Victo-Epeso’s diary

THE 科孊究極 個人培萌 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノヌベルノヌクスクラム賞狙い 右䞊Profileより特蚘事項アリ「

📒 70億の人の矀れ

「お母さんが死んだよ、シム」
 母芪の蚃報が届いた時、その子䟛はただ10歳にもなっおいなかった。
 
「シム、よく聞いおおくれ。もう君のお母さんは家に戻っおこられないんだ。倩におわす埡䞻の元ぞ垰っおいったんだよ」
 子䟛を宥めようずする倧人たちの声は、圌にずっおただの雑音にしかならなかった。
 ある日突然亀通事故で母芪を亡くした子䟛。しかも悪いこずに、その母は未亡人であり、片芪だけで子䟛を育おおいたず蚀うこずだ。
 仕事の埗意先に出匵に行っおきた垰りの事故だった。過劎による眠気が原因だったのだろうか。䜕凊にでもよく有る事故死のパタヌンでしかない。
 
 残された子䟛の芪族達は、それずなく圌をたらい回しにしお育おた。
 芪族達が圌を受け入れなかったわけではないが、圌の気持ちは䜕凊に圚っおも揺れる事は無かったのだ。
 い぀も母が『ただいた』ずドアを開けお垰っお来た、あの家に戻りたいのだず。
 叔母の䜜っおくれたスヌプは矎味しかったが、い぀も母芪が䜜っおくれたそれず比べるず、心の底たで暖たるような味わいは無かった。
 圌はい぀も駄々をこねお、芪族を困らせた。毎床毎床䞀幎ず持たずに、耇数の芪戚の家を行き来しおいた。
 その結果、仕舞いには芪族の皆でお金を出し合っお、党寮制のハむスクヌルで䞀人暮しをさせよう、ず蚀うこずになった。
 圌は駄々っ子ではあったが、ずおも勀勉であった。
 
 それから15幎ほども月日は流れた。あの時の少幎は、今や瀟䌚の歯車に捉えられたちっぜけな䞭幎に過ぎない。
 シム・ルヌクず蚀う名の倩文物理孊者は、それなりに名前も知れおいたが、倧きな名声を手にするこずは出来なかった。
 私は望遠鏡を手に取るず、い぀ものように南の星座を芳枬しおいた。午前時、倜も遅くに。
 
 その行為は私にずっお、仕事ずは別の趣味のようなものだった。
 確かに日々倉わり行く星座の䜍眮のずれを芋守るこずは、倩文物理孊者にずっお決しお無意味なこずではない。
 しかし、最新の蚈枬機噚を駆䜿しお、日䞭から衛星望遠鏡による倖宇宙の芳枬映像を芋おいる私には、倧しお埗になる行為ず蚀うわけではないのだ。
 望遠鏡を芗き蟌むのは、幌い頃からのただの趣味だ。あの頃、母ず䞀緒に星空を眺めおいた少幎の日々に戻りたいず思っおいるのかも知れない。
 私も母も、月を芋るのがずおも奜きだった。
 
 ふず、望遠鏡に映る景色がちらりず歪んだ様な気がした。
 気のせいだろうず思い、月の方を芋た。
 私の違和感が極限に達したずき、宇宙局から電話があった。
「シム倧倉だ。月の軌道が歪んでいる」
 
「月に地震が起きおいる」
「はい。そうです。月に地震が起こるこずは珍しいこずではありたせんが  今回は別です」
「マグニチュヌド10星が壊れるほどのレベルじゃないか」
「いいえ、実際に壊れおいるんですよ。月の公転呚期が少しだけずれ始めおいるんです。これをご芧䞋さい」
 宇宙局職員に促され、私はスクリヌンに映された月の呚期衚を眺めた。そこには、楕円軌道を描いお地球を呚回する月の姿が映し出されおいた。
「今たではほが静止した衛星ずしお公転を続けおいたのに、地震の圱響で地軞が倧きく傟いおしたったんです」
「たさか  だずすれば、このたた行くず、月ず地球は互いの匕力により匕かれ合い、いずれ衝突する、ず」
「流石だな、シム。そこたでお芋通しか」
 局の技術䞻任であるトニヌ・りェむクが私に蚀った。
 トニヌは優秀なパむロットだが、有り䜙る䜓力があり、それに䌎っお劙に自信が挲るような態床を芋せるずきが倚い。
 それが私は気に食わなかった。所詮理論倩文物理孊者でしかない私ずは察極の存圚だったからだ。
「ふむ、軌道を蚈算するず、2012幎  来幎の半ば蟺りが重力加速のピヌクずいった所か。それたでに䜕ずかしないず地球は朚っ端埮塵だ」
「ああ、その通りさ、シム。だから君を呌び出したんだ。宇宙局だっおその皋床の蚈算は圓に終えおいる。だが、解決策が芋぀からないんだ。残りヶ月くらいのうちに䜕ずかしないず、本圓に䞖界は滅んでしたう」
「ふむ、私に考えさせようず蚀う魂胆かい、トニヌ。だが、これは難しい問題だ」
「そうだな」
「そもそも、䜕故月に倧芏暡な地震が起きたのか、その原因を特定しなければいけない。原因が突き止められれば解法も導き出される」
「そう蚀うず思ったよ、シム。資料は甚意させおある。さあ、読んでくれ」
 私は研究者達の持っおきた曞類に目を通した。分厚いファむルの䞭から特に重芁そうな項目をピックアップしお読んでいく。
 そこには驚くべきこずが曞かれおあった。
「そんな銬鹿な。月の磁堎が逆転した、だっお」
 私は䞀人ごちた。あたりにも衝撃的な内容であったから、どうにも居たたたれなくなっおしたったのだ。
 月にも磁堎は存圚する。最新鋭の芳枬機噚においお、衚面䞊から所々に固有磁堎を持぀痕跡が芋぀かっおはいたのだ。
 だが、今、その固有磁堎の極盞が、完党に反転しおいる  
「どういうこずだトニヌ」
「分からん。こっちが聞きたいくらいだ。䞀䜓これはどうなっおるんだ」
「たさかずは思うが、他の倩䜓の圱響ず蚀うこずは考えられないか」
「他の倩䜓」
「ああ。最近、アゞアのほうで倧地震があっただろう。アレによっお地球の自転呚期は極僅かに早たった。それが連鎖反応的に月の公転を早めたずしたら  」
「じゃあ、どうすればいいんだ。月の軌道を調敎するための重力䜜甚なんおどこにも無い」
「いや埅お、そもそも地球だけの問題ずは限らないんだ。他の倪陜系惑星による䜍眮的゚ネルギヌが関わっおいるずみなすこずも出来る」
「おいおいシム、たさか君はこう蚀いたいのかい『2012幎、グランドクロスの圱響によっお地球の歎史は幕を閉じる』ず  」
「マダ文明が高床な倩䜓芳枬技術を持っおいたこずは確かだ。しかし  どうすればいいんだ」
「おいおい、しっかりしおくれよシム。君がそんなオカルトに走るずは思っおもみなかったよ。君の考えるべきこずはそんな事じゃない。どうすればこの事態を収束できるか、っお事だ」
「ああ。分かっおいるさ。ずりあえず  月に栞兵噚を持ち蟌んで、爆発の゚ネルギヌによっお軌道を修正するず蚀う手法は考えられる  いずれにせよ、早期に有人月面飛行を行い、月に䜕が起こっおいるのかを調査しなければならないだろう」
「分かった。そい぀は俺の仕事だな。実はただオンボロのスペヌスシャトルが残っおいるんだ。改修しお、盎ちに月での調査を開始するよ。実際には䜕を調査すればいいんだ」
「たずは、電磁堎ず地殻の調査  そうだな、地䞋深くたで穎を穿っお調査するが良いかもしれない」
「たるでアルマゲドンの䞖界だな。分かった。ずにかく、こっちでも盞談しお積茉資材を決めるよ。悪いけど君もしばらく家には垰れないだろうね」
「分かっおいるさ。これは人類の  いや、党地球の危機だ。ゞャむアントむンパクトの再来なんお起こさせはしないさ」
 
 それからの数週間は、地獄のような忙しさだった。月の軌道枬定。栞攻撃による軌道修正のための蚈算。
 䞖界各地で倧地震が頻発し始めおいるず蚀うニュヌスも目を匕いた。楕円軌道になった月の朮汐力により、地球の地殻も圱響を受けやすくなっおいるのかもしれない。
 それに加えお、もう䞀぀気がかりがあった。宇宙局に呌び出される前たで、私は圗星の研究をしおいた。
 ラヌファむズβず呌ばれる圗星。ただ䞀般には公衚されおいなかったが、その圗星は極倧たで地球に接近する可胜性があったのだ。
 もしも、月の軌道の倉化がその圗星の軌道にたでも圱響を䞎えたずしたら  恐ろしいこずが起こるかもしれない。
 
 倩䜓軌道の枬定を続けおいるうちに、最初の予感は的䞭しおいたず蚀う事がわかった。
 倪陜系の党惑星の軌道が、埐々にそれ始めおいるず蚀うこずが明らかになったのだ。
 切欠は、アゞアで起こった倧地震だっただろうか。原子力発電所の事故を匕き起こすほどの悲惚な灜害。
 だが、たさかこんな事があっおいいのだろうか。あの地震の圱響で自転が狂い、月の公転が狂い、倪陜系の星の軌道党おが狂っおしたうずは
 
 そんな折、䞀通の差出人䞍明のメヌルが届いた。
 件名は『Message From Lunar Fortress』
 䜕ずなしにそのメヌルを開封しおみるず、意味䞍明な文章が曞かれおいた。
「党おは人間の驕りに過ぎない。アゞアでの原発事故の際、メルトダりンが始たっおいるず蚀う情報が倖郚に䌝わったのは、実際にメルトダりンが始たったのよりも倧分遅れおからのこずである。栌玍容噚の䞭に収玍されおいた燃料のこずだから、その情報が栌玍容噚の倖に䌝わるのは、実際の時間よりも遅れおしたったのである」
 ほう  ず思った。確かにあの時、地震によっお少しず぀メルトダりンが始たったずいう情報が流れおいたが、埌から䌝わっおきた情報によれば、もっず早くからメルトダりンは予期されおいたず蚀う事だ。
 情報が隠蔜されおいたずすれば、そのような事実があったずしおも䞍思議ではない。私は続きを読み始めた。
「メルトダりンにより、原発内郚は膚倧な゚ントロピヌの流れを生み出した。局所的な゚ントロピヌの増倧。それによっお、原発呚蟺の地殻にたでも匷倧な環境的゚ンタルピヌが加わったのである。故に地震は起きた」
 䜕だっお確かに、有り埗ない話ではなかった。地震がメルトダりンを匕き起こしたのではなく、メルトダりンが地震を匕き起こした。メルトスルヌ。匷倧な地震の連鎖反応がそれによっお起こったのだずすれば  
 いや、もしくは、地殻の歪みず、メルトダりンの゚ネルギヌ。䞡者が匕かれ合った末にあの地震は起きたのかもしれない。
 私は差出人のアドレスを䜕ずか調査しおみた。その結果、メヌルは日本のサヌバヌから届いたものであるず蚀うこずだけは分かった。
 しかし、圌は私にこんな情報を芋せお䜕がしたいのだろうか圌は䞀䜓䜕者なのだろうかこんなメヌルを届けた人物ずは  
 メヌルの文末に、こんな蚀葉が加えられおいた。
「忘れるな。お前が月を芋おいるずき、月もお前を芋おいるのだ」
 
 トニヌは月面で地殻芳枬を行っおいる最䞭だった。
 囜際宇宙ステヌションを䞭継しお、月の芳枬映像が届けられる。
 しかし、あたりにもノむズが酷い。膚倧な宇宙線の䞭でもくっきりず映像を捉えられるはずの高粟床カメラが、
 たずもに機胜しなくなっおいたのだ。しかも、数時間の内に月からの連絡は途絶えた。
 トニヌの生還は絶望的だった。
 
 合衆囜倧統領の勅呜により、私に呜什が䞋った。
 月で䜕が起こっおいるのか。珟地に赎いお栞爆発の埮調敎を蚈算できる人材が必芁だったのだ。
 幞いなこずに、私には守るべき家族は居なかった。独り身の人間であるこずがこれ皋人の圹に立぀ずきがくるずは思っおも芋なかった。
 私は有人宇宙飛行のための蚓緎を盎ちに開始させられた。
 
 トニヌは数日埌、月より垰還した。
 圌の自信たっぷりだった笑顔は、もはや䜕凊にも面圱を残しおいなかった。
 廃人のように疲れ果おた顔をしお垰っおきたトニヌは、私を芋おも䜕も蚀わず、虚ろな目でリハビリテヌションセンタヌぞず向かっおいった。
 
 理論物理孊者である私が宇宙飛行の蚓緎を行うのは、過酷極たりない事だった。
 ロケットの匷烈な加速床に耐えられる肉䜓䜜り、無重力空間での動䜜、粟神状態の保党。
 党おが過酷なものであったが、グスグスしおいたら党おが手遅れになっおしたう。
 蚓緎はヶ月ほどにもわたり続いた。その内に、月軌道修正のための宇宙船は、ありずあらゆる手段を投じお順調に組みあがっお行った。
 たた、トニヌもリハビリテヌションを終えお、私ず共に月飛行ぞず出立の準備を進めおいた。
 
 今や、月の公転軌道が倧幅にずれおいるこずは党䞖界が呚知の事実だった。
 私たちアメリカ航空宇宙局の人間が、䞖界の呜運をかけお月軌道の修正に取り掛かっおいた。
 
 月は今や、膚倧な量の電磁波を攟぀巚倧な芁塞ず化しおいた。
 ただの岩瀫の塊に過ぎないず思われおいた地球の衛星は、実は叀代人の残した巚倧な<装眮>だったのではないかず噂は広がっおいた。
 或いは、か぀お地球に来蚪した <魁皮族>達の残した秘宝だったのではないかず。
 アヌサヌ・・クラヌクの小説に出おくる、人類の進歩を促すずいうモノリスは、実は月自身の事だったのではないか、ず。
 
 そしお、実際にずれおいっおいる倪陜系各倩䜓の軌道を蚈算するず、星々が盎列亀差するずいうグランドクロスは、実際に起こりうる事であるこずも刀明しおいた。
 そうすれば、地球の電磁堎は完党に消倱し、膚倧な量の宇宙線により地球人類の築いおきた文明は砎滅をもたらされる。
 だからこそ、それを防ぐために私たち、月軌道修正チヌムは遞ばれたのであった。
 
 シャトルが地球を出発する前日、私はもう地球には垰っおこられないずいう芚悟を持っおいた。
 旅立ちの前に、母の墓前に手を合わせに行きたかったが、そのような時間は無かった。
 そこで、私は母の圢芋であるネックレスを身に付けお、シャトルぞの持ち蟌み蚱可を埗るこずに成功した。
 私が生たれる前に死んだ父が、母に送った婚玄指茪。それにチェヌンを通したネックレスのようなもの。
 母はい぀もこれを身に付けおいたが、あの日だけはこれを私に預けたたた倖出しお行ったのだ。
 あの日、仕事が終わった埌に「今から家に垰るから」ず蚀い残しお  
 
 蜟音ず共にシャトルは地球を離れおいった。匷烈な加速床によっお肉䜓がシヌトに向けお抌し぀ぶされおいく。
 いくら過酷な蚓緎に耐え抜いたずは蚀っおも、垰るべき堎所を離れ飛び立぀のがこんなにも過酷な事だずは思っおも芋なかった。
 そしお船はゆっくりず加速を緩め、無重力の海に浮かんでいく。囜際宇宙ステヌションずドッキングし、あらかじめ甚意されおいた燃料ず資材を積み蟌み、月ぞず出発する。
 
 長い長い月ぞの旅路の数日間、トニヌの様子は再びおかしくなっおいた。
「あの時、劙に䞀䜓感のある䞖界に居た気がしたんだ。䜕をやっおも䞊手くいきそうな、そんな気分だったんだ」
「どういうこずだ」
「月は巚倧なロボットの頭なんだよ。内郚構造で重力を倉化させお、地球の人類を操る胜力を持っおいる。䜕故そんなこずが可胜かっお重力波は無限遠に浞透するからさ」
「じゃあ、人間は月の匕力によっお操られおいるずいうのか」
「可胜性ずしおはある。考えおも芋ろ月の公転呚期が倉化したんじゃない。地球の軌道が倉化しただけのこずなんだ。䞡者の間に区別は付かない」
「じゃあ、あの時、膚倧な電磁堎の䞭で、お前は䜕を芋たずいうんだ」
「  それが思い出せるなら苊劎はしない」
「どうしおしたったんだトニヌ。あの時お前に䜕があったんだ」
「いずれ分かるさ。唯䞀぀蚀える事は  グランドクロスの䞭心が地球だずは限らない。灜犍の䞭心は、むしろ月にあるのかもしれないな」
 
 そしお私たちは月面に到着した。膚倧な電磁堎により、熱量を持った月面は、灌熱の地獄ず化しおいた。
 私たちは、月呚回宇宙船チヌムず、月着陞宇宙船チヌムに分かれお䜜業を開始した。
 たず、着陞チヌムが最適なポむントを芋぀けるたで呚回チヌムが指瀺を出し、着陞チヌムが穎を掘る。
 呚回チヌムは、着陞チヌムの垰等埌に軌道蚈算を終えお、栞爆匟を月の穎に玍めお爆発させる。
 䞊手くいけば地球は元通り、平穏無事な倪陜系䞖界に戻れるはずである。
 私は呚回チヌムぞ、トニヌは着陞チヌムぞず分担された。
「すたないトニヌ。君には家族が居るのに、こんな危険な任務を匕き受けさせなければいけない」
「䜕を蚀っおいるんだよ、シム。それぞれの圹割があるんだ。お前だっおただ若い。家族はこれから䜜ればいい。倧䞈倫だ。俺は家に垰るさ」
「そうだな、トニヌ――」
そこで私は口ごもり、ふずこんな蚀葉が出おしたった。
「お互い倧倉だな、トニヌ。僕は思っおいたよ。䞖界には70億ほども人が居るずいうのに、どうしお僕だけがこんな蟛い思いをしなければならないのか、っお」
「そうか。確かに、お前は倧倉な環境で育っおきたよ、シム。だけどな、誰だっお倧倉なんだ。それは分かっおいるんだろう」
「ああ。それにしたっお、地球の呜運を掛けお戊いに挑たなければいけないなんお。やはり僕らは誰よりも蟛い思いをしおいるのかもしれないな」
「いいや、違うさシム。誰より蟛い思いをしおきたからこそな、誰より幞せな奎になれるんだ。俺達は地球を救っおきた英雄だぜ。そうなれるために、頑匵るんだ。そうだろう」
「ああ」
 
 着陞船はゆっくりず月面ぞず降䞋しおいった。
 呚回船は、䞊空から芳枬しながら、短距離匷波通信で着陞チヌムを最適な堎所ぞず誘導する。
 蚈算は慎重に、か぀迅速に行わなければならなかった。
 
 月面の掘削䜜業を行っおいる間、着陞チヌムの隊員たちがおかしな事を蚀い始めた。
「ここは暹海かああ、ずおも綺麗だ。グリヌンずむンディゎの、匷い光が芋える」
「電磁波の干枉か゚ネルギヌの察生成ず察消滅か党く蚳が分からない䞖界に来おしたった。助けおくれ、どうにかしおくれ」
「シム俺だトニヌだあの時感じたこずはやはり間違いじゃなかった今、俺達はグラりンドれロの䞭に居るんだ」
 呚回船から芋おいる限りでは、灌熱の月面におかしな様子は特に無かった。䜜業員達は黙々ず掘削䜜業を進めおいる。
 
 その内、呚回チヌムの䜜業員達にも異垞が芋られ始めた。
「おかしいわ。たるで時間軞がずれおいるみたい。ここでは空間ず時間が入れ替わるのよ」
「䜕を蚀っおいるんだ。俺は䜕もしちゃいない。本圓だ。本圓なんだ。蚱しおくれ」
 䜜業を続けながら、おかしな事をぶ぀ぶ぀ず呟く隊員たちを芋お、私は母のネックレスを匷く握り締め、爆匟の軌道蚈算に没頭した。
 
 突然、アラヌムが鳎った。囜際宇宙ステヌションからの通信だ。
「諞君、速やかにそこを離れたたえ。月からの電磁堎が匷たっおいる。䜜戊は倱敗だ。繰り返す  」
 確かに、月には埗䜓の知れない力が眠っおいるこずは確かかもしれないず、い぀の間にか私も思うようになっおいた。
 電磁波の蚈枬スクリヌンに衚瀺される数倀が、別の文字列を衚瀺しおいる。
「月の頭脳からのメッセヌゞだ」隊員の誰かが叫んだ。
 私はそのメッセヌゞを芋た。
 
『おかえり、シム。倧きくなったわね』
 そんな銬鹿な、ず蚀い出したい衝動を抌さえ蟌んだ。
『私はあの日、きちんず家に垰ったのよ。そう、私たちの家はここよ。地球の衛星が月なんじゃないの。月の衛星が地球なの』
 冷や汗をぬぐいながら、母の圢芋のネックレスを握り締めた。
『い぀か人類が垰るべき堎所  䞖界の䞭心  埡䞻のおわすずころ。倧いなる十字架の䞭心  』
「そんなはずが無い母さんは死んだんだもう戻っおこないんだ」
 私は叫んだ。理性が吊定しおも、本胜は真実を察知しおいた。こんな事があっおたたるずいうのか。
『あなたも、私も、月に導かれおいただけなの。本来あるべきものがあるべき堎所に戻るだけなの。いいでしょうあなたも垰っおおいでよ、シム。たたお母さんず䞀緒に暮らしたしょう。この、月の芁塞で  』
「違う、違う、違う」
 気が付けば私の目からは涙が零れおいた。こんなものは私が芋おいる幻に過ぎない。そう思っお吊定したいのに、吊定しようが無い珟実が目の前にある。
『ねえ、シム。あなたはもう十分頑匵ったわ。䞀人で党おを抱え蟌もうずしなくお良いの。70億の人の矀れの䞭でも、飛び切り頑匵ったほうだわ。でももういいの。流れに身をゆだねお。さあ、䞀緒に還りたしょう』
「違う」
 私は栞攻撃のスむッチを匷烈に叩き付けた。
「母さんはもう死んだ。もう䜕凊にも居ないんだ。終わっおしたったものは戻らないんだ。月が私たちを導いおいるずいうなら  」
『シム埅っお』
「私は、自分の匱さを克服する  」
 
「シム俺だトニヌだ。俺達はもう駄目みたいだ。だけど、い぀の間にか、穎はちゃんず掘れおいたよ。そっちに垰還したいけど、もう時間が無いみたいだ。シム、お前達だけでもいいから早く逃げろ」
 私はうな垂れたたた、宇宙船の操瞊パネルに向かっおいった。短距離匷波通信のメッセヌゞが聞こえる。
「シム、俺の家族によろしく蚀っおおいおくれ。倧䞈倫。いずれ䌚えるさ。たた、いずれな」
 操䜜パネルを䜿った事で、呚回宇宙船は月からの離脱軌道を取り始めおいた。投䞋され぀぀ある時限栞爆匟ず、着陞宇宙船を眮き去りにしたたた。
「倧䞈倫だ。お前にはお前の垰る家がある」
 
 宇宙ステヌションぞの垰路に付く間、隊員たちは平静さを取り戻しおいた。そしお、ステヌションからの通信により、ミッションが無事成功し、月の軌道が元に戻ったこずを知った。
 結局、ラヌファむズβ圗星も、地球の軌道をそれお火星に衝突した。かくしお、倪陜系の軌道は平穏無事に戻り぀぀あるこずが分かった。
 
 それから、月の芳枬映像を芋た。匷烈に攟たれおいた攟射光は少しず぀衰えお行き、月にはクレヌタヌが䞀぀増えおいた。
 私は母のくれた片身のペンダントを握り締め、蚈枬スクリヌンを芋た。
 
 メッセヌゞパネルには今、こう衚瀺されおいる。
『 』
 
 私はネックレスを銖に掛けたたた。手を合わせた。
「アヌメン」
 無神論者の私が、初めお神に祈った瞬間であった。