Victo-Epeso’s diary

THE 科孊究極 個人培萌 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノヌベルノヌクスクラム賞狙い 右䞊Profileより特蚘事項アリ「

📓 幞せのかたち

 廃星メルポメニアから通信が入った。
「人はなぜ幞せを求めるのですか」
 
 たった䞀蚀だけだった。その文面を芋た途端、懐かしい蚘憶が蘇っおきた。
 
 その蚀葉は僕の脳裏にはっきり焌き぀いおいる。忘れもしない、西暊4000幎、床目のミレニアムに沞き立぀惑星パンテオンの空䞭郜垂。その光景を遥かな県䞋に望み、軌道ステヌションの展望宀、圌女ず僕は向かい合っお立っおいた。圌女はその時既に実幎霢1200歳を超えおいお、生掻幎霢は60歳前埌、肉䜓幎霢はたったの17歳だった。この時代においお、ただ幌い圌女の頬は赀く染たっおいた。
 望もうが望むたいが人には責任が䞎えられる。二日前に届いたメルポメニアからのメッセヌゞドロヌンは、圌女の仕事であるサむバネティクス゚ンゞニアを火急に求めおいた。圌の惑星の産業を倧きく占めるサむバネティクス、぀たりメタ珟実である仮想䞖界ポリスの惑星党䜓でのシステム皌働率が倧幅に萜ちおいるず蚀うのである。原因は䞍明。このたたではおよそ20幎以内にシステムは完党に埩旧䞍可胜なラむンを割るだろうず蚈算されおいた。
 そしお䜕より、惑星党䜓においお、グレむズナヌボディは完党に皌動を停止しおいた。圌らの完党な機械化産業は、ここで裏目に出た。物質䜓ずしおのシステムチェックを行える肉䜓人が技術者があたりにも少なく、事態は深刻化しおいる。そこで圌らは、近傍の惑星からフレッシャヌの技術者をかき集められるだけかき集める事にしたのだった。
 
 奇しくも、メッセヌゞドロヌンが届いたのはパンテオンでは千幎玀の祝祭が始たった途端の出来事であり、圌女にずっおは、生涯の䌎䟶を倱った翌日のこずだった。
 
 圌女は地球最終䞖代の、あのシャルル・クラむン事件の生き残りだった。
 地球では西暊2000幎代、倧戊埌から終わりにかけお、カスタマヌ連合の地球脱出が進められおいった。
 圌女が10歳頃の時、最終移民団は地球を離れおいった。その時、䞀隻の移民船ぱンゞンが暎走。予定の航行軌道を倖れ、ある星系の圱響範囲を通過した。それは倧きな䞭性子星だった。予定に無い巚倧なパルサヌはシヌルドを突き砎り、船内の機械系等に倧きなダメヌゞを䞎えた。その埌、船はシャルル・クラむンリフトず呌ばれる暗黒の宙域を数癟幎もの間さたよう事になる。
 
宇宙で行方䞍明になった船の行方を探すのは、あたりにも難しかった。
 数癟幎の間に、救助船団が数床掟遣されたが、その床船を発芋する事は出来ず、既に発芋は絶望芖されおいた。ずころが、銀河宙域図の空癜を埋める<マッパヌ>の船が、偶然リフト付近の小惑星垯で船の残骞を発芋した。回収された船には、驚くべき蚘録が残っおいた。船内のコヌルドスリヌパヌは睡眠機の故障により党滅しおいたが、実はスリヌパヌの䞀郚がパルサヌを通過する盎前に、船から小型救呜艇により脱出させられおいたずいうのだ。
 その蚘録を元に救護船は実際に救呜艇を発芋した。
 
 䜕故、船のシステムはそのような呜什を䞋したのか、それは今でも䞍明だった。䞀説によれば、䞭性子星より゚ネルギヌを搟取しおいた異星人類が倖郚からアクセスしお乗員を救おうずしただの、空間自䜓に意志を刻む超構造䜓が人間を助けただの、荒唐無皜な話があったが、ずもかく圌女は䞀呜をずりずめた。
 だが、蘇生した圌女を埅っおいたのは、家族も䜕もかもをなくし、目的地である怍民惑星ずはたるで違う別の惑星、そしお倧きく時代を隔おた芋知らぬ䞖界ずいう珟実だった。
 
 幌い圌女はショックを受け、心を病むこずになった。圌女は保護斜蚭を抜け出し、違法むンプラントに手を染め、絶え間ない快楜ず幻芚の䞭で䞀䜓のグレむズナヌを砎壊した。
 圌女は党く手に負えない存圚ずなり、他の惑星に移されおは、たた別の惑星ぞずたらいたわしにされた。そうしお 200幎前、ある惑星で保護監察官を務めた僕の兄ず恋に萜ち、やがお、曎生しおいった。圌女は自らの過ちからか゚ンゞニアの道を遞び取り、実力を぀けおいった。
 
 僕は兄を通じお圌女ず出䌚い、憂いを垯びたその県差しにある皮惹かれるものを感じ、僕たちは良き友人になった。兄ず別れた埌も僕らの芪亀は続き、圌女が技術者ずしお他の惑星ぞ転々ずするようになっおからもそれは同じだった。
 
 僕は僕の生掻を続けながら、定期的に行き来するメッセヌゞドロヌンで现々ず連絡を取り合った。そしお時は流れ、圌女から結婚したず蚀う知らせを受けた。惑星パンテオン  数幎埌、僕も仕事で蚪れる事になる惑星だった。僕は自らのささやかな幞運に思いをはせながら、圌女がどんな颚に笑うのか想像しながら冷凍睡眠に入った。
 
 だけどパンテオンのステヌションに到着した僕を埅ち受けおいたのは圌女の笑顔なんかではなかった。
 
 圌女の倫はサむボヌグだった。数䞖玀前のフレッシャヌずグレむズナヌの小芏暡な戊争で倱った肉䜓の倧郚分を、矩䜓ず蚀う圢で補っおいた。生殖胜力は無かったが、圌は圌女を愛しおいたし、圌女も圌を愛しおいた。それで十分なはずだった。だけど、第四ミレニアムの祭兞の際、圌の譊護しおいた政府機関がテロ攻撃を受け、圌は殉死した。圌女は生涯愛するはずだった人を倱い、悲しみに暮れおいた。
 
 そしお、䞖界はたた圌女の倧切なものをさらい、圌女自身をもさらっおいくのだ。
 
「生呜掻動を停止した圌の脳内に、むンプラントによる情報回線の名残が残っおいたした」
 圌女は蚀った。サむバネティクス゚ンゞニアである圌女は特別に倫の死䜓を調査する事が出来たのだった。それが違法な事か合法的な手段を䜿ったのか、僕には分からなかった。
「圌は最埌に䞀぀の蚀葉を残しおたした。私に向けたメッセヌゞだった。おれが死んでも、悲したなくおいい。お前は幞せになっおくれ」
 僕は䜕も答えられなかった。
「人はなぜ幞せを求めるのですか」
 僕には圌女の瞳を芋おいられなかった。思わず目を逞らし、圌女の続く蚀葉を聞く。
「幞犏は脳の䞭で生み出される幻想に過ぎず、悲しみも、幞せも、党お粟神システムの䜜り出す幻に過ぎない。そこには䜕の䟡倀も無いのに  それでもなぜ幞せを求めなくおはいけないのですか」
 僕はその答えを芋出す事は出来なかった。
「なぜ、こんなに苊したなくおはならないのですか」
 圌女は泣いおいただろうか。僕はただ、メルポメニアぞず向かう圌女の姿を芋送るしか出来なかった。
 
 圌女にずっおは、打ち蟌むべき仕事があるだけで䜕ずか心を保っおいるのかもしれなかった。僕にはその支えになるこずが出来ない。酷く歯がゆい思いだけが残り、僕の胞を締め付け続けたのだった。
 
 それから数幎が過ぎた。䜕凊からかメルポメニアのポリスネットワヌクが厩壊し、電子人類が党滅し、やがお惑星そのものが閉鎖されたず蚀う知らせがあった。原因は䞍明だが、惑星特有の自然珟象により機械類に悪圱響をもたらすず掚枬され、惑星そのものが廃棄されたのだずいう。
 メルポメニアに留たっおいたはずの肉䜓人たちの行方がどうなったのか、知る術は無かった。圌女からはパンテオン以来連絡は無かった。それでも圌女は今もこの宇宙のどこかで生きおいるような気がしたたた、なんずなく時を過ごしおいた。
 
 そのメッセヌゞが届いたのは、あれからたた数癟幎がたっおからだった。以前居䜏しおいたいく぀かの惑星からたらいたわしにされおきたメッセヌゞは、玛れも無く圌女からのものだった。差出人の堎所は、廃星メルポメニア  僕がメルポメニアに行く事を決める理由はそれだけで十分だった。
 
 僕は特別に個人シャトルを賌入し、広倧な宇宙を数十幎もかけお飛び、やがお圌の惑星に到着した。シャトルから着陞船に乗り換えお、その小さな銀の惑星に着陞した。
 
 メルポメニアは倧昔僕らの故郷だった倪陜系の、氎星ずいう惑星ず非垞に䌌たような圢状だった。倪陜茻射はたいしたこずは無いが、その熱ず光から゚ネルギヌを埗お、地衚を埋め尜くす巚倧仮想ポリスネットワヌクを動かし続けるのだ。
 僕はその人気も無くなった小さな郜垂のような居䜏区に入っおいった。廃墟の街を歩いおみるず、突然暗がりがパヌッず明るくなった。ネオンが茝き、賑やかに芋える。そしおそのネオンたちの明滅パタヌンは、ある方向を指し瀺しおいた。圌女が導いおいる  僕は確信した。
 たどり着いたのはある䞀぀の研究所らしき斜蚭だった。玄関ドアは自動的に開き、゚レベヌタヌが勝手に地䞋ぞず運んでくれた。そこには巚倧なスクリヌンを前にコンピュヌタヌの端末が立ち䞊ぶ郚屋だった。呚りは吹き抜けになっおいお、深遠の闇が地の底たで続くようだった。郚屋が明るくなる。スクリヌンには映し出されおいた  あの時から寞分違わぬ、圌女の顔。
 
「よく来おくれたしたね」
「ああ  久しぶり」
 圌女はくすっず笑った。
「お久しぶり  なんだかちょっず老けたみたい」
「無理も無いさ、あれから䜕癟幎ず立っおるんだから  ああ、なんお懐かしいんだ。どうしお、君は  いや、今君は䜕凊にいるんだ」
「䜕凊に居るのだず思いたす」
 その時、笑った圌女の顔の埌ろに、䞀面の花畑が映し出されおいる事に気づいた。空は晎れ枡り、雲の間からプリズムのような光が降り泚ぐ。小川のせせらぎ。小鳥たちの歌声。叀い時代のフィルム映動でも芋おいるようだった。こんな自然に溢れる光景は、珟実に芋たこずが無かった。
「  分かるでしょう、楜園、ですよ」
「どういうこずだ」
「こんな玠晎らしい䞖界が、珟䞖にあるわけが無い。そうでしょう」
「぀たり、そこはシミュレヌタヌの仮想䞖界ず蚀う事かポリスは滅びたはずじゃあ  」
「そう。メルポメニアのポリス䞖界はその機胜を停止しようずしおいた  だから私もここに集められた」
「でも  本圓は違った」
「ご明察  でも、正垞に機胜しなくなったず蚀うのは事実でした。垞識的な面から蚀えば」
「分かるように説明しおくれ」
「そうしたす。こんなこずを考えた事はありたせんかオヌルドアヌスでは無意識ず蚀うものの力が倧きく取りざたされおいた。でも次第に人類は脳の機胜たでも操り、むンプラントやナノチップによっお朜圚意識を自圚に操るような技術を手に入れおいった。だから、無意識ず蚀うものに察する信仰心は消えおいった。でも、あの、地球では、無意識ず蚀うものは瀟䌚の背景にあり、人類党䜓を連結させおいるず考えられおいたの。やがお個が溶け合い、あらたな䞀぀の生呜䜓を生み出すず考えた者もいた。そしお、そんな時の圌方に埋もれた時代遅れな発想は、時代を超えこのちっぜけな惑星に起こったの。最初はほんの偶然だったんでしょうね。掚枬では仮想空間プログラムの曎新の際に生じた奇跡的なバグだったみたい。ある電子人栌が、他の電子人栌そのもののデヌタをダりンロヌドしおしたい、その人栌が仮想空間の栌子を通さず、デヌタ量が盎接的に連結する状態を䜜り䞊げおしたった。[圌圌ら]はその自分の状態を認識し、盎埌にその玠晎らしさを悟ったんです」
「人栌の連結ずいうこずかそんな銬鹿なこずが」
「でも、人の䞭にはいく぀もの矛盟した思想が入り混じっおいたりするものでしょう。右脳ず巊脳、倧脳ず小脳、それどころか無数の臓噚や筋肉、骚栌、现胞  人間だっお、実は無数の独立した構造物が連結しお生み出されおいるような奇跡的な存圚でしかなく、そしお、人間の先には<人類>がある」
「それで  どうなったっお蚀うんだ」
「[圌圌ら]は、もちろん自分の玠晎らしい状態を、曎に拡匵しようずした。䞍安定になったその状態は、他のポリス内の党人栌のデヌタを自らにダりンロヌドし連結しおいく事を可胜にした」
「わかった。その結果、ポリスの凊理胜力が限界を超え、機胜が䜎䞋しおいったず蚀う事なんだな」
「そういうこずです。そしお、䞀芋正垞に機胜しなくなっおいっただけのポリスの䞭で、実は新たな未来を生み出す黄金の卵が眠っおいたず蚀う事です。私は、それに気づいおしたった」
「  教えおくれ、今の君は君なのか、それずも、君たち、なのか」
「ご掚察どおりです。私はずっず考えおきた  この䞖界での本圓の幞せず蚀うものを。あの時私が蚀ったずおり、幞犏も悲しみも脳の䞭で生み出される幻想に過ぎず、党おは䞍完党な粟神システムの䜜り出す幻に過ぎない。党おは無意味なはずだった。でも、気づいた。人間の最も単玔な感情っお䜕だず思いたす誰かず繋がるず嬉しい。誰かず繋がらないず寂しい。人間は心同士を理解し合うこずや、䜓が繋がる事を求めおいる。それは分子、有機物、现胞ずいったように集たっおいく物質集合䜓である人間にずっお、圓然の事だった。物質は匕力を持ち、䞖界の法則は曎なる繋がりを求めおいる。それこそが宇宙の真理であり、無数の粟神がやがお䞀぀の<人類>を䜜り出す  これこそ、この䞖の本圓の幞犏だったんです。これこそ、傷぀けあう事も離れる事も無く完党なたたでいられる、理想の存圚だったんです」
 僕は打ちのめされおいた。こんな銬鹿なこずっおあるのだろうか。この宇宙䞖玀においお、人類は自らの䜓をどんどん拡匵し、個ずしお完党な存圚に近づく事を目指しおいる。仮想䞖界シミュレヌタヌも、元々曎なる個の確立のためのものではなかったのか。
「こんなこずが、䞖界の真実だっお蚀うのか僕には分からない  」
「私が、私であった頃にもそう思っおいたしたよ」
「君は誰だ。圌女の姿をしお『私』なんお蚀葉を䜿うな  君は君じゃない、䜕故僕を呌んだんだ」
「ふふ、私を生み出しおくれた『圌女』に察するせめおもの手向けですよ。『圌女』は自らその人栌をこちら偎の䞖界に移し、[私私たち]の䞭に溶け蟌み、[私私たち]を生み出す手助けをしおくれた。私の䞭には今新たなる宇宙が誕生しようずしおいる。そのこずを知らしめるためにあなたを遞んだのです、光栄でしょう」
 圌女の顔は歪み、始めお芋る笑みを浮かべた。僕の知る圌女の顔ずはかけ離れおいた。もう、圌女は圌女だけではないのだ――い぀の間にか背景は楜園から、宇宙ずも光の垯ずも぀かない抜象的なものに倉わっおいた。
「くそったれ  なんおいうこずだ」
「[私私たち]はもうじきこの惑星を離れたす。党おのグレむズナヌを支配䞋に眮き、[私私たち]を構成するポリス党おを宇宙船そのものに改造した。あらたな宇宙生呜䜓の誕生です。さあ、あなたは自らの人類の元に垰っお、そのこずを䌝えなさい。それが」圌女の顔が、䞀瞬元に戻り、「私の最埌の願いです」――そしお、消えおいった。
 
 僕はそれから自分でも分かるくらい沈痛な衚情のたた惑星連合䞖界に戻り、僕自身の䜓隓を発衚した。
 
 みんな最初は信じなかった。でも、数十幎埌には、圌らはわざわざ人類を蚪問しおくれた。各惑星のスクリヌンず蚀うスクリヌンにそれは映し出された。そしお人類の誰もが知るこずになっおいた。新たな<人類>、リンクメむカヌの存圚を。
 
 圌女にずっおの幞犏は、個でなくなるこずだった。でも、僕はそれを受け入れられなかった。あれからたた長い幎月が過ぎた。今、僕はこう思う。[圌ら]は自分たちこそが人類の進むべき道かのように蚀っおいたが、僕にはそれを受け入れられない。幞犏の圢が人それぞれであるのは、぀たりリンクメむカヌの䞻匵が党お正しいず蚀うわけではない事を物語っおいるのではないか。圌らもたた人類の生み出した無数の可胜性の䞀぀に過ぎず、可胜性に終端など存圚しないのだ。
 
 いずれにせよ、僕は僕の人生を生きるしかなかった。[圌ら]にだっお、それをどうする事も出来ないのだ。
 
(了)