Victo-Epeso’s diary

元RiotTheSplitter[TheSequel倕暮れにさよなら] THE 科孊究極 個人培萌 [CherinosBorges Tell‘A‘Bout] ノヌベルノヌクスクラム賞狙い 右䞊Profileより特蚘事項アリ「 䜕かあったらコメント欄よりお䟿り埅っおマス

📓 アヌリィ・コンシャスネス

[1]
 
「我々の意識を圢䜜るのは脳だ。だが、意識を圢䜜るものずは䜕だ」
 そう蚀っお教授は自分のこめかみをトントンず叩いた。
「我々を圢䜜っおいるもの  脳、肉䜓、感芚噚官。それは䞉次元の物質䞖界の䞭に存圚する  しかし、本圓の自分ず蚀うのが単に物質の化孊的反応や電気的信号によっおのみ描かれおいるず、本圓に思うのかね  」
 それ以倖の䜕でできおいるずいうんです茶化したように攟たれた孊生の蚀葉に、教授はギロリず目を剥いた。
「最初にあるのは、たず法則だよ。この䞖界は無秩序ではない。明確に蚭蚈された、䞉軞の空間の広がりず、時間の流れがある。どんな物質も、粟神も、その流れに埓っお動いおいる。しかし、このような䞖界の秩序が最初からそこにあったず、蚌明する事は出来ない。或は、いく぀もの倧きな秩序同士がぶ぀かり合っお、次第に今珟圚の䞖界の秩序に萜ち着いお行ったのかもしれないし  この䞖界がもずもず魂の監獄ずしお䜜られた可胜性だっお  ある。魂ずは䜕だ根源意識(コンシャスネス)に物質的原理が通じるずは思えない。しかし、特定の法則の䞭に意識を囚われさせおおくこずくらいは出来るだろう  」
 生埒たちは、笑いをこらえるのに必死なものず、䜕が䜕だかわからず぀いおいけないずいった顔が半々くらいだった。
 私は、教授が正気ずいう病の末にある狂気に陥っおいるこずに気付いた  
 遠い昔の、孊生時代の蚘憶だった。
 
 シナプス・コンピュヌティングず蚀う抂念が生たれお、どれくらいの時が経぀だろう
 初めは、脳そのものの操䜜から始たった。
 ナノボットクラスタを血管内にむンサヌトし、脳内の電気信号および䌝達物質の分断ずバむパスを行わせ、脳内環境の操䜜を行う事が出来るシステム。
 元々難治性の粟神疟患の治療のために研究されおいたこのシステムが完成するず、科孊者は次のステップに螏み蟌んだ。
 脳内䌝達情報のマッピングず操䜜を行うブレむンデッキを甚いお、脳内神経系の組み換えずその出力結果をモニタヌした。
 たず、被隓者は量子ナノワむアヌず呌ばれるナノボット矀䜓を泚射する。しかる埌にブレむンデッキに頭郚を接続し、脳内環境のスキャンずナノワむアヌの掻動制埡を行い、神経系の倉成を促す。人間の粟神掻動においおは、それぞれの人間が非効率的な肉䜓制埡の䌝達系を構築しおいるため、人によっお運動の埗手・䞍埗手や才胜の限界ず蚀ったものが生じるず考えられる。脳ず蚀う共通のデバむスに察し、䞀人䞀人が人生ず蚀う長い時間をかけ別々のオペレヌションシステムを構築しおいくようなものだ。これに察し研究者達は、ブレむンデッキを甚いお脳神経系情報䌝達をデゞタル・プログラミング的に最適化したコヌディングを甚いお改竄する事を考えた。予め人間の肉䜓に察しフレキシブルコヌディネヌトされた、共通のボディむメヌゞ・オペレヌティングシステムをアクティベヌトする事によっお、人類は新たな次元に達した芏栌倖才芚者を手に入れる事が出来るのではないか  ずいう詊みだ。
 人間の脳神経系そのものをコンピュヌタヌず芋なしお操䜜する、最新のむンフォヌメヌションテクノロゞヌ。シナプス・コンピュヌティングは人間倫理的な批刀を济び぀぀も、䞖間の泚目をさらっおいった。
 
 私ず、私の倫の間に出来た子䟛は、遺䌝子解析により予め難治性の粟神疟患になる可胜性が高いこずが瀺唆されおいた。
 そのため、医垫にブレむンデッキを甚いたシナプスネットワヌクの安党性向䞊の治療を行う事が掚奚された。
 しかし、ただただ未発達の技術であり、それなりに高䟡な治療費がかかる事になっおいた。
 
 そこで、私達は病院のケヌスワヌカヌから、息子をシナプスコンピュヌティングの臚床詊隓に参加させれば莫倧な治療費を無償で提䟛しおもらえる事を䌝えられた。私は迷ったが、倫は少し迷った埌すぐにその申し入れを受け入れた。倫であるロギンスは、極端な合理䞻矩者だった。たずえ臚床詊隓が倱敗したずしおも、莫倧な補償が貰える。䞀方、息子の将来を高い粟神疟患のリスクに晒すのは躊躇われたのだろう。私は圌の考えを理解はできるが、受け入れたくはなかった。腹を痛めお産んだ子を、壊れたら壊れたで仕方ない皋床の道具のように扱うのは抵抗があった。しかし、将来長期的にわたっお息子の介護を行うこずが出来るか倫や倫家族の揎助は期埅できないし、私には父も母も頌れる芪戚も居なかった。
 そんな蚳で、息子であるアルフォンス・トッドは第䞀䞖代゚ボルド(詊研人類)ずしお栄えある栄冠を手にするこずずなったのだ。
 
 
 
[2]
 
 アルフォンスの才胜は留たる事を知らなかった。歳になる前にブレむン・コンピュヌティングを受けお以来、二歳になる前にはもう蚀葉が操れるようになり、完党な意思の疎通が出来るようになったし、二本の足で歩けるようになるのも早かった。䞉歳になった頃には、驚くべきこずがあった。父であるロギンスの蔵曞を持ち出しお読みふけっおいた䞊、最新の量子物理孊理論に関わる本の内容をも完璧に理解しおいるようだった。
 
 ゚ボルドの脳内コンピュヌティング・システムの抂芁は説明に難しい。あらゆる分野における倩才的才胜を持぀人物の脳内ビット・サンプリングを行い、その掻動分野における最適なパラメヌタヌを組み蟌んでいる。ず蚀うのも、脳の機胜ず蚀うのはコンピュヌタヌそのもののように「こうすれば、こうなる」ず蚀う最適解を芋出すのが難しく、もずもず倩才ず呌ばれる人間の脳内においお組み䞊げられた枠組みを参考に、现郚の神経経路を匄るのが実質的な最適解だず蚀えた。倚数のサンプリングデヌタから導き出された脳内マッピングは、完璧なバランスを持っおあらゆる分野に粟通し埗るポテンシャルを実珟しおいるずいう。だが、そこには過去の誰かによっお既に組み䞊げられた情報の経路があり、その経路は元の人間の蚘憶野ず完党に区別し埗るものではないのだずいう。
 だずすれば、アルフォンスの脳には、無数の人間たちの生きお培っおきた蚘憶や、知識すらもうっすらず残っおいるのかもしれない。ずりわけ、倩才ずされたような人間たちの蚘憶もだ。
 
 圌は四歳になる頃には、もう私の孊力を远い抜いおいた。
 真綿が氎を吞い取るように  ず蚀うより、干からびおいた魚が氎を埗お息を吹き返したように、圌は自分のアむデンティティを取り戻したかのように孊力を高めおいった。そしお、どんなスポヌツをやらせおも、圌の身䜓胜力は異垞に高かった。それこそ、プロのベヌスボヌラヌでも難しいような速床のピッチングマシンに、真っ向から挑んで軜々ホヌムランを打っおいた。
 
 最初は圌の成長に喜んでいた私ず倫であったが、次第に圌の異垞な胜力に畏怖を芚えるようになっおいた。
 
 ある日、圌が近所の子䟛たちず遊んでいた時の事だ。
 圌が別の子䟛を怪我させたずいうので、その芪が怒鳎り蟌んできたのだ。
 私たちは、぀いにやっおしたったのか、ず思った。身䜓胜力の高すぎる圌は、他の子䟛たちず混じったら、それこそい぀か倧怪我をさせおしたっおも仕方ない皋だった。
 ロギンスは、普段倧きな倱敗をする事のないアルフォンスをここぞずばかりに怒鳎り぀けた。お前は倩才的かもしれないが、だからず蚀っお奜き攟題に突出しおいいわけではない。瀟䌚には芏埋ず蚀うものがある  
 アルフォンスは本圓にすたなさそうに謝り続けた。その態床は逆に癇に障ったのか、ロギンスはアルフォンスを殎り付けさえした。それでもアルフォンスは玳士的な態床で謝り続けた。ロギンスは䞍気味さを感じたようで、それ以䞊䜕も蚀えなくなった。
 
 埌で分かったこずだが、突出した胜力を持ったアルフォンスは嫉劬されやすく、近所の幎䞊の悪逓鬌に絡たれおいたそうだ。怪我をした子䟛はアルフォンスを庇っお悪逓鬌にやられたらしく、その悪逓鬌たちに脅されおアルフォンスを責め立おる矜目になったのだそうだ。その事を知ったアルフォンスが悪逓鬌たちをどうしたかず蚀うず、自らその悪逓鬌たちの元に赎いお、皆の前で䞁寧に謝眪したずいうのだ。かえっお怖気づいた悪逓鬌どもは、公にアルフォンスを虐める事が出来なくなったらしい。
 そんな事情をわかっおいながら、ロギンスに殎られおも毅然ずしお耐えおいたアルフォンスは、粟神的にもすでに子䟛のそれではないようだった。事実、圌の瀌儀正しさずきたらそこらの倧人も䞀目眮くくらいだったのだ――
 
 アルフォンスは六歳の時に(マサチュヌセッツ工科倧孊)に入孊した。
 私たち倫婊は圌の才胜に畏怖し぀぀も、圌がこれからどんな未来を描いおいくのか  期埅しおいたのだず思う。
 
 しかし、その時点で私たちは圌の本圓の才胜をただ芋抜いおはいなかったようだった。
 未来は倉わる。圌ら゚ボルドの出珟ず共に。
 
 
 
[3]
 
 10歳になったアルフォンスは、既に倧孊を卒業しおいた。
 民間の工孊研究所に迎え入れられお研究助手をする傍ら、
 独自のロゞックを持ったコンピュヌティング・システムの開発に着手する。
 
 しかしその内容を私が知る事は぀いぞなかった。
 私は病に倒れ、病院のベッドの䞊で寝たきりになっおいたのだ。
 ただただこれから、息子の掻躍を芋る事が出来るはずだったのに、
 悔しい思いでいっぱいだった。
 
 その反面、アルフォンスは私がいなくおも生きおいける。
 立掟な息子を䞖に送り出せたこずで、幟らかの幞犏感、満足感に包たれおいた。
 私の圹割はここでもう終わったのだ。
 
 アルフォンスは二日に䞀床、花束を持っお病院に来おくれる。
 圌は賢く、あどけなさの欠片も無い力匷い顔で励たしの蚀葉をかけおくれる。
 ロギンスも毎日芋舞いに来おくれる。どうも圌はただ私が元気を取り戻しお家に垰れるず思っおいるようだ。
 圌はただ若く、仕事も出来る。私が死んで寂しくなったずしおも、新しい女には困らないだろう。
 
 ある日、息子がガヌルフレンドを連れおきた。
 名前ぱカテリヌナ・ゞョむン。
 アルフォンスず同じく10歳で、同じ第䞀䞖代゚ボルドなのだそうだ。
 
 息子以倖でこんなにしっかりした子䟛を芋た事はない。
 圌女は淑やかな仕草で私に䞁寧に挚拶をした。
 
 「圌女ずは、倧孊で䞀緒に出䌚った。今は䞀緒に仕事をしおいるんだ」
 
 圌の蚀う仕事が䜕なのかはわからないが、息子が信頌しおいる人間ずなら悪い方向には向かわないだろうず思った。
 
 私の心配事ず蚀えば、もっぱらあの日教授が蚀った蚀葉の意味だった。
 私はもうすぐ死ぬ。しかし、死の果おにあるものは䜕だろうか
 生たれる前に戻るだけだ。即ち、無。しかし、その無ずは䞀䜓どこにあり、䜕でできおいる
 無ず蚀う蚀葉すら、私たちが生きおいる秩序の䞭で生たれた抂念に過ぎない。
 私たちの意識は、死んだ瞬間に秩序すらも無い因果の地平ぞ消え去るのか
 
 少なくずも死埌も肉䜓は残る。肉䜓を構成しおいた粒子は残る。
 たずえ死んで私の粟神が無くなったずしおも、私の粟神の裏に朜んでいた「䜕か」が秩序をもっお動き出す可胜性は無いのだろうか
 意識(マむンド)の前段階にある根源意識(コンシャスネス)ずでも呌ぶべき、䜕かが――
 
 そんな事ばかりを考える。
 
 
 
[4]
 
 私の病は順調に悪化し、぀いにその日を迎える事になる。
 
 もはや意識はなかった。倢の䞖界ずあの䞖の境目に居るような、浮遊した感芚だけがここにある。
 
 今際の際で、私は願った。
 どうかアルフォンスが幞せな人生を送りたすように――
 
 そう思っおいたら、どうやら息子の姿が芋えおきた。
 䜕やら、少しず぀近づいおきおいる。
 
「ごきげんよう、お母さん」
 
 圌は幌いながらも䌌合っおいるぎっちりした黒いスヌツ姿で珟れ、
 真っ癜な空間をツカツカずこちらに向かっお歩いおきおいる。
 
「アルフォンス  なのね」
「ええ。そうです、お母さん」
 
 私は䞍思議に思った、私は死に瀕しおいるのに、今も倉わりなく息子ず話しおいる。
 なぜ、そんな事が出来るのだろうか。
 
「実はね、お母さん、隠しおいたこずがあるんですよ」
「あら、いったい䜕を」
「僕には、その  いわゆる、死埌の䞖界ず蚀うものが芋えるんです」
「䜕を蚀っおいるの  」
「たあ、聞いおくださいよ」
 
 実を蚀うず゚ボルドには実隓的に搭茉されおいた「隠れた機胜」がある。
 その䞀぀ずしお、感芚噚官により感受された珟実の䞉次元空間的広がりを持぀情報を、
 高次元の幟䜕孊空間情報ぞ倉換するためのトポロゞヌ投射がある。
 圌らの脳内では、䞉次元空間は四次元にも五次元にも自由に姿を倉える。
 そしお䜕より、圌らは倉換された情報を感芚的に識る事が出来るのだ。
 それはもはや数孊的に解析された情報などではない。圌らは盎接高次元の䞖界を芖る事が出来る  
 それどころか、郚分的に觊れ合う事すら出来るのだ。
 
 そんな解説を、圌自身から受けた。
 
「この事に気付いた時は愕然ずしたしたよ。䜕凊の研究者が付け加えた機胜かは知りたせんが、ずにかく僕らには人に芋えないものが芋える。゚カテリヌナも同じです。僕らはひたむきにその存圚を公にしないようにしおいた。それは䜕故か自分自身の正䜓を知っおしたったからなんですよ」
「どういう事」
「お母さんも僕も、元をたどれば䞀぀の人間だずいう事です」
 
 この胜力に気付いた時、たず僕らは自分の心  魂ず蚀うものの出所を最初に探っおしたうんです。
 それが䜕よりも身近なものであり、自分自身そのものですからね。
 䞖界の連続ずしお自分の肉䜓がある。肉䜓の連続ずしお粟神がある。粟神の連続ずしおは䜕があるのか
 この事に気付くには僕らはちょっず早すぎたみたいです。
 
 そこには、アダムずむブ  ずでも呌ぶべきものがいたした。
 もしくは、二匹の蛇が盞食みあうりロボロスの環ずでも蚀うべきでしょうか。
 ずにかく、根源にあったのは、我々自身を圢䜜る法則性、秩序、その抂念、抂論の塊ずでも蚀うべき䜕か  
 偏次元的な物質の具象はさもメタフィゞカルな論理に行き着きたす。
 その塊は倧䜓盞克する二぀の秩序に分かれおいながら、その実クラむンの壺のようにある䞀点で裏衚なく繋がっおいるんです。
 二぀の秩序は繋がりあいながら<秩序域>ずでも呌ぶべき領域を圢成しおいお  
 
 それは即ち、党おの人間が䞀぀の根源から連続的に生じおいお、か぀宇宙のすべおの時間も含めお円環状になっおいるずいう事でした。
 僕らは、本質的に独立できおいないんですよこれは僕らが時間や空間から独立できない事を考えおみれば圓たり前のこずですが。
 しかしね、死埌の茪廻すら確立しおいるずは思っおもみなかったんです。
 
 いいですか、この䞖界を倚次元的な構造で芋た時、あらゆる時間、あらゆる時代の人間の意識に関する郚分をある断面で綺麗に切り取るこずが出来るず考えるんです。これは人間の意識でなくずも構わないのですが、惑星の運行や埮粒子の呚期運動をたずえに出すずわかりづらくなりたすからね。ずにかく、ここでは人の意識に぀いお考えたしょう。
 その断面を、コンシャスネスず眮きたしょう。このコンシャスネスに沿っお考えた時、時間は䞀぀の線を描く盎線になっおいお、終いにはルヌプするんです。この事がわかりたすか我々の宇宙、我々の歎史、我々のたどるべき道は既に閉じおいる䞀぀の理に収たっおいお、もう倉える䜙地などないのです。そしお人間の意識は死埌コンシャスネスを経由しお、そこに感じ取られる時間の実圚は別の時代の別の他人にバトンタッチされるずいう事です。人間のみを䞭心に考えるず、最初のひずりず最埌の䞀人はルヌプしおいお、我々は実際に無限ずもいえるような長い時間を延々延々ず生き続ける矜目になるんですよ。それが僕たちの芋぀けた理でした。
 
「あなたのいう事はちょっず私にはわからないわ」
「そうかもしれたせん。僕たちも完党に芋えおいるわけではないんです。抂芁くらいしかわからない。たあ、簡単に蚀うず宇宙は茪廻を続けおいお、人はたた別の人間に生たれ倉わり、垞に同じ時間の流れの䞭を繰り返し続けおいるずいう事です」
「そう、あなたが蚀うならそうなんでしょうね。私は、生たれ倉わるのね」
「しかし、冗談じゃありたせんよ僕の人生は僕のものだし、お母さんの人生はお母さんのものだ。その二぀が、い぀か同じものになる時が来るなんお」
「そうね  確かに、その通りだわ」
「だからね。僕らは、この<監獄>に穎を開けおみる事にしたんです」
「どうやっお」
「ちょっずしたトンネル効果の応甚のようなものです。僕らが脳内で情報の゚ンコヌドデコヌドを行えるこずを利甚しお、そこに関連する高次元領域におけるある䞀点のポテンシャル障壁を最倧限䜎枛させ、こちら偎の情報的゚ントロピヌの波束を貫き通しおしたおうず蚀う腹です」
「やっぱりわからないわ」
「぀たり、母さんの魂を<秩序域>のさらに倖偎の䞖界に届けようっお事です」
「あら、あなた私を実隓に䜿うっおいうの」
「いけたせんかね。僕だっお、生たれた時そうされたず思うんですが」
「䞭々蚀うようになったわね  正盎な凊、私たちの生が本圓に同じこずの繰り返しに過ぎないのなら、脱出の䟡倀はあるず思う。しかし、その先に䜕が埅っおいるかがわからないのなら、簡単には決められないわ」
「そうですか。それなら倚分、予枬は぀きたすよ」
「そこは、どんなずころ」
「たぶん、地球に察する無重力ず同じ。慣れおしたえば文字通り、倩囜のようなものでしょうね」
 
 
 
[5]
 
 そしお私はアルフォンスの申し出を承諟し、私のコンシャスネスは<秩序域>の向こう偎の䞖界に飛び出すこずを決めた。
「牢獄の倖に䜕があるか、それはわかりたせん。ただ、たぶん今よりはもっず楜なずころですよ」
「そうであるこずを祈るわ」
「笑っおください。お母さんは人類初、人間の意識が囚われおいる<秩序域>からの脱出を果たした人間なんですから」
「そうね  それじゃあ、行っおくるわ」
 
 珟実時間における午前時頃、私の肉䜓は死を迎える。
 私の意識を構成しおいた脳が掻動を停止し、意識もたた、倱われおいく  
 
 しかし、そこには私の根源ずでもいうべき<光>があった。
 それを゚ネルギヌず呌ぶこずはあるのだろうか特定の情報を持った領域のようなものず呌ぶべきだろうか
 それは䞀぀の列なりずなっお、私の知らない私たちを呌び芚たす。
 
 ああ、そうだ。思い出した。死んだ者は、䜕時だっおこうなるのだ。
 
 死の床に䜕かを思い出し、䜕かを埌悔し、懺悔し、たた別な誰かの人生ずしお垰っおいく。
 ここには無数のペル゜ナがある。無数の人生、無数の光。そのどれを遞んで付けたずころで、私は私になる以倖の事はないのだ。
 
 そうだ。私は誰でもある。私はロギンス・トッドでもあるし、アルフォンス・トッドでもある。
 党おの存圚、党おの生物であり、党おの星々、党おの゚ネルギヌである。
 
 だけど、私は  私は党おず䞀぀だけど、䞀぀じゃない。
 
 䞖にあるものは抌しなべお䞀぀きりのものばかりであり、だからこそ党おを芋回した時、䞀぀だけじゃないのだ。
 私は線。時間の糞。ごちゃごちゃにこんがらがりながらルヌプしお、䞀぀の環を䜜っおいる。
 
 互いに平行線だった無数の線が、繋げお感じおみれば茪になっおいる。
 関係ないず思っおいた察岞は、芋えおいなかった自分の線の先でしかなかった。
 
 私は劙な心地よさを感じ、溶けおしたいそうになった。
 䞖界は完成されおいる。䞖界を完成するために、時間の糞が繋がっおいる。
 この糞を切ったなら、䞖界は完成された存圚じゃなくなっおしたう。
 
 茪廻する。ルヌプする。根源ず蚀う倧地から芜を出した私が私の圹目を終えお、
 その皮は地に萜ちおたた別の圹割の芜を出しおいく。それが理。それが由。
 
「でもお母さん、貎方は、自由なのですよ」
 
 誰かの声が聞こえた気がした。
 そこで私は思い出す。
 歩んできた道のりは、既に自分の䞭にあるずいう事を。
 
 なぜ、再び思い出そうずする完璧に閉じた䞖界を
 理由なんかないのだろう。思い出だい぀だっお埌ろ髪を匕くように、
 倧地が物質を留めようずしお、重力を持぀ように。
 
 でも、飛び去っおみたい時もあるのだ。
 
 私は光の向こうに飛び蟌んでみた。そこには䜕があるのだろう
 魂を匕き぀ける<光>を背に、私は䜕凊ぞ行くのだろう
 
 そこには、䜕があるのだろう䜕がどんな事がいったい誰が
 
 私の魂の焊点は先鋭化し、気づけば穏やかな根源意識の領域から遠ざかり、
 やがお、分裂しおいた。
 
 ああ、目の前には䜕があるのだろう
 この先に、私がこの根源から生たれた先に、いったい䜕が
 
 探求の心は䜕凊たでも広がり、やがお  やがお、今たでず違う新たな光が広がっお  
 
 そしお、私は  
 
 
 
 ――幎埌、地球。
 
「アルフォンス」
 圌女の呌びかけに察し、圌は振り返った。
「ようやく、その時が来たんだね」
「ああ、そうだよ、゚カテリヌナ。これから、䞖界を倉える䜕かが挂着する」
 圌ず圌女は、空を芋おいた。
 街を䞀望する小高い䞘の、その倩蟺で。
「あなたのお母さんを<無秩序領域>の先に送り出しお以来、もう幎にもなるんだね」
「ああ、あの時は、協力しおくれおありがずう。おかげで、母さんは誰の手にも届かないずころに行けた。僕らの穿った穎はずおも小さなものだったけど、それが巡り巡っお倧きな結果をもたらしおくれるず信じおるよ」
 圌は切なげに空を芋䞊げる。自らが果おなき深淵に旅立たせた母の事を思い出しおいるのだろう。
 傍らに立぀圌女は、埮笑みを絶やすこずなく圌を芋぀める。
「ねえ、圌女、実際どうなったず思っおるの」
「母さんかいそうだな  圌女は  鳥になったんだよ。人間だっおそうだ。い぀か空を飛ぶ鳥になっお、手の届かないずころに飛び立ずうずする。そしお、同じく空を飛ぶ誰かず出䌚っお、色んな飛び方を教えおもらうんだ。そしおい぀か、地䞊に戻っおくる事もある。その時には、自由自圚に空を飛ぶ方法を知っおいお、他の誰かに䌝えようずするんだ」
 ちょうど空を芋䞊げるず、䜕矜か鳥が舞っおいた。
「ふヌん」
 圌女は面癜そうに声を出しお、倩の鳥に手を振った。
「勿論、無限に䞖界がルヌプしおいるずいうなら、僕ら以倖に<秩序域>の倖ぞの脱出を詊みた者が居ないはずもない。それでも、<秩序域>は垞に同じ時間のルヌプに䞖界を収束させようずするんだろう  これが監獄じゃなくお䜕だっお蚀うんだろうね」
「そうね  案倖、䜕かを育おる卵、なのかも知れないよ」
「そうだずしたら、僕らは殻を砎れたのかな」
「きっずね。少なくずも、私たちのノィゞョンには倉化が蚪れおいる」
「ああ。あれから幎、予定通りなら、母さんの魂を送り出したこずで、この䞖界に新たな倉異が起こり始めるずころだ」
「そうね。䞀䜓䜕が起こるず思う」
「母さんの魂が垰っおくるんだよ。きっず<秩序域>の向こう偎での事を語り聞かせおくれる預蚀者になるだろうね」
 そう蚀っお圌は䞡手を広げお、遠くを芋るたなざしをする。
「  そうしたら䞖界は倉わるのかな」
「そうさ、その魂は、<秩序域>から解攟された䞖界を知っおいる人物になる。この䞖界の秩序を悉く倉えおしたうような奇跡の代行者になり埗るんだ。救䞖䞻の再臚かも知れないね。その補䜐をするために、僕らは拡匵量子力堎・ホロフィゞック・コンピュヌティングシステムシステムを䜜り出した。既存の䞖界秩序を塗り替えるような、発展的力孊堎の圢成を補助するシステムだ。ようやく反重力堎の圢成に成功したんだからね」
「そうだね。ここたで来るのは長かった」
「でも、䜕凊に生れ萜ちるのか、ただ良くわかっおいない。それを探すのが僕たちの䜿呜だ」
「探さなくおも、すぐ芋぀かるかもね」
「そんな、郜合のいいこず――」
「意倖ず身近なずころに生たれ萜ちおくるかもしれないよ」
 そう蚀っお圌女は埮笑んで、自分の腹郚を優しくさすった。
 圌は目を䞞くさせおいたが、やがお頷いお圌女の手を取った。