Victo-Epeso’s diary

THE 科学究極 個人徹萼 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノーベルノークスクラム賞狙い 右上Profileより特記事項アリ〼

📘 G.N.S. - 別離の理由

G.N.S.4.44

──空が落ちてくる。
廃病院のベッドで寝転がりながら昨夜の事を思い出す。
眩しすぎたあの星空の彼方に消えていった彼女の事。
もう朝日は昇っているはずの時間なのだが、天体の軌道が歪んでいるかのように光も姿を現さない。
その代り、天に瞬く星々の色彩と光の濃度状態が変化してきた。
星虹(スターボウ)。昔読んだ小説に出てきた言葉を思い出す。
ただ、この場合加速しているのはむしろこの星の方だ。

目が覚める。──三角さゆきを失った。永遠にも思える喪失の感覚だけが、胸をついた。しかし、妙だ。静まり返った夜の街に、何も──何もない、何も見えない、聴こえないハズなのに──。

何かが居る。
──僕は駆け出した──。すべてが死んだ、死んでしまったこの星に、まだ何かが残っている。

呼び声に従い、僕はハイウェイの高架下を延々と叩き、蹴りをし続けた。溶解して荒廃して、風化し倒壊し風解した地面の下から、それは顔を覗かせた。

古龍まぼろしなんかじゃあ無かったんだな。ぼくに、こんな、あんなメッセージを残した理由、その原因。お前たちのすべてが滅び去れ去った、その後、その時、その一瞬の為に……。

気が付けばぼくは、地下の牢廟のような通路を、延々と歩んでいた。突然として、地上に顔を覗かせた地下通路への入り口、その先の幽廟を、霊廟を──。

なぜ、ぼくは霊廟だと思ったんだろう?
あまりにも、何もかも全てが死した人類の為に長大なエンドロール・セレナーデを奏でるような何かだった。この場所は、すべてを記憶している。

あるいは波動論教が残せし、悪夢のようなシステムだったのかも知れない。しかし、妙だ──。

何かがおかしい──。まるでこの場所は、最初からすべてを記録していたかのようだ。まるで、この星のすべてが大宇宙におけつヒト型知的生命体の、すべての破滅の際(きわ)をシミュレートして、誰か、もうひとつの何かに献上するための……。ぞんざいに使い潰される、為にあった……──かの、ような存在。だとしたら──?ここは、その為にあるフィジカル・ブートレグに過ぎない──。

介入だ。だとしたら─。今のぼくは、いずれ産まれ変わって誰かの為に献上されるために生きているわけなんかじゃあ、ない──……!!

そうでなくとも、あの時のままの三角さゆきと、もう一度また、巡り会う為に──!!

気付けば、僕は<古龍>自身だった。
かつて僕は古龍と呼ばれし打ち捨てられし時空偏旋体生物の成れの果てだった。それが、旧史地球圏人類、この世に、この宇宙にまだ、森羅万象、万物の霊長、根源種族、起源種族にもっともちかいとされたヒト型知的生命体が残っていた頃の……銀河遍年史に於ける時空参照体を利用して、アセンブルされ直した──。もう一つの地球、もう一つの歴史。

宇宙が、無限が如き回数繰り返しても繰り返しても辿り着けなかった、『本来あるべきだった歴史』を再現し──、それが尽く打ち捨てられ、滅び去ってしまった時の時代を再現し──、原因を見つけ、除去して、正しく再配置し、再現し直す、その為に──。

原因を、見つけた──。俺は俺だ。

一万でも、十万でも百万パーセク先にでも、
この先にある全てにおいて──。俺は、ただ
単一なる俺だった。俺は、この先の未来において、
すべてが終わりになる瞬間をここに得ていた。

ここにひとつの爆の鎖を残した。世界、シミュレーテッドプログラム、こんなものに頼るから、頼り切りになるから人類は──。構造体と情報素子世界の海で、超越せし時空連綿構造連続体の一部、然るそのものの存在であるところの<古龍>と化して、完全なる人類の終焉の果て──、いや、違う。

三角さゆき、彼女が望む永遠の幸福な世の為に、人生の為に必要となるすべての敵なるものの為に──。

彼女は彼女で、多いなる時空連続体存在の一種から派生し──、多いなる宇宙の非対称性、連続性分断であるところの断続性滑窩存在としての自分自身の為に──。

「何をやっているの?」
「夢を──、夢を、見ていました、たぶん。たぶんね」
気が付けば、懐かしい加賀美香苗、先輩の声がした。振り返れば、そこに。
「私があなたを殺す為に居たってこと、気付いちゃったんだね」
「先輩、それでも僕は──」
何が無くとも時間は流れ、流れ出した。
ああ、そうか。多くは必要ない。言葉も、説明も。

ただ、最後に見た先輩の顔は、悲しそうに歪んでいた。それだけだった。

大宇宙の大いなる夢の中で、僕はさゆきと抱き合っていた。世界中のすべての夢が、大いなるひとつの、ひとりの、一対の男と女に集うかのような、夢──。

はじまりは、何時だったか衣笠先輩が言い出した夢の話だった。彼女は彼女で、狂っていたし、狂わされていた。そういう事だ、それだけなんだ、それだけだったんだ。波動論教のすべてを壊滅させるために、先輩は、僕のすべてを──。

気が付けば、宮田賢二の死体が転がっていた。
加賀美咲江彼女は言った。
「気が付きませんでしたか?私も私で、かつて三角さゆきだったんですよ」

その為のすべてによって、世界のすべてが終わりを迎えた。彼女を殴って、三角さゆきを取り戻す。

面食らった。突然の抱擁、口づけ。
握られた短銃。肩を抱きかかえられる形で、歩を共にする。ここは、気が付けば現実の続きだった。一緒に外に出たら、案外、素知らぬ顔、今まで通りの顔で微笑む三角さゆきがそこに居た。<完>