだな。
年頃の女の事一緒に住んで、正常な精神状態保てんのか。

 

一階に戻って、桃華ちゃんに声をかける。

 

「荷物、二階の部屋に置いといたよ」

 

「あ、ありがとうございます。
洗い物もうちょっと待っててくださいね」

 

「ん。了解」

 

手持無沙汰になってしまったので、
キッチンと半分仕切りで繋がったリビングルームの方に行って、
さっき桃華ちゃんが言ってた通りテレビをつけてみた。

 

午後3時。いつものお昼のワイドショーの時間だ。
珍しくも、科学技術に関する話題をやっている。

 

『日本で最近建造されていた巨大粒子加速器が、
ついに運転開始するとの事です。
近隣では、この大型施設による観光客呼び込みを狙って、
加速器弁当や素粒子キーホルダーを作って町おこしに精を出しています!』

 

ん?粒子加速器が運転?
そんな話、あったっけ?

 

確か、日本でも素粒子物理学の実験を行うための
巨大粒子加速器建造計画が進んでいるってニュースはあったけど、
実際に建造されるのは数十年後くらいの計画だったはずだ。
それが、実際にもう建造されて運転開始するなんて。

 

「おかしいな。そんなニュースなら、
ネットでも話題になってないわけがないんだけど……」

 

でも、実際にテレビで粒子加速器の様子がモニターされてるんだから仕方ない。
全長数十Kmにもわたる施設で、田舎の山林を買い取って作られたと解説している。
地味な外観の建造物が山奥を占拠して最先端科学を称しているようで、
そのギャップが滑稽だった。

 

「ふぃ~、洗い物終わりましたよ。
あ、何やってるんです?これ」

 

「日本で粒子加速器が動き始めるんだって。知ってる?これ」

 

「粒子加速器?なんですそれ」

 

案の定、知らなかったらしい。
分かり易いように僕はかいつまんで説明した。
現代物理学の根本になる原理の一つ、量子力学

 

物質の最小単位である素粒子の立ち振る舞いを解明するためには、
巨大な実験施設を作って素粒子のエネルギー状態を、
必要なレベルまで高めなければならない。
そのための巨大施設が粒子加速器なんだ。

 

「へえ~……。でも、何時の間にそんなの作ってたんですかね。
私、全然知らなかったですよ。重要な施設なら発表しますよね?」

 

「僕も知らなかった。っていうか作ってるなんてニュースなかったよ?
前々から建造してたのに、秘匿されてたっていうのかね」

 

自慢じゃないけど科学関連のニュースは好きでそれなりにネットで読んでる。
それなのに情報が無かったんだから、何か異様な気はした。

 

「あ、そうだ。それより、買い物行くんじゃなかったですか?
近所の安い店って言ってましたよね!」

 

「あ、そうそう。じゃあ、暗くならないうちに行こうか」

 

「ふふ~ん、楽しみです」

 

僕は、どこぞの芸能人の痴話話に移ったテレビを消して、
出かける準備をした。

 

「あ、先に荷物整理しなくて大丈夫?
広げといた方がいいんじゃない?」

 

「いえ、大丈夫です。それよりさっきのキッチン見てて思いました。
今日はまともな料理作って食べさせてあげますよ。ふふん」

 

「そうか。あ、ありがたいなあ……」

 

こりゃぐうたら生活が出来なくなりそうだ。
弱ったね。

 

「良かったね、出来る子で」

 

謎の妹も祝福してる。

 

その近所の店は、もともとは小さな酒屋だったが、
二代目の息子さんが継いでからは、
ちょっと広めのコンビニエンスストアみたいに何でも揃う様になった。

 

実際近場にコンビニはあるが、そっちは割高なので、
まとめて買い出しする時にはこの店を使うようにしていた。

 

「イナミストアかあ……結構綺麗なお店ですね」

 

「中はそうでもないけどね。入ろ」

 

僕らは店の中に入る。

 

「うわ、安い!しかも種類も結構揃ってる!いいお店じゃないですか」

 

「そう?ならよかった」

 

桃華ちゃんは夢中になって買うものを吟味している。

 

というより、手あたり次第に食料をカゴに投げ込んでいるような気がするのだが、
あれ全部持って帰るのか?

 

でも、久し振りのこの感じ。
人と一緒に買い物に来る事。
悪くない気分だ。

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

後ろから声をかけられた。誰だいったい。

 

「こ、こんにちは透馬くん」


雪穂

 

知らない女の子だった。

 

……え、マジで誰?何で僕がこんな子に声をかけられてんの?
長い髪が綺麗にまとまってて結構可愛いんだけど。

 

「え、えっと……どちら様でしょう……」

 

「え?や、やだなー透馬くん、冗談が上手いんだから。
知ってるくせに」

 

「……(滝のような冷や汗)」

 

えー、やばい。この口ぶりだと知り合いみたいだぞ。
ってか、引きこもり気味だからか最近物覚え悪くなってきたし。
真面目にやばいかも知れない。

 

「まさかお兄ちゃんに声をかけてくる女がいるなんて……
要チェックねお兄ちゃん」

 

(こいつを気にしてる場合じゃない)

 

「雪穂、何してんの」

 

「あ、叶美ちゃん」

 

そこに、もう一人女の子が寄ってきた。
金髪で、いかにもギャルっぽい外見だが……


叶美

 

叶美と呼ばれたその子は、僕の顔を見て、
雪穂と呼んだ女の子と見比べた。

 

「誰?知ってる人?」

 

「あ、あのね。同じ大学に通ってる天井透馬くんだよ」

 

同じ大学なのか!こんな子がいるなんて知らなかった。

 

「ふーん。そうなんだ。二人はどうして知り合ったの?」

 

叶美ちゃんは僕の顔をじっと見て言う。
まさかの僕に振ってきたのかよ。

 

「え、えーっと、どこでだっけなあー」

 

まずい。つーか雪穂ちゃん?が同じ大学だってことも知らなかったし、
そもそも知り合いになった記憶が無いんだが。どうしよう。

 

「叶美ちゃん、透馬くんとは高校も同じで同級生だったんだよ。
たまにクラス当番の仕事とか手伝ってもらったりして、仲良くなったの」

 

そうだっけ?先生に言われて仕方なくやったことはあった気がしたけど……

 

「へえ、いい人なんだ」

 

「そうだよ。透馬くんとってもいい人なの」

 

えーと、そこまで褒められるとぶっちゃけ逆に引きますが。

 

「大学でもちょくちょく顔見るから、何度も声をかけようと思うんだけど……
たまにかけてもいっつも気づかないし……」

 

「えー……ご、ごめん……ぼーっとしてて……」

 

「でも、結構あたし好みかも」

 

「へ?」

 

「叶美ちゃん、どういう事なの……」

 

出会ってからこっち優しげな表情だった彼女が、顔を曇らせた瞬間だった。

 

「へっへー。何でもないよう。雪穂ったら、顔が怖いぞぅ」

 

「わ、私心配して……」

 

何を?

 

「あ、つまり透馬くんってあたしとも同じ大学なんだ」

 

「そ、そうなんだ?」

 

「雪穂とよくつるんでる叶美です。よろしくね、透馬くん」

 

「あ、うん。こちらこそよろしく……」

 

「透馬くんは奥手なんだね。今度三人で一緒に遊びに行こうよ。
雪穂も喜ぶと思うよ。ついでにあたしも」

 

「まあ、別にいいけど……」

 

何だろうこの子。微妙にノリが分からない。

 

「じゃあ、アドレス交換ね。ほら、雪穂も押せ押せ!」

 

「と、透馬くん、じゃあ迷惑じゃなかったら」

 

「うん……はい」

 

半ば強引にアドレス交換をする事に。

 

「やったー。男の子のアドレスなんて珍しいもんもーらいっ」

 

「そ、そうなのか」

 

意外だ。ギャルっぽいのに。

 

「あー、透馬さん。私のこと忘れてなに地元の人といちゃついてるんです?」

 

「あ、桃華ちゃん、ごめん」

 

買い物を済ませた桃華ちゃんが戻ってきたみたいだ。

 

「はい、荷物半分持ってください!」

 

「うん。いいよ」

 

「なに?女子高生じゃん?」

 

「どうも、はじめまして。透馬さんのお友達ですか?」

 

「わたしはさっき友達になったばっかだけどね」

 

「と、透馬くん?」

 

雪穂ちゃんが驚いた表情をして、あたふたしている。

 

「か、彼女いたの?私てっきり……」

 

「彼女?私が?」

 

桃華ちゃんはぷっと笑い、噴き出した。

 

「違うよ。親戚の女の子だよ」

 

「でたよ雪穂の必殺早とちり」

 

「あ、そうなんだ。勘違いしちゃって、は、恥ずかしー」

 

「今日こっちに越してきたんです。
お二人ともこれからよろしくお願いしますね」

 

「おうよー」

 

「こちらこそ、どうもね」

 

挨拶交換して、ついでに桃華ちゃんもアドレスを交換してた。

 

「じゃあ、今度絶対遊びに行こうねー。帰ったらいずれ連絡するから」

 

「た、楽しみにしてるね」

 

「了解。じゃあ、また」

 

イナミストアであんな人々に出会うとは思わなんだ。
期せずして遊びに行く約束をしてしまうとは。

 

……面倒だけど、楽しみっちゃ楽しみだな。

 

「さ、透馬さん、帰ったらおいしいご飯作りましょうね」

 

僕にも春が来たのだろうか……

 

ってアホか。

 

そして僕は見た。

 

ウキウキする僕の顔を見て邪悪ににやける、謎の妹の姿を。

 

帰り道、家路につく途中で桃華ちゃんが思い出したように言った。

 

「そういえば、ここらへん、住宅街なのに田んぼがあったような……」

 

「え?何で知ってるの?」

 

「思い出せなかったけど、そういえば私このあたり来た事ありますよ。
本当に小さいころだったけど、透馬さんの家に遊びに来て」

 

「そう、だっけ」

 

「懐かしいなあ。いちごとかハウス栽培してたんですよね」

 

「よく覚えてるなあ」

 

「透馬さんも私の家に来たでしょ?」

 

「覚えてないけどね」

 

「えー……」

 

「あ、でも待って。近くに七日堂があった事は覚えてる。
近場ではそこ以外ないから、そこで買い物するんだよね」

 

「透馬さん、5点」

 

「えっ……」

 

「大体あってるけど七日堂は無いです。セイヨーマートです」

 

「おっかしいなあ。七日堂ででっかいアドバルーンを見た記憶が」

 

「じゃあ、近くの大きな川で遊んだ事は?」

 

「森林公園じゃなかったっけ?」

 

「私の近くに森林公園なんてないですー!」

 

「あらら……」

 

「透馬さん、どうしたんです?パラレルワールドにでも迷い込んでたんですか?」

 

「その説を支持する」

 

「もう。私の方が覚えてるじゃないですか。この道を左に行ったら帰り近道でしょ?」

 

「あ、ちょっと、そっちは無理……」

 

「大丈夫ですって行きましょ!」

 

そして……

 

盛大に迷った。

 

「や、やっと帰って来れた。二度も家の近くで迷子になるなんて」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

外はもう真っ暗闇だ。何とかたどり着いた玄関の扉を開けて家の中へ。

 

桃華ちゃんは、呟いていた。

 

「悔し紛れじゃないんですけどね。
なんか最近、外の景色が思ってたのと違うってよくあるなあ……」

 

ダイジョブ。僕もよくある。

 

……引きこもりなだけか。

 

 僕らは買ってきた食材を冷蔵庫に入れて、一息ついた。
 何気なくテレビをつけると、7時のニュースがやっている。

 

「じゃあ、早速料理作りますね」

 

「ああ、手伝うよ」

 

「出来るんですか?料理」

 

「いや、全然」

 

「じゃあ座っててください。私はお父さんに作ってあげてたから結構うまいんですよ」

 

「でも、悪いよ」

 

「いいじゃないですか今日くらい。これから長い付き合いになりそうですし」

 

「ああ、うん、わかった……」

 

 強引に押し切られてしまった……これでいいのだろうか。
 まあ、下手に手伝って料理を台無しにしても仕方ないけどさあ。

 

 メールチェックでもしてるか、と思いモバイルを取り出す。
 あった。新着……件名「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」

 

 怖っ。

 

 またあいつの仕業か……と、存在しないはずの妹を探して部屋を見渡す。
 でも、何処にも姿は見えない。

 

 メールを開く。送信メールアドレスはバグって表示されている。
 あいつが僕の元に来た時もそうだった。ネットサーフィンしてたら、突然奇妙なメールが来て、開いたらいつの間にかあいつがそばに居たんだっけか。

 

 今度は何だ。

 

『お兄ちゃん。妹の神奈です。お兄ちゃんはそろそろ、決めてくれた?』

 

 って、何をだよ。続きを読む。

 

『お兄ちゃん、幽霊の私がこの世に出張ってきたことには、意味があるの。このままじゃ、お兄ちゃんはまた消えて行ってしまうから。だから私が来たんです』

 

 ……意味の分からないメールだ。何だこりゃ?

 

『私はお兄ちゃんの幸せを願っています。だからそのために、
お兄ちゃんは二度と無茶をしないでほしいって思ってます。
だからあの時私が言った通り、一緒に居させてください』

 

 あの時?最初のメールの時の話かな。

 

『今はまだわけが分からないって思うかもしれません。そしたら、
このメールは消して、でもその代わりに二階に来てください。待ってます』

 

 うん……訳が分からん。とりあえず二階に行ってみるか。

 

「桃華ちゃん、ちょっと二階に上がってくる、すぐ戻るから」

 

「はーい、まだちょっとかかりますから平気ですよ」

 

「うん、任せた」

 

 声だけかけて、僕は二階の自分の部屋に上がっていった……
 自室の扉を開ける。すると、突然、何者かに手をつかまれた!

 

 バランスを崩して、真っ暗な部屋に倒れこみそうになる。

 

「なっ、何だ」

 

 そこには、ぼんやりと発光する幽霊の姿……

 

「お兄ちゃん……やっぱり……」

 

 今のって、まさか。

 

「神奈、お前が僕の手を引っ張ったのか……?」

 

「うん……」

 

「お前、触れるのか?」

 

 ひょいっと手を空中に放って、この謎の幽霊の体に触れてみようとする。
 が、すり抜けた。

 

「お、お兄ちゃんのエッチ……」

 

「あ?何言ってんだ、ちょっと触れるか試そうと……」

 

「何処に触ろうとしてるのよぅ……びっくりした、ホントにびっくりした!」

 

「いやいや、こっちがびっくりしたんだろーが!お前、手なんて引っ張って……」

 

「長くは触れられないみたいね。よかった」

 

「なんのこっちゃ?」

 

「いや、こっちの話なの」

 

「いきなり謎の女気取りだな……」

 

「あれ?私、謎の女じゃなかったの?」

 

「ああ……うん……謎の妹だけどさ……」

 

「お兄ちゃん、パソコン付けて。ネット見て。きっとやってるから」

 

「何が?」

 

「いいから!見ようよ、お兄ちゃん!」

 

「わ、わかったよ……どうしたんだ、いったい……」

 

 僕は真っ暗な部屋でパソコンを付ける。いつもの総合掲示板のブラウザを開いて、ニュース系の板へ。
「ここでいいのか?」

 

「うん、そう、いつもの掲示板でいいから」

 

 掲示板のスレッドタイトルをずらっと見ていく。

 

「あ、これこれ!」
 神奈が指さしたのは、
『新型粒子加速器、早速コケたか?』
 というタイトルのスレッドだった。

 

 それによると、新型粒子加速器の試験運転中に、近隣地域で大規模な停電が起こったのだとか。
機材がショートした疑いがあるらしい。

 

「へえ……そうなのか。こんなニュースが何かあるのか?」

 

「お兄ちゃん、これは重大な問題なんです。真面目に聞いてほしいんだけど……」

 

「なに?」

 

「この件で、世界が滅びる可能性があります……」

 

 突然、ぴしゃん!と落雷が窓の外を白く染める。さっきまで雨も降ってなかったのに。

 

「世界が……え?ええ……何それ怖い……」

 

「真面目に聞いてくださいな」

 

「いや、そんな事言われても僕、世界を救う英雄とかじゃないし」

 

「お兄ちゃんは、バーチャル世界ってご存知ですか」

 

「ああ、バーチャル世界ね……いつもネトゲーでやってるって」

 

「そうじゃないの。あのね、実はね、この世界はバーチャルなの。って言ったら信じる?」

 

「信じないけど……」

 

「じゃあ、何故私のような幽霊がいるのでしょう……」

 

「ん???」

 

「実は私は、この世界がバーチャルリアリティである事を知っているのです……そして、私という魂も、お兄ちゃんたちすべての人も、再現されている仮想現実に過ぎないことを……」

 

「何それ怖い……本物の幽霊に言われるとどう反応していいかわからないんだけど」

 

「で、このたびの粒子加速器は……えーと……いわゆるバーチャル世界のサーバーみたいなものに過剰な負荷をかけて、穴を穿ってしまったみたいなの……」

 

「はあ?マジで?」

 

「うん。もうすぐこの世界は滅びます。さようなら、お兄ちゃん……めそめそ」

 

「めそ……なんだそりゃうぜえええ」

 

「今は信じられないかもしれないけど、神奈はね、こんな事になるんじゃないかって思ったから出てきたのよ。世界が終っちゃうなんてそんなの嫌だから」

 

「だから、僕は世界を救うナイトとかじゃないんで」

 

「うん……そうね。全て私の我儘だったのかも……」

 

「こんな茶番を披露したくて二階に呼んだのか……とっとと桃華ちゃんとこに戻ろう……」

 

「むー。お兄ちゃんったら何も信じてくれないー」

 

「ああ……あのさあ……お前が言ってる事が仮に本当だとしても、大丈夫だろ、たぶん……世界はそんな簡単に滅びるほどヤワじゃないって」

 

「そうかな……」

 

「そうだよ。安心しろよ」

 

「そっかあ……」

 

 僕は扉をバタンと閉めた。

 

「そうであることを祈ってます……」
 扉の向こうから声がした気がした。まあ、いずれにせよ謎の幽霊がますます謎になっただけだ。
 ……気にするほどじゃないよな?世界の終わりって……

 

 一階に戻ったら、桃華ちゃんが豪華な食事を並べて待っててくれた。

 

「いっぱい食べてくださいね!」

 

「う、うん……でもこれ、この量絶対太る……」

 

「大丈夫ですよ!パパーッと行きましょう!」

 

「分かったよ……」

 

 カニクリームコロッケ、フィレカツ、サラダスパゲティ、アジの揚げ物、ハンバーグパスタ……
 どんだけ作ったんだと言いたくなるような食の嵐が、僕を襲った……

 

 あまりにも美味しいのでびっくりしたが、それだけ彼女の料理の腕は確かなのだと実感した。

 

「それと、お兄ちゃんへの愛情も入ってるんだよ」
 謎の妹の言う事は聞き流す。

 

 それから僕らは洗い物をして、それぞれ風呂に入って、二階の自室に戻って就寝する。

 

 しかし、あんな可愛い子と一つ屋根の下とは……
 何か間違えてしまいそうで困る……

 

 ベッドの上でぼんやりしてたら、メールの着信があった。
 相手は……石動叶美……って、誰?
 ああ、イナミストアで会ったギャルっぽい子か……

 

「石動叶美です。透馬くん、早速メールなんてしちゃいましたっ。迷惑かなっ?大丈夫そうだったら、今度、私に付き合ってくださいっ。
二日後の土曜日、親睦を深めるために雪穂込みでどっか遊びに行かない?いずれにしても返信プリーズ!お願いね」

 

 謎のテンションだ……押せ押せだなあ……

 

 返信するか。
「いいよ。二日後どころか全方位で暇。どこ行く?」

 

 メール送信っと……

 

 ピコーン。

 

 なんだ!?早速返信が来ただと!?

 

「透馬君ありがとう! >_<  私はスカイブリッジを見に行きたいなあ。いった事ないから誰かと一緒に行きたかったの。雪穂にも提案聞いてみるね、じゃっ!」

 

 スカイブリッジ……別名新首都圏大型電波塔……橋じゃないのに、空と人との橋渡しって意味でスカイブリッジと名付けられた、近年増設された電波塔だ。

 

 なるほど、観光にはぴったりかも知れない。
 数分後には再びメールが来て、結局スカイブリッジを見に行くことで決定になった。
 その後は少しだけ、ネットゲームの操作をして、いつの間にか眠りについてた。

 

「はくちゅん!」

 

 自分のくしゃみで目が覚めた。そういや風邪ひいてたんだっけ、僕。
 昨日は桃華ちゃんに会ってから体調が良かったから、何か忘れてたけど。
 桃華ちゃん……そうだ、桃華ちゃんに会ってなんか運が向いてきてるような……

 

「おはよ!お兄ちゃん」

 

「うっうわあっ」

 

 神奈がいきなり目の前に現れ、仰天した。

 

「お、お前、幽霊だからってそういうのやめろよ!」

 

「しょぼーん……このドッキリサプライズ、お兄ちゃんはお気に召さなかったかー」

 

「お気に召すかよっ」

 

 僕はつい勢いよくドーンとドアを蹴り開けた。

 

 廊下に桃華ちゃんがいた。

 

「あ……おはようございます……」

 

 何かびっくりしている。ヤバい。変なとこ見られた。

 

「はは……おはよう……」

 

「なんか誰かと話してたみたいだけど……誰かいるんですか?」

 

「い、いやっ独り言。独り言さ。何でもないんだ」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

 ドン引きされているんじゃないだろうか、これ……

 

 折角だからと、桃華ちゃんと一緒に朝食をとることになった。
 わざわざパンを焼いて、バターとジャムを塗ってくれた。

 

「桃華ちゃんは、4月からこっちの高校だよね」

 

「はい。そうですね……でもそれまでは暇なんですよ」

 

「ああ、やっぱりか」

 

「ね、一緒にどこか出かけませんか?こっちの方の街に慣れておきたいし」

 

「そうだね……じゃあ、この辺の街をぶらぶらしようか」

 

「ありがとうございます!良かった、迷惑じゃないかって」

 

「気にしなくていいよ、暇だし。もっと気軽に何でも言ってくれていいんだよ」

 

「そっかー。じゃあ、甘えちゃいますねっ」

 

 テレビをつけてニュースを見ながらそのまま朝食を摂る。
 昨日見た粒子加速器のニュースは、どのチャンネルでもやってなかった。
 ネットニュースがデマだったのかとも思ったが、確か信頼できるサイトのソースがあった気がする。
 都合の悪いニュースはあまり流したくないんだろうな。
 朝食後は、桃華ちゃんが自分の荷物を広げておきたいっていうのでその間待つことにした。
 昼飯を街で食べるために、昼前に出かける事に決めた。
 それまでの間、僕は例のネットゲーム……ネオ・ソーシャルゲームの「シティアイランド」をやることにした。
 スマートフォン用のアプリもあるが、やっぱりパソコンでやった方がのめりこむにはいい。

 

 正式名称は、「クラックシティ・アイランド」。
 惑星クラックスと言う開発途上の星を舞台に、プレイヤーたちがしのぎを削る環境開発ゲームだ。
 短い会社ロゴが出て、流麗な曲の流れるタイトル画面。タイトルのイメージとは裏腹に、広い海洋環境が舞台になっている世界観は美しく幻想的だ。最新のSFのような世界設定が散りばめられている点も魅力の一つだ。
 クリックしてゲーム画面へ。今日のログインボーナスはクレジット+5000……普通だな!

 

 メッセージ欄には前日からの売り上げ一覧が乗っている。まずはそれをチェックした。
 このゲームには色々な要素があるが、貿易ショップを自由に出せるのがその一つだ。
 このショップは自分でクラフトしたアイテムや育てたユニットを売りに出して、他のプレイヤーに買ってもらうことが出来る。ソーシャルゲームと言うよりネットゲームに近い形だが、なんとこの貿易ショップは、他のソーシャルゲームのプレイヤー向けにも売れるのだ。
 「スターセイバーGTB」にはバトロイド向けの兵器を、「ファンシープリズム」にはアパレル関係や宝石アイテムが良く売れる。逆にこっちがそれらのゲームから買う事も出来、深海探査向けのパイロットや街の発展のためのアイテムレシピを買ったりできるのだ。この横のつながりのあるゲーム性がネオソーシャルゲームのいいところであり、その中でもこのクラックシティは生産・貿易系に強いゲームなのだ。
 ゲーム内に有益なコンテンツを出すと、買ってくれたプレイヤーからグッドマークがもらえる事がある。このマークがたまると、リアルの電子マネーアカウントにお金が振り込まれるコンテンツ育成プログラムが存在している。僕もこれを利用していて、色々試行錯誤してプレイしているが、実際のところ鳴かず飛ばずな時が多い。
 それでも実際に有益なゲームと言うのは胸を熱くさせる。そんなわけで今日もこれをプレイしてしまうのだ。

 

 昨日の売れ行きはサルベージしたジャンク素材を中心に色々あったが、珍しくキャラクターユニットの方も売れていた。キャラクターピース☆66「今日も昼寝」と☆67「ほのぼのマスタリー」、マスターピース☆58「停戦の使者」を乗せたアホっぽい外見の女の子キャラクター。能力値は低めで魅力特化型。狙い過ぎかとも思ったが、早速売れててよかった。このゲームではキャラクターの個性を決定するキャラクターピースと、ゲーム中に役立つマスターピースという能力を備えたキャラクターを作ることが出来る。これらのピースは探索中に集めることが出来、新規作成のキャラに持たせることが出来る。新規作成されたルーキーキャラは、他のプレイヤーが新しくキャラクターを雇おうとした時にランダムに表示され、一覧から好きに雇うことが出来る。他のプレイヤーに自分の作ったキャラを選んでもらう事がゲーム上肝要で、そのキャラクターの功績は一部作成者にフィードバックされる仕組みになっているのだ。強力なキャラクターを作っては雇ってもらう事で、ゲームを有利に進められるのだ。
 初期はデフォルトキャラがいたらしいが、現在ではどのプレイヤーもこの他プレイヤー作成キャラを雇ってゲームを開始する事になる。強力なピースは運次第でしか手に入らないし、ピースの組み合わせや能力値のボーナス次第で無限大に幅のあるキャラが出来る。そんな一期一会のキャラクターたちと自由に探索できるのも面白いところだ。
 僕のお気に入りキャラは、序盤のロパートン海域を探索してた時に出会った秘書系キャラクターの「カンナ」だ。マスターピースの☆12「ネゴシエイト」と☆45「不思議な魅力」を持っていて、交渉イベントで大活躍してくれる。外見はツインテールの可愛い少女だが、偉く有能だ。カンナ可愛いよカンナ。
 画面には「今日はパレードの予定ですよ」とナビゲーターに設定したカンナが吹き出しを発している。それに従って定期イベントのパレードへ。

 

 このゲームはFP(フロンティアポイント)と呼ばれる探索用ポイントと、PP(プレゼンスポイント)と呼ばれる外交・貿易・内政用のポイントがある。どちらも時間で回復するポイントだ。
 このゲームは、発展中の海洋惑星を舞台に、それぞれのプレイヤーが都市船と呼ばれる島のような船を一つ所有し、その市政を取って発展のために尽力するゲームだ。それぞれの都市船は海洋サルベージ機能を持っていて、フロンティアポイントを消費して古代文明の存在したクラックスの海からお宝を接収したり都市船の拡張をし、プレゼンスポイントを消費して街の発展を促す事業を行ったりするわけだ。
 そのためのキャラクターを他プレイヤーから雇ったり、必要なアイテムを貿易し、都市計画をして、店や居住区を設定して、他のプレイヤーの市民との交流を図ったりする。
 今日はパレード強化日で、売れ行きが好調になるうえ市民の支持率がアップしやすくなるのでやっておいた。
 と、そこで普段は起きない特殊なイベントが発生した。
 なんだか新キャラクターの「惑星執行官」が現れて、「この惑星クラックス古代文明の正体がついに暴かれそうになっている」と。「どうも、この文明が海の底に沈んだのは災害のせいじゃあないらしいのだ」とイベントが続く。「先史文明は、別の理由で滅んだ文明の遺産を隠すため、暴かれないように海の底に沈めたようなのだ。何か秘密があるはずだ」と。そのために、ディメンションスポイラーと呼ばれる空間圧搾装置まで用いて、海の底の中心点に何が眠っているのかサルベージする予定らしい。この様なストーリーが出るって事は、次の大きなゲームイベントへの布石なんだろうか。
 僕は興味をひかれ、長らく拠点にしていたパイロン海域を脱し、そのディメンションスポイラーとやらが建設されるというシャンエイ海域に舵を取る事にした。早めにイベント開催地に辿り着いておけば、イベントが有利になるだろうから。多少の時間とFPはかかってしまうが、折角のイベントを逃すわけにはいかない。

 

 と、そんなこんなでゲームをプレイして、何度か海洋生物との海戦を繰り広げたりしていたらいつの間にか時間が経っていた。
 そろそろ11時、昼ご飯の時間が近づいてきたかもしれない。
 僕は適当にゲームを切り上げて、パソコンを落とした。

 

「お兄ちゃん、やっと終わった?」と神奈。

 

「うわぁっ」
 今までおとなしくしてたのにいきなり現れるもんだからびっくりした。

 

「何だ幽霊か……驚かせんなよ」と悪態をつくと、

 

「いい加減慣れてよー、お兄ちゃん」と笑いながら言っていた。

 

 そういえばゲームキャラのカンナに似てるな、こいつ。ツインテールだし。
 なんとなくムカついて蹴りを入れるふりをしてみた。

 

「きゃっ、何するの!?」

 

 驚いて後ずさりした神奈。マジでガン避けしやがった。

 

「お前本当に幽霊なんだよな?」

 

「え……なに?どうしたの?」

 

「いや、幽霊ならすり抜けるはずだよな……避ける必要もないじゃん」

 

「触ってみる?」

 

「うん」

 

 僕は神奈の手を握ってみた。ところが、前とは違って手はすり抜けて触れなかった。

 

「昨日のは一体何だったんだ?」

 

「それは、女の子の秘密だよー」

 

 ウインクする神奈。

 

「うっぜ」

 

 仕方がないので放置する事にした。
 部屋の外に出ると、丁度桃華ちゃんも準備が終わったみたいで部屋から出てきた。

 

「あっ、丁度良かった透馬さん、そろそろ出かけましょうか」

 

「ああ、そうだね、そうしようか」

 

 僕は適当に身支度をして桃華ちゃんと一緒に家を出た。

 

 閑静な住宅街を、二人で駅まで歩いていく。

 

「しっかし、随分美人になったよね」
 ふと、彼女の格好を見て言う。

 

 まだ少しだけ肌寒い3月の空気、桃華ちゃんはベージュのロングコートにマフラー、小さなポーチをかけて髪を纏めている。
 そのサラサラした髪がうなじにかかり、前髪が眉を隠した女の子の空気。本当に、昔の子供の頃とは違う。

 

「やだ、何言ってるんですか、透馬さん!」

 

 彼女は照れたみたいに手を振り回して背中をたたいてきた。

 

「透馬さんの方こそ、大人っぽくなりましたよ」

 

「ああ、そうかな……?」

 

 家でゲームばっかりやってる人だから、そういう自覚はゼロだ。
 外見くらいしか大人になってる気がしないんだけど。
 その顔つきも、ゲームばっかやってるからか子供っぽいような気もする。

 

 高校生から見れば大人の範囲なのかもしれないが。

 

「そうですよー。昔から、頼れるお兄ちゃんって感じだったし……」


桃華

 

「ふーん……でもまあ、それって年の差だけの問題なんじゃないかな……」

 

「そうかなー、そんなことないと思うけどなー」

 

 なんだか妙な幻想を持たれてるかもしれない。
 それとも、僕にそうあってほしいと思う若さからの願望か。
 僕は肩をすくめて、ハーフコートのポケットに手を突っ込んだ。
 駅について、最低料金すれすれの切符を買う。
 小さな改札を抜け、ホームから電車に乗り込む。

 

 目的地はこのあたりで一番賑わってる街。この辺りは駅の感覚も短いので、歩いてでも行けるような距離だったが、どうせ住宅街が続いているだけなので電車で行くことにしたのだ。
 犬居町駅に到着して、電車を降りる。

 

「さて、どこいこっか?」

 

「透馬さんのお勧めのお店ってありますか?」

 

「ああ、うん」

 

「じゃあそこ行きましょう」

 

「おう、わかった。駅からすぐそこだよ」

 

 僕らはとぼとぼ歩いた。

 

「さあ、ついたよ」

 

「って、ここ、ハンバーガーショップじゃないですか」

 

「ああ、なんかまずかったかな」

 

「いやいや、全国チェーンで何処に行っても食べられるお店じゃないですか!流石に別のところにしましょうよ!ここでしか食べられないような奴!」

 

「まあ、流石に無いか……わかってたけどさ。ここが一番おすすめなのは本当だよ……僕、安っぽい馬鹿舌なんだ」

 

「そんな申し訳なさそうにされても……」

 

「しゃあないな。じゃあこの隣の蕎麦屋に入ろうか。値段の割には美味いと思う」

 

「ああ、そっち?」

 

「ま、最初からそのつもりで来たんだけどさ」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

「おう」
 桃華ちゃんはホッとしていた。

 

 そんなわけで適当に蕎麦を嗜んで店を出る。

 

「どうだった?」

 

「結構良かったと思います。味の割には安いし」

 

「安い!そこ大事ね。学生が贅沢はできないって事よ」

 

「まあ、そうですけど……」

 

「そうさ、ハンバーガー辺りで手を打っておくのがいいのさ。食費ってのも馬鹿に出来ないんだから」

 

「うう……すみません」

 

「昨日の作り過ぎは目をつむろう……張り切ってたんだよね」



「その……透馬さんに喜んでもらおうと思って」

 

「でも、ほとんど冷蔵庫送りになっちゃったからね……夕飯は残り物で片付けないと」

 

「大丈夫です、私が何とかしますから」

 

「太るよ?」

 

「や、やだなあそんな……大丈夫ですって」

 

「ま、頑張ってくれたまえ」

 

「ごめんなさい、協力お願いします!」

 

「はは、冗談だよ。言われなくても食うって」

 

 それから僕らは、駅前のデパートや、電器店や、古着屋や、カラオケ店なんかの遊ぶところを見て回った。
 とくに洋服屋なんかでは女の子を連れて歩くというので手間取るんじゃないかと思っていたが、彼女は従順に僕の後をついてきて、手間を取らせなかった。中々空気の読めるいい子だった。
 それに比べて……

 

「お兄ちゃん!せっかくのデートなんだからもっと積極的に行くのよ!」

 

(う、うぜぇー!)

 

 神奈は相変わらずこっちの気を知っててわざわざ煽ってくるのだ。
 所詮、従姉妹じゃないか。そりゃ、女の子だから少しはドキドキしてたけどさ。
 自慢じゃないが女に免疫のない僕だ。だけど桃華ちゃんと一緒に居ても女の子と一緒に居るって程意識する事はなかった。もっと一緒に居てしっくりくるような……

 

 しかし、神奈は?

 

(いや、それは無い。幽霊だし)

 

 外見は可愛い女の子だが、圧倒的に鬱陶しい。

 

「あらお兄ちゃん、もしかして私を見てときめいているんじゃない?」

 

「な、なんでそうなる……」

 

「そろそろお兄ちゃんも私の事が可愛く思えてきたんじゃないかなって」

 

「ああ、死ねよ」

 

「透馬さん、誰と会話してるの?」

 

「え?ああ、うん。何でもないんだ」

 

 そろそろ桃華ちゃんに変に思われるのも隠せなくなってきそうだった。
 気をつけねば。

 

「しかし、この辺もなんか変ったなあ……」

 

「ん?どうしたの?」

 

「いや、なんか、この辺良く知ってるつもりだったんだけど、知らない場所に知らない店が一杯あるなって思って。昨日も思ったけど、こんなに世の中の流れって早かったっけ?」

 

「ああ、そうなんだ?」

 

「うん。異様なほど街が様変わりしてる。大きい店はともかく、全然知らない街になってるみたいに思えてきた。そこのビルにも本屋があったはずなのに、なんで焼肉屋に変わってるわけ?」

 

「あー、なんか最近よくあるような……」

 

「ん?」

 

「最近、いつの間にか町が様変わりしてるってよくあったなあ。地元でも、こんなに早く変わらないでしょってくらいの速さでお店が入れ替わってたり。で、聞いてみたら、『ウチは前からこのお店だよ』って。そんなはずないのに、ちょっと前は別のお店だったのに、って。友達も不思議がってました」

 

「ほうほう……」

 

「で、友達がネットで聞いてみたら言われたらしいんです。
『それは君たちがパラレルワールドに迷い込んでしまったんだよ』って。
つまり、やってるお店が別々同士のパラレルワールドが繋がってて、
別の世界の方に迷い込んでしまったんだって」

 

「なんだそれ」

 

「でも、別の友達も言ってましたよ。そういう事が最近多いって。
まあ、地元の開発スピードが速かっただけかと思ってたけど……」

 

「うーん……それっていつ頃から?」

 

「本当にここ最近ですよ。二、三週間くらい前からかな?」

 

「そういえば……」

 

 ここ数週間変なスパムメールが来ると思ってたんだよな。
神奈が現れた時、それがスパムじゃなくて幽霊からのメッセージだと気づいたんだった……

 

 何だろう、これ繋がってる?

 

 ちょっと気になってスマホを取り出した。
 メーラーを見て、過去のリストをチェックする。タイトルにお兄ちゃんお兄ちゃん書かれている謎のメール群を見て戦慄する。やっぱあいつ悪霊なんじゃないかな。
 しかし、最初に来た日付は。19日前か。あれ?タイトルにお兄ちゃんって書かれてない。ふとして開いてみる。

 

「約束が果たされる時が来た。間もなく世界のダイアログは混じり合う。時の終極点を目指せ。そこに答えはある」

 

 なんだこれ。またしても意味不明なメールだなー。
 でも、世界のダイアログって。パラレルワールドが混じり合うって意味か?
 だとすればあまりにも今の状況にピッタリすぎる。何でこのタイミングで僕はこのメールを開いた?
 何か神様の予定調和とでもいうべき、作為的なものを感じるくらいに、ピッタリだ。
 だとすれば、信用しない方がいいように思える。
 差出人はやっぱりバグってる。訳が分からないな。

 

 メーラーを閉じると、トップ画面に設定していたニュースリストが更新されていた。
 トップには、「新型粒子加速器、爆発か」と書かれている。
 え、爆発?
 そういえば神奈はこれが大変な事を引き起こすとか言ってたな。
 そうでなくともなんかヤバいんじゃないのか。変な物質が生成されて撒き散らされたりしてないだろうな。
 いや、流石にそれは無いか。

 

 スマホをしまうと桃華ちゃんが佇んで待っていた。

 

「あ、ごめん。ちょっと用事が。もう済んだから」

 

「そっかー」

 

「そろそろ帰ろっか?もう案内できるところも少ないし」

 

「そうしましょうか」

 

「じゃあ、帰りは歩きで帰るか。駅まで戻って帰るより早い気がする」

 

「わかりました!」

 

 そんなわけで僕らはとぼとぼと帰り道を歩いた。
 はずだったんだが……

 

「あれ?おっかしいな。何でこんなところにトンネルがあるんだ?」

 

 高架下の短いトンネルが目の前にある。おかしいな。こんなところにそんなトンネル無かったはずなんだが。
 このあたりは何処もかしこも平坦な住宅街だったと思うが。
 そもそも、この線路はどこの路線だ?こんな路線無かったはず……
 スマホでマップを見てみるが、回線が不調なのか読み込まなかった。

 

「あれ、もしかしてまた迷った?」

 

「いや、おかしい。なんか変だな……」

 

「とりあえず進んでみませんか」

 

「あ、ああ」

 

 とにかく僕らはそのトンネルをくぐってみた。
 高低差のある住宅街が続く。
 さっきの鉄道の路線は小高いコンクリートの塀に囲まれて、その上は植込みになっていた。
 少し歩くと、小さな公園があって、その周りに小高い三階建てくらいの住宅が並んでる。長方形の住宅が並ぶその様は、何となく西洋風に思える。シャッターの閉まったまま錆びついた車庫が、生活感のなさを感じさせる。同じくシャッターの閉まったスーパーマーケットもあった。これも三階建てくらいで、周りの建物と似通った作りになっている。
 違和感は加速していく。こんな場所、ここら辺にあったっけ?どことなく日本らしくない風景だし。
 堀に仕込まれた赤い花の咲く植込みなんかも、元の街の景観とは違った感じだ。
 妙に緑が多いし、妙にノスタルジックな景観の家が多い……
 そして、人が居ない。

 

「妙だな。あまり見ないところに来てしまった」

 

「っていうか、迷ったんでしょ、透馬さん」

 

「……うん、まあ、その」

 

「なんていうか、不思議な場所ですね」

 

「ああ!っていうかホントにここ日本?だよな、そこの家の表札も、日本語の名字が書かれているし」

 

 とは言ったものの、あまり見ない漢字が使われてて、読めなかった。

 

「でも、不思議なところ」

 

「何処なんだここ?マジで異世界来ちゃった?」

 

「そうかも……」

 

「いやいや、否定しようよ!どうしよう……マップも使えないみたいだし……」

 

「透馬さんもですか……おかしいなあ……」

 

「仕方ない、あっちに線路がある。線路沿いに歩いて行けば、いつかどこかの駅に着くはずだよ」

 

「ええ、本気ですか?」

 

「他に案があるなら乗るけど……」

 

「うーん、仕方ないなあ……」

 

「大丈夫のはず……ここら辺は駅の間隔短いから」

 

 しかし目論見は外れて、線路沿いに歩いて行ったら目の前に別の建物が現れて、曲がり道に行く羽目になってしまった。
 元の線路に合流しようとしても、植物だらけの別の道に入り込んでしまった。線路は見つからないまま、僕らはさ迷い歩く羽目に。

 

「こ……こんな街の中で迷う事ってあるんですね」

 

「ああ……っていうかもう森の中に入って来てねえ?」

 

 細い道路の左右は石積みの上に背の高い林が広がっている。獣道を行ったら山に入るんじゃないか?っていうか、こんな街中に山なんてあったっけ?

 

「割とマジで異世界に来ちゃったのかもな。こんな山道、ここらにはないぞ」

 

 大体、半分くらい埋立地のこのあたりに山なんてあるはずがない。いかにもイカれた話だ。
 桃華ちゃんも不安げな顔になってきている。

 

「お兄ちゃん、あそこ」

 

 突然神奈が出てきて、前方を指さして言った。

 

「あっ……電話ボックスだ。珍しいな」

 

 半分くらい山道になっているこの場所で、三叉路の分かれ道があって、電話ボックスが立っている。珍しいってレベルじゃない。そもそも、誰がこんなところに電話ボックスを立てようとする?やっぱりおかしい。いよいよ変になってきた。

 

 と、電話ボックスには先客が入ってたらしい。人が出てきた。

 

「あっ!透馬くん!?」

 

 そこに居たのは……えーと、昨日イナミストアで出会った、仲堂雪穂さんか。

 

「あれ、透馬くんじゃん」

 

 二人目も出てきた。霊のギャルっぽい子で、石動叶美って子だ。

 

「こんなところで会うなんて……あ、もしかして二人も道に迷ったの?」

 

 雪穂さんの問いかけに、僕と桃華ちゃんは顔を見合わせて、頷いた。

 

「電話、通じなかった!」

 

 叶美ちゃんはふてくされたように言う。

 

「ああ、そうなの?……じゃあ、助けも呼べないな」と僕は返す。

 

「やっぱり携帯も圏外?」

 

「っぽいね。アンテナ少しは立ってるのにどのサイトも繋がんない」

 

「そっか。メールも送れないみたいなの。変な話だよね」

 

 でも、と雪穂さんが言う。

 

「地名は分かったよ。電話帳のところに書いてあった。この場所は、湊深山っていうんだって」

 

「……まるで聞いたことない地名だな」

 

「だよね?あたしたち、もうすっかり迷っちゃって」と叶美ちゃん。

 

「そろそろ外も暗くなってくるだろうし、やばいよなあ」

 

「ここってやっぱり異世界、なんですかね」と桃華ちゃんが言う。

 

「イセカイ?」

 

 叶美ちゃんが怪訝そうに問う。

 

「あ、えっと、この世界がパラレルワールドか何かで、そこに迷い込んじゃったんじゃないかって」

 

「地続きで歩いてきたなら異世界も何もないんじゃないかなー……でも、まともな場所じゃないのは確かだね」

 

「そうだよね、なんかおかしいんだよ、この街。最近ずっとそうだったけど、今日は決定的。叶美の見送りにちょっと歩いてきただけなのに……二人とも家に帰れなくなっちゃった」

 

「そっか。やっぱり二人も変だと思ってたんですね」

 

「あんたもそう思ってた?最近、なんかおかしいよねー。普通に歩いてても、街が違和感だらけだもん」

 

「はい。前から違和感あったけど、なんか決定的になっちゃった感じですね。普通に迷っただけでこんなところまで来ると思いませんもん」

 

「そうだよねー、なんだ、気が合うねー」

 

 叶美ちゃんは桃華ちゃんに謎の連帯感を感じているらしい。

 

「でも、何で透馬くんと一緒に歩いてたの?やっぱり付き合ってるとか?」

 

「えー?そんなんじゃないです」

 

「なんかあーやーしーいー」


叶美2

 

「越してきたから街の案内を頼んだだけですよ!」

 

「そっか。良かった―。じゃあ、透馬くんフリーなんだ?」

 

 叶美ちゃんはこっちに目配せしてきた。

 

「え?それってどういう……」

 

「いやいや。なんでもないの。ねえ、透馬くん。明日、楽しみだよね」

 

「え?ああ、そうだね」

 

 ついつい笑顔で受け答えしてしまう。
 何故か横目に、神奈がじっとりと睨んできているのが見えた。

 

「お兄ちゃん、やらしい……」

 

(なんでですか)

 

「でも、今日ちゃんと家に帰れなきゃ明日も無いんだよなあ……どうしよう~、どうすれば帰れるかな?」

 

「そこらへんの家に尋ねてみるとか?」

 

「やってみたけど、一つも応答なしよ?無人なんじゃないの、ここらの家」

 

「マジか……」

 

「なんか、オカルト系の話でありそうだよね。無人の街に迷い込むような話」

 

「シャレになんないな。とりあえず歩くしかないんじゃないか?」

 

「そうだね。じっとしてても日が暮れるだけだし、歩いてみようか」

 

「わかりました、そうしましょう」

 

 しばらく歩いてみたが、一向に景色は変わらない。街の中なのに緑に囲まれたところが多くて、半分くらい森の中を歩いてる印象だった。

 

「本当にここ、出れるのかな……」

 

 桃華ちゃんが不穏な事を言う。時刻的には五時を回り、もうとっくに陽が落ちてきてもいいような時間なのだが、空はギンギンに明るいままだった。時間の感覚までもずれてしまったような妙な気分。どうしたんだろう。

 

「ナビが使えりゃあな……」

 

 僕は何気なく言ったが、雪穂さんが食いついた。

 

「ナビか……あ、そうだ」

 

「ん?どうしたの雪穂」

 

「歩くNaviが使えるんじゃないかって思って」

 

「ん?でもあのアプリもマップ出ないし死んでるんじゃないの?」

 

「でもGPSは生きてるみたいだし、何とかなるかも……」

 

「無理でしょ」

 

「あ……出た。前方約1.5km、十塚公園駅だって」

 

「え?じゃあ割と十塚公園近くなの?嘘でしょ?」

 

「わかんないよ。とりあえず歩いて見なきゃ」

 

 叶美ちゃんと雪穂さんの二人はスマホの画面を見ながらあれこれ言っている。

 

「どういう事……?」

 

 僕が言うと、桃華ちゃんがフォローしてくれた。

 

「歩くNaviって、最近流行りのナビアプリの事かな。なんか使い勝手がいいらしいですよ」

 

「ほう」

 

 雪穂さんはスマホの画面を見せてきて、

 

「なんか、そこのところを右折してって出てるよ」

 

「マジか。あ、ほんとに道がある。一本道かと思った」

 

「頼りになるなあ、雪穂。いこ、透馬くん!」

 

「え、あ、ちょ」

雪穂2

 

 叶美ちゃんが僕の腕を引っ張っていった。

 

「あ、えー……と」

 

 桃華ちゃんは戸惑っているようだった。

 

 短いトンネルを抜けると、そこには鉄道の路線が。
 しばらく歩いていくと、ここらへんで一番大きな公園である十塚公園の近くにある、十塚公園駅に辿り着いた。
 いつの間にか、人の居る場所に戻ってきたみたいで、駅前には何人もの人が歩いて。

 

「うわー、本当に帰って来れた。よかったー」

 

「疲れましたね、ホント」

 

「はー、ここまでくれば安心だね。やっと帰れる」

 

「良かったね叶美。じゃあ、また明日ね」

 

「ん?叶美ちゃんは電車に乗るのか」

 

「うん。私はもっと街の方に住んでるから。昨日は雪穂の家に泊まりに行ったの」

 

「そうそう。帰り道、叶美を送ってたら二人で迷っちゃって」

 

「そうなのか」

 

「じゃあね、透馬くん。明日の約束、忘れないでよ!」

 

「あ、ああ、大丈夫だよ。わかってるって」

 

「はは、透馬くんも大変だね」

 

 雪穂さんが笑う。桃華ちゃんは不思議そうに、

 

「ん?明日の約束って?」

 

「ああ、実はこの三人で、スカイブリッジに行くことになって……」

 

「えー、ずるい。私も行っちゃだめですか」

 

 叶美ちゃんは笑って、

 

「ん、いーよいーよ。おいでよ。それなら一緒に行こう」

 

 と言った。

 

「そっか。ありがとうございます!」

 

「じゃあ、私は電車で帰るからー」

 

「うん」

 

 叶美ちゃんは駅の中に消えていった。

 

 僕ら三人は、「じゃ、歩く?」と言って歩き出した。

 

「何であんなに迷ったんだろうね」

 

「さあ……でも、もうあんなところ行きたくないな」

 

「確かにそうだね」

 

「ホント、災難でした……」

 

 三人であれこれ言いながら帰り道に。

 

「今回は歩くNaviに助けられたね。透馬くんも桃華ちゃんも、歩くNavi入れなよ。楽しいよ」

 

「そうですね、そうします!」

 

「ん、調べとくよ」

 

「あ、私は帰り道こっちだから……」

 

 雪穂さんは僕らの家とはちょっと方向が違うらしく、イナミストアの近くで別れた。

 

 今度こそ無事に家に帰り着いた僕らは、ソファにぐったり座り込んだ。

 

「いや、しかし疲れたねえ」

 

「そうですねー……ホントもうヤになりましたよ」

 

「テレビでもつけるか……」

 

「粒子加速器のニュースです。本日午後2時ごろ、新型粒子加速器が暴走し、
爆発があったとの情報が入りました。ところが政府関係機関はその後、
情報は間違いだったと訂正しています。多少の不具合が出たのは確かだが、
現状は回復したとの事です……」

 

 いかにも怪しいニュースがやっているな。粒子加速器が故障したって、
 本当なのか。この分だと本当は爆発してたんだろうな。

 と言うか、携帯が繋がらなくなったのって、この粒子加速器の故障で怪しげな電磁波とか出てたんじゃないのか?
 それで僕らの方向感覚も狂わされて、あんな盛大に迷ってしまったとかじゃあ……

 なんだか不安になってきた。中部地方の施設の故障が、
 関東のここまで効いてくるなんて、まさかとは思うがな。
 しかし、粒子加速器はマイクロブラックホールも作れるっていうしなあ。
 その影響で電磁パルスが出てきたんじゃあ……
 とかそんな突拍子もない事を思いながら見ていると、復活した桃華ちゃんが
 「昨日の料理あっためて出しますよ」って用意してくれた。

 

 昨日の料理をあらかた片付けて、洗い物をしてからそれぞれの部屋に戻る。
 待ってましたと言わんばかりに神奈が飛びついてきた。

 

「お兄ちゃん♪今日は大変だったね」

 

「ああ、確かに……」

 

 僕はおもむろに座ってパソコンを立ち上げた。

 

「またゲーム?飽きないなあお兄ちゃんは!」

 

「うっせーよもう」

 

「あ、明日の調べものか……お兄ちゃんも意外としっかりしてるのね」

 

「スカイブリッジなんて行った事ないしさあ、最低限見とかないと」

 

「うーん、また迷っちゃうと思ってる?」

 

「まあそういう事だ」

 

 と、思いついて検索欄に「湊深山」と言う地名を入力してみた。
 検索結果……なし。

 

 どういうことだ。

 

「うわー、やっぱあれ、異世界かなんかだったのか!?」

 

「今頃気づいたのね、お兄ちゃん」

 

「なんだよ訳知り顔で」

 

「知ってるんですもの……お兄ちゃん、ネタバレしちゃうとね、粒子加速器の事故のせいよ。空間の地軸がねじ曲がっちゃったの。だから変な世界に迷い込むようになっちゃったのよ」

 

「何それ怖い……本当なの?」

 

「この世界には色々とありますからね。お兄ちゃんは気づいています?どうして今この国に粒子加速器が必要なのでしょう。何故このタイミングで大々的に喧伝する形で?」

 

そんな事いきなり言われても。何故か真剣な調子で話す、存在しない妹に気圧されてたじたじする。

 

「っふ……きっと何かしら遠大な陰謀が働いてこうなったに違いないのでしょう……、世界の裏側にはまだまだ隠された闇が沢山ある。でも神奈の眼は誤魔化せないもんね。嘘っぱちのインタビューなんて無駄なんだらからっ」

 

「って、知ったかぶりなのかよ」

 

スパンッ!
勢いに任せ、存在しない妹の頭を叩く。
拍子良く響きの良い音が鳴りわたり、妹の頭が太鼓と化した瞬間であった。

 

「あいたっ、もう、お兄ちゃんったら辛辣だなあ、これはちょっとした推理で……」
「って、おい?!?何で今触れられたワケ?!」
「あ……やっぱり……実体化濃度が……。お兄ちゃん……」

 

今、なんて言った?

 

「実体化濃度?」
は?なんかシステムチックな単語?まさかこいつ、本当に?

 

「まずったな。ここまで迂闊な事言っちゃうと、誤魔化しきれない」

 

「おーい、神奈ちゃん?」

 

「お兄ちゃんごめんね、ちょっと神奈はここらでお暇しますので」

 

「って何処へ?まさか冥界に帰るなんて言うんじゃないよな」

 

「まさかぁ。お兄ちゃんに逢いたくて来た神奈が、そんなに簡単にはあの世へ行ったりはしません。ただちょっと、不都合が働いただけです、さらば!」

 

あっ……、言うだけ言ったら幽霊はあっという間に壁をすり抜け、消えてしまった。

 

なんか、こういうところを見ると本当に幽霊だな。まぁ幻覚……なんだろうけど。

 

それはともかく、調べものに戻らないと。
『東都スカイブリッジ』パソコンのキーボードでカタカタと文字を入力してエンター。検索結果はすぐに出てくる。

 

創業九年、関東圏の新一大観光名所を自認する巨大電波塔。首都圏広域の電波放送ネットワークを大きくカバーしている。地元の下町と結び付いて巨大ショッピングモールも展開していて、観光のみならずグルメやショッピングも楽しめる名所。……だ、そうだ。国内からの客足は日々順調のようだ。

 

石動さんもそうだろうが、僕もここに行こうと思えばすぐに足を運べるくらいの首都圏住人だ。いつもの駅から何本か電車を乗り継げば済む。逆にいつでも遊びに行けるような場所には出不精になったりするものだ。

 

しかし、色々調べていたら『スカイブリッジ周辺でのデートプラン!』なんて文言があったりして、「これってデートなのかな?」と思ったりした。はは、まさかなぁ。

 

十分に明日のプランが出来たら、あとはいつもの匿名掲示板をチェックしたりした。スレッド一覧を眺めると、『見知らぬ場所に迷い混んだらと思ったら存在しない場所だった件』というタイトルが目についた。

 

内容は、近場で散策していたら道に迷ってしまったスレッド主が、見知らぬ場所の見知らぬ街に迷い混込み、帰った後その住所を調べてみたら、存在しない街だった……という具合だ。

 

話だけ聞くと、僕らが迷い込んだ湊深山に似ているように感じて、これって同じ現象なのでは?と興味深く読み込んだ。

 

『……やっぱり似てる』

 

それが僕の感じた印象だった。
スレッドでは、なんて事ない住宅街なんかを歩いていたら、突如として見知らぬ土地に迷い混んでいて、それが実在しないはずの地名だったという体験談がわんさか出ていた。

 

「最近この手のスレとか体験談が多いな。みんな同じなんやな」と書かれたレスが印象的だった。なにか、変な事が日常的に起こっていて、気づかぬ間に巻き込まれてしまうものなんだろうか。そんな想像をして不思議な感覚になった。

 

まあ、想像は程ほどにして、いつもの癖で「クラックシティ」をプレイし出す。今夜はレイドボスのイベントがあった。みんなで倒すべき敵キャラが現れて、攻撃に参加するとボーナスが獲得できる。フレンドの『さ~うぃん』がレイドボスを討ち取って終了していたのが印象に残った。最近やり込んでるな、この人。

 

いつの間にか寝落ちしていた事に気づいたのは、翌朝の事だった。

 

「お兄ちゃ~ん、起きてきださい」

 

「あ、ああ、ううん……」

 

「お兄ちゃん♪ほらほら、早く♪起きないと」

 

「う、ううん……なんだ、存在しない妹か……」

 

「妹です♪お兄ちゃん♪」

 

「ふああ……起きるか。起こしてくれてありがとうな」

 

「お、お兄ちゃんがデレた!!?」 

 

デレってなんだよ。
僕は、扉の外に気配を感じ、部屋から出た。

 

「おはよう~」

 

「あ、おはようございます、透馬兄さん」

 

扉の前には、廊下を歩いてきた桃華ちゃんが。

 

「透馬兄さん……?」

 

「あ、いえ、ななな、何でもないです!」

 

「そう……?ならいいけど……」

 

「そんな事より、朝ごはんにしましょう。支度はできてますよ!」

 

「お、おう、ありがとう」

 

相変わらず桃華ちゃんの作る食事は絶品だった。ボリュームの多さだけは難点か。僕みたいに運動量が少ないとすぐにブクブク太ってしまいそうだ。恐ろしや。

 

朝ごはんを食べながら、二人でニュースを見た。粒子加速機の事故は、続報こそあったものの、あまり深くは触れられていなかった。なんか結局、粒子加速機本体には影響のない機材で小規模の爆発があったのは事実らしいとか。実験棟の消火作業は終わったとかで。なんか昨日のニュースと矛盾しているようでもあり、胡散臭い。

 

「これで世界が滅びるなんて、あり得るのか……?」

 

いつの間にか独り言が声に出ていたようで、

 

「滅びるってどういう事ですか?」

 

と桃華ちゃんに聞かれてしまった。

 

「あー、なんかね、この加速機の事故がきっかけで世界が滅びるってヤツが居てさ。まさかそんなわけ、って思うけどね」

 

「それってネット上の友達とか?」

 

「あっうーん、まあそんなところ。荒唐無稽なヤツで、さ」

 

「なんだかSFものの小説みたいですね。些細な事故が、国家を揺るがす大事件に繋がる!……みたいな」

 

「まさかねえ……」

 

食事の後片付けをして、自分の部屋に戻って少し情報収集をする。相変わらずネット上の掲示板では、粒子加速機関連のニュースが上がっている。なんでも、実験棟の消火が終わったというのは建前で、実際には設備の一部に延焼が続いていて、全然復旧の目処がたたないらしい。しかも、民間の協力を断ったお陰で、事故の対応が遅れているのだとか。この事が暴露されて大変な批判を浴びていた。

 

そこに、「未来人なのだが世界は滅亡する」というスレッドが立てられていたので、なんとなく覗いた。

 

この未来人(自称)が言うには、今回の粒子加速機事故で、「ある物質」が散乱されるのだという。それは光円錐を乱し、異質な世界線を形成する。この事に人類が気付いた時には手遅れで、世界はとんでもないしっちゃかめっちゃかになってしまう。既存の科学の成り立つ空間自体がぶち壊しになってしまうのだ、と。

 

そして、パラレルワールドが入れ替わるような事象がところどころで起き、社会は混乱に陥れられてしまう……。

 

粒子加速機事故が起きた場合のAD2047年と、起きなかった場合のAD2051年が融和して、互いの世界が戦争に陥った事もあるという。物質の影響で、時の進み具合も変わるらしい。

 

未来人(自称)は、未来に悲劇をもたらしたこの事故を阻止するためにやって来たが、「今回の世界では失敗してしまったらしい、次の世界に行ってくる……」そう書き残して消えた。

 

そのせいもあってか、ついたレスは「妄想おつかれ」「二度と来るな」「頭おかしい」といったものが多く、今のところ真面目に議論される様子はない。

 

そんな中、この書き込みを見て僕は、まるであの、「妹の幽霊」の言ってる事にそっくりだな……と僕は感心した。

 

というか、これ、あの妹が書き込んだんじゃないのか?とふと思った。なんか怪しいメールを寄越したりしてたし、この幽霊がネット上に書き込みしていたとしても不思議はない。

 

「おーい、神奈。神奈ちゃーん?」と呼んでみたが、どうも妹の幽霊は姿を表す様子がない。

 

仕方ないので適当に諦め、石動さんとの約束に備えて準備を整える事にした。適当に着替えて、バッグを持って。なんか風邪は思ったより良くなったが、一応マスクは持って行こう。栄養の良いものを食べてるから良くなってきたのかな……?だとしたら桃華ちゃんには感謝だな。

 

「準備できました?」

 

「うん、準備万端」

 

部屋を出て桃華ちゃんと共に家を出発する。今日は石動さんと、雪穂さんと、桃華ちゃんと、スカイブリッジ観光で、近くの駅前で待ち合わせだ。「自由の人像」とか言う謎のモニュメントが駅前には置かれていて、そこで落ち合う事になっていた。

 

その場に向かう最中、桃華ちゃんと会話をかわす。

 

「やっぱり、なんだか懐かしいなあ」

 

「そう?ここら辺も、すっかり変わっちゃったけどなあ……」

 

「透馬兄さんと一緒に歩くのが、ですよ」

 

「え?」 

 

「……この呼び方、変ですかね。私、昔は透馬さんの事をお兄さんって呼んでましたよね。覚えてないですか?」

 

「う……ううん?」

 

「透馬さんが、『お兄ちゃんって呼べ』、って言ったんですよ」

 

「ええ、そうだっけ?」

 

「そうなんですよ」

 

「ゴメン、昔の僕そんな事言ってたんだ」

 

「そう、透馬兄さんは『困ったら何でもお兄ちゃんに相談するんだぞ』って、隣を歩きながら言ってくれて。その時の私は、本当に兄が出来たみたいで嬉しかったんですよ」

 

「うーん、ええ、そ、そうだっけか……」

 

「そうなんですよ。だから、透馬兄さんって呼んでも良いですよね?」

 

「良いよ!良いけど……恥ずかしくない?」

 

「何も恥ずかしいことなんてありませんよ!あ、待ち合わせ場所ですね」

 

喋りながら歩くうちに待ち合わせ場所に着いた。石動さんと雪穂さんが自由の人像の前に立って談笑している。

 

「あ、透馬くんだ!」

 

こちらに気付いた石動さんが駆け寄ってくる。

 

「桃華ちゃんも。今日は1日、よろしくねっ!」

原神ヴァリアント問題については

それでも俺自身十数万くらい課金してまでやっていたのだが

色々あって一般市民としてすら絶対に放置できない規模問題に

なっていたので申し訳ないがこうなった。

 

どうせ感情的、ないし感情論的結論に陥って、

問題そのものがヒステリック感情闘争の結果として

落ち着いてしまい、こじれる可能性が高かった。

 

ゆえ、ヴァリアント問題は余所に預けると既に表明

あえて書くと個人的にはグレイシーンズヴァリアント

としての原神を俺自身は絶対に許可しないという事

ちなみに中国・韓国について聖告克府を既に表明

ともに肉声で徴問提出済み、俺個人の俺自身の意志を

 

何故かってちゃんとそう表明しとかないと

俺絆しにくれば余裕思い込む人々が入れ食いで

ずっと来て困るでしょ、拗れるでしょ、

ずっと殺し合いしかならないじゃん

 

俺の今の状況と発言権みたいなもの思ったらわかるでしょ

 

原神は俺の手を切った、最初からだ

そういう領域はもちろんあるにはあったが

それだけでもないと思いたい。元々副税厚利で

15水準→40以上までえらく痛め付けられていた作品だ

 

だが、やり方がただの強殺魔になり過ぎたのだ

七年前盗まれた俺のユーゼス・ゴッツォアカウントがねぇ

ノートスクラムのねぇ

アンスバッハアインツテーゼだっけなぁ

 

 

あちゃー、俺の書き込みじゃなくても

俺の書き込み扱いされて誤解された理由かぁ

 

どうしようね、これね

しかし暗殺者けしかけ銃砲爆発物押収させたらそらね

そらそうなるわ、炎上けしかけの無限ループの果ては殺人事件以外ないって

お前ら学ばなかったわけじゃないよな、つまりそういう事だ

 

こんな蛮行に人間を巻き込み続けてガチ殺志士が来ない訳が無いと

 

冗談で済む要素?一切なかった、って事を

俺の為にガチ犯罪者側だけが死んでくれ、

どんなお偉いさん身分の違いでも関係ないって事を

 

喜んで奉仕者としてボロくずの出し殻になるまで支えきって死にます、

貴方がたのために、俺がそう言うとでも、笑って喜んで死んでくれるとでも

思ったのか?俺という個体としての存在にとっての絶対の敵、絶対の悪ども

 

 

正義と正義のぶつかり合いとか損得勘定とかそんな次元の話で済むと思ったか?

殺す、ってなるわな。たまたまご近所さんだった、でもう絶対済まなさ過ぎだろ

 

 

あまりにも雰囲気で異物感あったから物凄い勢いで地元から逃ーげよって

毎回してる俺が居る。直接見えなくてももう後に引けなくなってる