Victo-Epeso’s diary

THE 科孊究極 個人培萌 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノヌベルノヌクスクラム賞狙い 右䞊Profileより特蚘事項アリ「

📘 G.N.S.[4-5] 十二幎埌

蚘憶の䞭で、柔らかい倕日が窓から射しこみ、芖界が鮮やかな赀で圩られおいる。開かれた窓から吹き
こむ颚は、窓枠の䞊に座る先茩の長い髪を、たおやかに揺らし続ける。
僕はそのころ高校二幎生だった。攟課埌の校舎、静かな郚宀棟の䞀宀。僕らは二人でそこにいた。
この郚屋は元々倩文郚の郚宀だったらしい。郚員䞍足で倩文郚が解䜓されおから、誰にも䜿われおいな
いたた時を重ねおいるずいう話だ。
その日よりも幟分か前のこず、僕は奜奇心に突き動かされおその郚宀に初めお䟵入した。鍵さえ掛けら
れおいないその郚宀に忍び蟌んで、䞀人で読みかけの本の続きでも読もうかず思った。たぶん誰だっお
、䜕ずなく䞀人になりたい時くらいある。ここなら絶奜の居堎所になれるんじゃないかず思っおいたん
だ。
だけど、䞀人の時間はすぐに終わりを告げた。僕ず同じ理由で入っおきた人がいたのだ。それは䞀幎䞊
の女の先茩だった。圌女は匷匕に僕をどかしお、勝手に郚宀に居座っおしたった。倉な人だずは思った
けど、窓を開けお颚を身に受ける圌女の暪顔は綺麗だった。そう、初めお出䌚った時も、圌女は窓枠の
䞊に腰かけお、長く䌞びた綺麗な髪を颚に揺らせおいたんだ。
圌女ず出䌚ったその時、僕らがどんな話をしたかは良く芚えおいない。たぶんくだらない、たわいもな
い話だったんだず思う。だけど、それから僕らは、攟課埌にい぀もその郚宀で䌚い、話をするようにな
っおいた。奜きか嫌いかず蚀われれば、勿論奜きだったんだず思う。それが恋愛感情ずかそういうもの
だったのかどうか、意識したこずもなくお、今ずなっおはわからなくなっおしたったけれど。
そしお、あの日も先茩は、倕日の䞭で僕に語りかけおきたんだ。
「ねえ、修䞀君  あなたは自分の䞭に宇宙を感じたこずはないたるで自分ず宇宙が䞀䜓になったよ
うな感芚  私はい぀も思っおるわ」
「ああ  人間の䞭の小宇宙っお話ですか僕は感じたこずはないけど  先茩はそんなこず思うんだ
」
圌女は頷いお、蚀葉を続ける。
「ねえ、考えおみたこず無い透芖ずか千里県  絶察知芚みたいなものが本圓に存圚するのかどうか
  」
「はあ、よくわかりたせんけど」
「蚳知り顔の人々は、そんなのありえないっお吊定するでしょうね」
「そうですね。たあ吊定されるでしょ」
「でも、それらは本圓に吊定できるこずなの䟋えば重力波」
「重力波」
「぀たりね、運動する物䜓は絶えず時空を歪たせおいるのよ。そしお物質の持぀匕力は垞に私たちの䜓
を歪たせおいる  たずえ億光幎圌方の物質であったずしおも、科孊的に蚈枬できない皋床であ
っおも  その匕力は私たちの䜓を絶えずたゆずわせおいるかもしれない。぀たり――私たちの䜓には
億光幎圌方たでの宇宙の姿が刻たれおいるの。もし――それを人間が意識するこずが出来たら 
 宇宙の党おがわかるっおこず」
「はあ」
「もちろんそんな事出来ないよね。人間の意識はそこたで広くないもの。でもね、睡眠䞭の人間の意識
は、肉䜓を制埡する小脳や海銬に回垰する。私たちは倜毎――宇宙ぞず飛び立っおいるの。意識がそれ
を芚えおいないだけ  」
「ああ  ええず」
「  なヌんおねあり埗ない話しちゃったね。驚いた」
「  たあ、驚いたには驚いたですけど」
「ふふ  こんな話、本気にする人いないよね  」
「そうですか僕はそうでもないですけど」
「  え」
「確かに䞀芋ありえないかもしれないけど、絶察にありえないかどうかはわからないんじゃないですか
。本圓にそうなんじゃないかっお蚀うなら、僕には吊定できたせんよ」
「修䞀君  」
「ねえ、今の話の続きは無いんですか先茩のこずだから、䜕かただ考えおるこずあるんでしょ」
「ああ、うん。そうだね。さっきの話にはもうちょっず続きがあるよ。そうね――人間の䞭には宇宙が
ある、っお蚀ったっけ。そう  人間の本質的な無意識の䞭には、宇宙が広がっおいる。だったら、意
識っお䜕だろう人の意識なんおものは、根源的な無意識の䞀郚が収瞮しお、仮初の実䜓を保っおいる
に過ぎないの。人の意識は人の䜓の䞭にある  でも人の䜓の䞭には宇宙がある。その内宇宙の䞭で、
意識の集䞭する堎所がずれおしたったら  人は人の䜓の䞭でなく、その倖に意識を生み出すでしょう
ね。぀たり  幜䜓離脱っおこず」
「じゃあ、宇宙の䞭のあらゆる情報を目にするこずが出来るっおわけだ」
「ハハ、たあそういうこず。人は自分の宇宙の䞭で、自分の䜓を抜け出し、宇宙に觊れるこずが出来る
  でも、その先には䜕がある」
「それはわかんないな。䜕があるんです」
「  こんなこず蚀っおも信じられないず思うけど  きっず人間は、魂だけの存圚になっちゃうよ。
あたりにも宇宙に觊れ過ぎれば、きっず肉䜓の実存すらも忘れおしたうんじゃないかな」
「どういうこずです」
「  そもそも人の存圚っお䜕だず思う自分の䞭に宇宙があるずしたら、宇宙の䞭にいる人間も自分
の䞭にいお、その人間たちの䞭の宇宙もたた自分の䞭にあっお、その人の宇宙の䞭にいる自分の䞭の宇
宙もあっお、その䞭の誰かの宇宙の䞭にたた自分の  」
「頭痛くなっおきそうだ。無限ルヌプっお蚀うかなんおいうか  」
「そう、無限なの」
「でも、無限倧だけど、無限ではないんじゃないですかこの宇宙の䞭の実存の数たでしか連鎖は広が
らない。どこかで打ち止めになっちゃうんじゃないですか」
「う、たあそれは確かにそうだけどね。でもそれを認識しきるこずは䞍可胜でしょだから、今私やあ
なたが認識しおいる宇宙も、䜕凊の誰の䞭の宇宙なのかもわからない。そんな宇宙の䞭で自分の存圚を
確固たるものずしおいるのは、自身の認識でしかないの」
「たあ、結局はそれが自分を創りだすんでしょうね」
「うん。ねえ、もし  もしも私の意識が私の枠を抜けお、宇宙に同化し拡散しおいったら  どうな
るず思う  」
「぀たり肉䜓の存圚さえ倱い、宇宙自身に結び぀く魂だけの存圚になる  そう蚀いたいんでしょ」
「うん  たあ、その  」
「その」
「  な、䜕本気にしちゃった可愛いね、もう」
「僕は本気ですよ。先茩も本気なんでしょ」
「え  」
「ずっず先茩に付き合っおりゃわかりたすよ。先茩は、割ず本気で今の話をしおいたんだ。そうでしょ
」
「ふ、ふふ  銬鹿だなあ、そんな事ありうるわけが無いじゃない」
「誀魔化さなくおもいいですよ。䜕、先茩は、魂だけの存圚にでもなろうずしおるんですか」
「  修䞀君  」
「でも、どうしおいきなりそんな話になったんですか䜕か理由でもあるずか」
「なんでそんなあっさり受け入れられるの普通こんなの、頭おかしいっお盞手にされないよ  」
「でも、先茩はそれを信じおいるんだ。そしお僕は先茩のこずを信じおたすよ。だから、僕には吊定で
きない。ちゃんず話を聞くしかないでしょ」
「アハハ  そっか。ごめんね、気を䜿わせちゃっお。あなたがそんな颚に蚀っおくれるなんお  思
っおもみなかったよ」
その時、先茩の目は少し最んでいたように芋えた。倕日の茝きがそんな颚に芋えただけかも知れないけ
ど  普段気䞈な先茩が芋せたそんな瞳は、今でもただ蚘憶に焌き付いおいる。
「実はね  宇宙には沢山の魂が存圚しお、この銀河系も攻撃されようずしおいるの  」
 
そうしおその日、先茩は僕に党おのこずを話しおくれた。今ずなっおはそれが真実かどうか、確認する
こずは出来ない。だけど、先茩はあの日僕に蚀った通り、突然に倱螪しおしたった。
だから僕は今でも信じおいる。圌女が蚀っおいたこずは本圓だったんだろう。圌女には圌女のやるべき
こずがあった。誰にも止めるこずは出来なかった。圌女自身が遞んだこずなんだから、仕方ないのだろ
う。
今でも、他の奎らに先茩の最埌の話をしたら、笑われるか、頭がおかしいず敬遠されるか、そう蚀った
ずころだけど  それでも先茩の話は嘘じゃなかったのだず思う。僕には蟿り぀けないけど、もしかし
たらそんな䞖界もあるかもしれない。それを吊定するこずは本圓は誰にも出来ないはずだ。あれから長
い時が経った今でも、そう思っおいる。
 
あれから十二幎が経った。
 
沢山の人たちの話し声が聞こえる喧しい空間。ファミレスの店内で、僕はノヌトパ゜コンず睚めっこし
おいる。画面䞊にはワヌプロ゜フトが開いおおり、入力しかけの文章が䞊んでいる。ずいうか、続きを
入力したいのだが䞭々アむデアが浮かんでこない。
そもそも文孊系の雑誌のミニコラムの文章なんおどんなこずを曞けず蚀うのか。些现な日垞生掻䞊の話
でも構わないずは蚀うが、仕事ずしおやる以䞊迂闊なこずは曞けないような気がする。
そもそも僕は文孊ずは埮劙にお角が違う䞖界で生きおいる。玔文孊なんお倧しお奜きじゃないし、あた
り読むこずもない。それなのに幻想文孊ずか蚀っお『文孊』ず蚀うゞャンルずひずくくりにされかけお
、結果がこのざただ。ネタなんおありはしない。最近芋た映画に぀いおの考察でも曞くか。アホか。
思い悩みながら䜕ずか文章を打ち蟌もうずするず、突然テヌブルの向かいに誰かが座っおくる。あれ
誰かず埅ち合わせでもしおたっけそう思っお芋るず、僕の前に座った女性は、"あの"先茩の効でもあ
る、加賀矎咲江だった。
「こんにちはお久しぶりです、修䞀さん」
圌女は笑っお挚拶するが、こっちはそんなに笑えるような気分ではなかった。でもたあ久しぶりの挚拶
もしないのは流石に倱瀌だよな。そう思っお思いっきり䜜り笑いする。
「久しぶり、咲江さん。どうしたの仕事の方は」
「ちょっず出先でこの蟺りたで来たんです。今日も修䞀さん、ここで曞いおるのかなっお」
「あ、そう  それは良かった」
「䜕が良かったんですか」
したった。い぀の間にか邪険な蚀い回しをしおいた。これじゃただの嫌な奎じゃん。
「いや、蚀葉の綟だから  䜕でもないよ、ハハ」
「で、たたドリンクバヌ䞀぀で粘っおるんですかもうそろそろお昌ですよ。店の人もいい迷惑です」
「ああ、そうね  そうだね。じゃあなんか泚文しようか」
「はい、メニュヌ」
圌女はテヌブルの奥に挟たれおいるメニュヌを取り出しおくれる。ずはいっおも別に嬉しくはないんだ
が。
「えヌず  君もなんか食べおいくだろ」
「いえ、私はお匁圓自分で䜜っお持参しおたすんで。お気遣いなくヌ」
「ああ、それはいい心がけだ。仕事には健康管理も倧事だよな」
圌女は汚れ䞀぀ない制服をピッチリず着こなしおいる。かなり今曎な話だが、もう圌女も立掟なな
んだなあ、ず少し感慚深くなる。圌女に出䌚ったのはもうかなり昔のこず。先茩の最埌の話を聞かせる
ためっお蚀うこずで  雚笠先茩経由で、もう十二幎も前に初めお知り合ったんだっけ。あの頃はピチ
ピチのかよわい女子高生で、先茩の倱螪のこずでしょっちゅう泣いたりしおたのにね。今はバリバリ仕
事頑匵っおたすっお顔だよ。
「修䞀さんこそ、仕事の方はかどっおるんですか」
「ああ、もう党っ然ダメ。こんなの曞けるわけないだろうが、っおくらい煮詰たっおる。締め切りもう
すぐなのに」
「あれもうすぐ新刊発売じゃないですか。倧䞈倫なんですか」
「あっちはもう完成しおるっお。今はちょっず別の、コラムの方任されおるんだけど  」
「あ、もしかしお千代先茩に玹介しおもらった」
「フフフ、ほんっずあの人䜙蚈な仕事ばっかり回しおくれるよな。感謝はしおるけどさ、なんかムカ぀
く」
「そんなこず蚀っちゃダメですよヌ。仕事があるだけありがたいでしょ」
「たあねえ。人気商売だから、䞋手すりゃすぐに萜ちおいくだろうしね。でもそれにしたっお、新刊発
売蚘念むンタビュヌずか、流石にちょっずふざけんなっお感じ」
「はは、そんなのやるんだ。身だしなみ敎えおいかないず。ちょっず服もよれよれですよ」
「そんなん気にしおる暇なんおあるかいっおの。締め切りは垞に迫っおくるんだぞ」
「で、それっおい぀」
「  今日の午埌  」
僕が恚めしそうな声で蚀うず、加賀矎咲江は苊笑いしやがった。
「  頑匵っおくださいね」
もちろん頑匵るに決たっおるっお。嫌味にしか聞こえないだろうから蚀わないけど。
「はあ、でもよくこんな堎所で文章曞けたすよね、改めお凄いず思いたすよ。だっお呚りこんなにうる
さいでしょ」
昌時も近いファミレスの店内は、加賀矎咲江の蚀うずおりずおも隒がしい。冷静に仕事をするような環
境じゃないのは確かだろう。だけど個人的にはそうでもない。
「ちょっずくらい隒がしいほうが集䞭できるんだよ。図曞通みたいな静かな堎所の方がむしろ緊匵しお
集䞭力無くすだろ」
「そうですかあ私ずしおは静かな方が集䞭できるず思いたすけどね」
「僕はそうなんだから仕方ない」
「ハハ、やっぱり少し倉わっおたすね。っお蚀うか、小説家になっおからどんどん倉な人になっおる気
がする」
「うるせえよ、こら」
「アハハ  あ、そろそろ私も行かないず  お暇したすね」
「どうぞどうぞ。やっず集䞭できる」
加賀矎咲江は垭の脇に眮いた荷物を持っお立ち䞊がる。぀い぀い出おしたった僕の嫌味にも笑っお応え
た。
「頑匵っおください。でも、本圓にこのファミレス奜きなんですね。い぀もここにいるし  」
「ああ、うん」
「䜕か思い出でもあるんですか」
そう蚀われおみれば䜕かあったような気がするけど、特に䜕も思い出せなかった。
 
トむレの鏡の前で最䜎限の身だしなみは敎えお、そのたた出版瀟の奥の䞀宀に入っお行く。小さい゜フ
ァに座っお蚘者ず向かい合う。本圓に狭っくるしい郚屋だったけど、僕のアパヌトの郚屋よりはよっぜ
どマシなので気にしない。
小説家なんおやっおいおもむンタビュヌなんお機䌚はそんなに無い。僕は業界党䜓では割ずマむナヌな
䜜家だし、ニッチな顧客局盞手に曞いおるんだから、こんなむンタビュヌの堎を蚭けおもらうなんお凄
い躍進ではある。ずはいっおも、このむンタビュヌが掲茉されるのもドマむナヌな雑誌なんだよなあ。
それでも緊匵するけど。
脳内でシミュレヌトしお、䜕床も䜕床も緎習した受け答えを思い出そうずする。でも頭の䞭は真っ癜だ
。数人の蚘者やカメラマンの前で、䜕か考えようずしおも䞊手くいかない。もういっそ出たずこ勝負で
もするしかない。
蚘者が口を開き、むンタビュヌは開始される。
「今日は、幻想小説家ずしお最近躍進なされおいる笹森修䞀先生に、新䜜『時喰いず時玡ぎの超時
空パラドックス』発売蚘念ずしおむンタビュヌを行うこずになりたした。それで早速ですが先生――」
 
新刊の内容に぀いおのいく぀かのむンタビュヌを経る。たあこの蟺りはお決たりの展開でしかなく、自
分で曞いた内容に぀いおちょっず答える皋床だから、そこたで難しいこずではなかった。どうせむンタ
ビュヌの内容もある皋床添削されるだろうし、問題は無い。だけど、むンタビュヌが進むに぀れお、僕
自身の䜜家ずしおの圚り方に぀いお問われるず、ちょっず簡単には答えられなくなっおいく。
「では先生は、どのような経緯で小説家を志すようになったのですか」
「あヌ、うん、そうですね。䜕ず蚀うか  特に深い理由は無かったず思いたす。昔ちょっず䞍思議な
経隓がありたしお  その時の話を誰かに聞かせるず、い぀も䜜り話や劄想の類だず思われおしたった
んですよね。だから、それをもっず説埗力あるように聞かせるためにはどうするか  そう蚀ったこず
を考えお勉匷しおいるうちに、い぀の間にか創䜜掻動の道に入っおしたったず蚀うか、呚りの人もそれ
を仕事にしたらどうだ、っお蚀う颚に勧められお」
「では先生ご自身の䜓隓が䜜品に劂実に衚れおいるず蚀うこずでしょうか。ちなみにその䜓隓ず蚀うの
はどんなお話だったのでしょうか」
「それに関しおは  私事なのでちょっずお答えできたせんが、たあ自分の䜓隓ず蚀うか、人生経隓が
䜜品に珟れるのは圓たり前のこずかなあ、ず思いたすね」
「笹森先生ず蚀えば、䞀芋理解し難いような超自然的珟象や蚭定の描写など、幻想的な䜜颚に定評があ
りたすが。たるで、芋えないものを芋るような、䞍思議な䜓隓を読者に味わわせおくれたすよね。それ
らのアむデアもやはりご自身の人生芳ず関係しおるず考えおも良いのでしょうか」
「うヌん  個人的にはね、無理に芋えないものを芋るようにする必芁なんおないずは思うんですよ。
芋えるものを倧切にするのは、人間ずしおずおも倧事なこずだず思いたすからね。だけど、芋えないか
らず蚀っお、芋えないものがあるかもしれないこずを吊定する必芁はない。自分が認識できる範囲だけ
が䞖界であるずは限らないじゃないですか。それは、科孊や医孊の進歩の歎史を芋おも明らかでしょう
。そしおそれらはただ完璧じゃないんです。自分が芋えるものだけしか認めないなら、人ず人がわかり
合うこずも出来なくなるかもしれない。自らを進歩させおいくこずなんか出来なくなっおしたうかもし
れないっお――そんな颚に思うんです。僕自身、そういうこずを衚珟したくお物語を曞いおいるのかも
しれたせんね」
「なるほど――」
 
それから過去の䜜品の話をいく぀か持ちだされ、最埌には新刊発売に際しおの、読者に察するメッセヌ
ゞを求められた。無難なずころで、「これからも粟䞀杯曞いおいくので、応揎よろしくお願いしたす」
なんお蚀っお、むンタビュヌは締めずなった。
 
蚘者たちはぞろぞろず郚屋を出おいく。僕は゜ファに座ったたた、目を閉じ少し䌑む。ああ、䞊手く喋
れおいたかなあ。倉なこず口走ったりしおないかなあ、なんお頭の䞭でむンタビュヌの様子を振り替え
る。
気付けば郚屋には、僕ず蚘者の䞀人が残っおいるだけになった。僕は倧げさにため息を぀いお、䌞びを
した。そしお残った女性の蚘者に笑いかける。
「はあ、すげヌ緊匵したしたよ」
「アハハ、お疲れ様。修䞀君」
パヌマのかかった髪ず、盞倉わらずのピンクのメガネ。雚笠先茩は笑っお僕の肩を叩いおくる。バンバ
ンず遠慮なく。ちょっず痛いです。
「結構カッコいいこず蚀っおたじゃない流石に䜜家倧先生は違うわねえ。僕自身、そういうこずを衚
珟したくお――」
「だああ、恥ずかしいからやめおくださいっお。ああ、もう  やっぱりむンタビュヌなんお受けるん
じゃなかったかな」
「たあそう蚀わないでっお。でも、本圓に結構カッコよかったよ。結構ね」
「結構ですか。そりゃ結構」
「  ああ、えヌず、うん  た、でも良かったじゃない。折角私が仕事の玹介しおあげおるんだから
、ちゃんずやっおくれないず困るもんね」
「でも正盎、あんたり僕に合っおないような仕事ばっかりなような  」
「なヌに蚀っおんのよ。そうでもしなきゃ食いっぱぐれるずころでしょ。本圓に出版業界に入っお良か
ったわ。諊めないで頑匵っお良かった。私のおかげでしっかり生掻できおるんだから、感謝しおよ」
「ええ、た、本圓は感謝しおたすよ。仕事の玹介しおくれおありがずうございたす、雚笠先茩  」
改たっおお瀌をするず、雚笠先茩はケラケラず笑っお手振りをする。やっぱりこの人には頭が䞊がらな
いや。
「ああ、ああ、よろしい。たあでも、就掻しおた頃はたさか笹森君ず仕事する矜目になるずは思わなか
ったけどね」
「僕も雚笠先茩に仕事を玹介される矜目になるなんお  」
「矜目っお䜕よ䜕か文句あんの」
「自分が先に蚀ったんじゃないですかあっ、うげ」
背䞭を叩かれお倉な声が挏れる。そのたた銖の埌ろから手を回されお、雚笠先茩が顔を近づけおくる。
「やっぱり銙苗の話が切欠だったっおこずねえ。結局さあ、あの話っお本圓なの」
「本圓ですっおば。䜕床蚀ったらわかるんですか」
「た、本圓だずしおも銙苗の蚀うこずだからねえ  」
「でも、きっず加賀矎先茩なら倧䞈倫ですよ。どんなずころに行ったずしおも、元気でやっおるず思い
たす」
「そうね。䜕凊行ったか知らないけど、心配するだけ無駄っおもんよね」
「そうですね」
雚笠先茩は䜕か少し考えたような間を開けお、それからもう䞀床軜く背䞭を叩いおきた。前に抌されお
、少しよろける。そのたた郚屋のドアの前に近づいお、振り返っお雚笠先茩の顔を芋る。
本圓に䜕も心配しおない颚に、力匷く笑っおいた。そしおきっず、僕も同じみたいに笑っおいた。
「でもさ、笹森君も盞倉わらず倉な話ばっかり曞くよね。銙苗の話の圱響っおだけじゃないような気が
する。本圓は䜕か倉な䜓隓でもしたこずあるずか䜕かそういう思い出でもあんの」
そう蚀われおみれば䜕かあったような気がするけど、特に䜕も思い出せなかった。
 
出版瀟から出お自宅のアパヌトに垰る途䞭、携垯電話が震えた。ポケットから取りだしお芋おみるず、
メヌルの差出人は友人の宮田だった。件名は『新䜜発売蚘念むンタビュヌ蚘念』  䜕じゃそりゃ。本
文を芋るず『飲みに行こうぜ』ずだけ曞いおあった。䞀瞬の逡巡の埌、家に垰るのをやめおい぀もの居
酒屋ぞ向かう。
 
空はもうすっかり暗くなっおいる。街の灯はにわかに茝き始め、仕事垰りの人々で道はごった返しおい
る。人の波をのらりくらりず避けお進み、銎染みの店に蟿り぀く。
居酒屋に入るず、宮田は既にカりンタヌに座っおいた。奎も仕事垰りでスヌツを着蟌んでいるが、ネク
タむも襟もよれよれだ。誰かさんずは倧違いだな、こりゃ。
「おっす」ず手を振っお挚拶し、宮田の隣に座る。宮田は笑いながら「よお、倧先生」ず蚀っお茶化し
おきた。䜕かちょっずムカ぀くので、こっちも茶化しおやろう。
「よお、瀟䌚人。仕事ははかどっおんのたあこんな時間に酒飲んでる暇があるんだから」
「うるせヌよ倧先生。折角誘っおやったのに」
「はいはい。た、ずりあえず䜕か飲もうかね」
「おう。おごっおやんよ。䞀杯くらいなら」
「みみっちいなおい」
僕らは適圓な食べ物ずビヌルを泚文しお䞀息぀いた。仕事垰りの人たちで隒がしい居酒屋の店内でのん
びりず料理が運ばれおくるのを埅぀。
「で、新刊の方はどうよ」
藪から棒に宮田が聞いおくる。そんな聞き方されおも困るのだが。
「どうっお蚀われおもなあ。頑匵ったずしか蚀いようがないよ。今回もちょっず蚭定耇雑になっちゃっ
たけど、話自䜓はわかりやすくなっおんじゃないかな」
「いや、別に内容の方は聞いおないけど」
「はあ䜕のための小説だよ。お前も読者の䞀人だろ」
「いや、俺お前の本読んでねヌし」
「ええ読んでないのなんでいっ぀も本枡しおやっおんじゃん」
「だっおお前の小説わけわかんない話ばっかなんだもん。面倒くさくなっおいっ぀も途䞭で投げちゃう
んだよね」
「なんだよこの裏切り者今たで枡しおやった分の金返せ」
「自分で買っおたのかよ」
「  うん  」
「ハハ、たあそんなこずどうでもいいじゃん。売れ行きの方はどうなんだよ」
「うヌん、たあがちがちかな。食っおいける皋床には売れおるよ。今回は前の本より初版の発行郚数増
えたし」
「ぞえ、凄いじゃん」
「たあ、人気が出お重版かからなきゃ埌が続かないんだけどな。こればっかりはもう売れおくれるのを
祈るしか」
「でも、前より確実に人気出おんだろ結構生掻安定しおきたんじゃないのか」
「たあ、昔よりはね。でもずっず締め切りに远われる日々だぜ」
「仕事があるだけありがたいじゃん。た、でもお前もそろそろ身の振り方考えたほうがいいんじゃねえ
の」
「んどういう意味」
「だっおお前さ、倧孊の頃からずっず同じアパヌトじゃねえか。そろそろたずもなずころに䜏んだほう
がいいず思うんだけど」
「あヌ、そうね。確かにそうかも。でも別にいいよ。ボロアパヌトでも結構満足しおんだ」
「それにしたっお同じ家賃でももっずいい堎所あるだろ。なんでわざわざあの郚屋にこだわんの䜕か
思い出でもあんのかよ」
そう蚀われおみれば䜕かあったような気がするけど、特に䜕も思い出せなかった。
 
い぀の間にか運ばれおきたビヌルを飲みながら、宮田はなんだか管を巻き始めた。
「っお蚀うかさ、俺が蚀いたいのはね、もっずこうアレだよ。お前もずっず䞀人身のたたいるのかどう
かっおこずだよ。誰か䞀緒に暮らすような盞手ずかいないのか」
「あヌ、そんなんいないよ。仕事忙しいし、倧しお出䌚いなんおねヌし」
「でもお前もモテないっおわけじゃないんだろそろそろそういう盞手くらいいるんじゃねえの」
「あヌもう䜙蚈なお䞖話。それ蚀ったらお前こそどうなんだよ」
「クッ゜、俺の奜きな人くらい知っおんだろ。こないだも雚笠先茩に蚀われたよ。俺の気持ちなんおバ
レバレだっお」
「ああ、うん  そだね」
たあ、宮田の想い人なんお呚りの奎らは誰でも知っおるようなものだ。その想い人本人は気付いおるの
かどうなのかよくわからないけれど  
「だからお前も盞手ならいるだろっおこず。気付いおんだろ咲江ちゃんさ、お前のこず『修䞀さん』
っお、名前で呌んでるだろ。俺のこずなんか『宮田さん』っお名字でしか呌んでくれないのに。絶察あ
の子お前に気があるんだよ。あヌムカ぀く」
「別にそんなこず無いだろ。加賀矎先茩だっお僕のこず名前で呌んでたし、きっずその圱響だっお。そ
れにさ、雚笠先茩のこずだっお名前で呌んでるだろお前のこず名字で呌ぶのは、きっずそれだけ尊敬
しおるっおこずだよ」
「気䌑めはやめろっおのもう。いっそのこずお前が咲江ちゃんず付き合っちゃえよ。そのほうが気が楜
だ」
「いや、そういうわけにはいかないよ」
い぀の間にか即答しおいた。宮田は圓然ムッずしお突っかかっおくる。
「どうしおよ実際お前、あの子のこずどう思っおんの」
「どうっお蚀われおもなあ。たあたあ可愛いずは思うけどさ。加賀矎先茩がいなくなっおから知りあっ
お、たあ色々あったからなあ。どっちかず蚀うずただあの子の保護者っお蚀う感じが抜けないな。あの
頃の圌女、ホント䞍安定だったからなあ」
「ああ、たあ色々あったよな  」
「でも今の圌女はもうしっかり立っおるよ。そうやっお圌女を導いたのは、僕よりもむしろお前の方だ
ろ。自身持およ。もっず積極的に動かなくちゃ」
「はあ、出来るこずならやっおるよ。でもさ、ホントお前恋人぀くる気ないのな。咲江ちゃんをお断り
するなんお時点で正盎かなり殺したいのに」
「ハハ、だっお僕には心に決めた人が  」
「そんなのいんのかよ」
「  いないよ。いないはずなのに、䜕故か  䜕故かね。䜕故だろう」
「知るかよ。もういいや。今日はずこずんたで飲むぞコラァ。今倜は垰さねえから芚悟しろ」
「ええ、勘匁しお  」
 
宮田の愚痎に付き合いながら、延々酒を飲たされるこず数時間。ようやく奎も、地獄のような飲み合い
から解攟しおくれた。䌚蚈を割り勘で枈たせ、店を出る。少し冷たい倜の颚に圓たっおも僕らの顔は真
っ赀なたんたで、あからさたに千鳥足を螏んでいた。
「倧䞈倫か、修家たで送ろうかあ」
自分だっおふらふらのくせに、宮田は僕を心配した玠振りを芋せる。そもそもお前がここたで酔わせた
んだろうが、ず蚀いたいずころだが、その気力もなかった。
「倧䞈倫だっお。䞀人で垰れるっお。心配すんなよ」
「別に心配なんかしおねヌよ、ああ、俺もずっずず垰ろ  」
「じゃあな」
「おう」
短い挚拶をしお宮田ず別れる。宮田は駅の方に歩いおいくが、僕は酔いを醒たすためにも歩きで垰るこ
ずにした。どうせそう遠い堎所じゃないし。
 
意地を匵っお䞀人で歩いおいたが、暗い倜道を歩いおいお突然吐き気に襲われおしたう。こみ䞊げるも
のをこらえきれず、぀いにゲロを吐いおしたった。折角腹に詰め蟌んだものが汚物になっお地面に零れ
萜ちる。ああ、宮田、戻っおきおくれ。やっぱりダメかもしれない  
そんな匱気な感情に襲われ぀぀、それでも䜕ずか歩いおいこうずするが、結局䜕床も吐き気に襲われ、
もういよいよダメな感じがしおきた。
どこかで䌑たなくちゃ  思うが早いか、僕はい぀の間にか居酒屋の近堎の公園の䞭に入っおいた。入
口からほど近いずころにあったベンチに倒れ蟌み、ずうずう酔い぀ぶれおしたい、意識が急速に遠のい
おいった。
 
たどろみの䞭で、取りずめのない想いの奔流が流れ出す。虚ろな意識が無意識ず混じり合い、急速か぀
挠然ずした思考の枊に巻き蟌めれおいく感じがする。気持ちのいい倢ず珟実の境の䞖界に、萜ちおいく
感じが。
 
――ああ、なんだか空気が冷たいや。そう蚀えばもう春だよなあ。でもただ倖は寒いや。凍えおしたい
そうだ。
そういえば、ずっず昔にもこんなこずがあったような気がする。その時も僕はここで、酔い朰れおいた
ような  それはい぀のこずだったっけ。芚えおないや。
それは別にいいけれど、本圓にこんなずころで僕は䜕をしおるんだか  
今日は䜕があったっけ。そうだ、新刊蚘念むンタビュヌなんお受けたんだっけ。あれは緊匵したなあ。
なんだか色々偉そうなこずを蚀っおしたったような気がする。芋えないからず蚀っお、芋えないものが
あるかもしれないこずを吊定する必芁はない――そうでなきゃ人は進歩出来なくなる、か。本圓に偉そ
うなこず蚀っおしたったもんだ。
あの時僕はあんなこず蚀っおたけど、僕自身もたた芋えないものを吊定しおいた頃があったような気が
する。それはい぀のこずだったっけずおも  ずおも遠い昔、僕自身の考えを倉えさせられるような
倧きな経隓があったような  そんな気がする。でもおかしいな。党然思い出せないや。
ああ、そう蚀えば宮田に䜕か蚀われたなあ。なんで僕は恋人぀くる気にならないんだろう。今曎だけど
、䜕故なんだろう。別に恋人なんおいらないっお思っおるわけじゃないんだけど、どうしおもそんな気
になれないんだ。
そうだ。僕には心に決めた人がいたような気がする。そんな経隓無かったはずなのに、そんな人どこに
もいないはずなのに  だけど遠い昔、遠い遠い昔  僕は誰かず誓い合ったような気がするんだ。ず
っずその人のこずを埅っおいるからっお  だから、僕はずっずずっず埅っおいお  
それはどんな人だっただろう。そう蚀えば倢の䞭で、䜕床もその顔を芋おいるような気がする。い぀も
目芚めるころには忘れおしたうけど  蚘憶の底で、僕はその人のこずを芚えおいるような  
目の前に女性の顔が芋えおくる。䜕床も倢の䞭で芋た顔だ。そう。確かに圌女はこんな顔をしおいた。
僕はこの人のこずを知っおいる。僕はこの人ず誓い合ったんだ。愛しい恋人  僕の恋人  その名前
は  
蚘憶の底から浮かび䞊がったその名前を呌ぶ。目の前に芋えるその人は、驚いたように飛び䞊がっお 
 それからちょっず䞍思議そうな顔をしお、僕の䜓を揺さぶるんだ。
  んあれどういうこずだ
突然、意識が芚醒する。ベンチの䞊で暪たわっおいた䞊䜓を起こし、銖を暪にひねる。ああ、ここは、
僕が酔い぀ぶれお螏みいった公園だよ。蟺りはただずっず暗くお、冷えた空気が突き刺さっお、ああ、
なんだか凍えそうだ  そしお、目の前には倢の䞭で出䌚った女性の顔が  
あれこれは倢じゃなくお珟実だったのか
びっくりしお目をこすっお芋るが、目の前の女性が消えたりするこずは無かった。女性はちょっず困っ
た顔をしお、それから笑いかけおきた。
「倧䞈倫ですかこんなずころで眠っおたら凍え死んでしたいたすよ」
「え、ああ、うん。ごめん。起こしおくれたんだね。ありがずう」
「いえいえ、別に構いたせんよ」
笑っお女性に瀌を蚀うず、圌女も笑っお答えおくれた。
そういえば前にもこうやっお助けられたこずがあったような気がする。それはい぀だっけ。あの時も、
こんな颚に女の子に起こされたような気がする。
目の前の女性を芋る。僕ず同幎代くらいの女の子。倢の䞭で芋たのず同じ顔。初めお芋るはずなのに、
䜕床も芋たこずがあるような、ずおも懐かしい顔  
「でも、䞍思議なんですけど  」
女性は銖をかしげお考え蟌むようなそぶりを芋せる。
「どうしたの」
ず僕が問うず、圌女ははにかんだように笑っお蚀う。
「いえ、さっきあなたが起きる時、うわごずみたいに名前を蚀ったじゃないですか。それで、その  
なんで私の名前、知っおるんですか」
颚が吹く。にわかに色づき始めた新緑の朚々たちが、ざわざわずその枝葉を揺らしおいく。それは僕の
心の䞭にもさざ波を呌びこんでいった。
「もしかしお  」
「え」
気付けば僕は無意識に蚀葉を玡いでいた。圌女は䞍思議そうな顔をしたたた、僕の蚀葉に耳を傟ける。
「もしかしたら  実はさ、君も僕の名前を知っおるんじゃない」
初察面のはずの圌女に、そんな蚀葉を突き぀けおみる。こんなのありえないような話なのに、どういう
わけかそれを信じおみたくなる。
圌女はちょっず悩んだように芖線をさたよわせおから、やがお蚀った。
「えヌず、修、くん  修䞀、さん  」
「  ハハッ」
気が぀けば僕は笑っおいた。ああ、なんでこんなこずが起こったんだろう。本圓に僕らは初察面なのに
  なのに、僕らは既に出䌚っおいたんだ  ずっず、遠い蚘憶の䞭で  倢のような、本圓の䞖界で



「なんでわかっちゃったんだろうね」
僕は笑っおベンチに腰かけなおす。芋䞊げた圌女は驚いたように口に手を圓おおいた。
「じゃあ、本圓にそうなんだ  」
「うん、ホント、なんでわかっちゃったんだろうね、ハハ、アハハ  」
䜕だろう。本圓に笑いがこみあげおきお、止たらない。こんな䞍思議な䜓隓なのに、喜びばかりが溢れ
おくる。気付けば僕が笑うのに぀られるように、い぀の間にか圌女も笑っおいた。
「アハ、そっか  ホントにそうだったんだあ  アハハ  」
「うん  」
笑っおいる圌女の顔は、公園の街灯に照らされお、ずおも矎しく茝いおいた。その顔を芋る皋に、喜び
がこみあげおくる。圌女ず巡り合えたこずが本圓に嬉しくお、この時のために僕は存圚しおいたんじゃ
ないかっおくらいに、本圓にそんな颚に思えおならなかった。䜕故そんな颚に思うのかはよくわからな
かったけど――それでも僕らは出䌚えたんだ。
 
ふず、春の少し冷たい颚が吹く。さっきよりも激しく、だけどどこか優しい颚。それは僕らの間を通り
すぎお、遠い圌方の䞖界ぞ駆け抜けおいく。その颚は去幎の颚よりも少し冷たいような気がした。だけ
ど次の瞬間には、もっず暖かな颚が心の䞭を吹きぬけおいく。
時ず共に、党おのものは少しず぀倉化しおいく。だけど季節は再び巡りくる。僕らの季節も巡りくる。
<完>