{[<G.N.S.>]}
G.N.S.4.44 ──空が落ちてくる。 廃病院のベッドで寝転がりながら昨夜の事を思い出す。 眩しすぎたあの星空の彼方に消えていった彼女の事。 もう朝日は昇っているはずの時間なのだが、天体の軌道が歪んでいるかのように光も姿を現さない。 その代り、天に瞬く…
記憶の中で、柔らかい夕日が窓から射しこみ、視界が鮮やかな赤で彩られている。開かれた窓から吹き こむ風は、窓枠の上に座る先輩の長い髪を、たおやかに揺らし続ける。 僕はそのころ高校二年生だった。放課後の校舎、静かな部室棟の一室。僕らは二人でそこ…
風の音が聞こえて目を覚ます。 周囲の視界は暗い。だけどその向こうには無数の瞬き輝く光の点……迫ってくるような星空が目の前に あった。 僕はベッドに寝かされていた。体にかけられた薄汚れた布団を蹴って、硬い枕から頭を起こす。 動いた時、わき腹が痛ん…
意識が真っ暗闇に染まったと思うと、今度は次第に明るくなってきた。何かが開く音がした。自分の中 の閉ざされた扉が開き、自分の実存が溶け、魂が肉体から解放されたような気がした。その外側に飛び 出していくと、あまりにも眩い光が僕を貫く。だけど不思…
いつの間にか閉じていた目を開く。目の前には少年が立っている。その後ろの廊下の外では、操られた 市民たちが大勢で待っているのが見える。この少年は何ものなんだろう。考えるまでもない。ジオシン メトライザーだ。だけど、他の市民とは異質な感じがする…
空気は少し肌寒くなってきた。走り続けて温まる体と、そこから抜けていく熱を感じる。壊れた街の向 こうに見える空が、少しずつその色合いを変えていく。薄暗い雲の向こうで日が落ち、再び夜が訪れる 時が近づくのがわかる。それでもまだ日が落ちるまでには…
奥の部屋に入ると、僕が助けた少女は、ベッドの中からぼんやりとこちらを見ていた。部屋の中は暗く 、窓から射す星の光が彼女の顔を照らしている。かすかに聞こえる息遣いは断続的に、少し苦しそうに 、響いている。だけど、こちらを見た少女は、その苦しさ…
遠い記憶の中で、電子生命の『僕』と古竜が会話している。 「地球が滅びた時の話……?一体いつ、地球が滅びたと言うんです?このエクスプローラー船が旅立つ まで、そんな記録はどこにもなかったはずです。旅立ってからは地球の状態を確認する術もない。なの …
西暦4000年台、5度目の千年紀も後半を迎えていた頃――僕は、ネットポリスのとあるスポットで、他 の電子生命<インフォミアン>の男と、テーブルの座席に座って会話をしていた。そこは、精神への快楽 や陶酔感を、合法的なレベルで味わわせてくれるサービスエ…
それから、笹森修一は死んだ。 昭和19年のことだった。 戦時中のことだ。それは、空襲だったのだと思う。突然の衝撃と爆発。僕は、戦火の中で焼かれて、体 は焦げて、やがて灰のようになり、死んでいった。 ……え?昭和、19年だって? その頃には、僕は、…
僕は漠然とした気持ちで読み始めたのだが、途中からは、どこか茫然としながらこの文章を読み進めて いた。胸騒ぎが止まらなかった。あまりにも飛躍した論理展開と、結論を言うためだけに持ち出された ような科学用語。どこまでが本当なのかはわからない。異…
夢だった。僕は夢を見ていた。結局のところ、そういうことなのだろう。あの時、目が覚めたと思って いたけれど、実際には寝ぼけたまま、半分夢を見続けていたのだろう。なに、珍しいことじゃない。時 として夢は、現実以上にリアルに振る舞い、自らの心を揺…
加賀美さんと一緒に彼女の家に戻ると、宮田が居た。宮田は玄関を開けるなり、リビングから顔を出し て呟いた。 「……おかえり」 「ただいま、宮田さん」加賀美さんは返事をした。 僕が口を開く前に、もう一人見知った顔が宮田の後ろから現れた。彼女はピンク…
「……くん……しゅーくん」 僕を呼ぶ声が何処からか響いていた。若い女の子の声だった。まるで薄い壁を通して聞こえてきたよう なくぐもった感覚が僕の心を揺さぶっていた――この声はいったい、誰のものだっただろう。そこには 懐かしさに似た、どこか暖かいぬく…
「じゃあ私もう帰るね」 「え」 「あなたもあまりダラダラしてると卒業なんてあっという間だぞ!」 「あ、ちょっと先輩……」 「じゃあ ね」 その光景は何度もフラッシュバックしている。 あの日の僕は何を言おうとしてたのか、それだけが思い出せなかった。 …
「あなたは―― あなたは自分が宇宙と一体だと思った事はない? 自分のすべてが宇宙と等しく、宇宙のすべてが自分に入り込んでくるような――」 長い黒髪が陽光に照らされ、赤光を反射するエナメル質が風に舞い踊る。 カーテンがバサバサと音を立てる、夕暮れの…