私はその部屋に入ったが、その部屋には何もなかった。
ただ、私はなんとなく気になってその部屋に立ち止まった。
この部屋にはなにもない。同様に、この塔にもなにもない。
世界が滅びて、今までにないものが見つかった。
でも、その中身は空っぽのハリボテだった。
同じようなことだ。世界は、有りもしない内容を、
内蔵を、本質的なものを求めたから滅んだというのに。
私はしばし虚しくなって、その部屋に佇んで悟りを開いた。
テレパシーのような声で、私の内面に語りかけるなにかがあった。
清らかな乙女のような声で、私に語りかける。
あなたはどこに居るのです?
私はここに居るのです。
早く私を見つけてください。
ふと、涙がこぼれ落ちる。
それは、存在し得ない番を求めて咽び泣く私自身の煩悩そのものだった。
この世界に意味を、意義を求めて止まない。探究心はいつも我々の中にあった。
渇愛だったのだ。それは。
私を見つけてみせろ!
私は王の中の王、この世の最期を見通し看取った男。
私の対になる存在、妻になるべき女性が、この世の何処かに
残っていると言うならば、姿を表し、私を見つけてみせろ!!
虚しい咆哮が都市遺跡に響いた。
私はその時はじめて悟ったのだった。
私の先に私以外はなく、私の後に私以外は居ない。
だからこそ覚者であり、最期の存在であり、始原の存在でありえた。
私は、死んだ存在たちの怨念が呼んだ亡魂であり、
新しい世界を迎えるための神の器でもあった。
その使命を自覚した私は、塔を厳かに登り始めていた。