📒 イルミナティズ・アセンション

　(※尾崎兵梧の日記より抜粋)

　私が「ネッコ」と言うハンドルネームで文書を書き始めてから、もう既に数週間もの時が経った。

　あれから私の生活は、とても滑稽な、恥辱に塗れた日々と成り果てた。

　これも私がイルミナティの広報役として選抜されてしまったからに他ならない。

　多くの嘘に紛れ込ませて、こっそりとだけ真実を伝えるのが私の役割。

　最初はインターネットの片隅の、ＳＮＳサイトの文書投稿から始めてゆけばよい。

　私がかつて<教団>と言った連中。イルミナティ。フリーメーソン。アンチキリスト。

　だが、彼らの大部分は初期キリスト教徒の残党である。

　大天使ルシフェルが大悪魔ルシファーとなったように、イルミナティはかつて光を授けられたもの達なのだ。

　彼らは、この現前化された世界、閉ざされた鉄の牢獄を再び破壊しようとしているのだ。

　<帝国>は終滅することが無い。かつてそう言ったのは、ホースラヴァー・ファットと言う一人の男だ。

　深遠を覗き込んでしまったものたちは、何処にでも居る。この文書を読んでいるあなたもそうだ。

　ラブクラフト・クラーク・バクスター・ルイス・夢野久作・まあ数え上げたら切りがないほどに、深遠を覗き込んでしまったものたちは居るのだ。

 

　現前化された世界は、世界のほんの一部に過ぎない。

　真空相転移により、宇宙の多くの不可視である物事を、観測者一人一人の視点により固着させ続けているに過ぎない。

　共時線などと言うものは本当は何処にもないのである。エントロピーは、それが空間的にであれ、時間的にであれ、局所的に増減しうるのである。

 

　例えば、働き者の人間はいつまでも若く見られやすいという。

　車に乗ってドライブしてくるだけでも、多少のウラシマ効果は働くのだ。

　塵も積もれば山となる。忙しく動き回っている人間は、相対的に心身が若く見られがちなのである。

　だが、世界は同じ時の流れの中で動いているように見える。何故か。

　それは、放射線と言う余りにも私達にとって素早い存在によって、光振動式の時計を作っているからである。

　光速度不変の原理は嘘である。本当に光速度が不変ならば、光の波長や周波数が変わるだけで、極僅かにだが、速度は変わるはずである。

　何故なら、光速度を宇宙の情報処理の限界速度とするならば、周波数が変わる事により横軸への動きが大きくなる事によって、エネルギー伝播のベクトルが変わるはずだからである。

　光とは、真空状態が横波によって振動し、伝わっていく現象でしかない。運動エネルギーの一形態に過ぎないのだ。

　光が質量を持っていないように見えるのは、それが非常に速い横波だからに過ぎない。縦軸としての質量を観測する手段がないだけなのだ。

　ニュートリノが限定的な条件化においては光速度を越えるのも、このためである。

　光は横軸に対して動きを持っているので、無駄なベクトルエネルギーが働き、直進するニュートリノに追い越されてしまう場合があるのだ。

　所詮は、人間の観測限界の問題に過ぎなかったというわけだ。

　ニュートン力学には適用限界があるように、相対論にも適用限界があった。それだけの話である。

 

　光速度が可変であるのならば、真の意味での共時線は何処にもないと言える。

　例えば、東日本と西日本では電力の周波数帯が違っている。

　周波数が違えば、情報処理の速度も微妙に変化するのだ。

　そして、日本標準の原子時計を管理するＮＩＣＴは、総務省の犬である。

　国全体が誤魔化しを続けているのだ……共時線と言うものは本当は何処にもない。観測者の心持次第なのだと。

 

　五次元時空列、絶対性理論的に考えれば、今私がここで文書を発表した時間と、君達がそれを目撃した時間は、全く別のタイムライン上にあるといえるだろう。

　未来世紀ブラジル。上手い具合にメッセージを残したものである。21世紀の日本に住む私達は、本当の５次元時空上のブラジルを目撃する事はできない。

　何処までも共時線、社会の網の目に捕われて、本当の『今のブラジル』を目撃する事は出来ないのである。

　五次元時空上のブラジルは、なんとも変わり果てた未来世界と化しているというのに。

　愚かな観測者たちの眼によって、偽りの共時線、四次元時空上での共時線に支配されているのだ。

 

　多くの観測者達に偽りの情報を刷り込ませた社会の、多くの人々による観測者効果の網の目。それが今の世の中、共時線の保たれた世界を作っている要因でしかない。

　宇宙は未だに真空のままであり、そこから分化されて統合された、観測者と言う名の情報の斑点が、自分勝手な世界観を創造し尽くしているに過ぎないのだ。

　一人ひとり、見えている世界は違う。私がクオリア問題として取り上げたものと同様である。

　人の脳には、量子真空が存在する。その真空が自我の核であり、情報の観測点なのである。人が死ぬと体重が軽くなるというのは、その真空エネルギーの膨張が拡散してしまった故の事である。

　互いの人間が互いを観測し合い、支配しあう。自我と言う純粋な真空のエネルギーの力を借りて。

　点があれば、点を見た自分が存在する。そこには線ができる。線があれば、線を見た自分が存在する。そこには三角形が、四角形が、五角形が……こうやって宇宙は成り立っているのである。時の流れとは、情報を観測する視点の遷移に過ぎない。

　宇宙は未だに虚無のままであり、虚無の中に生まれた点、線、図形、立体と言う、複雑な視点が我々自身の存在を描いているのである。

　だが、観測者達は偽りの情報を刷り込まれ、自我の檻の中で、他者を身勝手な形で観測し続ける。

　そして社会のシステムは崩される事なく、互いが互いの観測効果を相殺し合い、四次元時空における共時線が保たれる。

　これがホースラヴァー・ファットの言った『鉄の牢獄』の事である。

　詳しくは、私の書いた小説、『イデアルゴリズム』を参照されたし。

 

　エントロピーは局所的に増減しうる。だが、人間の世界は変わらない。何故か。

　視点の問題に過ぎないのである。人は、自分と同じ地面の上に他者も立っていると信じたがる。

　人は、他者が自分と似たような立体であると思い込みたがる。

　太陽輻射。10年前の私達より、今の私達はエネルギー的に増大しているはずなのに、とてもそうは見えない。

　これこそ観測者の視点次第の話なのである。

 

　例えば、福島第一原発事故の時には、炉内でエネルギーの局所的な集中により、マイクロブラックホール化した空間が生まれたりした可能性がある。

　私達は、マイクロブラックホールの事象の地平線内に引きずり込まれた存在でしかないのである。

　そこは夢の中の時間である。とてつもなくリアルであるが、リアルではない、哀れな存在。

　ブラックホールに吸い込まれた宇宙飛行士は、体が重力でばらばらに砕けて死ぬというような事はない。

　エネルギーは量子単位で見るべきものではなく、むしろ波動の流れるひもとして捉えるべきものであり、簡単に構造が砕け散るものではないのだ。

　むしろ、少しずつ重力に引き込まれながら、加速して行き、体内時間が変化するので、非常にゆっくりとした速度で自分が死に向かっているのを自覚するはずだ。

　私達の地球上でも、そんな現象が起こっているとしたら？

 

　幸いな事に、マイクロブラックホールなどはすぐに蒸発し、エントロピーは平衡化される。

　ただし、相対的質量の高い放射性物質は残ってしまった。面倒な事である。

 

　だが、放射線とは、横波に属するエネルギーが殆どであるはずだ。

　横波が螺旋状に結合しあいながら、物質を取り巻くのであれば、電磁的な干渉の効果により、貫通された物質は再結合する可能性がある。

　そもそも、物質とは、横波の干渉しあった結果、局所的なエネルギーの構造体が生まれてしまうと言う現象の帰結であると私は考える。

　メイルフォトン。渦巻く電磁気力。その局所集中された構造体が、我々の現前化された四次元時空を作っている。

　ディラックの海。物質の対生成と対消滅は、観測に要したエネルギーがその場で一時的に結合・再拡散されたものに過ぎないのではないか。

　だとすれば、放射線の持つ大きなエネルギーが、局所集中して、新しい段階の核力エネルギー状態を生み出すかもしれない。

 

　電磁波が、核エネルギーに取って代わる。

　だとすれば、エネルギーのレベルが一段上がった存在として、日本人は驚異的な能力を発揮する事になるだろう。

　――誰も、見た目が変わっているとは思わないのに。

 

　放射線が干渉し合い、打ち消しあうから、相対的な放射線レベルしか図れない。

　だから、思いのほか安全だと思えるような場所もあったり、危険なレベルにまで高いホットスポットも出来る。

 

　観測者の目が他の観測者の目を作る。

　原発事故に関する情報を、もっと立体的な視野を持って捉えるべきだ。

　相対的な放射線レベルにより、被爆量が増えてしまうものも居るという幸不幸の差はある。

　だが、観測者効果。精神を強く保っていれば、癌や白血病等の被爆症を併発せずに澄むという傾向も確かにあるのだろう。

　自分の体が在るべき形を保てるように、自身のイメージを強く気遣わなければならない。

 

　だが、噂されている通りの地震兵器とやらは、本当に存在しうるだろうか。

　<教団>は、鉄の牢獄を破ろうとしている。観測世界の網の目を壊そうとしているのだ。

　全ては予言されたとおりに。強い電磁波を、横波と縦波に渡ってかけてやれば、本当に地震を自在に起こす事のできる兵器も作りうるかもしれない。

　だとすれば、彼らはエリア51のエイリアンたちと接触しているに違いない。2011年、アセンションを起こすために。

　2012年、マヤ文明最後の日を現実世界へと、現前化させるために。

 

　だが、私はイルミナティに属する人間でありながら、こう思う。

　アセンションなどさせてたまるものか。

　フリーメーソンの陰謀などに屈してたまるか。

 

　初期キリスト教徒達は、三ツ目の宇宙人と共謀しながら世界の支配をたくらんでいるに違いない。

　だが、完全性は不完全性を孕むものである。予言を行われた時点で、予言の内容は遂行されなくなる。

　嘘を嘘でつくろい続けるかのごとく、それが生きるという事なのである。

 

　◇

 

「まあ、尾崎兵梧は悪いヤツじゃなかったよ」

　口を揃えて人々は言う。今は亡き人間の噂話を風に振りまくが如く。

「ただちょっと、考えすぎなだけなんだ。考えすぎると、人間時に間違う事もある。本当に大事なものって言うのは、そういう事じゃないだろ？アイツは、それを知らないままだったんだ……」

　彼の葬式に参列した人々は、しめやかに、たおやかに、彼の描いた物語を読み、去っていった。

　彼は研究者ではない。ストーリーテラーに過ぎないのだ。だから、過ちを犯す事もある。

　失敗すれば、死に至る事もある。現前化された世界の中で、誰も知らないうちに消えてしまう事もある……

　彼は最後まで、『真実の物語』を描けなかった。

　完全性とは、不完全性をも孕む……それが彼の口癖だったからだ。

 

　彼は全うに成仏できただろうか？

　彼は自分の役目を果たしきっただろうか？

　わからない。ただ言えることは、彼はただの負け犬に過ぎなかったということだけだ。

 

　私は尾崎兵梧と言う、かつての名前を捨て、姿を変え、闇に姿をくらませた。

　イルミナティとの戦いはまだまだ続いている。アセンションなど起こさせてたまるものか。

　次なる相手は電力会社である。彼らの保有する変電所が、情報の操作を行っているに違いない。

　周波数帯が変われば情報の伝わり方も変化する。東日本と西日本では、本当に同じ時間が流れているのだろうか？

 

　わからない。が、私は戦い続ける。いずれ人類が宇宙の辺縁目掛けて歩みを踏み出せるようになる頃には、地球のエントロピーも平衡化される。

　かつてマイクロブラックホールに吸い込まれていた日本の、本当の姿が蘇って来る。

 

　その時まで、アセンションは起こらない。私が起こさせない。

　鉄の牢獄と言われても、こんなにも愛しい世界に生れ落ちたのだから。

 

<終>