MeltiansESP The Telementalic Chronopathy
[...and The End of ClockWorks.]
メルティアンズイーエスピー テレメンタリッククロノパシー
●キャラクター関連
主人公格 - 男女
◆舘凪綾人 タチナギアヤト
<首都圏>の大学生(自称)
推定年齢:20歳 男性
□過去[1]
大学中退後、街をさまよい歩いていた彼は、空から降ってくる女性と出会う。
彼が無意識に運命を感じた瞬間、女性は目の前で肉片と化した。
ビルの屋上から飛び降りたその助成は彼の脳裏に焼き付き、忘れる事は出来なかった。
□過去[2]
彼の父はとある企業の社長なのだが、父からは仕事に関する話を聞かされる事は殆ど無かった。
期待されていないのだろうかと思い悩む彼は、
自分の肩書とうだつの上がらない現実とのギャップで潰れてしまう。
大学進学後から次第に講義に顔を出さなくなり、休学から退学まではあっという間だった。
□精神変化
「空から落ちてきた女性」を見て以来、
ふと目を閉じだ瞬間、ぼんやりとしていて気づいた瞬間、
誰かに呼ばれているかのような感覚を覚えることが多くなった。
□列車の先
走る列車、鉄道の向こう側のホームに、ずっと探していた誰かが居た……そんな気がした。
そこから始まる。
◆沖野未来 オキノミライ
<首都圏>の大学生
推定年齢:19歳 女性
□記憶
メルティアンズドリームに巻き込まれる前の記憶が今ひとつはっきりしない。
ふと思い出す記憶もあるし、全然出てこない記憶もある。
□精神変化
「片田舎のダム」で沈んだ街を眼にして以来、
ふと目を閉じだ瞬間、ぼんやりとしていて気づいた瞬間、
誰かに呼ばれているかのような感覚を覚えることが多くなった。
□列車の先
走る列車、鉄道の向こう側のホームに、ずっと探していた誰かが居た……そんな気がした。
そこから始まる。
主要人物 (基本メンバー)
◆来栖命愛 クルスメア
<首都圏>の大学生
推定年齢:19歳 女性
□同棲
メルティアンズドリームに巻き込まれるまでは親友である沖野未来と同居していた、らしい。
本人曰く同棲だそうだ。
◆伏倉真夜 シクラマヤ
どう見ても中学生ほどの少女だが……
「自分が産んだ息子」と称しておぞましい肉塊をバッグに詰めて運んでいる。
◆辻湊 ツジミナト
<首都圏>の浮浪者
推定年齢:47歳 男性
流石にサバイバル技術に長けている。意外に工業や電子工学も強いらしい。
◆佐伯宮司 サエキグウジ
乗り合わせた電車の車掌。20代後半。妻子がいるらしいが、言動がどこか疑わしい。
ミリタリー趣味があるらしい。
◆聖円子 サンタマルコ
自称であり、本名そのものではない。
胡散臭い40前後の金髪の白人で、聖人の洗礼を受け聖マルコを名乗っている……との本人談。
ロザリオを掛けアロハシャツをインナーに着込みまん丸のサングラスを掛けた怪しさ満点の人物。
わざとらしい片言で喋り、ギークな趣味を持っている。
◆朝比奈駆 アサヒナカケル
ハッカーを名乗る少年。バッグに数々のデジタルガジェットを詰め込んでいる。
ゲームオタクでやや中二病の気が有るが、基本的に落ち着いた性格。
◆篠原秋南 シノハラアキナ
<首都圏>の会社員。やり手のOLらしい。
20代中後半の女性。
コスプレ趣味が有るらしく服飾を得意とする。
◆乃木春 ノギハル
本名かどうか不明。10歳前後の不審なドレス姿をした幼女。
ふわふわとしていて年齢以上に幼い性格だが、
年の割に博識で教養があり、咄嗟のアイデア力も高い。
言動から見るとどこかのお嬢様と言った風体だ。
その他重要人物
◆沖野命 オキノメイ
未来の兄。とうの昔に死んだはずの命。
◆カエデ
現実のユニタリ時空が歪曲してメルトバースと化した所に出現した「記述可能性の世界」
具現化した共有概念と溶けゆく現実の物性空間が重なり開いた異世界への扉。
[地球地下時空平面構造体]インナーアース・クレメンティア、と彼女らは呼ぶ。
彼女らはその異界に出現した住人。記憶域からの再現性存在ではない純粋な情報生命。
ジオメトラと彼女らは自称する。
●ストーリープロット
◆崩壊原理・A面
原世界(アルファ)で起きた「破滅的事象」の影響で地球の森羅万象は滅びるはずだったのだが、
彼らは死の間際に夢を見た。同じ夢を。死の危機に瀕した地球生命の魂たちは、
そこで初めて一致団結出来るようになったのだ。それは「地球存在」だった。
そうして一時的に生み出された心理世界(ロマンシア)は、
地球生命が滅びずに済むための答えをシミュレーションし始めた。
そこで「破滅と再生」のループが生まれ、「真理への加速」が生じる。
ジオメトラ達は後にそれを「アンサー・オブ・アンサラーズ」と呼ぶ。
純粋エネルギーと情報の生命レベルにまで溶けかかっていた「地球存在(アークスフィア)」は、
ついに万象の答えにたどり着き、宇宙の真理を得た。
そして、「地球存在」は救われるはずだった。救いに至るための道筋を見いだせるはずだった。
この話はその辺りから始まる。
その後の展望、つまり人類は追い詰められて
「知ってはいけない事を知ってしまった」のだ。
AoAの与える真理の叡智は、人類の、地球の全生命、
物質的存在の「物理的編み直し」を可能とした。
しかし、その力の残滓は人々の記憶に残り、
人々は「想い一つで世界を編み直す力」を得てしまう。
当然、あらゆる命が「願い一つで世界を改変する」世界が綻びを生じないはずもなかった。
そして、何にしろ人々の心は「繋がりすぎてしまった」。
人類も、他のあらゆる生命、動植物から目に見える物質全てに至るまで、
彼らは「自分の在り方」を忘れて「全体の流れとしての存在」に変化してしまう。
そんな流れの中で世界は何度も破綻しては編み直される。
物凄い勢いで時空の流れが歪んでいく。
宇宙のユニタリ性原理は崩壊し、情報次元の真空を漂うジオメトラ達も集まってくる。
世界は元に戻れなくなった状態で、この流れを断ち切る存在を必要としていた。
「時喰い」となった「地球存在」そのものを編み直す「時紡ぎ」の完成を望んだのだ。
その中心的な役割は、やがて一組の男女に託される。
「アヤト・アークスフィア」と、「名も無き未来」それが象徴だった。
しかし、結果的にそれは「地球存在」と「宇宙意志」の意向に反した異様な光景を見せる。
それは、遠い昔に分かたれた「神と神」の邂逅だった。
◆再生原理・A面
地球そのものが集積していた「滅びた世界の記憶」
それは可能性と実存の狭間に打ち捨てられたパラレルワールドたちだった。
クレメンティアは時空の歪みという形で、「メルティアンズドリーム」と言う
「意識と物質の狭間での再現性世界」という形でそれを「主人公たち」に見せつける。
世界を編み直す役目を負った「主人公たち」
それが綾人、未来、その他「あの電車」に乗っていた人間たちの役割だ。
最初は、彼らはわけも分からずに滅びた世界を繰り返すが、
その内自分達が世界の在り方を紡ぎ直すための役割を背負って存在している特異点だと
自覚させられていく。
「破滅的事象」の根本原因となった隕石こと「飛来金属」は、
「特異時間放射光を放つ金属生命群体」オルガナ・ブライトと言う形質を象る。
人類を理解し始めたそれは、地球存在に対しコミュニケーションを取ろうとしてたのだ。
混ざりあった地球存在とオルガナ・ブライトの意思が突きつけてくるメッセージは
主人公たちを混乱させるが、その内に原理がわかってコミュニケーションを取る内に、
混ざり合って溶け合った魂たちが再び分かたれていく。
その内に「地球存在」は自らの内に秘めた「クレメンティア」と「クレメンティアのジオメトラ」
「オルガナ・ブライト」は「かつて存在しなかった自らの意思」を自覚し、
戸惑いの中で世界を元に戻していく。
ストーリー全体の前半で一度世界は元に戻り、
特異な宇宙存在であった「オルガナ・ブライト」は可能性の海に消え去り、
「クレメンティアのジオメトラ」たちも現実と関係のない時の流れの存在として消えていく。
全てを忘れて元の世界、幸福な現実を取り戻した人々と共に、
主人公たちは主人公の役割を失い日々に埋没して生き始める。
大学生として復帰した綾人と未来が大学で出会い直し、
曖昧なメルティアンズドリームの過去は断ち切ったまま親睦を深め、世界は回っていく。
もう大丈夫なはずだ、と彼女たちは何となく思い、生きていく。
しかし、街の中、彼女は何となく虚しさを覚える。その瞬間、世界は再び溶けていた。
消えた世界の窓から落下した彼女を、彼は体を張って受け止める。
そこは見知らぬ深い森の中、人類の文明が滅び去った街の跡だった。
そこからストーリー後半に突入する。
綾人には、何となく全てを思い出したかのような直感があった。
一足先に「原世界(アルファ)」の都市遺跡の森に帰っていた彼は、
アルファに重なり合う「メルトバース」から吐き出された未来を助け受け止めるのだった。
世界は元に戻っていたわけではなく、
地球存在とオルガナブライト、ジオメトラたちの混じり合った「メルトバース」が
上空に浮かんで、広大な世界と薄く混じり合っていた。
アルファとメルトバースが切り離されて、邪魔な存在となった綾人・未来達は
アルファ世界に吐き出された。
現実の隕石飛来から巻き起こった一連の「破滅的事象」を乗り越えられないまま滅び、
しかしそれでもなんとか生命も芽生え直したアルファ世界。
そこで特異な生命体として具現化した未来たちは生きていくのだ。
原生人類の末裔と、未来たち以外にも少数のメルトバース帰還者は居たが、まばらだ。
ところが、そのアルファ世界において、地球は球形では無くなっていた。
ユニタリ時空は再配置され、メルトバースの最マッピングしていく座標系に合わされ、
地球は天動説を通り越した回廊状の時空配置(アルファスメール)に変化していた。
別世界の記憶を取り戻したまま現実に帰還した「主人公たち」は
再集結し、新たな未来生きるために「メルトバース」への帰還に挑戦する。
その中で「アルファスメール」の見せる「異様な異種文明遺跡」が
地球回廊に残されていることを知った面々は、混乱する記憶に取り憑かれ仲違いすら始める。
その記憶に曰く、綾人はただの成金のニート息子などではなく、
世界を裏で支配するような血族の正統後継だったし、
未来は彼と運命的な出会いを果たした恋人同士だった。
彼はかつて世界を滅ぼすような「構造体」を地球に建設し、
全てを無に帰した。彼女は泣いていた。そんな記憶があった。
しかし、別の時流の記憶は一つだけではなかった。
その中で、彼は神だったし、彼女は女神でもあった。
周囲の面々は、天使であったり悪魔であったりさえした。
メルトバースに再挑戦する中で二人は、現実に物質の遺跡として残る
「別世界の自分」の所業に向き合わされていく。
その中で、何度も「AoA」に近づいては離され、
アルファでもメルトバースでも通じるESP能力を強めていく。
オルガナ・ブライトは宇宙先史文明遺産のひとつで、
宇宙文明共生体の歴史を記録したナノマクロアーキテクチャ群生構造体だった。
ストーリー前半でメルトバースの中で体験した「可能性世界」だったはずの
「メルティアンズドリーム」が、「現実の遺跡」として存在する様を眺めながら、
何度も別の世界の再体験を繰り返し、本来の自分を取り戻していく。
宇宙先史文明は多数の宇宙生命体が生み出す星間国家社会連合体だったが、
肉体のメタフィジカル抽出技術が拡散した事により情報生命体(インフォミアン)として
別形態に移行し生きるものが増えた。存在たちの行き着く先はいつだって
「時の流れを支配する」事であり、「支配した時の流れに飲み込まれ潰える」の繰り返しだった。
メタフィジカル抽象化の果てに高次宇宙に達した精神達は「AoA」到達しては宇宙を滅ぼし、
「AoA」の「記述されたアーカイブ」として残り、ユニタリ宇宙を再生し直した。
宇宙は何度も滅んでは生まれ変わっていた。――物質的にも情報的にも。
何度も触れる内に、綾人と未来は
「AoA-アンサーオブアンサラーズのアーカイブ」そのものと記憶を同調させていく。
生命が受胎し、誕生するまでの細胞分裂を逆回しで見たような「宇宙統合」の果て、
形而上と形而下がもはや上下のない一体のものとなった地平で、
「宇宙根本」の裏表、陰陽、神と悪魔とも言えるような対の存在にそれは行き着いた。
あらゆる感情、思念、思考、情報、感覚、物質……の混じり合ったヴィジョン、
理解を超えて彼らは悟った。「分かたれた対なる神」あるいは「生き別れた運命の恋人たち」
二人はそういう存在になっていた。
しかし、そこを超えて二人はその先に出ることを選ぶ。
それは「深淵(アビス)」だ。生まれてもいない不確定な「何か」
形而上と形而下を超越してあらゆる時空、あらゆる次元、あらゆる情報、あらゆる可能性
それらを統合したはずの超宇宙存在二人、しかしその包括宇宙にすら「外側」があった。
彼らもまた包括宇宙の卵の中で溺れていた子供に過ぎなかった。
しかし、彼らは「多分、その外に出ても同じことの繰り返しにしかならない」と確信し、
人の形としての自分達について思いを馳せる。
「少なくとも、やり直したい事が残っていたはずだ」と、
全ての力、全ての記憶を一旦手放し、メルトバースもアルファも外宇宙圏も取り込んで
統合し直した宇宙で、もう一度生まれ直す。
「終章 The Love and ESP」では、地球は地球の姿を取り戻し、
宇宙は宇宙のまま存在し、現実のそれに非常に近い世界として生まれ直す。
綾人も未来も記憶をなくして生まれ直し、知らない別々の土地で生きていた。
綾人は環境汚染の広がる<首都圏>で、沈みゆく<鉄の樹海>を探索する「沈没者」として、
未来は<合衆国>の高官の娘として、ESP世代の象徴の一人として第四次大戦の前線を戦っていた。
人類の殆どが死滅していく中、ESP世代の「ディストール進化」を遂げた未来は、
情報として集積した人間の精神や過去の記憶から、物質としての他者の肉体や道具、
機械構造体までをもESPリミテーションによる疑似物質(フェイクマター)で
一時的に再現する事を可能としていた。
フェイクマターで作り出した超音速爆撃機の群体とともに未来は「鉄の樹海」に降り立つ。
<東の大海>ごと地球の半分を沈めてしまった無機生命体汚染<鉄の樹海>の中で、
彼女は様々な思い出を振り返りながら進んでいく。
彼女は、まだESP感染性発症が存在しなかった幼き日のままの未来で生きてみたかった、と
白昼夢を見ては覚まされていく。
この白昼夢は結局のところそれ以前のチャプターで起きた全てであり、
それがその場所での夢でしか無かったのか、そうでなかったのかはわからない。
彼女は世界を汚染したESP感染症と、幻を見せる鉄の樹海の真実を探り、
その原因を破壊しに来ただけだった。
様々な夢の中で、「飛来金属」「自己を失い繋がる天使化症」「メルティアンズドリーム」
そんなイメージがよぎっては消えていく。
それは鉄の樹海が訴えかける真実だったのか、それとも幻なのか。
飲まれそうになる記憶の中、彼女は必死で自己を保っていた。
「もしもこれが別の可能性の私だとしても、今の私には関係がない」
「約束したんだ、あの日、あの頃、何となくだけど」
幼き日の記憶、ダムの底に沈んだ村、もう少し幼い頃にそこで出会った少年、
ふとした邂逅、すれ違った利発な少年、彼は「ここに残ってなんとかする」と訴え、
少女は「絶対にまた会おう」と訴えた。
汚染樹海の研究施設、その中庭、あの頃少年とすれ違い、訴えあったその庭先。
そこに未来はたどり着いていた。
巨大な樹が聳える下で、時間も空間も方角も見失わせたような幻想の樹海の中、
未来はようやく綾人に再会する。
再会を喜び、胸中にこらえきれない不明瞭な愛が溢れる。
彼と彼女は語り合う。
未来と同じく綾人もディストールの力を持っており、それにより彼は一人樹海で生き延びていた。
時折見えた人の気配は、フェイクマターで再現された過去の<首都圏>の人々の魂だった。
彼は幼き日に親しんだ彼女との再会を喜び、しかし現実の場に戻ることは難しいという。
綾人が思い煩っていた理由、それは彼自体が三次大戦の引き金であり、
四次大戦の首謀者のようなものだったからだ。
この場所には綾人が「二人居る」
きっかけは、彼が世界平和を望んだことに端を発する。
世界平和を望んだ少年と、それに反して醜いことや歪んだこと、
悪の蔓延を前提に動いていた現実社会。
憂いていた少年は、隕石禍以来広がり続ける汚染樹海に飲み込まれ滅びゆく国で、
森羅万象への愛を自分の中に見た。そして彼の心は急速に悟りへと広がっていった。
少なくとも、そんな時期があった。
樹海の根底にある生きる金属は、彼の願いをたまたま叶えてしまったのだ。
もしも、争う本能を捨てることが出来たら……心と心で繋がることが出来たなら……
そんな心の片隅に湧いた気持ちは、人々から肉体を奪い、
魂のみがディストールのフェイクマターで再現される事で
繋がり合う事の出来る状態に追いやった。
綾人のディストールと重なってどこか別種のディストールを生み出すそれは、
飛来金属によって再現されたもう一人の綾人であり、アルターメサイア。
「救世装置」と化したその存在が、世界を破滅に追いやっていたのだ。
完全な救いは救いの無さそのものだった。
そこで打ちのめされた綾人は、未来と再会したことで
「救いを望んだ自分の心」を救う事を決めた。
それは「救世装置」の打破そのものだった。
長い戦いの果てに、綾人と未来は
「人々の救われたいと願う心」そのものを集積していったアルターメサイアを打破する。
綾人だけじゃない、人々は望んでいたのだ。「もう嫌だ」「苦しい」「生きたくない」
「幸せになれた」「困難な夢を諦められた」「愛を手にすることが出来た」
「社会のために役立てた」「深い学びがあった」「自己実現が出来た」「だけど」
「苦しいんだ」「生きることが」「その先を見続けようとすることが……」「救われたい」
無意識に破滅を願ってしまうような人々の心が、
人の心に触れ、その願いを叶えたいと思う「飛来金属」を「救世装置」に変えた。
綾人と未来は、それを丸ごと救った。
世界は大きく傷つき、破滅へと向かった。多くの人々が死に絶えた事実も覆らない。
「終わらせたい」と願う多くの人々が死んでいった。
だがその困難が同時に、「それでも生きたい」と願う人々の生きる力を育みもした。
世界は社会活動を少しずつ取り戻し、復興に向かっていく。
人の規格を大きく外れてしまった未来と綾人は、
基本的には誰も近寄れそうにない樹海の中で今も暮らしてる。
たまに外に出ることもあるのだけど。
出会ったときから妙に惹かれ合っていた二人だった。
何故なのか、答えは分からないが、二人はたまに夢を見ていた。
飛来金属は無数の異なる時の糸を集積したような存在だ。
それは決して偶然地球に飛来したわけじゃないのかもしれない。
彼は夢の中、本当の救世主になっていた。
あらゆる宇宙、あらゆる時空を統合し、包括し、全ての魂を救いへと導いていた。
でも、そんな彼にも夢があった。夢の中で何かを夢見る自分を夢に見るなんて、
言葉にすれば不思議な話だけど、なんやかんやで彼は
「普通の生き物として自分自身が救われたい」と願っていたのだ。
それは例えば自分以外の誰かの深い愛に包まれる事で。
深い愛で全てを包み救った彼の、唯一自分だけが味わえない悔恨であった。
目覚めれば、綾人の隣には未来が居る。今はもう寂しくなかった……
寝ぼけた心でそんな事を思う。
未来は夢を見ていた。彼女は過去を夢見ていた。何も無い、穏やかな深い場所。
それは安らぎに満ちていた。彼女の根本にはそれがあった。
だけど、自分ひとりでは彼女はいつも何も無いままだった。
共に、先の世界を見る相手が出来た事で、彼女は強い幸福を感じ、不幸を感じ、
そんな揺れ動く心を持つ自分を幸福に思った。
だけど、新しい世界を目指すのはいつだって深い苦しみが付き物だった。
隣を歩く彼は、いつも無茶ばかりして進んでしまう。救いをもたらす手の中さえにも
どこか苦しみが感じられた。彼女はそれを癒してあげたかった。
二人きり、何も無いあの穏やかな深い場所に帰る……そんな時間が時折あってもいいと、
そう思い彼を包み込んだ。だけど、長くその場所に留まるとまた何もかもが無くなってしまう。
だけど、目を覚ましたら未来の隣には綾人が居た……何もかも大丈夫だと思えた。
寝ぼけた心でそんなことを考える。
飛来金属は死んだのか、眠りについたのか、恐らくどちらでもあるのだろう。
未来の救世主が過去の彼自身にそれを引き合わせた。それでも未来はまた変わるかもしれない。
救世主は過去に捨ててきた自分自身と、そのパートナーに自分自身を救ってもらいたかった。
それが成し遂げられたことで、それも可能性の一つに過ぎないかもしれないと、
あるいは自分たちの生きる世界が可能性の一つに過ぎないかもしれないと、思えるようになった。
いずれにせよ、何度も流転し、逆回しにされた時間の流れも、今は前にしか進まない。
そして、前にだけ進ませようと今は思える。分かたれた可能性の記憶や、
遠い過去の記憶も有るかもしれないけど。思い出は思い出で、時間は時間で前に進ませる。
もしまた繰り返すことがあったとしても、きっと次も乗り越えられるだろう……そう信じて。
そんな二人を他所に、残された仲間たちは世界の再建に励む。
失ったものは取り戻せないし、取り戻せたとしても引き換えに先の世界を失うのはゴメンだ。
そう言って彼らは寂しげに笑う。
彼ら自身がもう既に「取り戻す力、その可能性」を失った存在で、
それでも生きることを諦めなかった。
溶け合った心、溶け合った世界、その幻を鉄の樹海に見せられ、
受け入れることも出来ず忘れていく人々だったが、
それでも、たまには語り明かすことも有るだろう。
凄惨な幻だったが、そこには愛も溢れていたからだ。
――完。
◆章立てのプロット
「メルティアンズドリーム」始まりの世界。
綾人が堕ちてくる女性を眼にし、未来がダムの底に沈んだ村を眼にし、
失った記憶が呼び起こされて幻から覚醒していくように、メルトバースに挑む。
数度の繰り返し、別の可能性を見ていく。
時間がループして閉じて繋がり、重なり合う。
飲み込まれていく中で「自分は自分だ」と誤魔化しきれなくなる自我が壁を壊す。
前半終章「The Talking About ESP」
メルトバース脱出、アルファポリス探索、
メルトバース再臨、排外、アルファの再配置、
と繰り返しながら包括宇宙の歴史に触れる。
結局変な感じに固着したメルトバース界から
アルファスメールを宇宙の頂点に見立て、
踏破しきることで包括宇宙のブレイクスルーを起こす
後半終章「The Love and ESP」
本当の現実世界での物語。<首都圏>を襲った隕石禍から、
汚染樹海に飲まれていく人々。新世代のESPへの目覚め。
その理由は過去のチャプターのケースを参照にすることで補完できる。
一つの世界での問題を解決し、物語は終わる。
白昼夢を見ても、それがそのまま別の世界になるようなことはもう無い。
全ては夢だった――今となっては。そんな終わり方。
◆崩壊と再生の原理・B面
<合衆国>は地球を襲う巨大隕石<飛来金属>を核攻撃によって撃ち落とした。
その影響で極東の国の<首都圏>が多大な汚染を受ける。
現実世界では汚染樹海に飲まれていった人々の、
飛来金属片に精神情報を取り込まれ(メタフィジカル抽出機構)死に絶えながら見ている夢。
アルファは飛来金属が参照し呼び出した再現世界の内部で、
多くの人々が共有する世界としてはデータ構造が破綻している状態にある。
メルトバースは、メタフィジカル抽出され集積された人々の、
アルファから目を背けて自分達だけで世界を再エミュレーションしようとする世界と言える。
ジオメトラは飛来金属の元々格納していた先史時代情報生命と人々の記憶が干渉しあって
アルファとメルトバースを横切り呼び出される論理的精神存在。
物語はメルトバースに囚われた男女がアルファに戻り、必要な情報を集積し直し、
終章に全てが夢の情報として現実の自分に統合し直されるまでの物語を描いている。
終章とそれまでの章の世界は、飛来金属汚染樹海を通じて鏡合わせになっている。