Victo-Epeso’s diary

THE 科学究極 個人徹萼 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノーベルノークスクラム賞狙い 右上Profileより特記事項アリ〼

首輪

意外と柔らかい、というのが小百合の首を締めた僕の率直な感想だった。柔らかい、というのは恐らく、女の子の肌に触れて劣情を催す事の暗喩表現とかじゃなくて、単純に気管が潰れて喉内の空気を押した感触だったのだろうけど。
人を絞め殺す事はもっと難しいはずだと根拠もなく思い込んでいた僕にとって、その難しさの源が物理的なものじゃなくて、精神的なものであるだなんて想像したこともなかった。
切っ掛けは、小百合と一緒に中学からの帰り道を辿っていた時だ。
フェンス越しに咲く花が見えた。
なんて名前の花かは知らない。ここ数日の雨風にも耐え抜き咲いたようで、立派な黄色い花弁を開き、あどけないながらも悠然と咲き誇っている。
「まるで、私たちへの嫌がらせみたいね」
仲の良い兄妹として知られている僕らが、実際のところ何を覆い隠す為にそう振舞っているのかを知る者は居ない。
小百合が気紛れを起こしたのも、罪悪感を見せ付ける事で懺悔をするような発想に過ぎなかったんだろう。
僕の事を殺したがってたのは、きっと小百合の方だったから。
小百合の気紛れは今に始まった事じゃなかったけど、彼女はよくこういった言外の意を仄めかす表現が好きだった。僕らの奇妙な共生関係を保つ為の儀式として、彼女はそれを望んだのかもしれない。
或は、冗談などではなく、本当にここで命を絶って欲しかったのかもしれない。
僕が彼女の首筋から手を離すと、彼女は膝を突いて倒れ込みながら咳き込んだ。喉からはひゅーひゅーと空気が漏れ、呼吸困難の様子はしばらくの間続いた。
声を出そうとしても声帯が潰れて声が出ない様子の彼女は、苦しみを覆い隠すように少し僕の顔を見上げていた。
普段無表情な義理の妹が見せる哀しそうな顔が印象的で、何故彼女が自分の首を締めさせようとしたのか、少しだけわからなくなった。
小百合の声は一週間近くも元に戻らなくて、その間クラスメート達には風邪を引いたと誤魔化した。
僕はその間小百合の声の代わりとなって、彼女と他の友人達の意思疎通を代行した。
学年もクラスも同じ、仲の良い兄妹。きっといつかは誤魔化せなくなる。
僕らの幸せはまるで、まだフェンス越しにしか見る事のできない花のようだ。