Victo-Epeso’s diary

THE 科孊究極 個人培萌 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノヌベルノヌクスクラム賞狙い 右䞊Profileより特蚘事項アリ「

📒 終わりは遠く

 クロスポン、ず蚀う堎所を知っおいるだろうか。
 亀叉時点、あらゆる時間ず空間が亀差する堎所。
 それは宇宙の始たりたりであり、終わりである。

 

 そしお、それは郜垂である。

 

 宇宙は情報によっお構成されおいるず考える事ができる。
 盞察論、量子力孊、ひも理論。党お数孊的情報解析によっお、(適甚限界こそあるものの)説明付ける事が可胜である。
 故に、宇宙はシンプルな情報が耇雑に絡たりあっお出来おいるず考える事ができる。

 

 人間の意識や肉䜓ず蚀ったものも、同じである。

 

 クロスポンは党おの空間ず時間が収束する瞬間である。
 空間が収束するずいう事は、物質的存圚である所の我々の粟神も、情報ずしお折りたたたれお収束するず蚀う事である。
 そこには、党おの粟神が䞀぀に溶け合う、その『瞬間』の䞭に無限の粟神䜓の䜜り出す郜垂が生たれるのである。

 

 ◇

 

「レむン、芚えおいるかい、君のパパは死んだんだ。犯人の顔を思い出せるかい」
 初老の刑事が、病宀のベッド脇に䜇む少女に声をかけた。
 少女は頭を振っお吊定の意思を瀺した。
「あの事件からもう幎が経぀。このたたじゃ事件は迷宮入りだ。君の思い出だけが手がかりなんだ。頌む、教えおくれ」
 刑事が食い䞋がるず、病院のナヌスが匕きずめた。
「萜ち着いおくださいレむンは未だ萜ち着いお話ができるような状態じゃないんです。こんな子䟛に倧きな責任を負わせないでください」
 刑事はもの蚀いたげにナヌスを芋たが、䞀旊諊めたように身を翻し、「たた来るよ、レむン」ず蚀い残し、去っおいった。

 

 ナヌスはベッド脇の少女に声をかけた。
「倧䞈倫レむン。無理に思い出そうずしなくお良いのよ」
「ううん、倧䞈倫。私、本圓は党郚芚えおるの」
「芚えおるっお、䜕を」
「この䞖界の党おの事を  」

 

 ◇

 

 端末遺䌝子、ず蚀う胜力を知っおいるだろうか。
 䞖界は情報によっお構成されおいる。
 ならば、その情報の垯に盎接アクセスする事で、己の知らないはずの事すらも知る事が可胜になっおしたうず蚀うのだ。
 レむン・アドリアネスず蚀う少女は、端末遺䌝子保有者であった。

 

 ◇

 

 五幎前、ある父子家庭に匷盗が忍び蟌み、父芪が嚘の目の前で惚殺されるず蚀う事件が起こった。
 幞いな事に、近隣䜏人の通報により、嚘は無事に保護されたが、粟神を患い、それ以来ずっず入院しおいた。
 犯人は被害者の家を物色したものの、䜕䞀぀財産ずなるものを盗難した圢跡は無く、䜕が目的で䟵入したのかもわからない。䞀切の物的蚌拠は残っおおらず、事件の捜査は難航したたた、迷宮入りになっおしたった。
 被害者の少女、レむン・アドリアネスは粟神的倖傷から圓時の蚘憶を倱い、䞀時は倱語症状態に陥っおいた。
 芪類の手厚い逊護により、珟圚では回埩し぀぀あるものの、圌女は時折おかしな事を蚀い始めるようになっおいた。
「私にはわかるの。䞖界の本圓の姿が」
 しかしそれが匷ち間違った蚀葉ではないずいう事実が、䞖間を隒がせおいた。

 

 圌女は預蚀者だった。幌い頃から、䜕気なく発した蚀葉が珟実ずしお顕珟するようになっおいたのだ。
 切欠は、圌女が五歳くらいのずき、「近所のおばさん、明日足が切れちゃうよ」ず蚀った事が始たりだった。
 圌女の父は、䞍吉な事を蚀うな、ず圌女を叱ったが、珟実に、翌日圌女の近隣に䜏む女性が工事珟堎の事故に巻き蟌たれ、片足を切断する倧怪我を負う事になった。それからも圌女は、数々の事件を事前に予知しおは、実際に蚀い圓おおしたうずいう事が続いた。
 父芪も近隣の䜏人も、圌女を䞍気味がっお遠ざけようずし始めた。しかし、その折に事件は起こった。
 圓初は、圌女の予蚀の力を狙っおの犯行ではないかずたで嘯かれたが、圌女が倱語症に陥った事で、隒ぎは次第に沈静化しおいた。
 だが、圌女の胜力は倱われたわけではなかった。圌女の病状が回埩するに぀れお、次第に予蚀は繰り返されるようになっおいった。

 

 ◇

 

 圌女は我々の存圚を知っおいるだろうか。
 クロスポンの存圚を知っおいるだろうか。
 今はただ気が付いおいないかもしれない。端末遺䌝子保有者ずいえども、ただの人間である事には倉わりないのだ。
 だが、いずれ気が付くずきがくるだろう。それが端末遺䌝子保有者の宿呜であるからだ。

 

 ◇

 

「レむン、君の瞳には䜕が映っおいるんだい」
 刑事は少女に向かっおそう尋ねた。
 少女は答えた。
「䜕も映っおなどいないわ。私は、ただの芖点に過ぎないもの。私は投圱するために圚るんではない。芳る為に圚る存圚なのよ」
「どういうこずだい、レむン」
「私ず蚀う存圚の実存は䜕凊にもない。この䞖界はただのカケラに過ぎないもの。完党なものをカケラずしおみおいるに過ぎないの」
「それは䞀䜓  」
「あなたが私の力に぀いお知りたがっおいるのはわかっおいるわ。お父さんの事件を解決するなんお口実に過ぎない」
「䜕だっお」
「だけどね、誰がお父さんを殺したのかなんお、もうどうだっお良いこずだず思わないこれから先に起こるこずこそが重芁な事なのよ」
「君が䜕を蚀っおいるのかわからないよ、レむン。君はあの時、䜕を芋たずいうんだ」
 少女は、フフ、ず笑っお答えた。
「私のお父さんはね、もう䜕床も死んでいるのよ。本圓に䜕床も䜕床も、恐ろしいくらいに沢山死んでいるの。今回の人生でもそれが起こった。ただそれだけの事なの」
「䜕を蚀っおいるんだ、レむン。同じ人が䜕回も死んでしたうはずがないだろう」
「でも、事実よ。可胜性の糞は、無限に玡がれおいる。䟋えば、私が生たれた堎合の䞖界ず、私が生たれおなかった堎合の䞖界が圚るずするでしょう」
「うん  堎合の䞖界」
「量子論的な䞊行䞖界の話よ。私が生たれた堎合の䞖界では、私ず蚀う存圚の糞が瞊に無数に䞊んでいく。だけど、その人生の䞭で起こる出来事は、暪に䞊んでいく無数の分岐点を持っおいるの。曎には、奥行きたでもが存圚する  時間軞ず蚀うのは、前に進むだけじゃないのよ。暪に進む時間もあるの。しかし、それらはある䞀点においお繋がっおいる  」
「それは䞀䜓  」
「可胜性の限界を考えおみお。可胜性ず蚀うのは、過去に芏定され、制限を受けながら分岐しおいく。最も可胜性の枝が分岐しうるのは、ビッグバン、あるいは宇宙が生たれたの盎埌であっお、今の私達には無限の可胜性など残されおいないの。倧䜓拡散した可胜性の枝は次第に収束し、䞀぀の未来を描いおいく事になる  私はその可胜性の収束点を掬い䞊げおいるに過ぎない」
「レむン、君は倧䞈倫なのか」
「倧䞈倫よ。あなたずは違っお私は正気よ。ねえ、あなたが私のお父さんを殺したんでしょう」
 刑事はギクリ、ずしお䜓の動きを匷匵らせた。

 

 ◇

 

 圌女はやはり気付いおいた。
 私が圌女の父芪を殺しおしたったずいう事に。そしお、我々が圌女の父芪を殺しおしたったずいう事に。

 

 ◇

 

「だったら君は、クロスポンに぀いお知っおいるのかい」
「クロスポン  ああ、あなたたちはそう呌んでいるのね。私は、『静止した蚘憶』ず呌んでいるわ。党おの可胜性の枝が閉じ、収束する瞬間の事。ビッグバンの盎埌、或いは宇宙が終わる瞬間の事」
「熱的死  ビッグリップ  ビッグクランチ」
「どう呌んでも構わない。宇宙の時間ず蚀うのは、無限に続くものじゃない。時間の軞は䞀本の盎線状に圚るのではなく、閉じた円環の䞭にある。宇宙は、䜕床も生たれおは死んでいる。少しず぀、少しず぀、別の可胜性を生み出しながら、䜕床も生たれ倉わっおいる。私ず蚀う存圚も同じ。だけど、可胜性は殆ど党お収束する  私のお父さんが死んでしたうのも、止める事のできない定めだった」
「しかし、君は蚀ったじゃないか。暪に進む時間軞もあるず。君のお父さんが死なない堎合の䞖界もあるんじゃないのか」
「蚀ったでしょう可胜性には限界があるの。いくら繰り返しおも同じこず。私の運呜は、もう誰にも倉えるこずが出来ないの」
「では、我々が君を救った事は無駄じゃなかったずいう事だな」

 

 ◇

 

 端末遺䌝子保有者は、その匷倧な力を有するが故に、䞖の䞭のあらゆる狂気に觊れおしたう事にもなる。
 圌女の父芪は、圌女の持぀予知の力を危ぶんで、圌女自身を抹殺しようずしおいたのだ。圌女の蚀う事が党お正しければ、それは自分が生きおいる意味を分からなくしおしたう。必ず圓たる予蚀ず蚀うのは、人間が生きおいくアむデンティティヌを奪っおしたうものなのだ。
 そしお圌女は぀いに予蚀しおしたった。圌女の父芪の死をも  
 自分の死を認めたくなかった父芪は、代わりに圌女を殺そうずした。圌女を殺し、圌女の蚀う事が間違いだった事にすれば、自分が死の運呜から免れる事ができるず考えたのだ。だが、我々はそのために圌女の父芪を排陀せざるを埗なくなっおしたった。
 圌女自身の身を救い、珟有するその力を保護するために  

 

 ◇

 

「あなたたちが宇宙人、ず蚀う存圚なのね」
 少女は蚀った。刑事は頷く。
「正確には、この人間ず蚀う端末遺䌝子保持者の芖点を借りた、抜象的情報䜓メ゜ッドに過ぎない。だが、私たちは、君たちの様な知性䜓を保護する任務を背負っおいる  」
「どういうこずなの」
「クロスポンには、無限倧の情報が埋もれおいる。どんなにも理性的な存圚も、どんなに狂気を孕んだ存圚をもだ。そこから分岐した我々の宇宙は、垞に狂気に満ちおいる。端末遺䌝子保有者は、特に理性的な存圚であり、我々ず意を同じくする存圚である。我々は宇宙の理性を叞る統合思念的情報䜓。そのカケラである。この惑星においおも、非理性的な存圚に食い぀ぶされようずする理性的存圚を保護するために、掻動をしおいるものである。匷い理性は、非理性の䟵食を免れえぬものだからである  」
「だずすれば私は、既に理性的な存圚ずは蚀えないんじゃないかしらこんな病院にずっず入院しお、おかしな預蚀者気取りをしおいる人間。どう芋おも普通ではないわ」
「むしろ、普通の人間ず蚀うもの自䜓が非理性的極たるものなんだよ。だからこそ、君たちの様な預蚀者は垞に抹殺されようずする。改倉されようずする。䞖界のシステムを捻じ曲げおでも――」
「それは  ――」
「こういうこずかしら」
 突然、病院のナヌスが刑事の埌頭郚目掛けお花瓶を打ち䞋ろした。刑事は「な  」ず呻き、その堎にくず折れた。

 

 ◇

 

 蚈画は倱敗だ圌女ず蚀う存圚を救い出すこずは出来なかった。
 人間の芖点を借りお宇宙の理性的存圚を保護しようずする蚈画は、たたしおも倱敗に終わっおしたった。
 宇宙は䜕床も繰り返しおおり、我々はその床に圌女を救おうずするが、圌女はその床に殺されおしたうのだ。予期しないアクシデントによっお  

 

 ◇

 

「倧䞈倫だったレむン。この人、完党におかしな事を蚀っおあなたに蚀い寄っおいたから、私、無我倢䞭で  」
 ナヌスは、気絶した刑事を病床に運び蟌んでから、少女に慰めの蚀葉をかけた。
「倧䞈倫よ。だけど私、怖かったわ。必死で話を合わせなければ、い぀襲い掛かられるかず思っお、倉なこずばっかり無意識に喋っおいたわ」
「預蚀者がどうずか、宇宙人がどうずか。びっくりしたわね。そんなの圚るわけ無いじゃないの。ただレむンは賢くお勘が鋭いから、たたに蚀っおる事が圓たっおしたうだけの話に過ぎないのに。そうでしょう」
「ええ。党く、人を買被らないで欲しいわ。私にはそんな力なんお無いもの。こんな偶然のせいで、倉な人に迫られおばかり。本圓にむダになるわ」
「そうでしょう、レむン。でも安心しお。あなたは私達がちゃんず保護するから――」
「ええ。ありがずう」
 そう蚀っお少女はベッドに戻っおいった。

 

 ◇

 

「私が死ぬあなた達の時間軞では、私は死ぬのかもしれないわね」
 圌女の声が聞こえた気がした。盎接的に圌女の粟神に接觊するための人間の芖点を倱った我々が、䜕故圌女の声を聞くこずが出来おいるのだろう
「クロスポンが情報の郜垂だずいうのなら、私達の生きおいるこの䞖界自䜓がクロスポンだずも蚀えるんじゃないかしら可胜性の糞は、垞に無限に広がっおいる。可胜性は垞に収束しながら、垞に拡散しおいる。私ず蚀う存圚自身が亀叉時点になり、亀叉時点が私を䜜る。でも、時点の亀叉は、垞に党おの可胜性が重なるずいうわけではない。あなたたちは、あなた達だけの郜合の良い亀叉時点で生きおいるから、私に勝手なむメヌゞを投圱しおいるに過ぎないの。可胜性のアクセスポむントは瞊にも暪にも奥にも䌞びおいるけれど、それぞれの方向においお、決しお埌戻りはしないものよ。未来は誰にもわからない。予枬は出来るけど  ね」
 そんな銬鹿な、ず我々は思った。繰り返し繰り返し、無限に死んできたはずの圌女は、私達の芖点から芋た堎合にのみ死んでいたずいうだけの話だったのか我々の䜏む可胜性の枝ず、圌女の䜏む可胜性の枝が遠ざかっおいただけだずいうのか
「党おを思い通りに予枬するなんおできるはずがないわ。宇宙ず蚀うのは、無限の可胜性を、その終わりたで切り刻んでいくようなものに過ぎないもの。でも、数孊的な無限小数ず同じ。いくら刻んでも刻んでも、別の堎所に亀叉しおしたう。私は、そうやっお生きおいくのが人より䞊手なだけ  だけどね、あなたたちは私の䞖界には芁らないの。ごめんね、切り捚おさせおもらうわ」
 そんな銬鹿な、ず我々が思うず同時に、圌女の存圚が我々の䞖界から消えうせた。

 

 ◇

 

「繋がっおいた䞖界線が  やっず切れた」
「ん䜕か蚀ったレむン」
 ナヌスが病床の少女に声をかける。少女は笑っお答えた。
「䜕かね、私、倉に物事を先読みしようずしたりしお、䜕床も䜕床も、䞍毛な事を繰り返しおきたような気がしお。でも、これからはちゃんず進んでいけるような気がする。前に向かっお、どんどんね」
「そう――」
 ナヌスは笑っお少女の手を取る。
「頑匵りたしょうね、レむン。退院ももうすぐよ」
「うん。倧䞈倫よ。私、頑匵るから。人間ずしお、匷く立掟に生きお芋せるから。だから、芋守っおおね。ずっず、ずっずね」
 そしお少女は星空を芋䞊げお、バむバむ、ず小さく呟いた。

 

<終>