Victo-Epeso’s diary

THE 科学究極 個人徹萼 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] 右上Profileより特記事項アリ〼

神様に出会った

神様に出会った。

最初に感じたのはそんなイメージだった。

ちょっと気弱そうで、あどけない顔立ちをしてて、とても今日から高校生になったとは思えない。

そんな女の子が、こっちを向いて微笑んでくれただけの事で。

私は、神様に選ばれたような気がした。





桜の純情



ケース1:天気雨が降り出すお話

加上理恵は悪者だ。私の心を根こそぎ盗んで行ったんだから。
奪われたままじゃ悔しいから、私もちょっとけしかけてみる事にした。

五月の教室、五月晴れと五月病の季節。
「アンニュイだ」と呟いたらルネッサンスな人とか呼ばれてからかわれた。半分友達、残りは他人のクラスメートたち。風当たりは生暖かくて、去った後にはちょっと冷たい。

「不純同性交友しない?校則には違反してないもの」
呆れた顔の友達と鞄を持って集団デート。浮気者って笑い合いながら思う、私だけは冗談じゃあないんだよね。
二見桜の浮気者

尻目に見えた理恵の顔。
セーラー服を纏う小柄な女神様は私の濁った目には眩しくて。
もう本当に愛おしいとか思っちゃうレベル。

本命の恋はちょっと洒落にならないくらいの嫉妬があるから、理恵が別の友達と一緒に帰って行くのが逆に安心感に繋がったり。
……すれば良いんだけどなあ。

理恵が最近仲良くしてる女の子。
ちょっと内気で、初で可愛い眼鏡っ子
「バーカ」
……って心の中で罵倒したフリしてみても、結局上手く安心出来ない私。だから最近考えを改めた。

諸悪の根源は私の女神様。全部ぜんぶ浮気者の理恵のせい。

かつて私に光をくれた女神様が、今ではすっかり邪心に染められて世界を壊そうとしてる。世界を救うには愛と勇気を胸に悪と戦うようなヒーローが必要だ。
私にはちょっと無理だけど。

天邪鬼と天気雨。
急にざわめき始めた空を眺めて浮かんだ言葉。
何の意味も繋がらないや。

浮気相手達とのデート戦線は一旦解散。
明くる日の共闘を誓う戦友たち。

だって私達、充実したフリをするために若者らしくチャラチャラ遊ぶ毎日。
でもそれって意外にも戦いの日々だったりして。
友達と買食いして帰るようなスイーツな日々じゃ何も満たされないのにね。

何があれば満たされるかな?って考えて、「ま、愛情とかね」とか呟いて。
ここまで自分が軽薄になれるとは思っても見なかった。
女神様の偶像が重すぎて、他の事なんか何も重荷に思えない私。

今夜も信仰の一環で女神様に祈りを捧げる。携帯電話なんて名前の便利な祈祷具を使っちゃって神と通信。便利な世の中になったもんだ。

「理恵のためを思って忠告するとね。やっぱさ、愛は一人の相手に捧ぐのが一番なんだよ。集団デートなんてしてりゃ雨に降られるのも当然だって思っちゃったわけよ」
「あはは、なにそれ」
「空が泣いてたの。やっぱ私の本妻は理恵なのかも」
「最近素っ気なくない?たまには桜も一緒に帰ろうよ」
眼鏡っ子が嫌いなの!」
「え、酷い」
ツンデレなんだけどね」
「美樹ちゃんの事気になってるんだ?」
「おしとやか感がやだ。羨ましくなるもん」
「はは、実は付き合ってみると結構ノリ良かったりして」
「ほお、詳しく」
「嘘だよん、本当は凄いお嬢様なの」
「ムカ」
「まあそっちも嘘なんだけど」
「どっちなのさ!」
「へへ、今度三人で遊ぼう?きっと気に入るよ」
「あちゃー」
「ん?」
「アチョー」
「……??どうしたの?」

人の気も知らない神様はろくでもない試練を与えてくる。
恋人と一緒に、その浮気相手とデートなんてねえ。

「本当に、私は美樹になりたいよ」
「何言ってるのかわかんないよ」
「入学式の時さ、満開の桜だったじゃん」
「あ、そういえばその時凄い可愛い子居たよね」
「桜はもう散っちゃったのよ」
「まあ、散っちゃったよね。あんなに可愛かった桜がさー」
「私はね、せめて美しい樹になりたい」
「あぁ……」
「五月の雨にも耐え、風にも耐え、そんな美しい樹に私はなりたい」
「桜ってさ」
「うん」
「思ったより残念な子だった」
「……、……」
「そういうのも好きだけど」
「……ぁ……」
「可愛いとは思うけど」
「お……思うけど、何?」
「思うだけだけど」
「厶……」
「こんな頭良さそうな美人の子がさあ……ちょっと可哀想になってきちゃった」
「私を狂わせた人が居るの!」
「知ってる」

ん?と思うや否や、私の脳内に電流が走った。
神様のいかづち。

「好きなんでしょ?」
「え、だ……誰が?」
「自分の胸に聞いてごらん」
「……ぁ、……」

これだからこの子って卑怯。
入学式の時だってそうだった。
か弱くて、守ってあげたくなるような顔つきだと思ったのにさ。

神様は目が合っただけで「友達になろう」って言ってくれたの。
ワザと中くらいの偏差値の高校を選んで、受験も余裕で乗り切って、中学の時と同じ、何の事件もない順風満帆な学生生活を過ごすと思ってた。

「桜って、可愛いね」
私の心はあの時ちょっと咲き乱れ過ぎちゃった。散った後にはきっと幹も残らないくらいの。
「名前の通り、満開の桜みたいだよ」
遅咲きの桜の花が、風に揺られて吹き荒んでたのを今でも覚えてる

今、ちょうどそんな気持ち。

「私もね、好きな人居るんだ」
「えっ」

心臓が跳ね上がる音がした。
私の心は盗まれたまま、彼女の手の中。

奪い返そうとしたのは自分の心?
それとも、理恵の心を。

「分かっちゃうんだよね、誰かに恋しちゃてる人の気持ち」
「え、と……理恵の好きな人って……」
「誰だと思う?」

頭の中はパニックで大混乱。心臓が口から飛び出しそうなくらい早鐘を打ってる。
「私……」
ゴクリと生唾を飲み降ろしている私の喉。心なしか理恵の吐息が艶っぽく響いて来て。

少しの沈黙で焦らして、神様は真実を明かすの。

「凄くね、格好良い男の人なんだ。今度紹介するね」
「え……」

気付いた時には、涙で濡れた枕に顔を埋めて泣いてた。
電池の切れた携帯を見つめるたび、スピーカーも動かないくせして大切な人の言葉をリフレインさせる。

「今度、桜の好きな人も教えてよ」

懺悔しようと思った。本物の神様がどこに居るのか知らないけど……

「桜の好きな人も教えてよ」

あなたが一番よく知ってる人。
私の女神様だった人。

まあ、神様なんて居なかったんでしょうね。

土砂降りの大洪水も一夜で収まる。
朝目覚めて支度して登校して、いつもの様に親友に話し掛ける私。

おはようって元気よく挨拶すると、隣に居た眼鏡っ子もノリノリでおはようって返してきてビックリした。
ごめんな、浮気相手は誤解だったみたいだ。

「おはよ、桜」

昨日より優しくなれそうな予感を楽しみつつ、親友の顔をまじまじと見つめる気持ち悪い自分。

そこに神様は居なくて、等身大の女の子だけが居る。

何時だって輝いていたその顔は、今でも確かに輝いてる。
こっちの気持ち一つで輝きが無くなるなら諦めもつくのになぁ。

彼女が女神様になれる相手は自分じゃない。
そんな可能性も忘れるくらいに夢中になったのね。
偶像崇拝は確かに良くない事もあるみたい。

輝いてる彼女なら、きっと誰と一緒の時でも幸せになれるもの。
自分が隣に居ないのに彼女が幸せなハズがないって、そう思いたかったんだ。

それを後悔せずにいられるのは、好きな人の幸せを心から祈る事が出来る幸せに気付けたから。

きっと大人の階段を登ったんだろうね。

「桜、なんかニヤニヤしちゃって子供っぽい」

なーんて早速ダメ出しを食らう心地良さ。
きっと、どっちに見られたって幸せに感じたもの。

「ところで、昨日の事なんだけど……」

ん?

「嘘付いちゃったんだ、私」

あれっ。

「本当は好きな人なんて居ないんだけどさ、なんか気になって」

何かまた神様のイナヅマが。

「桜、絶対好きな人居るでしょ?って思って。誰なのか教えてよ!」

んー。
これは。

「秘密だよ~」
「えぇ、……ずるい……」
「何で知りたいの?」
「桜は私のダンナさんなんでしょ?浮気相手の顔くらい知っておこっかなー……って……」
「あら……」

神様があんまり可愛らしいんで、何故か私は悪魔になろうと思った。

「その人はね」
「うん」
「神様みたいに輝いてる人なんだ……」

女神様をたぶらかしてた悪魔は意外にもヒーローの裏の顔だった!
そんな落ちの物語があってもいいかも知れないよね。

教室の窓から差す光の雨。今日も空が晴れている。

神様でも愛する人のために嫉妬で泣いたりするかなぁって思って愉しむ、今日も私は天邪鬼。