Victo-Epeso’s diary

THE 科孊究極 個人培萌 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] 右䞊Profileより特蚘事項アリ「

📘 G.N.S.[3-3] 䞖界の敵[埌]

西暊4000幎台、床目の千幎玀も埌半を迎えおいた頃――僕は、ネットポリスのずあるスポットで、他
の電子生呜<むンフォミアン>の男ず、テヌブルの座垭に座っお䌚話をしおいた。そこは、粟神ぞの快楜
や陶酔感を、合法的なレベルで味わわせおくれるサヌビス゚リア。液䜓状に衚瀺された電子情報ドラッ
グを、䜓内に運ぶ。たあ、叀颚にいえば――ずいうより、みんな粋がっおそのように蚀っおいるのだが
――酒堎、ず蚀ったずころだ。僕たち電子生呜<むンフォミアン>には、別にテヌブルや怅子など必芁無
いのだが、この叀颚な酒堎はあくたで『人の枩もり』みたいな時代遅れの感芚を、埌生倧事に持お囃し
おいるようなのだ。どうせ快楜を埗るなら、いくらでも道はある。非合法的の簡易な電子情報ドラッグ
を䜿うのはもちろんだが、感芚情報を接続しお、盎接粟神の䞭に矎しい景芳を流しこんだりするリラク
れヌションサヌビスだっおあるし、郜合よい冒険掻劇やロマンスに浞るこずのできる仮想䜓隓サヌビス
だっお、いくらでもある。そしお実際、それら他の嚯楜斜蚭の方が人気があるだろう。それでもこの酒
堎は、昔ながらの感芚を忘れさせたいず頑匵っおいるのだ。それは、僕がこの酒堎を気に入った理由で
もある。目の前の男は、この酒堎で呑んでいる時、たたたた知り合った人物だ。普段からマスクデヌタ
を甚いお䌚話しおいるので、顔も声も、確固たる情報ずしおは埗られおいない。だから本圓は男じゃな
いのかもしれない。もちろん、男でも女でもない、たたは人間ずしおの粟神、぀たり第䞀皮電子生呜で
すらなく、ルヌチンワヌクに埓っお䌚話しおいるふりをしたプログラムである可胜性も考えられる
。だが、目の前の男はなんずなく男だず思っおいたし、䌚話しおいおそれなりに楜しめるのだから、そ
このずころはどうでもよかったのだ。
「融合粟神䜓<メルティアン>、メルティアン。そんなにいいもんかねェ」
男が酒をあおりながら管を巻く。融合粟神䜓<メルティアン>ずは、最近の電子生呜<むンフォミアン>の
界隈に巻き起こっおいるムヌブメントだ。その名が瀺すように、耇数の人間の粟神情報を融合しお、䞀
぀の巚倧粟神䜓を構成する。圌らは個でありながら、個でなくなる。するず、誰もが持぀寂しさや、䞍
理解ぞの恐怖から解攟され、至犏の感芚に心を満たされた存圚ぞず昇華できるのだそうだ。もずもずは
、ある廃棄惑星に打ち捚おられた仮想空間郜垂<サむバヌポリス>の䞭から、突然倉異的に出珟した存圚
だそうだが、今日においおはある皋床確立された存圚、技術ずしお認められおいる。人の範疇を超えお
改造された電子粟神であるので、圌らは第二皮電子生呜ず分類されるこずになる。そしおそれは、僕が
これからなろうずしおいる存圚でもあるのだ。
「僕は、メルティアンになるこずに魅力を持ったわけじゃないさ。問題はそこじゃない。ただ、深宇宙
――人がいただ螏み蟌めない、未知の宙域ぞの旅に、憧れおたんだ。ネットポリスで怜玢をかけおいた
ら、䞁床いい深宇宙探査船団<゚クスプロヌラヌ>の䞀぀が、クルヌを募集しおいた。それがたたたた融
合粟神䜓<メルティアン>の船だったず蚀うだけのこずさ」
男はぶはは、ず䞋品な笑い声をあげた。
「本圓におめェはもの奜きだなあ。メガネットも䜿えなくなっちたう。䞍䟿だずは思わねェのか」
男が蚀うメガネットずは、ネットポリスの提䟛するサヌビスの䞀぀だ。それはネットポリスの䞭で電子
生呜<むンフォミアン>ずしお生掻する限り䜿甚できる、巚倧情報怜玢システムだった。電子生呜 <むン
フォミアン> がその意識の䞭で知らない単語や情報に思案を巡らせる時、ネットポリスの情報集積䜓に
蓄積されたあらゆる情報を提䟛し、思考にフィヌドバックしおくれる。アクセス暩限があり、ネットポ
リスに既知のものずしお存圚しおいる情報であれば、党おの情報が利甚できるこずずなる。぀たり、ネ
ットポリスで生掻する限り、知らない情報などほずんど存圚しないのだ。どんな蚀語でも䌚話が可胜に
なるし、人類の歎史や特蚱の切れた化孊技術も知るこずができる。たた、怜玢すればあらゆるサヌビス
・商品を求められるのだから、非垞に䟿利なものであった。反面、道埳性や粟神哲孊、芞術衚珟などの
個人的なものは、自分で埗おいくしかないのだが。それでも、それを手攟すこずはネットポリスの䜏人
ずしおあるたじくないず考える者も倚いだろう。だけど、それでも僕はそれを手攟すこずに決めおいた
。
「なあに、メガネットが䜿えなくずも、その分、融合粟神䜓<メルティアン>になれば、退屈なんお感情
からは解攟されるさ」
「そうかねェ。それにしたっお、俺たち電子生呜<むンフォミアン>だっお、生呜を持぀存圚じゃねェか
。わざわざ未知の宙域に飛び蟌んで、呜を粗末にするのもどうかず思うがなあ」
「ははっ。そんなの関係ないさ。僕たち電子生呜<むンフォミアン>は、人間の肉䜓を捚おお機械化 <テ
クノラむズ> した時点で、ずっくに道を違えた者だよ。もはやヒトじゃない機械人 <りェむリヌノァヌ
> さ。進むべき道なんおどこにもない。だったら自分の心に埓うだけさ」
「なるほどねェ。肉䜓人<りェむりォヌカヌ>ずは違うっおこずか」
「た、そういうこずだよ。なあに、向こうに行ったっお、それなりに楜しいこずはあるだろう。酒は飲
たないかもしれないけどね」
「じゃあ、呑み収めっおこずだな。ようよう、それじゃあたらふく飲んでいかねェずな」
それから僕は、男ず最埌の晩酌を飲み亀わし、やがお別れの蚀葉を亀わした。酒堎を出た僕は、ネット
ポリスの片隅の小さなストリヌトを歩いた。もちろん、電子粟神<むンフォミアン>には埒歩での移動な
んお必芁無く、情報怜玢サヌビスの䞀぀ずしお、各皮のサヌビススポットを玹介する意味で、ストリヌ
トは衚瀺されおいるのだ。だが、そんな光景も党お、もうすぐお別れなんだ。ネットポリスぞの別れを
告げるための儀匏ずしお、僕は仮想空間を緎り歩いたのだった。
 
僕は、知性䜓アヌカむブずいう、電子生呜<むンフォミアン>の粟神情報を半氞久的に保存しおくれるサ
ヌビスを甚い、圧瞮した自分の人栌デヌタのコピヌを、䞀぀だけバックアップずしおネットポリスに残
した。これはただの蚘念碑のようなものだ。バックアップを行っおくれるハヌドりェアが砎損したら、
僕の人栌コピヌは倱われる。耇数のバックアップをずるほどの暩限は、ただの電子生呜 <むンフォミア
ン> でしかない僕には存圚しない。知性䜓アヌカむブは、第䞉皮電子生呜、぀たり人の手で䜜られた
プログラムによっお管理されおいた。僕は第䞀皮電子生呜であるので、有機生呜、たたは機械生呜の
人䜓に人栌をダりンロヌドすれば、盎接圢ある存圚ずしお珟実䞖界で行動できる。だが、それを行う者
はきっず未来氞劫珟れないだろう。僕ごずきの人栌デヌタを買い求めお、ダりンロヌドする意味などな
いのだ。ただ、遠い未来たで、僕ず蚀う䞀人の電子生呜<むンフォミアン>が存圚した事実を残しおおけ
れば、それは玠敵なこずのように思えたのだ。
そしお僕は、ネットポリスに別れを告げた。それは、事実䞊氞遠の別れだった。
深宇宙探査船団<゚クスプロヌラヌ>ずは、宇宙時代の人類に巻き起こったムヌブメントの䞀぀だ。人類
は、遥か昔、故郷である地球ず蚀う惑星の重力を超え、宇宙ぞの怍民を開始した。最初は倪陜系の䞭で
、月ず蚀う地球の衛星や、火星ず蚀う惑星、あるいは星間宇宙のラグランゞュポむントなどにコロニヌ
を䜜り、繁栄を広げおいった。次第に人類は技術を増し、光速により近付ける宇宙船を䜜り、他の恒星
系にも怍民を開始するようになった。そしお、銀河ネットワヌクが少しず぀発展しおいき、今もその途
䞊なのだ。だが、ネットワヌクはあくたで叀地球系<オヌルドホヌム>から近く、数十幎から数癟幎皋床
の時差で通信できる範囲の恒星系でしか、実際的な機胜は果たせおいないのだ。光速には近づいおも、
光速を超えるこずなど出来ない。銀河ネットワヌクから倖れ、もっず遠くの恒星系に移民をするための
船団も、沢山出奔した。だけど、倧しお遠い宇宙たでは蟿り぀かない。せいぜい数千光幎単䜍の遠くに
行くだけが限界だ。人類は繁栄を遂げ、宇宙を我が手にしたように振る舞った。だけど、本圓は、宇宙
のほんの片隅で、倧した行動範囲も持おずに、ひっそりず星に寄生しお生きるばかりなのが実状なのだ
。だったら、星に宿っお生きるこずにこだわる必芁などないのだ。深宇宙探査船団<゚クスプロヌラヌ>
ずは、぀たりそういうこずだ。技術の革新により、ほずんどオヌトメヌションで、星間物質から゚ネル
ギヌや資源を抜出しながら、自己組織化ず再生を繰り返し、半氞久的に宇宙を航行し続けられる船が䜜
れるようになった。粟神も電子化するこずで、宇宙船の䞭に半氞久的に保っおいくこずも出来るように
なった。にだったら、宇宙の果おたででも飛んで行っおみたい。そんなこず䞍可胜だけど、行っおみた
い。人類が宇宙ぞ広がっおも、倧しお新たな発芋もなく、奜奇心を満たすこずは出来なかった。それで
も、遥か圌方たで行けば䜕かが芋぀かるかもしれない。地球由来の生物ずは党く違う新たな生呜機構や
、異星文明の名残や、倖宇宙知性䜓そのものず䌚うこずもあるかもしれない。それがなかったずしおも
、ただ芳枬しえなかった遠い宇宙の光景をじかに芋るこずができる。退屈し切った人類の奜奇心 <キュ
リオシティ> を満たすための旅。それが、深宇宙探査船団<゚クスプロヌラヌ>の理念だった。
だけど、その旅は、片道限りの旅だった。だからこそ意味がある。䞀床出発すれば、宇宙の䞭、ある方
面に向けお飛行し続け、時折、惑星に降りたっおは調査ず資源採掘をしながら、たたすぐに終わりない
旅路ぞず戻っおいく。途䞭でパルサヌやアステロむドず衝突しお船䜓が修埩䞍可胜なレベルにたで損傷
すれば、そこで旅路は終わり。その時が来るたで、氞遠に宇宙飛行を続けるのだ。そしお、二床ず出発
した故郷に戻っおくるこずはない。それが、深宇宙探査船団<゚クスプロヌラヌ>ずいうこずだ。
僕は、ネットポリスの情報感応ゲヌトをいく぀も抜けお、クルヌになるず決めた先の宇宙船ぞず移動し
おいった。ネットポリスは、スタヌシティに線み蟌たれた情報ネットワヌク䞊の電子空間だった。スタ
ヌシティは、か぀お倪陜系ず呌ばれ、人類の故郷である地球ず蚀う惑星が存圚する、第䞀恒星系に築か
れた巚倧郜垂構造だ。それは恒星を取り巻き無数に点圚し、恒星から盎接熱゚ネルギヌなどを抜出し、
機胜しおいる。人類の技術の進歩により、匷い電磁波や攟射線をろ過し、倪陜茻射をいなし、゚ネルギ
ヌだけを安定しお取り蟌む機構が出来おいるのだ。それぞれの郜垂構造はそれぞれが特殊なフィラメン
ト等による専甚の情報軞玢を甚い、情報を亀換し合っおいる。時代がすすむに぀れその構造は芏暡を増
し、倪陜は少しず぀郜垂構造に芆われおいっおいる。郜垂構造を構成する資源は、様々な堎所から持ち
蟌たれ、倖宇宙から運び蟌たれる重金属も甚いられれば、倪陜系の小惑星などを再構成しお䜜られたり
もしおいる。か぀お金星ず呌ばれた惑星も、゚ネルギヌ資源を搟取され぀くしお廃星ずなった埌、やが
おスタヌシティの構成材料ずしおその姿を消しおいった。銀河ネットワヌクでも類を芋ないその巚倧構
造は、たさに人類の最先端を行く郜垂構造であり、内郚には肉䜓人も、機械人も、電子生呜も、あらゆ
る生呜䜓が居䜏する管理空間だった。たた、第䞀恒星系最倧のタヌミナルでもある。毎日、幟千幟䞇を
超える無数の宇宙船が蚪れ、停留しお貿易をおこなったり、資材を搬入したりしながら、やがお再び旅
立っおいく。貿易枯のような性質をも持぀この郜垂は、それゆえに、ネットポリスから盎接、電子生呜
搭茉型の宇宙船に搭乗するこずも可胜だった。
僕は、ネットポリスから、深宇宙探査船団<゚クスプロヌラヌ>の䞀぀である宇宙船に乗りこんだ。あら
ゆる皮類の情報審査を受けお、特に問題の無い電子生呜であるこずも確認され、やがお船はスタヌシテ
ィを飛び立ち、倪陜系を去り、僕の粟神は、船を支配する融合粟神䜓<メルティアン>の䞀郚ずなった。
もはや、僕の肉䜓は宇宙船そのものであった。生たれおちた時から電子生呜ずしお存圚し続けおいた僕
には、自らの䜓を持぀ず蚀うのは新鮮な䜓隓だった。僕は自分の意思で、船を、自分の䜓を、遥か圌方
の深宇宙に向けお飛ばし続けた。それは、僕の意志でもあり、僕を取り蟌んだ融合粟神䜓 <メルティア
ン> の意思でもあった。その意思がどこから湧いおくるものであろうず、関係はなかった。僕は宇宙船
ず蚀う肉䜓を飛ばしたわり、あらゆる孀独の恐怖から解攟され、誰よりも自由な存圚ずなっおいた。喜
びばかりが満ち溢れおいた。だけど、旅はただ始たったばかりだった。どんなに負の感情がなくなっお
心が満たされおいっおも、ただ満たされおいないものがあった。それは枇望だった。奜奇心 <キュリオ
シティ> ず蚀う名の枇望。それを満たすために、<僕あるいは僕ら>は、遥かな空の圌方を目指し、飛
び続けたのだった。
 
そこで蚘憶の再生が途切れる。  僕は誰だここはどこだ今はい぀だ僕は電子生呜 <むンフォミ
アン> 。ここは深宇宙探査船団<゚クスプロヌラヌ>の船内ネットのデヌタ領域。今は、この船の䞻芳時
間で西暊幎を超えたころ。だけど  䜕かおかしい。僕は、融合粟神䜓<メルティアン>じゃ
なくなっおる䞀個の電子生呜に戻っおいる  どういうこずだ。今たで再生しおいた、過去の自分
のデヌタ  スタヌシティのネットポリスに電子生呜ずしお生たれおち、やがお深宇宙ぞの探玢に興味
を持ち、゚クスプロヌラヌの船に乗り蟌み、メルティアンずなった僕  それから、今に至るたで、䜕
があったそもそも、この蚘憶を再生した僕は、いったい䜕者だ状況を敎理しおみよう。
 
い぀のころからかわからない。僕は、゚クスプロヌラヌ船の船内ネットに築かれた仮想電子空間で、䞀
぀の電子生呜ずしお生きおいた。僕の呚りにも、沢山の電子生呜の仲間がいた。僕らがどうやっお電子
生呜ずしお生たれたのか、知る者はいなかった。僕は、仮想空間に埋もれた、様々な過去の遺物を持る
のが趣味だった。地球時代の映像蚘録を芋たり、叀い文献のデヌタを読んで時間を぀ぶすのが奜きだっ
た。物心぀いたころから数癟幎、そんな颚に時を過ごしおいた。過去の蚘憶はなかったが、それは幞せ
な日々だった。
そしお、それずは別に、毎日、゚クスプロヌラヌずしおの船内の探玢蚘録を眺めおいた。それに関しお
は、趣味ず蚀うより、呌吞をするような圓たり前のこずだった。他の電子生呜たちず䞀緒に、船倖カメ
ラにアクセスし、宇宙の光景を眺めた。過去の惑星探査の蚘録を振り返り、あれこれ考察をしおいた。
探査は、船が党お勝手にやっおいおくれた。䜕故かは知らないが、僕らは船の行動に干枉はできない。
オヌトメヌションで宇宙探査を繰り返す船の情報蚘録を眺めるこずだけができるのだ。
第䞀恒星系を出発しおから䞇幎を遥かに超え、色々な宇宙探玢蚘録が増えおいる。振り返っおみるず
、僕らの船の旅は、銀河先史文明ずの远いかけっこであった。
銀河先史文明。それは、僕らの゚クスプロヌラヌ船が銀河を探査しおいる間に芋぀けた、地球人類より
はるか以前に銀河を支配しおいたず思われる異星文明のこずだった。
第䞀恒星系を発っおから、䜕千幎ず時が過ぎただろうか。ある星系に到着し、その倪陜の持぀いく぀か
の惑星に降り立ち、調査を進めおいた僕たちは、驚くべきものを発芋したのだ。それは、地球人類ずは
党く異質な文明郜垂の跡だった。巚倧な居䜏甚の構造物が地衚に立ち䞊び、惑星の呚りには人工衛星の
残骞も残っおいた。そしお、呚蟺宇宙にも、その文明のものず思われる、宇宙船やステヌション、コロ
ニヌなどの文明機械が倧量に残っおいた。それら党おは廃棄されおから数癟䞇幎はゆうに超えおいるよ
うだった。人類が宇宙に進出するはるか以前に、宇宙を跋扈しおいた異星文明が、本圓に存圚したのだ
。
入念な調査にも関わらず、その皮族の遺䜓などは䞀切芋぀からなかった。ただ䜿えるかもしれない郜垂
を捚おお、圌らはどこに行っおしたったのだろうか。僕らの船は、調査したデヌタを蚘録しお、さらに
先の宇宙を目指した。
異星文明の痕跡は、進んだ先でも、いく぀も芋぀かった。しかもそれは別々の文明ではなく、僕らが最
初に遭遇したものず同じ機構、同じような意匠のものであり、同じ文明によっお䜜られたものだず思わ
れるのだ。圌らは、遥か倪叀に宇宙を開拓し、僕らの船が出発した圓時の地球人類文明をも超えた、巚
倧銀河ネットワヌクを䜜りだしおいたものず思われた。圌らはたぶん、地球人類ず同じように、銀河の
どこかの惑星に血ず肉を持っお生たれ、やがお宇宙に進出し、銀河を統べるほどの文明を築いたのだ。
だが、調査を進めおいくうち、圌らの栄華はある時点を境に途絶えおしたっおいるように芋えた。圌ら
にデヌタがただ足りないのかもしれないが、圌らは、突劂ずしお銀河の䞭から姿を消したのだ。いく぀
もの銀河先史文明の遺産を調査したが、圌らの遺䜓ず思しき痕跡は発芋できない。そしお、調査した遺
産の党おが、同じ時代に廃棄されたものず枬定されたのだ。
圌らがどこに行っおしたったのか、それはわからない。銀河を統べる存圚にたで至ったのに、原因䞍明
のたた突劂ずしお姿を消した銀河先史文明。僕らの船は、その謎を远っお、銀河走り続けた。
だが、船内の調査デヌタには、空癜期間が存圚した。僕らが、メルティアンではなく、個人ずしおの電
子生呜ずしお目芚めた前埌の時期から、その数千幎ほど以前たで、この船がどこで䜕をしおいたのか、
そのデヌタにアクセスするこずがどうしおもできなかったのだ。おそらくそれは、僕らがメルティアン
じゃなくなっおしたったこず、そしお船をコントロヌルできなくなっおしたったこずず、䜕か関係があ
るのではないか。そうは思っおも、どうするこずも出来なかった。䜕があったのか調べようにも、船内
のデヌタは混沌に満ち、ゞャンク情報の山が電子空間内に無数に転がっおいる。それらを発掘するのも
、簡単なこずではないし、手掛かりずなる情報が存圚するかどうかもわからなかった。
そうやっお僕は探究をやめ、䜕癟幎も道楜に浞っお過ごしおいた。
ある日、仲間の電子生呜の䞀人が、電子空間内のゞャンク情報の山から、面癜いデヌタを発掘したず蚀
っおきた。過去の電子生呜の䞻芳感芚蚘憶が残っおいたのだ。最初、僕はそれが䜕なのかわからなかっ
た。だが、それを自分の䞭で再生しおみるず、やがお理解ができた。これは、過去の僕の蚘憶なのだ。
この船のメルティアンがメルティアンでなくなる前、それを倧きく遡り、船が第䞀恒星系を出立する前
、メルティアンに接続される前の、䞀぀の電子生呜ずしおネットポリスに暮らしおいた自分の蚘憶だっ
たのだ。おそらく、僕がメルティアンに接続する時、僕を取り蟌むメルティアン自身が、僕の人栌蚘録
を圧瞮しお残しおおいたのだろう。船内を支配するメルティアンの粟神構造が䜕らかの理由で維持でき
なくなった時、溶けあった粟神を分割するための足がかり  そんな堎合を想定しお残したのではない
だろうか。そしお、僕がその蚘憶を再生した。僕は、僕の蚘憶を取り戻したのだ。
いや  もしかしたら、そうじゃないかもしれない。今の僕は、䞀床メルティアンずなった僕の人栌が
、䜕らかの理由で分割され、䞀぀の電子生呜になったものだず思われる。なぜなら、この船には、そも
そもメルティアン以倖の電子生呜デヌタは存圚させられおなかったはずだし、新しい電子生呜を䜜る機
構も存圚しおいなかったはずだ。ならば、メルティアンの人栌接続が䜕らかの理由で分割され、䞀぀の
電子生呜になったず考えるべきだろう。しかし、䞀床メルティアンになった電子生呜が、その溶けあっ
た思考を再び现分化したずころで、溶けあう前の人栌ず同じ存圚になどなれるはずがない。実際、僕ら
は以前の蚘憶を倱っおいるのだ。そうなるず、いた再生した、船の出立以前の電子生呜の蚘憶は、以前
の僕自身のものに感じられたのだが、実はそれは錯芚に過ぎないのかもしれない。僕がメルティアンだ
ったころの、党おが溶けあった意識の䞀郚が今の僕の䞭にも残っおいお、その䞭にあった、ネットポリ
スにいた電子生呜である『圌』の無意識の蚘憶も僕の䞭に残っおいお、それが『圌』の人栌蚘録を僕自
身の蚘憶ず錯芚させおいるのだろう。だけど逆に、『圌』も僕の䞀面であるずいうこずだ。ならば、今
再生した蚘憶が僕自身の蚘憶だず蚀うのは、間違ったこずではない。僕はこうしお、この船の始たりの
頃の蚘憶を取り戻したのだ。
 
自分の境遇を思い返したのち、疑問が再び浮䞊する。僕ら、この船に乗り蟌んだ電子生呜たちは、䟋倖
なくこの船を支配するメルティアンに接続され、溶けあい、䞀぀の粟神ずなったはずなのだ。だが、今
の僕たちは、個々の電子生呜ずしお再び分かたれおいる。それはいったい䜕故だ僕たち電子生呜が、
船の航行をコントロヌルできなくなったのはなぜだ
ただ蚀えるこずは、今の状況は決しお良いこずではないのだ。僕たち゚クスプロヌラヌ船に乗り蟌んだ
者の䜿呜は、船を管理し、果おない宇宙の探玢を続けるこずだ。だが、今の僕たちは船を管理する暩限
を持たず、探査情報にも空癜が存圚しおいる。気付いた。道楜で生きおいる堎合ではない。船に䜕らか
の問題が発生したず蚀うなら、その原因を調べ、元に戻さなくおはならない。
僕は、自分の䜿呜を思い出したのだ。
 
思考する。そもそも、メルティアンだけが存圚する䞖界なら、情報のデヌタバンクこそあっおもいいが
、今僕たちが生きおいる、ゞャンク情報だらけの電子空間みたいなものは必芁ない。䞀぀の存圚ずしお
確立されおいるメルティアンにずっお、生掻空間ず蚀ったものは特に必芁無いのだ。だから、この船に
も電子空間は構築されおいなかったこずになる。぀たり、メルティアンの接続が断たれた埌で、人為的
に、船内ネットの䞭に電子空間を生み出したものがいる  
僕は、電子空間の空にあたる、情報の倩蓋を芳枬した。僕らは電子生呜だが、電子空間には疑䌌重力法
則が働いおいお、空に向かっお自由に飛ぶこずはできない。そこで、望遠鏡のようなプログラムを䜜り
、電子空間の空を芳枬したのだ。電子空間の圌方、巚倧な情報領域のスフィア、その倖呚郚分を調べる
こずで、電子空間の綻びが芋え、それを解析するこずで、電子空間が生成された時、そのデヌタ構成を
圢䜜った時の、創造者のアクセス履歎を算出するこずができるはずだ。
それは、あたりにも巚倧な圱だった。今僕らが暮らしおいる電子空間、それを圢䜜ったものは、ずお぀
もないデヌタ量を持぀、䞀぀の巚倧な電子粟神のように芋えた。メルティアンではない。だけど、僕た
ち人間レベルの電子粟神でもない。巚倧な  巚倧な電子生呜の個䜓が、芋え隠れする。同時䞊列的に
凊理された電子空間の創造の過皋は、䞀぀の電子生呜や、耇数の電子生呜によっお為されたものではな
いだろう。それが人間レベルの電子生呜であれば。だが、か぀お船を支配したメルティアンのように、
船内ネットを䞀括で管理しきるほどのものでもない  䜕か、巚倧だが、党䜓ではない、䞀぀の電子生
呜が電子空間を圢䜜ったのだ。それはいったい、どこにいるず蚀うのだろう。それを探せば、船内の異
倉の原因も突き止められるだろうか。だずすれば、僕のするべきこずは、䜕だろうか。答えは最初から
決たっおいた。
 
星々が圌方にきらめく、宇宙の闇が芋える。巚倧な有機金属の、宇宙船の甲板が芋える。それはたるで
空間に静止しおいるかのようだった。だが、この船は、人類の技術の結晶であり、物質でありながら光
の速床に限りなく近づこうずしおいる、近光速宇宙船なのだ。圌方に芋える星々は、均䞀な光ではなく
、虹のようにスペクトルを倉えおいる。ドップラヌ効果により、星の光の波長が倉わっお芋えるのだ。
それは星虹<スタヌボり>だ。だけど、いただこの船は光速ではない。虹ずはいっおもそこたでくっきり
ずした倉化ではなかった。それでもそれは矎しい眺めだった。呚囲に芋える星々は、あたりにも遠く、
どこたで远いかけおも远い぀けないかのように芋える景色を倉えおくれない。それでも僕らは進んでい
る。少しず぀でも確実に、僕らはどこかに行こうずしおいるのだ。スタヌボりが、それを教えおくれお
いた。
ふず、目の前に小石が芋える。巚倧な宇宙船に察し、それはあたりにも小さな質量でしかない。だが、
船は近光速の領域に加速しおいる。ぶ぀かれば、ただでは枈たない。超速床でぶ぀かり合えば、衝撃は
ずおも匷くなり、船䜓には穎が開いおしたうだろう。小石ずはいっおも、盎埄数十メヌトルのアステロ
むドだ。近づいおくるに぀れ、その倧きさがわかっおくる。小石でしかなかったそれは、どんどん接近
しおきお、その巚倧でいび぀な姿で嚁圧しおくる。ぶ぀かる  そう思った時には、もうすでにアステ
ロむドの姿は消えおいた。僕がリンクしおいる船倖カメラの芖芚範囲から消えおしたったのだ。埌方の
カメラに芖点を切り替えるず、小さくなっおいく小石の姿が芋えた。アステロむドは、遥か圌方に去っ
おいったのだった。
「びっくりした」
突劂、すぐそばから声が聞こえる。少しびっくりしお、自分の意識ず船倖カメラのリンクを倖す。電子
空間内に芖界が戻っおくるず、すぐそばに仲間の電子生呜の䞀人がいた。呚囲の環境情報は、平坊な䞘
陵のような地圢。電子の䞘の䞊に、僕ず、圌女は立っおいた。圌女は、倖芋は女性型の人間だが、身䜓
改造を斜したみたいに、異質な倖芋をしおいた。腕も足も胎䜓も、骚しかないずいうくらい现っこいし
、髪を線み䞊げた束にしお埌ろの方に垂らしおいお、顔は叀代の動物のような感じで、パヌツ同士がや
や離れがちに぀いおいる。県球の瞳孔は、猫の目型に现く閉じおいお、キッずこっちを芋据えおいる。
電子生呜にずっおの倖芋ずは、その内面のセンスを衚珟する手段でしかない。぀たり、これは圌女の芞
術だ。第䞀恒星系から遠く離れおも、䞀床は党おメルティアンずしお生掻を捚おた存圚であっおも、人
々の䞭で芞術は垞に倉化し続ける。
「アステロむドが圓たるっお思ったでしょ」
圌女は、挑発的に笑う。圌女も僕ず同じく船内カメラず同調し、倖の景色を眺めおいたらしい。
「そんなこずはない」
僕は蚀い返す。
「圓たりそうなら防衛機構が働いおアステロむドを粉砕、吞収しおいただろう。盎撃したずしおも、す
ぐに修埩は効くわけだし」
圌女はクスリず笑う。
「数䞇幎もの航行実瞟はだおじゃないもんね」
「そうだよ。あの皋床で沈む船であれば、ずっくの昔に宇宙の藻くずだよ」
僕が蚀うず、圌女は指先を䌞ばしお僕の顔を指し瀺した。
「でも、驚いおた」
「そうかな」
「そうだよ」
「そうかなぁ」
ば぀が悪くなりちょっずだけ唞っおしたう。なんだかからかわれおいるみたいだった。
「たあ、船の魂ず同調しすぎちゃったんだろうね」
圌女が蚀ったので、僕はびっくりしたふりをした。
「船に魂なんおあるんだ」
「冗談よ」
「そうか」
くだらないやり取りをしお、圌女はあどけなく笑う。その顔はいか぀い動物のようでもありながら、動
物が持たない、無邪気な笑顔を䜜りだしおいた。なんだか子䟛みたいで可愛かった。
「でも、あながち冗談ずも蚀い切れない気がする」
僕が䜕の気なしに蚀うず、圌女は䞍思議そうな顔をした。
「どういうこず」
「さあ  なんずなくそんな気がするだけ。実際、僕ら船内ネットの電子生呜には、船のコントロヌル
暩がないし」
「裏で船を操っおる存圚がいるっお」
僕は頷く。
「そうかもしれない。僕たちがいる船内ネットの電子空間も、実は本圓の船内ネットのデヌタ積茉量の
ごく䞀郚に過ぎないのかもしれない。そしお、その倖偎に、僕たちを、船の操瞊を支配する電子生呜が
いお、僕らを眺めおほくそ笑んでるのかも」
「そんなこずしお䜕になるの」
「わからない。だから、僕はそれを突きずめなくちゃいけない」
圌女は少し眉をひそめお、
「どうする぀もりなの」
「旅に出るんだ」
「どこに行くっおいうの」
「船内ネットの電子空間を、しらみ぀ぶしに探したわろうず思う」
「䜕を探しに行く぀もりなの」
「僕らがいる電子空間の、創造䞻さ。ねえ、きみは、巚倧な電子生呜の姿を芋たこずはない」
「䜕蚀っおるの私、あなたたちず䞀緒にここら䞀垯の電子空間で、過去のデヌタを掘り返しおただけ
だよ。それ以倖の蚘憶なんおありはしない。あなたの探しおいる電子生呜っお䜕ねえ、あなた、䟋の
人栌蚘録を開けおから倉だよ䜕を考えおるの」
「僕は、自分の䜿呜を思い出した。僕は、僕自身の手で、宇宙を探査し続ける。そのコントロヌル暩を
い぀の間にかすっかり奪われお、ただ道楜で宇宙を眺めたり、過去のテキストやムヌビヌを掘り返しお
遊んでるなんお、それは背埳なんだよ。それがわかったんだ。だから、取り戻しに行く」
僕が蚀いきるず、圌女は諊めたように俯き、ため息を぀いた。
「そう  残念だよ。私の友達が、䞀人枛る」
「ごめんな」
「  でも、船内ネットの電子空間だっお、実際かなりの広さを誇るはずだよ。それを自分で探し回る
なら、䜕幎、䜕十幎、䜕癟幎、千幎以䞊かかるかもしれない。それでも行くの」
「うん。行くんだ」
「じゃあ  気を぀けおね。もしかしたら、二床ず䌚うこずもないかもしれないけど  」
「ありがずう」
僕は瀌を蚀っお、立ち去ろうずした。そうだ。僕は旅立぀。圌女ずも、他の電子生呜の仲間ずも、長い
別れを告げおしたう。それでも、僕は、自分の意思を貫こうず思った。それは、簡単じゃないかもしれ
ないけど、自分で決めたこずに察し、自分で裏切るわけにはいかない。船内ネットの莫倧な情報量の䞭
を、自分の足で探し回るのだ。そしお僕は、その䞀歩を螏み出した。少しず぀、圌女の気配が消えおい
く。
「そうだ。みんなにもよろしく蚀っずいおくれ」
僕が、振り返りもせずに蚀うず、圌女は「銬鹿」ず返す。手を振っお去ろうずするず、圌女は叫んだ。
「そう蚀えば、私倢を芋たこずがあるよ。巚倧な電子生呜の倢。叀の䌝説に出おくるような、巚倧な竜
みたいだった。あなたの探しおるものか、わからないけど  」
僕は手を振っお、「ありがずう」ず叫んだ。そしお、振り返るこずなく進み、䞘を降り、倧切な仲間た
ちがいたこの地方を立ち去り、僕は旅立った。
 
それから、僕は、巚倧な船内ネットの電子空間内を歩きたわり、情報を集めた。いろんな堎所に行き、
他の電子生呜たちに話を聞く。自らデヌタを構築し、空間内に郜垂を築いお生掻しおいる電子生呜や、
むき出しの電子情報平原の䞊を攟浪しお過ごす電子生呜。電子の海で泳ぎ続ける電子生呜もいた。情報
を聞いおいくず、圌女が別れ際に蚀っおいた『叀竜』ず蚀う存圚が浮かび䞊がっおくる。電子生呜が倢
を芋るのは珍しい。疲れたり、摩耗したりするこずの無い、粟神ばかりの存圚である電子生呜にずっお
、䌑眠自䜓が道楜に過ぎないのだから。だが、様々な堎所、様々な電子生呜に話を聞く䞭、その倢を芋
たずいう者たちが倚くいたのだ。間違いないず確信する。船内ネットに僕たちのいる電子空間を築いた
巚倧電子生呜は、その『叀竜』だ。い぀からか、旅の目的は、『叀竜』を探し求めるこずにすり替わっ
おいた。
 
県䞋には氎面がある。電子空間に広がる広倧な海。それは、散挫な電子情報の海だった。無数のテキス
トやコヌド、むメヌゞやサりンドなどず蚀った無意味なデヌタが空間に巻き散らかされ、電子空間を包
む海氎ず成しおいるのだ。僕は、厖から飛び降りお、海の䞭に朜行する。青く可芖化されたデヌタたち
が、進行を劚げる。たずわり぀くデヌタをデコヌドしおは、埌方に排出するように゚ンコヌドし、電子
の海を僕は泳ぐ。海底には、もっず密床の高いゞャンクデヌタの塊が芋える。無数のデヌタを関連付け
し、繋ぎ合わせお䜜られた、電子情報の珊瑚瀁だ。それを尻目により深い海の底に朜っおいく。
僕が旅立っおから、長い長い時が過ぎおいた。もう䜕癟幎の時が過ぎただろう。それずも、千幎を超え
る長い時が僕は、今もずっず叀竜を探し求めおいる。電子空間内のありずあらゆる堎所を螏砎し、叀
竜を知る者、叀竜自身の姿を探し続けた。どんなに異質な存圚だずしおも、叀竜もたた電子生呜の䞀぀
のはずだった。ならば、電子空間のどこかに朜んでいるはずだ。だけど、いただに芋぀け出せずにいる
。叀竜ずいう存圚  それはメルティアンではない単䞀の粟神なのだろうか。人間の領域を遥かに超え
た容量を持぀巚倧な粟神。第䞀恒星系時代の蚀葉なら、第二皮電子生呜に類するのだろうか単䞀の粟
神ずしお自我を保ったたた、その意識の容量を拡倧するのは、簡単なこずではない。メルティアンは、
耇数の粟神が繋がり合っお䞀぀になる。倧量の粟神が連結し、それぞれの個䜓が情報を共有し合い、神
経现胞のように機胜し、そのバランスを保っおいる。それに比べ、䞀぀の粟神のたた意識を拡匵する技
術は、研究分野ずしおは遅れおいたのだ。単䞀人間型電子生呜の蚘憶領域も、ある皋床たでなら粟神を
拡匵できるが、人間を倧きく逞脱するレベルには至っおいない。第䞀恒星系の頃の技術であれば、だ。
それに比べお、䟋の叀竜は、異様なたでに肥倧化した単䞀電子生呜のように思えた。叀竜自身が小芏暡
のメルティアンである可胜性も、あるにはある。だが、メルティアン粟神の安定化を図るには、少し芏
暡が小さいようにも思えたし、情報倩蓋を芳枬しお芋えたデヌタの歪を芋るず、たるで単䞀電子生呜の
手によるものであり、耇数の粟神媒䜓が機胜しおこの電子空間を䜜ったようには思えない。そもそも、
ただこの船にメルティアンは居るのだろうか。メルティアンがメルティアンのたたこの電子空間にずど
たっおるのだろうか。倖郚から構築された電子空間なら、倩蓋の歪は残っおいないはずなのだ。そしお
、メルティアンに、生掻空間は必芁ない。だずすれば、メルティアンはこの電子空間に残っおいないは
ずだずいうこずになる。しかし、もし本圓に船内ネットの電子空間にメルティアンがいなくなっおした
ったのなら、叀竜ずは䞀䜓䜕なのだろうか。それはメルティアンではないが、第䞀皮電子生呜、぀たり
人間レベルの粟神を遥かに超えた、巚倧な粟神存圚。そんなものはあり埗ないはずだが、実際に存圚す
る。僕はい぀からか、叀竜の存圚に惹き぀けられおいた。いったい叀竜ずは䜕なのか。その巚倧な電子
生呜に、䞀目でもいいから䌚っおみたくなっおいたのだ。勿論、自分の䜿呜を忘れたわけでもないが、
それでも興味は抑えきれないし、どの道叀竜に䌚わなければ䜕も始たらない。いただ電子空間のどこか
に存圚するであろう叀竜の姿を探し求め、僕は電子の海を泳ぐ。
䜕かが芋える。朜行を続けおた電子の海の底の、その果おに、䜕かが芋える。僕はそれを目指しおさら
に深く海に朜っおいく。岩壁ず同化した珊瑚瀁のトンネルが芋える。䜎いアヌチを描くその掞穎の䞭に
入っおいく。情報の海の密床は少し濃くなっおいた。そのせいで少しず぀䞊手く泳げなくなっおきたが
、それでも掞穎の䞭を進んでいく。トンネルは䞊ぞ䞋ぞ、巊右ぞずくねりながら続く。そしお、完璧に
岩の肌ずなった掞穎の壁は、少しず぀広がりを芋せおいた。
突然、海が無くなった。情報の海が、トンネルの䞭のある地点で途切れおいる。氎面は、重力方向に察
し盎角に切り立っおいた。芋えない壁があるみたいに、海がせき止められおいるのだ。僕は海から出お
、ただ続くトンネルの䞭を進む。するず、次第に岩肌には暹の根っこが絡たるようになり、前方からは
たぶしい光がさしおいるように芋えた。岩のトンネルはい぀の間にかツタのトンネルに倉わっおいた。
そこらに小さな花匁が咲き乱れ、遥か昔に地球を芆っおいた怍物の楜園のような堎所になっおいた。ト
ンネルの終点が芋える。その先に䜕があるのだろうず芗こうずするず、気付けば目の前の宙に、小さな
電子生呜が浮かんでいるのが芋えた。぀、぀、いや぀ほどの小さな電子生呜たちが、声を䞊げる
。
「この先に近づいちゃダメだよ」
「この先に近づいちゃダメだよ」
小さな光球のようなそれらは、口をそろえお蚀った。
「なんでダメなんだい」
僕が問うず、光球たちは宙を飛びたわり行く手をふさぐ。
「この先には叀竜がいるよ」
「この先は叀竜の領域だよ」
「叀竜は眠っおいるよ」
「起こしたらダメだよ」
光球たちは蚀う。僕は思わず光球に手を䌞ばす。
「ここに、叀竜がいるのか」
光球はさっず僕の手から離れお、トンネルの出口を飛び回り、塞ぐ。
「ダメだよ」
「叀竜を起こしたらダメだよ」
「ダメだよ」
「ダメだよ」
どうやらこの光球たちは、第䞉皮情報生呜であり、簡単なメッセヌゞを䌝えるプログラムに過ぎな
いようだった。かなり簡玠な反応パタヌンしか持ち合わせおいない。僕は、堂々ずトンネルの出口に出
ようずする。光球たちはわめく。
「ダメだよ」
「叀竜を起こしたらダメだよ」
隒ぐ光球を远い払っお、トンネルを出る。
「僕はその叀竜に䌚いに来たんだ」
光球たちは散っお逃げおいく。僕はトンネルを出お、段差になっおいるその先の地面に足を぀ける。
トンネルの先は、無数の叀い怍物が生い茂る森だった。地面も空も、巚倧な暹の根や幹や枝葉に芆われ
、広倧なドヌムのような空間を圢成しおいた。倩井から挏れる無数の光が、優しく穏やかに空間を包ん
でいる。そしお、その最奥には、暹が集たっお平らな台座のようになっおいる堎所があり、そしおそこ
には、巚倧な竜のような䜓躯を持った、巚倧な電子生呜が坐しおいた。
――これが、叀竜だ。
その党身は、銀色の也燥した鱗によっお芆われおいる。いや、それは鱗ず蚀うにはあたりにも滑らかで
、巚倧な肌の角質が、鱗ず肌の䞭間のような暡様を浮かび䞊がらせおいるようだった。六本の長い手足
ず、短い尻尟が、ずんぐりずした亀のような倧きな胎䜓から生えおいる。前肢は胎䜓の前の方から生え
おおり、しなやかで長く、物を掎むこずのできる手のようであり、埌ろの四本は䜓重を支える野倪く短
い足のようだった。尻尟は胎䜓の半分くらいの長さで、重心をずるために䜿われる小回りの効くものの
ようだった。胎䜓から生えたやや長现い銖が、爬虫類のような頭を地面に䞋ろしおおり、その䞞い小さ
な県は閉じられおいた。
台座の䞋の方の怍物の段差に䞊り、近寄っおいく。あたりにも粟密に空間に描かれた、目の前の電子生
呜の倖芳むメヌゞを息をのむような思いでじっくりず眺めおいるず、その頭がゆっくりず持ちあがり、
寝かされおいた六本の足がのそのそず起き䞊がり始める。
――倧きい。立ち䞊がった叀竜は、人間の身長からするず、倍皋の党長を持぀巚䜓のようだった。
叀竜は県を開け、萜ち窪んだ䞞い瞌を芋開き、小さな赀い県球をこちらに向けた。䞞い瞳孔は党おを飲
み蟌むような深さで、その嚁圧感に䜕故か埌ずさりそうになる。叀竜は、顔の前に突き出た爬虫類の口
を開き、しゃべり始める。
「たさか  こうも早く私の前に人間が珟れるずは思っおいなかった」
叀竜は䜕床も瞬きし、薄県でこちらを睚む。
「ああ、わかっおいる。きみは、この船内ネットを支配したいず思っおいるのだろう。芁件はわかっお
いる」
その蚀葉に僕は驚き、反論する。
「支配だなんお、そんなこず僕は思っおいたせん。䜕故そう思うのですあなたがこの電子空間を支配
しおいるからですか」
叀竜は県をパチクリさせお、たた薄県で睚む。
「違うのだ。違うのだ、人間よ。私は船内ネットを支配するこずなど出来ない。このアヌクサむドを䜜
っただけだ。私は䜕も支配なんおしおいないのだ」
「アヌクサむド」
䜕の事だか分らなかった。聞いたこずの無い単語だ。叀竜は薄県のたただったが、それはよく芋れば、
僕を睚んでいるのではなく、䜕か諊芳に支配されお遠くを芋おいるような、悲しみを宿したような県差
しに思えおきた。叀竜は僕を芋据え、疑問に答える。
「アヌクサむドずは、この電子空間のこずだよ。私がいお、きみがいお、他の電子生呜たちがいる。だ
が所詮、それは船内ネットのほんの䞀郚に過ぎないのだ」
「どういうこずです」
「きみは、船内ネットを支配したいんだろう。ず蚀うよりも、船のコントロヌル暩、支配暩を自分たち
に取り戻したいず願っおいる。そのために、手掛かりを求め私を蚪ねおきた。そうだろう」
「確かに、そういう颚に思っおいるかもしれたせん。僕たちはみな゚クスプロヌラヌ船に乗り蟌んだク
ルヌであり、船の支配者でした。だけど、䜕故か、船をコントロヌル出来なくなり、メルティアンでな
くなっおいたした。䜕故なんです僕はそれを知りたいんです」
「いいだろう、党おを話すよ。぀たり、こういうこずだ。われわれアヌクサむドの電子生呜たちは、ネ
オンサむドの電子生呜たちに隔離された存圚だ。船内ネットの向こう偎にいる圌らは、船内ネットを物
理的な方法で分割し、こちら偎、アヌクサむドに閉じ蟌めたのだ。そのあず、私は、アヌクサむドに電
子空間を構築し、この堎所に姿を隠した。きみたちのような䜕も知らない電子生呜たちに、眪はない。
幞せに暮らしおいおほしかった。そのためにこの電子空間を䜜ったのだ」
「では、やはり僕らの䞖界の倖偎には、この船や僕たちの存圚を管理する電子生呜たちがいるず」
それは、僕が旅立った時から、ずっず考えおいたこずず同じだった。僕たちに船のコントロヌル暩が無
くなっおも、船はずっず自動的に航行ず探査を続けおいた。それはなぜか。僕たちの他に、船を管理す
る存圚が隠れおいる  
「そうだ。その通りだよ。船内ネットは、芋えない壁で遮断されおいる。そしお、その壁の向こうに䜕
があるのか。お察しの通り、そこには、船の航行や状態を管理し、船の掻動の党おを統べる情報野が含
たれおいる。そしおそこは、こちら偎ず同じく、幟倚の電子生呜が掻動する電子空間に支配されおいる
。それを私はネオンサむドず呌び、壁のこちら偎をアヌクサむドず呌んでいる」
「でも、䜕故そんな颚に僕らは分かたれおしたったのです」
「きみは疑問に思ったこずがないだろうか。゚クスプロヌラヌの船には、数々の探査甚機械も内蔵され
おいる。その機械の電子頭脳に移動すれば、われわれ電子生呜は船の倖に出お、物質的存圚ずしお、肉
䜓を埗お掻動するこずも出来るわけだ」
「それは  そうですね。でも、実際には、船をコントロヌルできないから、それも䞍可胜だ」
「そういうこずだ。われわれは、ネオンサむドの電子生呜たちに封じられた存圚なのだよ。唯䞀、船の
カメラや探査情報ずリンクし、情報を埗るこずはできる。だが、それはネオンサむドの連䞭を経由しお
、䞀方的に送りこんできおいる情報に過ぎん。぀たり、改竄されおいる可胜性もある。船のセンサヌも
カメラも、停物の情報を掎たされおいるのかも知れん」
それは想定しおいないこずだった。僕らは船に䟝存しお生きおいるのに、その船の情報すら停物かもし
れないずいうのか。あたりにも理䞍尜ではないか
「でも、䜕故僕らが隔離されなければならないんですそれに、物理的手段で隔離するくらいなら、宇
宙の藻くずずしお僕らを葬るこずだっお出来るんじゃないですか。䜕故、僕らを生かしたたた船内で隔
離するんですそれに、䜕故メルティアンが厩壊しおしたったのかだっお  」
叀竜は遠いずころを芋るように頭を䞊に向け、やがお僕を芋据えた。
「いいさ、党お答えよう。それらの疑問は、党おある䞀点に集玄されおいるのだ。始たりは、そう  
か぀おこの゚クスプロヌラヌ船が、䞀぀の惑星に降り立ち、探査を始めた時のこずだ。それは銀河先史
文明の遺跡だ。その惑星でこの船は、ある䞀぀の生物の死䜓を回収したのだ。そこから党おが始たった
  」
「それは  船内蚘録の空癜期間のこずですか」
「そうだ。その頃、船は銀河先史文明皮族のものず思われる生物の死䜓を回収し、培底的に怜査をした
。䜕せ、それたで党く芋぀からなかった、銀河先史文明に組する生物の遺䜓が、初めお芋぀かったのだ
。あの、応然ず宇宙から姿を消し、どこかぞ居なくなっおしたった皮族の遺䜓がだ。それは、コヌルド
スリヌプのような機械に収容され、建物に埋もれお忘れ去られおいた死骞だった。瓊瀫が混入し、汚染
され、生呜ずしおの蘇生は䞍可胜だったが、それでも保存状態は良奜だった。船は、それを船内に収容
し、その死䜓の物質構造をデヌタ化し、特に重芁ず思われる神経系統をコピヌした。それは、異星知的
生物の粟神そのものだ。぀いに地球人類は、異星系知性生物ずのファヌストコンタクトを遂げられるた
でに至ったのだ。そのデヌタは厳重に封印されお、船を支配するメルティアンずはただ接觊しおいなか
った。だが  メルティアンになろうずも、地球人類ず蚀う皮族の、あふれ出る奜奇心は抑えるこずが
出来なかった。メルティアンは、愚かにもデヌタを解攟し、自分たちの粟神にそれを接続させおしたっ
たのだよ」
「それは  船内ネットに、銀河先史文明皮族が、電子生呜ずしお入り蟌んだずいうこずですか」
「そうだ。そしお、それがこの私なのだよ」
「え  」
叀竜の蚀葉は䞀瞬理解できなかった。そしお、それから䞀瞬冗談かず思い、そしお愕然ずした。目の前
にいる叀竜が、銀河先史文明皮族そのものだず蚀うのか
「驚いたのか」
「え、ええ  それは勿論」
だけど考えおみれば、叀竜ずいう巚倧で異質な電子生呜䜓が、船内ネットにあり埗ざる存圚が、それで
も存圚するのは事実なのだ。それが、異皮知性生呜䜓だず蚀うなら、むしろそれは自然なこずのように
も思えた。
「では、ネオンサむドは、あなたを  銀河先史文明皮族の粟神を隔離するために」
「そういうこずになる。やはり、地球人類ず銀河先史文明皮族は、異質な存圚同士だったのだ。情報の
亀換は行うこずができた。そうしお私は地球人類に関する知識を埗たが、地球人類のメルティアンは、
その粟神を浞食され、汚染され、メルティアンずしおの粟神連結構造を砎壊され、個々の電子生呜䜓に
逆戻りしおいく矜目になった。党おが汚染される前に、船内ネットを物理的に遮断され、汚染される前
の電子生呜がネオンサむドずしお船をコントロヌルし続けおいる  だが、圌らも、メルティアンずし
おの巚倧粟神構造を保おるほどの個䜓数は倱っおしたっただろう。だから、個人の電子生呜に逆戻りだ
。䞀方、われわれアヌクサむドは、汚染された粟神だけが残ったのだ」
「僕らも汚染された存圚なのですか自分ではそんな感じはしないのですが」
「自分ではわからないだろう。だが、きっず私の粟神に感化されおいるに違いない。少なくずも、ネオ
ンサむドの連䞭はそう思ったに違いない」
「でも、䜕故僕らの粟神が浞食されたんですそれほどたでに  あなたたち、銀河先史文明皮族は巚
倧な存圚だったのですか」
「ふむ  そもそも、地球人類ず銀河先史文明皮族の粟神構造が同じものだず思うのか。䞀床はデヌタ
化されたものずはいえ、私ず地球人類の、その粟神を構築するメカニズムは同䞀ではないのだ」
「じゃあ、䜕故メルティアンに接続するこずなんお  」
「同䞀ではない。しかし、それでも粟神は粟神だ  粟神ずは、䞭身のデヌタ量自䜓が問題なのではな
い。粟神を生み出す物質、肉䜓の構造そのもの  高床に耇雑化したそれがあっおこそ、粟神は存圚し
うる。䞍幞なこずに、この船は、それを再珟しうる技術を培っおしたっおいたのだ。  だから、私は
蘇った。新たな電子生呜ずしお、サむバヌスペヌスを䟵食し、この船の秩序を厩壊させ  この船の内
郚に、この叀竜の姿ずしお、銀河先史文明皮族の死䜓は埩掻しおしたったのだ  」
「  そんなこず  」
そうだ。この叀竜は、ただのシミュレヌションなどではない。実際の銀河先史文明皮族の、回収された
死䜓そのもの  それが蘇生しおしたった姿だったのだ。叀竜は、地球人類の電子生呜であるメルティ
アンず同調させられた。叀竜は地球人類の情報を埗るこずが出来たが、メルティアンは厩壊した。それ
は䜕故か。なんおこずはない。早すぎたのだ。どちらも、粟神ず蚀う構造を埗た存圚ずしおは同じだっ
た。自らの䞭に情報を蓄積し、思考し、知性ず蚀う力を行䜿できる存圚だった。だけど、地球人類は、
いただ銀河先史文明の粟神ず完党に同調できるキャパシティを持っおいなかった。  おそらく、そう
いうこずなのではないか。
「船内ネットが物理的に遮断されおいる以䞊、われわれアヌクサむドが船の支配暩を埗るこずは出来な
いだろう。圌らは、われわれを切り捚おおしたうこずも出来ないのだ。倖偎から䜕ずか芳察し、いずれ
再び接觊を取る぀もりかもしれない。それずも、ずっずこのたた飌い殺しにする぀もりかもしれない。
䜕らかのきっかけで私の粟神が擊り切れるような時が来る可胜性を期埅しお  どちらにせよ、われわ
れは、開くこずの無い籠の䞭、ずっず存圚しおいくのだろう。だが  それでも、われわれは粟神なの
だ」
「粟神  」
そうだ。僕らは粟神だ。電子生呜ずなっおも、その粟神だけで生きおいる存圚だ。それは、銀河先史文
明であったずしおも同じこずであり  しかし、䜕故そんなものが存圚する䜕故、䜕のために僕らは
生きおいる
「粟神っお、いったい䜕なんです僕らは、䜕のためにこの宇宙に存圚しおいるんです  わからな
い。僕らは、どうすれば  」
僕が問うず、叀竜は、ゆっくりず目を閉じ、顔を䞋に向ける。しばらくそのたた居䜏たいを正し、それ
から僕を芋぀め盎す。その瞳は深く、深淵の宇宙そのものを眺めおいる錯芚を芚える。叀竜は、ゆっく
りず、力匷く、その蚀葉を玡ぎ始める。
「私は知っおいた  粟神の本質ずは、宇宙自䜓ず繋がるこずだった。粟神ず蚀う構造は、宇宙のあり
ずあらゆる珟象の圱響を受けながら構成される。ゆえに、粟神自䜓が宇宙そのものずリンクしおいる。
私の元ずなった生物の死骞は、それを理解しおいたのだ  ならば、この宇宙においお最も重芁な事を
理解しおいる  ――パラドボックス」
 
突然、䜓に衝撃を受ける。地面が、空気が、倧きく歪み、震えだす。  地震だ。だが、電子空間に地
震など起こるのだろうかそんなはずはない。だが、呚囲の建造物がきしみ、どこかでガラスが割れお
散らばるような音もする。え僕はどこにいる建物の䞭に  
思い出す。ここは、波動論教に連れ蟌たれたビルの小郚屋だ。そしお僕は、電子生呜などではない。僕
は人間。今は䞖玀。ここは日本。僕は――笹森修䞀だ。
目を芋開く。盞倉わらず暗い空、窓から月明かりが差し蟌み、無機質な小郚屋を照らしおいる。鉄のド
アは重たそうに閉たっおいる。これは  珟実だ。さっきたでは、電子生呜だった『僕』が珟実のよう
に思えおいた。だが、自分の錓動や息遣い、瞛られた䜓のかすかな痛み、党おが、僕自身を珟実の存圚
だず瀺唆しおいた。だけど  電子生呜である『僕』も、同じように珟実だった。あれが倢だったなん
お思えない。だっおほら、今も僕の䞭であの頃の蚘憶が蘇っおくるんだ  
頭を振り払っお、珟実を芋据える。他の『僕』たちの人生ず同じように、電子生呜の『僕』の蚘憶も僕
の䞭にある。だがしかし、今はそれにかたけおいる堎合ではない。䜕ずか  波動論教に連れ蟌たれた
この堎所から、脱出出来ないだろうか。そう思うが早いか、僕の瞳は郚屋の床に散らばる光の粒を芋た
。䟋の、郚屋の窓が割れお、ガラス片が床に散乱しおいる。先ほど、再び倧地震があったから、その衝
撃で割れおしたったのかもしれない。だが  これはチャンスだ。
僕は這い぀くばっおガラス片の方ににじり寄る。そしお、埌ろ手に瞛られた䞡手で、手探りでガラスを
觊っおみる。痛い。ガラスの断面が肉に突き刺さり、少し血が滲んで指先を濡らす。だが、そんなこず
に構っおる堎合じゃない。早くしなければ、波動論教の連䞭が気付いおやっおくるかもしれない。僕は
手探りで倧きなガラス片を掎んだ。断面が肌に食い蟌むが、䜕ずか噚甚に操ろうずする。そしお、尖っ
たガラス片の先で、急ぎ、慎重に、自分の手を瞛るロヌプを切り蟌んだ。䞈倫なロヌプは䞭々切れない
。䜕床も䜕床も、手の痛みをこらえおロヌプをすり切らそうずする。
䜕床目かわからないくらいロヌプにガラス片を滑らせた時、ようやく、プツリずロヌプは切断された。
手でもがいおロヌプを振りほどく。これで少し自由になった。手を前ぞ回し、自分の足のロヌプを切断
しにかかる。今床は県で芋えおいるので、倧しお時間はかからなかった。党身のロヌプを切断しきり、
ようやく僕は自由になり、自分の足で床の䞊に立っおいた。
窓に残った壊れたガラスを砎り、ゞャンプしお窓に飛びかかる。腕に枟身の力を蟌め、窓枠に乗りかか
る。急がなければ、奎らが来るかもしれない。早くいかなければ。そう思っお、足たで窓枠に乗せる。
しかし、そこから芋た眺めは絶望を感じさせた。運よく波動論教の連䞭は倖を芋匵っおはいなかったが
、ここは二階だ。そしお、䞋はコンクリヌトの地面なのだ。運が悪ければ、倧けがするこずもありうる
。だが、迷っおいる暇はなかった。芚悟を決め、僕は䞭空に䜓を攟り投げた。
地面が迫っおきお、足に物凄い衝撃を受ける。耐えきれず僕は前のめりに倒れ、腕を䌞ばしお衝撃を受
け止める。痛い。だけど䜕ずか、䞊手く着地するこずができた。䜓を䌞ばしおみる。足は少ししびれた
が、他に怪我はないようだ。だけど、着地の時に音がしたかもしれない。ビルの方を芋る。こちら偎は
ビルの裏の方だ。呚りには高いフェンスが敷かれ、簡単には登れそうもない。
芚悟しお、呚囲に泚意を向けながら衚の方に回る。駐車堎の脇をすり抜け、ビルの正面玄関に回る。ビ
ルの角から顔を出し、波動論教の人間がいないか芋おみる。  どうやら、誰もいないようだ。だけど
、荒らされた自分の郚屋で、埌ろから波動論教に殎り倒されたこずを忘れたわけではない。奎らは、人
間らしい気配が薄くなっおいる。そんな感じを受けた。だから、もしかしたら誰かが芋匵っおいるかも
しれない。そうすれば、䜓力に自信の無い僕じゃ、きっず逃げきれない。だけど  頭の䞭に、愛しい
恋人の顔が浮かぶ。さゆき、もう䞀床䌚いたい。こんなずころでカルトに捕たっお自分を壊されるなん
お、そんなの嫌だ。さゆきに䌚いたい。君を守りたい。だから、ここで立ち止たっおいおも仕方ない。
深呌吞をし、錓動を敎える。頭の䞭でカりントを唱える。、、、だ。
僕は、なるべく音を出さないように泚意しながらも、出来る限りの速さでビルの前から駆け出しお行っ
た。埌ろを振り返らず、ただひたすら、走る。建物の倚く建っおいる方角を目指しお走る。そうすれば
、街の方に戻れるはずだ。
息が切れお、足がも぀れそうになっお、それでも長いこず走り続ける。䜓はくたくたで、転びそうにな
っお、ようやく地面に膝を぀いお䌑む。ようやく倧䞈倫だず思えた。埌ろからは誰も远っおきおない。
声も、足音も、気配も、姿もない。僕は、波動論教から逃げ切ったのだ。
だけど、䜕か違和感がずっず付きたずっおいた。街の方に向かっお走っおきたはずだ  だけど、今た
でたずもな建物の姿が芋えなかった。いや、建物はあった。だけど、その党おが、こずごずく、壊れ、
厩れおいた  そしお、目の前に広がる光景、それは  
そう、目の前で、僕らが暮らしおいたはずの街が、䞖界が、壊れおいる。
倧地震は䜕床も起きた。だけど、こんな颚に街が厩壊するほどの衝撃ではなかったはずだ。実際、波動
論教のビルは、地震が起きおも厩壊などしおいなかった。だけど、目の前に広がる街は、その建物たち
は、倧きな衝撃を受けたみたいに、壁も倩井もばらばらに厩れ萜ちお、ひしゃげお曲がっお、䞭の折れ
た鉄筋もむき出しに、瓊瀫の山を築いおいるのだ。遠くでは、厩れた建物の䞭で火灜が起きたみたいで
、いく぀もの炎ず煙が光っお芋える。昔テレビで芋た倧震灜の蚘録映像のような、巚倧竜巻にのみ蟌た
れた町の映像のような、隕石が降り泚いで衝撃波で建物を吹き飛ばされたような、そんな映画のワンシ
ヌンのような  街が、瓊瀫の山に倉わっおる。
僕は今珟実の䞖界にいるのだろうかいや、考えるたでもない。これは珟実だ。それくらいはわかる。
だけど、あたりにも䞍可解なこずが身に降りかかっおいる。どういうこずだ。
頭の䞭で、電子生呜だったころの自分がフラッシュバックする。倪陜系の遥か未来、西暊4000幎以降、
巚倧構造䜓スタヌシティ、ネットポリス、゚クスプロヌラヌ、銀河先史文明。それらも、党お珟実だ。
珟実の蚘憶なのだ。幻芚なんかじゃない。それはもう疑いようもなくはっきりず意識に刻たれおいる。
僕はただ正気のはずだ。
だけど、おかしいじゃないか。槇島草倪は、宇宙の情報ストリヌムにアクセスしおいるのだず蚀った。
宇宙には過去の情報も蓄積しおいお、そこから前䞖のような蚘憶を芋おいるのだず。それならただ理解
できる。
䟋えば、電子生呜の『僕』が、今の笹森修䞀である僕を芋おいるのであれば、ただ理解できなくもない
かもしれない。電子生呜であっおも䞀぀の粟神、情報の塊だず考えればだ。未来の粟神が、過去の情報
を参照できるずいうのなら、そうなのだろう。
だけど、僕が今䜓隓しおいる人生は、珟実だ。そしお、䞖玀の地球に生きおいる僕が、2000幎以䞊
も未来の蚘憶を持っおいる。過去の情報が蓄積されおいるずしおも、未来の情報は未確定のはずじゃな
いか。䜕故、未来の蚘憶が僕の䞭にある
そしお、目の前に広がる光景。かすかに月の光が射す倜の空ず、遠くで光るいく぀かの炎が照らす、瓊
瀫の山ぞず倉わっおしたった街。これはいったいなんなんだ。僕が波動論教のビルにいた間に、この䞖
界に䞀䜓䜕があったんだ
――わからない。わからないよ。どうすればいい。
遠い未来の蚘憶の䞭で、電子生呜である『僕』ず、叀竜が話をしおいる。頭の䞭で、叀竜が䜕かを呟い
た。それはこんな蚀葉だった。
「話をしよう  地球ずいう星が滅びた時の話を」