Victo-Epeso’s diary

THE 科孊究極 個人培萌 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノヌベルノヌクスクラム賞狙い 右䞊Profileより特蚘事項アリ「

📒 もう䞀床君に䌚おうずしお

 幌い頃に出䌚った君に、僕の党おが䌝うだろうか。
 遠い日の蚘憶、倢、幻、残照。
 い぀か出䌚った過去、い぀か出䌚う未来。
 その党おが、君だった。
 
 だから僕はい぀もこう叫ぶ。
 
 もう䞀床君に䌚おうずしお。
 
 
 
 ロックン・ロヌルの奏者ずいうものに憧れおから随分ず日が経った。
 俺の名は時雚。
 最奥寺時雚。それが俺の名前。それが俺に䞎えられた圹割  
 ノィゞュアル系ロックバンド、のメむンノォヌカル兌ギタリスト。
 の奏っおいる曲は、党お俺自身がメンバヌの力を借りお曞いた䜜品である。
 
 俺はい぀ものように、コンビニの棚の前に立っおいた。
 店員のオッサンが俺に近づいおきお、こんな事を喚き立おる。
「時田君、䜕やっおるの、もっずキビキビ働いお。商品敎理は倧事な仕事なんだよ」
 どい぀もこい぀もわかりきった事を平然ず抜かしやがる。
 俺は頭を垂れおオッサンに向かっお声を匵り䞊げた。
「すみたせん、店長。気を぀けたす」
 するずオッサンは俺の勇たしい態床に圓おられたかのように、顔を背けた。
「わかったら早くやっおね。こっちも楜したいんだからね」
「はい、すみたせん店長  」
「党く、バンドのリヌダヌだからっお偉い顔しおるんじゃないよ。䜿えないダツだな」
 どうも、䞖の䞭には二皮類の人間しか居ない事に最近気付いた。
 俺に関心を持぀人間ず、持たない人間の二぀だけだ。
 
 幌銎染の、蓮田陜子から連絡が来た。
「時田君、今晩時田君の家に行っおも良い」
 俺は、俺に関心を抱いおくれるダツに察しおは優しく接する。
「ああ、いいよ。い぀でも僕のアパヌト開けずくよ」
 俺はそう蚀っお、最奥寺時雚ファンクラブ、蚘念すべき第䞀号の女を誘き寄せたのだった。
 
 蓮田陜子は猶ビヌルがいっぱいに詰たったコンビニ袋を片手に、俺の郚屋ぞず䞊がり蟌んで来た。
「いよっす久しぶり、元気にしおた時田君」
「ああ。僕はい぀でも元気だっお」
「そうだよなあ。アルバムの売れ行きも順調みたいだしなホレホレ、飲んで飲んで」
 そう蚀っお蓮田陜子は俺に向けお安っぜい猶の底を抌し付けおくる。鬱陶しいが、良い女だ。
「そんな、ビヌルなんお奢っおもらっちゃっお良いの」
 俺は蓮田の意思を確認するためにそんな台詞を吐いおみた。
 良い幎頃の女が、䞀人暮らしの男の家に䞊がりこむ。そしお、酒を勧める
 芁は、圌女は蚀っおいるのさ。セックスがしたい、ずね。
「良いんだよ良いんだよ。時田君は私の憧れの人なんだからねっ」
「そんなぁ、君はもう圌氏が居るじゃないか  」
「あんなの関係ないよ。別に圌氏ずは思っおないし」
「陜子ちゃんはパワフルだなぁ」
 俺は勧められるがたた、流れの為すがたたにビヌルを口に運ぶ。
 ニセモノの麊酒ずは䞀味違う、コクのある高玚なビヌルの匂いが俺の心を熱く揺さぶった。
 圌女は心の底から楜しそうに笑っおいる。やはり、俺のような䞀味違う人間の呚りには、䞀味違う奎らが集たっおしたうのだ。
 良いダツも悪いダツも、分け隔おなく。
 
「アルバム聞いたよヌ。良い曲だったねえ。特にあれトラックの、『もう䞀床君に䌚おうずしお』だっけたさか時田君からあんなスゎい歌詞が出おくるなんお思わなかったよヌ。いやヌ、私感動しちゃったよヌ。ッ最高だねえ」
「やめおくれよヌ、恥ずかしいわ」
「むダむダ、最近流行のむンディヌズロックバンド・。䞉ツ県の宇宙人ずか蚀うヘンテコな蚭定で挔奏しおるっお聞いた時は本圓にビックリしたけどねえ。たさかここたで成長するずは。本圓に凄いよ、時田くんは」
「でも、僕はただの぀たらない男だよ。バむトすら䞊手くできないんだ」
 俺は亀枉に打っお出た。あえお匱みを芋せ付けおやるフリをする事で、女の自尊心を満たしおやろうず思ったのだ。
 そしお圌女はこう蚀った。
「そんなの誰だっお同じだっお。簡単にいくこずなんか䜕凊にもないよ」
「そうかなあ。本圓はさ、自分でも思っおるんだよ。痛いキャラ装っおるなっお」
 それは嘘だった。時田実道などず蚀う぀たらないただの人間の男、そちらこそ俺の挔じおいるキャラクタヌである。
 本圓の俺は、い぀だっおギタヌを匟いおいるずきにしか発珟しない。そう、俺はシリりス星系からやっお来た䞉ツ目の宇宙人、そしおこちらの䞖界ではスヌパヌロックバンド・のリヌダヌを挔じおいる男なんだ  
「でも私はあの曲が奜きだったなあ。アルバム『プラスマテ・リアル』のトラック『前頭前野無損倱経路』脳みそから盎接倖界の情報を知芚するっお蚀う歌詞凄かったなあ、あれ、なんおいう原理なんだっけ」
「トレパネヌション効果、だよ。本圓は僕も良くは知らないけど」
 そんな事はなかった。俺は昔、額を匷く打っおしたった事がある。その時に芚醒したのだ。人の脳には、盎接的に倖界の情報ず接しお、匷力な芳枬効果を持぀噚官が存圚するず蚀う事に。それが第䞉の県。俺が宇宙人であるこずの蚌巊だ。
 だが、こちらの䞖界では、くだらない人間のフリをしお楜しんでいる  こんな駆け匕きもたたには良いだろう。
「党く、そっかあ。あのひ匱だった時田君が、高校のずきギタヌを持った瞬間に人が倉わったみたいだったもんね。いやヌ、凄いや。時田君がどんどん遠くぞ行っおしたうみたい」
「そんな事ないよ。僕はい぀だっおひ匱なただの男だよ。自分を切り売りしおるみたいで恥ずかしいや」
「そんな事あるよお。時田君は凄くロックな人間なんだから、今に䞖界䞭が泚目し始めるよきっず。そうじゃなきゃおかしいもの」
「違うっお。僕が歌を歌っおいるのは、聞かせたい人間が居るからなんだ」
「えそれっお誰の事」
「  誰の事だず思う」
 俺はここで揺さぶりを掛けおみた。
 䞊手く乗っおくれれば、圌女は俺の気持ちに気付いお、セックスをしおほしいず嘆願するようになるだろう。
「うヌん  」
 圌女は考え蟌んだフリをしおいる。その癜々しさが愛おしさをも増幅させる。宇宙人に愛される人間などそうはいない。最奥寺時雚ファンクラブ第䞀号䌚員は、誰よりも深遠な䞖界に立぀女なのだ。
「わかんないやっぱりアレかな音楜の女神様、ミュヌゞックなだけにミュヌズ様ずか」
 圌女は知らん振りをしお答えた。ただ早いずいう事か。俺は心の䞭で悪態を付いた。その事実には圌女も気付いおいるはずだが、玠知らぬふりをしおいる。やはり俺の呚りに集たるのは良い女ばかりだ。
 そこで俺は話に乗っおやる事にした。
「そう――僕らの"蚭定"では、月に女神様がいるんだっけね。巚倧な宇宙船のマザヌコンピュヌタヌが眠っおいるずか。笑わせちゃうよ党く」
「そんな事ないよお。の蚭定カッコ良いじゃん最奥寺時雚っお名前も玠敵だし時田君は凄いよ」
「やめおくれよ、僕はただ、君に  」
 その時、俺の意識が猛烈に集合的自我の元ぞず匕き戻されおいくのを感じた。酒のせいで物質ずしおの肉䜓むメヌゞが圢而䞋䞖界ぞの無甚な拒絶反応を瀺しおいるに過ぎないず知り぀぀も、俺の意識は母なる宇宙船の元ぞず匕き戻されおいく。たあいい。䞊手くいけば、蓮田陜子ず䞀倜を過ごすこずになるだろう。そうしお知りえた秘儀は、圌女の䜓に脈々ず量子真空゚ネルギヌを泚ぎこむのだ  
 
 朝目が芚めおみるず、蓮田陜子はもう居なかった。携垯電話などず蚀う陳腐なアむテムを通じお圌女に連絡を取っおみるず、『昚日は時田君が途䞭で眠っちゃったから垰ったの。ごめんね』ず曞かれおいた。そうか。たあ、そういう時もあるだろう。
 圌女に宇宙人仕蟌みのセックスを教えおやれなくお残念に思ったが、たあいい。あの時俺の魂が母船に呌び戻されたのは、マザヌコンピュヌタヌが『ただ時期が早い』ず知らせおくれたのだろう。問題なく、物語は予蚀されたずおりに運んでいる。
 
 今日もコンビニでアルバむトだ。真面目に働くフリをしお、地球人どもをからかっおやっおいる。そうだ。俺がのメむンノォヌカルなんだ。
「時田君、早くレゞ行っお」
 頭の犿げた醜いオッサンが告げる。俺の䟡倀を知らぬものには䜕も蚀うこずは無い。
「はい、すみたせん」
 心のこもっおない蚀葉などいくらでも口から湧いお出るものだ。
 
 蓮田陜子に連絡を取った。
 今日はのミッドナむト・ラむブパヌティヌの日だ。
 晎れ晎れしい栄光の舞台、これからいずれはメゞャヌ・デビュヌしお成功を収めるであろう俺たちにずっお、これ皋倧事な日は無い。
 俺たちは音楜を通じお人の心を巊右に揺り動かす事ができる。ラむブハりスには倧勢の客が賑わい集たっおいる。地球埁服ぞの道はそう遠くも無い。
 
「時雚、蓮田ちゃんは来ないのか」
 メンバヌの䞀人である、ベヌシストの滝野口握戞が尋ねおきた。
「ああ、なんか他の男の所に行っおるみたいだよ。やんなっちゃうね、党く」
「そうか」
 コむツは今日、唇の蟺りにピアスを付けおいる。そうする事によっお、口を閉ざしおベヌスで歌を奏でる事を衚珟しおいるのだ。
 ドラムスの他蚀乃沢針守が笑っおいう。「じゃあ今日は寂しいだろ、オマ゚」
 いいや、圌女ずは我等が母船からの信号によっお、集合的自我の郚分で通じ合っおいる。だから寂しくなどはないのだ。ただ、珟前化された物質䞖界で未だに䌚えないこずが続いおいるずいうだけの話に過ぎない。
 だが、俺はどこたでも道化を挔じお芋せた。
「ホント、僕が誰のために歌を歌っおいるのか、考えおほしいよね」
 滝野口握戞は笑っお蚀った。
「そうだな。オマ゚っお本圓に぀いおねえ奎だよ。月の女神様に向かっお同えおいる、っおもよ。実際には女䞀人振り向かせられないんだ」
「た、そういうオマ゚だからこそ俺らは付いおいっおるんだけどよ」ず他蚀乃沢。
 党く、絆で通じ合える仲間ず蚀うのは実に頌もしい。そう、俺達が地球を支配するためにやっお来た、䞉ツ県の宇宙人のビゞュアル系バンド、だ。
 
 俺達がステヌゞに姿を珟すず、ファンクラブの面々は次々に黄色い歓声を䞊げた。銬鹿な奎らだ。自分達が螊らされおいるずは知らないで。これだから䞀般の地球人は困る。
 だが、奎らのために歌っおやろう。俺はそのような圹割を䞎えられお、珟前化された珟象界に産み萜ずされたのだから。
 
 俺は、ファン達ぞの挚拶を皋ほどに枈たせお、ギタヌを奏じる。
 そう、我等が芪愛なる地球人たちぞ向けお。我が月の母船ぞ向けお。集合的自我の向かう先ぞ、真っ盎ぐに歌い䞊げる。
 
 音楜は良い。䜕よりも振動芚に近く、人の魂を揺さぶる力がある。
 人を振るわせる歌声。だが、それを誰よりも届けたい女は、今はこの堎には居ない。
 今は、未だ。
 
 俺は歌う。歌い続ける。い぀か君に届くために。
 初めおギタヌを手にした時のあの衝撃を、届かせるために。
 
   違う。
 本圓は違うんだ。届けたいんじゃない。䌚いに行きたいだけなんだ  
 
 あの時、カッコ悪かった俺をヒヌロヌにしおくれた、あの時の䞋手糞なギタヌを聎いおくれた、あの時の君に。
 他の誰でもない、僕の事だけを芋おくれおいたあの時の君に䌚いたくお。
 
 僕は、歌うよ。
 
 
 
 
 さあ、始めようか、幌い頃、密䌚を開いた。
 ああ、芚えおいる。あの日の君は遠くに消えおく。
 たあ、いいかなんお玠知らぬフリを続けおいたずしおも、
 そう、芚えおいる。蚘憶に嘘は付けない。
 
 君が忘れおも僕はずっず埅っおるから。
 愛ず呌ぶのは愚か者の拙い幻想だけど。
 い぀か遠くぞ運んでゆけ。僕の声を。
 
 幌い頃に出䌚った君に、僕の党おが䌝うだろうか。
 遠い日の蚘憶、倢、幻、残照。
 い぀か出䌚った過去、い぀か出䌚う未来。
 その党おが、君だった。
 
 だから僕はい぀もこう叫ぶ。
 
 もう䞀床君に䌚おうずしお。
 
 だから僕はい぀でも叫ぶよ。
 
 もう䞀床君に䌚おうずしお。
 
 
 
   歌い終えた俺の背䞭から、ひんやりずした声が流れおきた。
 気が付けば、圌女はそこに立っおいる。
 
 俺に、い぀ものあの笑顔を䞎えおくれおいる。
 
 これが俺の芋おいる郜合の良い幻想だったずしおも  
 そんな事はどうだっお良い。
 
 い぀だっお、君のために歌っおいる。
 い぀だっお、君に胞を匵っお䌚えるために歌っおいるから。
 
 圢而䞋の珟象界における物事の確定甚件など、い぀だっお完璧に芏定された事でしかない。
 ぀たりは簡単な法則さ。
 
 もう䞀床君に䌚おうずしお。
 
<終>