Victo-Epeso’s diary

THE 科学究極 個人徹萼 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノーベルノークスクラム賞狙い 右上Profileより特記事項アリ〼

📘 G.N.S.[2-1] 合コンにて

「じゃあ私もう帰るね」
「え」
「あなたもあまりダラダラしてると卒業なんてあっという間だぞ!」
「あ、ちょっと先輩……」
「じゃあ ね」
その光景は何度もフラッシュバックしている。
あの日の僕は何を言おうとしてたのか、それだけが思い出せなかった。
あの時、例えば先輩の体を抱き寄せて離さなかったら……
僕の人生が大きく変わっていたりしたのだろうか。

 

あれから4年がたった。

 

「な、頼むよマジでっ」
「んなこと言われてもなあ」
僕の大学での友人の一人である宮田健次は、
コレでもかというくらい頭を下げて嘆願の意を表した。
「なあ、恥ずかしいから頭上げろよ」
「そうか、OKしてくれるんだな!!!」
宮田は目を輝かせて僕の顔を見上げた。
「いや、誰もんなこと言ってねーし」
「そっか、OKしてくれんのか!!!」
「だっからあ、俺彼女いんだから合コンとかまずいっしょって話なの」
「ダイジョーブだって!ただの数合わせだしばれないようにするからさあ、頼むよ、なあ」
「ああもう、うっとーし、寄るな馬鹿」
「俺とお前の仲だろ、なっ」
「はあ」
宮田は悪びれない笑顔で明るく誘った。
僕はこいつの笑顔には弱い。理屈を抜きにしてどうしても憎めない人間はたまにいる。
同じ高校出身のよしみもあって、色々な面で世話にもなっている。
「今度おごるからさ、なっ」
「……考えとくよ」

 

次の週末、僕と宮田は駅前で待ち合わせした。
大学の男友達2人も来て、宮田は最後に5分遅れでやってきた。
ファミレスにはすぐに着いた。

 

「アハハ、何それおっかしー」
「へえ、コレ好きなん?」
「あー、あの曲いいよね」
「昨日のアレ見た?」
「どこでその服買ったの?」
集まった男女はそれなりに盛り上がって、それぞれ手探りに話をしていた。次第にお互いを掴み始めた
彼らは段々目当ての相手を定めて話をするようになってゆくのが分かった。僕はといえば特に何か喋ろ
うとはせず、何か問いかけられても適当に受け答えてこの場を乗り切ろうとしていた。
そろそろいいか、と思った僕は「ちょっと行ってくるわ」といってトイレに行き、個室の中でしばらく
ダラダラと時間を潰した。
手を洗って外に出ると、僕の名前を呼んで声をかけられた。合コン相手の一人だった。
「加賀美さん?どうしたの?」
「いやー、別にどうしたってワケじゃないけど」
「そう」
加賀美さんは僕の一つ年下の女の子で、合コンの最中は一番大人しい態度をとっていた。
「ね、私と同じでしょ?私も無理やり人数あわせで連れてこられたんですよー」
「わかる?」
「そりゃああそこまで乗り気じゃなければねー」
「そりゃそうだ」
「彼女いるんでしょ?」
「うん。君もそうとか?」
「私はそんなんじゃないですよ。単に興味無かっただけ」
「まあ躍起になってやることじゃないしね」
「そうですよね!皆ガツガツしすぎでさあ……」
彼女はちょっと自傷的な笑みを浮かべた。その横顔を見た僕には、ふとわきあがる感情があった。
「……ねえ」
「なに?」
「君ってお姉さんとかいるの?」
「え?一応いますけど……どうして?」
「昔の知り合いに似てるんだ。苗字も同じ。名前は……そう」
加賀美香苗……"先輩"の名前だった。
「へえ……香苗姉さんを知ってるんだ」
「じゃあやっぱりそうなんだ?」
「うん。……でも知ってる人と会うなんて驚きだな。こんな偶然ってあるものなんだ」
「僕も驚きだよ」
「はは、それでどんな関係だったの?まさか恋人とか」
「茶化すなよ……君の姉さんは僕の先輩だったんだ」
「部活の先輩?」
「ん……良く分からないな。僕は帰宅部だったけど、たまたまね、使われてなかった元天文部の部室
に忍び込んで一人で遊んでたら、先輩も同じ理由で入ってきてさ」
「へえ?」
「なんとなく意気投合してね。それから放課後あの部室で二人で色々くだらない世間話とかおかしな話
をしてた。それ以外ではあまり会うことも無かったね」
「なんかロマンチックだあ」
「そんないいものじゃないよ」
ちょっと照れくさくなって手を振ってしまった。
「でも結構好きだったんでしょ?」
「さあね」
「でも、それがあんな事になっちゃって……」
「ああ……」
こんな話をしているとつい忘れそうになる。先輩はあの日、消えてしまった。それは紛れも無い事実だ
った。
「ごめん、なんか嫌な事思い出させちゃいましたね」
「いや、それを言うなら僕のほうこそ。君のお姉さんの事だもんね」
「でも良く私の顔分かりましたね。いくら姉さんと似てるって言っても随分昔の事なのに」
「ええ?昔ったって4年くらいだし、そんなに顔忘れたりしないって」
「え、でも今大学3年でしょ?それで先輩って言うくらいだから、7、8年は経ってるはずじゃあ……
「ん?ああ、高校だよ、中学の時じゃなくて高校のときの先輩だって」
「え?うそ」
加賀美さんの顔は驚きで凍りついたみたいになっていた。
「どうしたの?」
「だってそんなのおかしいよ。姉さんがいなくなったのは8年前だよ?」
「え?先輩が失踪したのは4年前だろ?君だって高校のときの話だと思ってたんじゃ……」
「嘘!そんなはず無い」
今度は僕が凍りつく番だった。あまりにも取り乱した彼女の様子に、何故かごくりと生唾を飲み込む。
彼女の言葉は、こう続いた。
「失踪なんかじゃない。姉さんは8年前に死んだ……中学2年の時に。だから高校で会うはずなんか
無いの。ねえ……あなたは、誰のことを言ってるの?」