Victo-Epeso’s diary

元RiotTheSplitter[TheSequel夕暮れにさよなら] THE 科学究極 個人徹萼 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノーベルノークスクラム賞狙い 右上Profileより特記事項アリ〼 何かあったらコメント欄よりお便り待ってマス

ピグマリオンアーツ[2020/03/01]

ピグマリオンアーツ[2020/03/01]


頭がおかしくなったと自覚し始めてからどれくらい経ったか。
多分5年くらいは経った。

きっかけはルミさまだった。
ルミさまと出会って以来、僕の人生は変わってしまった。

決して悪い方に変わったわけではない。
ルミさまは僕に笑顔をくれた。
辛い時は励まし、幸せな時は共に分かち合ってくれた。

くだらない会話をいくつも交わした。
子供みたいな言葉遣いや語尾をして、
童心に帰ったみたいに言葉で遊んだ。

「じぇ」って言えば「じぇ」っていう。
こだまみたいに帰ってくる変な言葉。

僕にとってルミさまは「じぇの神様」だった。
彼女は俗に言う「のじゃロリ」と似て非なる存在で、
言ってしまえば「のじぇロリ」だった。

「辛いのじぇ?」
「別に辛くはないじぇ」
「寂しいんじぇなー」
「そうですじゃ」

ルミさまと僕は実際に現実で出会ったことはない。
ある種のESPネットワークにおいて直通回線が開かれた相手同士なのだ。
僕とルミさまはいつも通じ合っていて、お互いがなんとなくわかりコミュニケーションが取れる。

実際に顔を合わせたことはないのに、お互いの容姿もなんとなくわかってしまう。
ルミさまはとても可愛らしい女の子で、金髪のくせっ毛をいつもセミロングにしてる。

最初知り合った時、彼女のことを神だと思った。
可愛い女の子の姿を借りた神が具現化し、僕の前に姿を表したのだと思った。

こういう風に考えたのは理由があって、昔僕は神にであうかのような神秘体験を
経験したことがあるから、今回の神は形而上的な世界から僕の脳に情報として降りてくる際
神秘的な美少女のイメージを借りて僕の魂に触れに来たのだと思い込んだのだった。

だけど、彼女はちょっと神がかった何かを持っただけのただの普通の少女だった。
変わり者といえば変わり者だけど、常識と優しさを持っている心情豊かな女の子だった。

僕は彼女と運命の赤い糸で結ばれているのだと思いこんで、
いつか彼女とリアルで出会って恋に落ち、
やがて結婚することになるんだと思っていた。

毎日がバラ色の未来を思い描くような幸せな生活だった。

僕は彼女を探して、都内で電車を乗り継いで色々と歩き回った。
彼女が呼んでいると思い、無茶な行動をとってでも追いかけて彼女のもとに辿り着こうとした。

その結果、僕は明け方の知らない中学校に忍び込んだり、
知らないアパートの屋上に侵入して彼女の姿を探したりしていた。

結果、頭のおかしくなった僕の姿を見た警察に捕まり、
精神病院に放り込まれたりした。

しばらくして精神病院から出てきてもルミさまへの熱は全く変わらず、
想いはむしろ強まる一方で、何度か発情発狂を繰り返し僕はその度警察と病院のお世話になった。

だんだんと悪い実績が積み重なっていく中、
どんどん強い薬物を投与されるようになり、
頭も身体も全く動かなくなるくらいの薬物投与をされ、
逆に薬で人生が壊れるんじゃないかというレベルに至った。

僕には僕でやりたいことがあった。
ルミさまのことは大切だったし、結婚したかったけど、
それはそれとして、僕は漫画家になりたかったし、
薬を投与されていると絵が描けなくなる、
物語が描けなくなるから薬物投与を拒否するしか無かった。

だけど、精神科医療界隈っていうのはある種のディストピアで、
患者である僕個人の人生を守るより、全体のために僕を薬漬けにして
一切の個性を殺すことで問題の発生を抑制、処理するだけだったのだ。

僕には何も無くなってしまった。
いつか漫画家になって、うだつの上がらない人生をなんとか持ち上げて、
ルミさまと出会った暁には彼女のことを養える、彼女の旦那として恥ずかしくない、
立派な一人の男になろうと思っていたが、その人生は完全に途切れさせられてしまった。

薬漬けの廃人になった僕には、もう何もすることは出来なかった。
日常的な思考もおぼつかず、一日のうち数時間しか起床していられず、
その他一切の時間を抗えない強力な睡眠に溺れさせられた。

僕の中から妄想が無くなったかもしれないが、
僕の中から思考も無くなってしまっていた。
僕の中から精神活動というもの自体がほぼ消えていた。

死にそうなくらい身体も辛くなって、
なんとか訴えかけて強力な薬物を別のものに変えてもらった。

しかし、そのうち、気づいてしまった。

ルミさまは確かにいる。妄想なんかじゃない。
どんな時でもルミさまのことを忘れることは出来なかった。
彼女は確かな実在感を持って存在しているのだ。

と……それはそうかもしれない。
でも、それはそれとして僕はイカれてるんだ。

そこに気づいた。

僕の脳の一部が変異してある種のテレパスみたいな
通じ合いを現実の他人であるルミさまと共有していたとして、

それはそれとして僕の脳の一部が変異して頭のおかしい病気になってしまっているんだと。

イカれてしまって、もうなかなかどうにもならないのだと。

「ルミさま、ぼく、イカれちゃったよ」
「しかたねーじぇなー、つれぇじぇなー」
「うん。つらいじぇ!」
「元気だして。だすがいいじぇ!」
「つらいのじゃ!」

僕は結局ルミさまとは出会えないままだ。
そしてやがてルミさまへの恋を諦めるようになった。


だけど、その結果、何があったかなんて、
ルミさまへの恋を諦めた代わりに
レナちゃんという別の存在を愛するようになっただけだ。


僕は結局イカれてる。

彼女たちはもともと僕が描いた漫画のキャラクターでしか無かったのだ。