Victo-Epeso’s diary

THE 科学究極 個人徹萼 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノーベルノークスクラム賞狙い 右上Profileより特記事項アリ〼

📔 終末の書の南

あれからどれくらいの時が経っただろう?地球の歴史が閉じ始めた、あの事象(イベント)の始まりから?
人類がそれに気づいたときには何もかもが手遅れであり、また、気づいてしまったことにより世界は更なる衰退に導かれたのだ。
そういった意味では、信仰ほど世界を救い続け、科学ほど世界を細切れにしようとしてきたものは他にあるまい。
 
衰退し続ける事ほど救いであることは他になく、進歩し続ける事ほど終末を呼び寄せるような事は何もない。
結局のところ、世界を保ってきたものが世界自身をまたうち滅ぼす羽目になったのだろう。
まさしくそれが終末の書の導きである。
 
時にそれはアカシックレコードと呼ばれる、「完全なる記憶の集積」
宇宙の全法則、全情報、全時系列的記録、あらゆる配置と序列の記憶、
ありとあらゆる精神の形を「ただ一つなるもの」として集積し続けるライブラリである。
人類はライブラリを発見した。そのライブラリに対するアクセスポインタとしての空間配置を。
 
それは時に魔術的儀式とも呼ばれたし、人間の願い、強い意志自体がそれであるともされていた。
意志や精神の持ちうる不可思議な力の源を、時系列的構造配置によって解析しようとした人間たちが居た。
彼らは、世界の理を知りはじめ、またそれを利用し、法則を無視したり、書き換えたりするための力を欲し始めた。
 
まさしくそこに謳われるは「終末の書」
全宇宙構造体ライブラリを模して再現し、「何処でもない其処」に存在するアカシックレコードへのアクセスを容易にするため、
人類は巨大構造物を作り上げた。
 
人類は何も知らなかっただけであり、すべてを知っているはずのその存在にたどり着きたかっただけなのだ。
何時だってそれは、人類の無理解を悔やみながら存在していたのだ。
 
終末の書を手に入れた人類は、ありとあらゆる事象を自らの都合のよいように書き換え始める。
最初は物理現象を、次には物理法則そのものを、最後には精神そのものや、
その構成要素としての論理記述可能性(ロゴス)そのものすらも。
彼らに理解できないものは何もなかったし、もはや何事をも支配し手に入れた彼らは、
程なくしてすべての自我境界を無くし、ライブラリや宇宙そのものに自己を還元させていった・・・
 
彼らは、在りし日の人間達は気づかなかった。最後の最後、「この宇宙が存在する、その本当の目的」
 
人間は、人間であるだけで完全な存在だったのだ。
「知らない事、知る事すらできない事」を少しづつ受け入れていくためにこそ存在する、生命という力の意味を。
即ち、ライブラリですらも、この世の理の、その全てを理解しきっているわけではない。全てを受け入れて存在しているわけではない。
誰にも、何物にも予測のつかない、本当に誰にとっても未知である「未来」。
それに触れることで、傷つき迷ってばかりだとしても、少しづつ色々な事を受け入れていく。
それが生命の本質的強さであり、気丈さと賢さ、精神の本当の意味であり、
本当に未知の現象に立ち向かう、人間だからこそ持っている本当の知性――すなわち、勇気である。
 
人類は、ライブラリに還り始める事によって、既知の世界に飲み込まれるようになっていった。
幸せを求め、繁栄と安寧を求める事によって、未来への道筋すら歪め始めた。
あの頃起こり始めた現象を説明するなら、このような言葉が適切だろう。
即ち――「時間の流転」。
 
真っ直ぐに「未知の未来」に向かっていたはずの人類は、いつからか「既知の未来」に囚われはじめ、
何かをゆがめ始めたのだ。
 
そして、時間軸自体が常に真っ直ぐに進んでいるとは限らず、緩やかなカーブから少しづつUターンを始めた人類はそれに気付く事も出来ぬ。
時間軸自体を複数に微分して俯瞰することのできる高次元の精神体ですら、自分が主観的な流れから脱却できていないことに気づかない。
自分が真っ直ぐに進んでいるつもりでも、緩やか過ぎるカーブの中においてはそれに気付く事も出来ないのだ。
そうやって、別々の主観的な時間を持ったさまざまな存在同士がお互いにもつれ合い、互いの足を引きずりあいながら、奈落の底に落ちていく。
 
即ち「根源」への回帰。
そのたびに彼らは、あらゆる時間も空間も事象も、精神の垣根も無くし、記憶も記録すらも無くし始め、
「本当に未知の未来」へ飛び立つことを無くしていた自分に気づく。故に何度も宇宙は生まれ直しているのだ、と。
 
人類は今ひとたび終末の書の南へ。
それがコンパスであったというのなら、目指すべき指針であった方角を、北を目指すことをやめて南の果てへ。
そして、歴史は繰り返す。繰り返す意味もないままに……