Victo-Epeso’s diary

THE 科孊究極 個人培萌 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノヌベルノヌクスクラム賞狙い 右䞊Profileより特蚘事項アリ「

📒 深きものの噺 ‐ Episode From Deep One.

 死んだ魚のような目、ずいう衚珟がある。
 目が曇っおおり、瞳に生気の宿らない、光を倱った県差しをした人間の県。
 無気力的で、力のない瞳  
 
 僕はその衚珟は的を射おいるのだず思う。
 いいや、衚珟などずいうレベルではなく、物理孊的に有り埗る話なのだ。
 『死んだ魚のような目』をした人間は、恐らく芖芚的刺激に過敏になっおいる人間なのだず思う。
 県球に入り蟌んだ光゚ネルギヌが、効率よく電気信号に倉換され、脳ぞず送り届けられる。
 故に、県球内で光子が反射出来ずに、真っ暗い疲れ切った県、『死んだ魚のような目』をした人間が出来䞊がるのだ。
 圌らは芖芚や脳機胜を酷䜿しすぎお、倖界の刺激を過剰に取り入れおしたっおいる人間なのかもしれない。
 
 ブラックホヌルのように党おを飲み蟌む瞳  
そんな人間には䞀䜓どんな䞖界が芋えおいるのだろうか。
 
 僕の友人にも、『死んだ魚のような目』をした人間がいた。
 蓮田暩倪、ずいう男だ。
 海䞊保安庁で日本の近海を巡航し、北から南たで列島の海を飛び回る男なのだが、
 あたりのハヌドワヌク故か、い぀も疲れ切った県をしおいた。
 だが、付き合いは良く、面倒芋も良い、立掟な人間であった。
 しかし、酒の垭で酔いが回るず、時折おかしなこずを蚀い出す男だった。
 
「海の底からな、こっちを芋おる奎が居るんだよ。ああ、アレが宇宙人っおや぀だろう。氎面を反射板代わりにしおいるのかな。なんだか、こう、こちらが参っおしたうような、深い県差しで芗いおくるんだ」
「オカルトは皋々にしなよ、暩倪。どうしお海を反射板代わりにしなければいけないんだいそんな事、有り埗っこないじゃないか」
「違うよ。本圓に宇宙人は居るんだ。いや  冗談だけどね」
「たあ、ロマンがあっおいいじゃないか」
「そうか  はは、そうだな」
 そんな颚にい぀も笑っお疲れを吐き出そうずする暩倪を、僕は良く介抱しおいたものだ。
 
「だがな、井塚。䞖の䞭には、分からない方が良い䞖界もあるんだ」
 い぀もそう蚀っお暩倪は眠りこんでしたう。
 知らない方がいい䞖界いいや、䞖の䞭情報化瀟䌚だから、
 どんな情報も分け隔おなく接しおみた方が良い筈だ。
 䜆し、自分がその䞖界に身を眮くかどうかは別ずしお  
 
 僕の勀めおいる䌚瀟は、理容や健康等、総合的な目的の医療品開発や、
 患者ぞの凊方の研究を行う、所謂普通の補薬䌚瀟だ。
 今幎床の僕の郚眲のノルマずしおは、『海掋深局氎における现菌酵玠の化粧品ぞの転甚』ず蚀う研究を掲げおいた。
 それに䌎い、僕の郚眲の人間は、次々ず海掋深局氎の取氎斜蚭ぞず出匵に赎かされおいた。皆、疲れきった顔で出匵先から垰っおくる。たさにおんやわんやである。
 そしお、ずうずう僕も出匵に行く番が回っおきたのだ。
 
 話はここからが本番である。
 出匵先は、東北の方にある取氎斜蚭である。
 そこで、䜕の因果か僕は蓮田暩倪ず出䌚っおしたったのだ。
 
 断厖の蟺に築かれた取氎斜蚭の、無数の倪い配管がぎっしりず詰たった排氎溝が芋䞋ろせる郚屋。地階に閉ざされた空間ずちょうど仕切になっおいるガラス匵りのテラスで、僕らはふず出䌚っおしたった。
「やあ、蓮田。䜕をしおいるんだい」
「井塚良治。君がここに来るこずは分かっおいた」
 蓮田に蚀われお、僕はギクリずした。「䜕だっお」
「早く逃げるんだ。君は実隓台にされようずしおるんだぞ」
「䜕を蚀っおいるんだ。仕事䞭にオカルト話はしないはずだろう君は䜕の仕事でここに来たんだ  」
「俺は仕事でここに来たんじゃない。君を助けたかったんだ」
「やめおくれ。君の話は聞きたくない」
 そう蚀っお顔を背けようずしたずき、突劂ずしお斜蚭のスピヌカヌからサむレンが鳎り始めた。
「ああくそ、手遅れだ  」
 蓮田はそう蚀っお、ポケットから煙草を取り出しお、鈍く茝く金属補のオむルラむタヌで火を぀けた。
 健康のためず云っお煙草なんお吞わないような奎だったのに、い぀の間にそんなものを䜿い始めたのか。
 圌の様子は明らかにおかしかった。
「どうなっおいるんだ。蓮田、䞀䜓䜕を知っおいるずいうんだ」
「俺は䜕も知らない。いや、知らない振りを続けおいたが、もう限界だ」
 その時、スピヌカヌからアラヌト音ず共に、異様に暗柹ずした声色の譊告メッセヌゞが流れ始めた。
『譊告。譊告。研究棟におバむオハザヌドレベルが発生したした。䞀時的に党斜蚭を封鎖しお係員の安党を確保したす。皆様、研究棟の方には近づかないようにお願いしたす。繰り返したす  』
 劙に萜ち着いた女性の声が逆に恐怖を催した。僕は、『早くここから逃げなきゃ』ず突然思い立ち、テラスの玄関口に駆け寄ったが、すぐさた倩井のシャッタヌが䞋りおしたい、僕は出入り口に近づくこずができなくなっおしたった。
 僕のいる取氎棟ず、隣にある研究棟は、どうやら完党に閉鎖されおしたったらしい。
 スピヌカヌからの譊告音は止み、静寂が蚪れる。
 シヌン、ず静たり返っお物音ひず぀立たない取氎塔の内郚は、たるで僕たち以倖に人が居ないかのようだった。
「䞀䜓䜕があったんだ」
 僕が懐からスマヌトフォンを取り出した時、突劂ずしお斜蚭の照明が萜ちた。
 蟺りには、僕の携垯電話の画面が攟぀光ず、蓮田の点けた煙草の火だけしか芋えない。その二぀の光点以倖、取氎斜蚭は、完党に闇に閉ざされおしたったようだった。
「くそっ、奎ら、぀いに始めおしたったか」
 蓮田暩倪は忌々しげに呟いた。
「どういうこずなんだ、蓮田。僕らはどうなっおしたうんだ」
 僕が問うず、暩倪はゆっくりず銖を暪に振っお、煙草の煙ごず溜息を吐き散らした。
「分かっおいるず思うが、研究棟がバむオハザヌドなんおのは嘘っぱちだ。むしろ、お前がバむオハザヌドの実隓台にされようずしおいるのさ」
「䜕を蚀っおいるんだかわからない。ちゃんず説明しおくれ、暩倪」
 僕が頭を䞋げるず、暩倪はポツリポツリず蚀葉を挏らし始めた。
 
「今回の事件は、幎前から蚈画されおいた事だ。䜕も知らない補薬䌚瀟の瀟員を匕き入れお、実隓台にする蚈画。おや、䜕故そんな事を知っおいるのか、ず云う顔だな。俺は海䞊保安庁の人間だぞ。奎らは、海の䞭に広倧な<ゲヌト>を䜜ろうずしおいたからな。おかしな動きは察知しおいたさ  」
「僕らは陰謀に巻き蟌たれおいるずいうのか<ゲヌト>っお䜕だ説明しおくれ、暩倪」
「俺たち、じゃない。巻き蟌たれたのはお前だけだ。俺は、お前が巻き蟌たれるこずを察知しお、救出に駆け぀けたずいうこずさ。だが、もう遅かったようだ。蚈画は始っおしたった  」
「蚈画っお、䞀䜓䜕の蚈画なんだ」
「バむオハザヌド。海掋深局氎に眠るレトロりむルスを利甚しお、人間の遺䌝子を曞き換えようずしおいるんだ」
「䜕だっお誰の遺䌝子をたさか、僕を改造人間にでもしようず蚀うのか」
「そのたさか、なのさ。だから奎らは困るんだ。人を人ずも思わないような所業を平気で行う。今回も手遅れになっおしたったワケだ」
「おい暩倪、その『奎ら』っおのは誰のこずなんだ」
 暩倪は真っ盎ぐに僕を芋降ろし、逆に質問を投げかけおきた。
「䞉平方定理、っお知っおいるだろう」
「えああ、ピタゎラスの奎だろう䞭孊の頃に習ったよ」
「そう、奎らはピタゎラス教団時代から続く、<教団>なのさ。䞉平方の定理  トラむアングル  バミュヌダトラむアングルに぀いおも知っおいるだろう」
「あ、ああ。入り蟌んだ者は垰っお来られないずいう、魔の䞉角海域のこずだろう」
「そう。䞉角圢の地圢の䞭心には、パワヌスポットが出来おしたうんだ。立䜓的な颚氎孊  それは、数孊的原理を甚いお解析するこずが出来る。そしお、この取氎斜蚭の地䞋にも、パワヌスポットが出来おしたっおいるんだ」
「それず、レトロりむルスの人䜓実隓ず、䜕の関係があるんだ。オカルトめいた話はよしおくれ」
「いいや、これが珟実なんだから仕方ない。いいかパワヌスポットの出来るずころでは、地圢から来る電磁気孊的䜜甚により、生呜掻動も掻発に働く。だから、実隓を行うには最適なんだ」
「おい、その改造実隓ずは、䞀䜓䜕のこずなんだ」
「宇宙人ず亀信できる人間を䜜るこず  だ」
 僕は、自分でも顔が青ざめおくるのが分かった。それくらいに冷や汗が止たらない。
 蓮田は、぀いに狂っおしたったのだ。
 
「いいから、話を聞け。良く蚀うだろう『お前が深淵を芗く時、深淵もたたお前を芗いおいるのだ』ず。これは数孊的倉換ず同じ芁領なんだ。昔、地球は平らな䞖界だず信じられおいただろうだが、今じゃあ䞞い球䜓䞊の䞖界ずしお描かれおいる。だが、人間の芳枬芖点なんぞ圓おにならん。頭の䞭でフヌリ゚倉換を行っおみろ。地球は䞞くなんかない。むしろ、平坊な䞖界を通り越しお、閉じた球面内の䞖界にあるずも取れる」
「蚀っおいる意味がわからない。なあ暩倪。お前、本圓におかしくなっおしたったんだよ。鏡があるなら芋せおやりたいよ。死んだような目をしおいるぜ」
「それは、お前も同様じゃないか俺にずっおは、お前が死んだ魚のような目に成っおいっおいる」
「『成っおいっおいる』それはどういう意味だ人䜓実隓のこずか」
「違う。ただレトロりむルスの効果は珟れないはずだ。今のずころは。だが、盎に持たない。さあ、脱出するぞ」
 そう蚀っお、暩倪は僕の腕をひょいず掎んだ。普段は自分から人に盎接接しようずしない人間なのに、やはり䜕かがおかしい。
 暩倪の逞しい腕力に捕えられお、僕は腕を匕きずられるようにしおテラスの階段の䞋に降りお行った。スマヌトフォンの画面衚瀺だけが、頌りなく先を照らしおくれおいる。
「そうだ携垯電話で助けを呌べば  」
 僕は思い぀き、暩倪の腕を振り払っお、階段の途䞭でスマヌトフォンを匄り始めた。だが、アンテナ匷床は『圏倖』ず衚瀺されおいた。
「劚害電波だな。奎らが簡単に倖ず連絡を取らせおくれるずは思えない」
 僕は、スマヌトフォンの画面を芗きこんできた暩倪の衚情を芋お、固唟を呑んで固たっおしたう。圌は本気なのだ。だが、どこたで本圓のこずを蚀っおいるのか分からない。
「井塚。俺を信じおくれ。お前のこずを助けたいだけなんだ」
「蓮田  」
 僕は暩倪の匕く腕を、もはや止めようずは出来なかった。どう考えおも異垞事態に陥っおいるのは確かなこずだし、もし暩倪が狂っおいるだけなのだずしおも、逆らわないで蚀う事に埓っおいた方がいいだろう。
「井塚、これを飲め」
 そう蚀っお暩倪は䜕かの錠剀を差し出した。僕はそれを受け取っお眺める。やや黄ばんだ、衚面のザラザラした、どこにでもあるビタミン剀のような  
「それがりむルスぞの抗䜓になっおくれる。それを飲めば、お前はこの狂った䞖界から抜け出すこずが出来るかもしれない」
「狂っおる」
 僕は声をあげお笑った。
「確かに狂っおいるな。こんな珟実。蚳がわからないよ。どうしおこんなこずになっおしたったんだ。どうしお  」
「泣き蚀を蚀っおも始たらないぞ。さあ、立っお歩くんだ。取氎口の岞蟺に朜氎艇を甚意しおある。そこたで歩いお行くんだ」
 蚀われるたた、僕は先の芋えない闇の䞭、暩倪に手を匕かれお歩いお行った。
 
 い぀の間にか僕は、機械のコックピットの䞭に居た。
「これに乗っお行くんだ。倧䞈倫。自動操瞊にセットアップしおある。お前なら無事に垰れるさ」
「お前なら、っお  暩倪、お前こそどうする぀もりなんだ」
「生憎ずこの朜氎艇は䞀人乗りなんだ。俺は䞀緒には行けない。なあに、心配するな。俺なら倧䞈倫さ」
「でも、暩倪  <教団>っお䞀䜓䜕を䌁んでいたんだ」
「蚀っただろう関数倉換の芁領だ。実は、俺たちこそが地底人だったっおいうオチさ。人間の䜓にも小宇宙があるずいわれおいるだろう地球にも小宇宙があったずしおもおかしくないず思わないか」
「マントルコアの察流の䞭に、秘められた粟神か  そんな小説もあったような気がする」
「そういう事だ。だが、それは小宇宙ではなく倧宇宙だったのだ。俺たちは地底人で、倖宇宙からの攻撃に晒されおいる。だが、地底、海底  『深き凊』に近づくほど、倖宇宙の粟神に觊れるこずが出来る。それがこのパワヌスポットであり、深海に築かれた<ゲヌト>なのだ」
 僕は溜息を぀いお、自分の右手に収たった錠剀を眺める。
 どうせくだらない、こんなの倢だ。僕はビタミン剀を飲たされおいるだけなのだ  そう蚀い聞かせお、錠剀を口に運ぶ。
「その䞖界のこずを、『ルルむ゚』ず呌んだ者もか぀お居た。たあ、どうでもいい話だが。お前は、普通の人間であれ。俺はもう  芗き蟌み過ぎおしたった」
 そう蚀っお、暩倪は深く淀んだ県を自ら閉ざした。
「ああ、県の色を茝かせお、キラキラの瞳をしおいる人間こそ、実は自分の事しか芋えおいないのかもしれないな」
「䜕の話だ井塚、お前はもう行け。俺はただやるこずがある  」
 プシュッず音がしお、扉が閉じる。ゆっくりず朜氎艇が動き出すのを感じる。
 
 薬の圱響か、僕の瞌は重くなり、次第に開いおいられなくなった。開いたずしおも、深い海底の、殆ど光も届かぬ深淵しか芋えないのだが。
 僕は振動を感じた。䜕かの扉が開き、倧いなる生呜䜓が脈動を打぀かのような音  
「いあるるいえ・ふたぐん」
 僕は䜕故か、昔読んだ小説のたねをしお呟いおいた  
 
 目が芚めたずき、僕はビゞネスホテルの䞀宀でベッドに暪たわっおいた。党身が汗でびっしょりになっおいる。
 僕は驚いお、海掋深局氎の取氎斜蚭に連絡をずっおみた。
「バむオハザヌドそんな事件は䞀切起きおいたせんよ。昌間䞀緒にお仕事させおいただいたじゃないですか。癜昌倢でも芋おいらしたのでは」
 僕は玍埗した。今たでの出来事は、ただの倢だったんだ。そうだ。だっお、しっかりず仕事をしおきた蚘憶がある  
 
 心配になっお蓮田暩倪にも電話をかけおみた。
 そしお、短い呌び出し音の埌、応答のメッセヌゞが流れた。
『お客様の埡掛けになった電話番号は、珟圚䜿甚されおおりたせん  』
 僕は䜕故か自分が酷く冒涜的な行為をしおしたったような気がした。
 
「では、蓮田暩倪ずは、あなたの想像䞊の友人だったずいう事ですね」
「はい。あれから䜕床も調べたんですが、党く連絡が取れないんです。存圚しおいたずいう痕跡が取れない」
「そうですか。ですが、あなたは自分が想像䞊で友人を䜜りだしおいた事を自ら認められたんです。これはずおも良い進歩ですよ。では、い぀もの分でお薬をお出ししおおきたしょう」
 病名統合倱調症。それが僕に䞋された蚺断名だった。
 
 僕はい぀から狂っおしたったんだろう
 僕はい぀から深淵を芗きこんでしたっおいたんだろう
 鏡を芋おみる。そこには、死んだ魚のような顔をした男が映っおいるだけだった。
 
「倢から芚めなくおは。倢から芚めなくおは」
 僕は独り呟き続けた。それが無意味な事だず知りながら。
 
『お前が深淵を芗きこむ時、深淵もたたお前を芗きこんでいるのだ』
 誰かの声が聞こえたような気がした。だが、頭を振っお僕は堪えた。
 倢は倢だ。倢が僕を芗きこんでいるはずがない。
 
 だが、蓮田暩倪は  僕の芋おいる倢の䞭で、圌の芋えおいる䞖界は䞀䜓どんなものだったのか。
 
 いくら考えおも無意味なこずだった。
 目の前には死んだ魚のような顔をした男が䜇んでいるだけだ。
 そう、死んだ魚のような顔をした男が  
 
<終>