2018-01-01から1日間の記事一覧
ゆめのあるニンゲンになりたいと、いつもねがっていました。 ボクはコワレかけたニンギョウのようなソンザイでしかないから。 いとがきれて、だれにもあやつってもらうことのできないニンギョウさん。 だれともつながることのできない、あわれなオモチャ。 …
死んだ魚のような目、という表現がある。 目が曇っており、瞳に生気の宿らない、光を失った眼差しをした人間の眼。 無気力的で、力のない瞳…… 僕はその表現は的を射ているのだと思う。 いいや、表現などというレベルではなく、物理学的に有り得る話なのだ。 …
僕の名前は桃太郎。 変わった名前だと思うだろう?でもこれには特別な由来があるんだ。 驚かないで聞いて欲しいが、なんと僕は桃から生まれた人間だというのだ。 これは僕を拾ってくれたお祖父さんとお祖母さんが聞かせてくれた話なのだが、ある日お祖父さん…
幼い頃に出会った君に、僕の全てが伝うだろうか。 遠い日の記憶、夢、幻、残照。 いつか出会った過去、いつか出会う未来。 その全てが、君だった。 だから僕はいつもこう叫ぶ。 もう一度君に会おうとして。 ロックン・ロールの奏者というものに憧れてから随…
西暦2012年、8月2日――東京。 天気予報は告げた。この日の最低気温はマイナス10度。 首都圏は今日も凍えるような真冬日だった。 ◇ 黄泉実亜(よもつ みあ)の一日は、暖かいコーヒーを飲む事から始まる。 以前はコーヒーなどたまに缶入りのものを買って飲むく…
◆1 エイミが家を飛び出したのは午前10時を回った頃だった。 「伯母さんを助けるために、薬を取ってくる!」と言い残し、幼い少女は街を飛び出したのだ。 ロゼッタストリートと呼ばれる郊外の田舎町。緑と山に囲まれ、住人達は皆顔見知りだった。 エイミが…
(※尾崎兵梧の日記より抜粋) 私が「ネッコ」と言うハンドルネームで文書を書き始めてから、もう既に数週間もの時が経った。 あれから私の生活は、とても滑稽な、恥辱に塗れた日々と成り果てた。 これも私がイルミナティの広報役として選抜されてしまったから…
(尾崎兵梧の日記より抜粋) 意識のクオリア問題について、私の見解を述べる。 良く言われることではあるが、同じ場所に居る複数の人間が同じ光景を見ていたとしても、各々が自覚する『感じ』というものは、全く違うものであるかもしれない。例を挙げれば、周…
はじめに、地球があった。人類は故郷を後にした。無数の船、星の都市が生まれた。 星々の世界は知性の光に満ちた。しかし、それも長くは続かない。 人類はいつしかそれぞれの信ずるものに因り分かたれていく。無数の戦火が生まれた。 宇宙の空間とエントロピ…
イデアルゴリズム Pt.4 目の前には青い空があった。 何処までも透明で、澄み渡る空。 しかし、どうあがいても手が届かない空。 ほんの一歩たりとも届かない青の世界。 「あー……」 僕はその円形の青空に向かって手を伸ばした。 でも、伸ばした手は暗闇の淵か…
「実はこの世界は滅びに向かっているんだ」 「はぁ?」 岡倉悠馬はいつものように突拍子もない話を始める。僕は『ああ、そうですかハイハイ良かったね』と適当にあしらおうとしたのだが、上手くいかなかった。何故かというと、その時は丁度学校の近辺に大地…
僕はどうやら、未だに岡倉悠馬の仕掛けた夢の中に居るらしい。 そのことに気が付いたときにはもう手遅れだった。 下駄箱に入っていたラブレター?誘われるままにまんまと放課後の屋上におびき出されてしまった僕は、既に抜け出すことの出来ないフィンガート…
「観念生成式、というものを知っているかい?」 「知らん」 僕は即答した。 「まあまあ、そう言わずに。知ろうとする気持ちこそが大事なんだよ、南部君」 「まーたそう言う事を……」 僕は軽く手を振って岡倉悠馬を追い払った。 今は授業休みの真っ只中。次の…
神となったが如き男を再現しようとした実験に 巻き込まれ葛藤を余儀なくされた少年少女の後悔と悲哀 その研究所は今では古く薄汚れていて、利用されることもなく打ち捨てられていた。 米国のとある片田舎にあり、澄んだ空気の中、小さい施設なりに夜ごと天球…
「お母さんが死んだよ、シム」 母親の訃報が届いた時、その子供はまだ10歳にもなっていなかった。 「シム、よく聞いておくれ。もう君のお母さんは家に戻ってこられないんだ。天におわす御主の元へ帰っていったんだよ」 子供を宥めようとする大人たちの声は、…
G.N.S.4.44 ──空が落ちてくる。 廃病院のベッドで寝転がりながら昨夜の事を思い出す。 眩しすぎたあの星空の彼方に消えていった彼女の事。 もう朝日は昇っているはずの時間なのだが、天体の軌道が歪んでいるかのように光も姿を現さない。 その代り、天に瞬く…
記憶の中で、柔らかい夕日が窓から射しこみ、視界が鮮やかな赤で彩られている。開かれた窓から吹き こむ風は、窓枠の上に座る先輩の長い髪を、たおやかに揺らし続ける。 僕はそのころ高校二年生だった。放課後の校舎、静かな部室棟の一室。僕らは二人でそこ…
風の音が聞こえて目を覚ます。 周囲の視界は暗い。だけどその向こうには無数の瞬き輝く光の点……迫ってくるような星空が目の前に あった。 僕はベッドに寝かされていた。体にかけられた薄汚れた布団を蹴って、硬い枕から頭を起こす。 動いた時、わき腹が痛ん…
意識が真っ暗闇に染まったと思うと、今度は次第に明るくなってきた。何かが開く音がした。自分の中 の閉ざされた扉が開き、自分の実存が溶け、魂が肉体から解放されたような気がした。その外側に飛び 出していくと、あまりにも眩い光が僕を貫く。だけど不思…
いつの間にか閉じていた目を開く。目の前には少年が立っている。その後ろの廊下の外では、操られた 市民たちが大勢で待っているのが見える。この少年は何ものなんだろう。考えるまでもない。ジオシン メトライザーだ。だけど、他の市民とは異質な感じがする…
空気は少し肌寒くなってきた。走り続けて温まる体と、そこから抜けていく熱を感じる。壊れた街の向 こうに見える空が、少しずつその色合いを変えていく。薄暗い雲の向こうで日が落ち、再び夜が訪れる 時が近づくのがわかる。それでもまだ日が落ちるまでには…
奥の部屋に入ると、僕が助けた少女は、ベッドの中からぼんやりとこちらを見ていた。部屋の中は暗く 、窓から射す星の光が彼女の顔を照らしている。かすかに聞こえる息遣いは断続的に、少し苦しそうに 、響いている。だけど、こちらを見た少女は、その苦しさ…
遠い記憶の中で、電子生命の『僕』と古竜が会話している。 「地球が滅びた時の話……?一体いつ、地球が滅びたと言うんです?このエクスプローラー船が旅立つ まで、そんな記録はどこにもなかったはずです。旅立ってからは地球の状態を確認する術もない。なの …
西暦4000年台、5度目の千年紀も後半を迎えていた頃――僕は、ネットポリスのとあるスポットで、他 の電子生命<インフォミアン>の男と、テーブルの座席に座って会話をしていた。そこは、精神への快楽 や陶酔感を、合法的なレベルで味わわせてくれるサービスエ…
それから、笹森修一は死んだ。 昭和19年のことだった。 戦時中のことだ。それは、空襲だったのだと思う。突然の衝撃と爆発。僕は、戦火の中で焼かれて、体 は焦げて、やがて灰のようになり、死んでいった。 ……え?昭和、19年だって? その頃には、僕は、…
僕は漠然とした気持ちで読み始めたのだが、途中からは、どこか茫然としながらこの文章を読み進めて いた。胸騒ぎが止まらなかった。あまりにも飛躍した論理展開と、結論を言うためだけに持ち出された ような科学用語。どこまでが本当なのかはわからない。異…
夢だった。僕は夢を見ていた。結局のところ、そういうことなのだろう。あの時、目が覚めたと思って いたけれど、実際には寝ぼけたまま、半分夢を見続けていたのだろう。なに、珍しいことじゃない。時 として夢は、現実以上にリアルに振る舞い、自らの心を揺…
加賀美さんと一緒に彼女の家に戻ると、宮田が居た。宮田は玄関を開けるなり、リビングから顔を出し て呟いた。 「……おかえり」 「ただいま、宮田さん」加賀美さんは返事をした。 僕が口を開く前に、もう一人見知った顔が宮田の後ろから現れた。彼女はピンク…
「……くん……しゅーくん」 僕を呼ぶ声が何処からか響いていた。若い女の子の声だった。まるで薄い壁を通して聞こえてきたよう なくぐもった感覚が僕の心を揺さぶっていた――この声はいったい、誰のものだっただろう。そこには 懐かしさに似た、どこか暖かいぬく…
「じゃあ私もう帰るね」 「え」 「あなたもあまりダラダラしてると卒業なんてあっという間だぞ!」 「あ、ちょっと先輩……」 「じゃあ ね」 その光景は何度もフラッシュバックしている。 あの日の僕は何を言おうとしてたのか、それだけが思い出せなかった。 …